第379話 東方「突破」

0379_26-11_東方「突破」


 探索者が遺跡に突入してきた。

 私達が遺跡に入っているこのタイミングで、だ。


 不可解だ。

 オーエングラム卿と私 魔導師マイの一団が入っている、当然だけど警備体制もそれに動員されている人員着数も、通常よりも遙かに厳戒態勢を取っている。

 そして、最深部には、元筆頭魔導師であるオーエングラム卿、現役の魔導師の私、その2人を護るため配置されている、選抜された親衛隊や領軍、守衛の人達。

 突入には最悪の状況なのに、何故。


 私が、オーエングラム卿を見る。

 オーエングラム卿も顎に手を当てて考えている。


 シーテさんを招き寄せて、小声で話す。


「シーテさん、どうやら探索者も情報操作されて、ますね。

 一番突入に不向きな時に誘導されたと思われます。

 万が一にも、遺跡の最深部に到達されて、この奥にある物を持ち出されたくないのでしょう」


「そうね、全滅せずに確実に探索者を排除できるだけの戦力があって。

 それでいて脅威を感じる程度には、被害が発生させられる人数が揃っている。

 嫌な感じね、良いように使われている感じがする」


「そうですね、それでいて、最大戦力のオーエングラム卿とシーテさんが動けないのも計算されているのかもしれません。

 此処を離れる状況では無いですから」


 下手に遺跡を出ようとすると、不利な場所で探索者と会敵する危険がある。

 確実に迎え撃てる、此処の方が未だましだ。

 退路が無いのが問題だけど、それも私が複数人を収納できるのであれば危険を回避することも可能だ。

 生き埋めにされたら脱出できるか判らないけどね。

 そこまで計算されての事だと考えるべきだろう。


 問題なのは、探索者が持つ装備の危険性を共有出来ていない。

 知っているのは、オーエングラム卿とその親衛隊、私とシーテさん、そしてブラウンさん、だけだ。

 領軍の兵士や、他の守衛は探索者が来る可能性がある、という所までしか周知されていない。

 商工業国家の軍隊が使用している装備を使って居るという、一番大切な情報は伏せられたままだ。


 開示すれば、その情報の出所が問題になる。

 正規の軍隊の諜報部隊が収集した情報なら、あとは指揮官の責任問題だけになる。

 だけど、この情報は非正規に入手した情報だ。

 東方辺境師団が知らないと主張したら、商工業国家と繋がりを持っていると推測される流れになる。

 ギムさんは、遺跡から盗掘した物を装備している可能性が高く、個人の戦闘力が高いと伝えたそうだ。



 私達の行動を決めないと行けない。

 勿論、ここの最高権限はオーエングラム卿だけど、どんな判断をするのか判らない。

 私の人を収納できることも、公表していないが知っている人は知っている。

 何処まで利用されるのか。

 その時に大切な人達を切り捨てる選択を迫られたら?


 扉の前では、守衛と領軍の人達が協力して、簡易的な障壁というか散乱している岩の塊を集めて低い壁を作っている。

 無いよりはましだね。

 この壁には『ある仕掛け』をするように依頼した、狩人を正職としている冒険者の人が詳しくて指示を任せることになった、私も構造は詳しくないからね。

 簡易砦というには簡素だけど、一応は形になってきた。


 その間、情報伝達のために斥候として配置されている人が引っ切り無しに出入りしている。

 もたらされる情報から判る、状況は悪い。


 探索者は、魔物が出入りしていた広場から侵入してきた。

 塞いでいた出入口を爆破して。

 夜間に隠れて侵入すると思い込んでいた領軍の兵士達は虚を突かれて反撃が遅れた。

 そこに何らかの武器を使われた、死者こそ少なかったが負傷者が多数発生。

 負傷者の対応と未知の武器に対して消極的な対応をしている間に通路を突破されて、地下への侵入を許した。

 人数は20人前後。


 今の最新情報は此処までだ。

 考え得る最悪で、そして東方辺境師団の思惑通りに事が進んでいる、恐らく。



 最深部の防衛体制を更に詰める。

 構築した簡易壁には、防御力に優れる領軍が。

 その後ろに指揮を取るオーエングラム卿と親衛隊が配置される。

 これはオーエングラム卿の強力な戦闘魔術があること、そして護衛と補佐をする親衛隊が自動的に配置。

 一番奥にコウの町の守衛が自身を壁となって、私と直衛のシーテさん、そしてクェスさんを囲っている。


 この配置は、盾・剣と頭脳、そしてそれ以外。

 私は戦力外扱いになっている、閉鎖空間で使える魔術がほぼ無いと思われているのが原因だね。


 シーテさんと共同で行使する槍を氷で包み、氷が昇華する力を利用して打ち出す魔術(シーテさんだけでも可能になっちゃったけど)、単体の威力が大きすぎて使えない。

 そして、槍を矢に置き換えた場合、複雑な工程が必要なのは単純に不利で、普通に氷の矢を打ち出した場合の方が効率が良い。

 風を使った魔術も収束が甘いせいで、閉鎖空間だと土埃を発生しかねない。

 窒息系の気体を使った魔術は、伝承不可の禁術として既に知られていた。

 そして、閉鎖空間で有毒な気体を使うなんて事は出来ない。


 時空断と時空壁、そして未解明の転移はまだ知られていない。

 接近戦でも有効な魔術を公に使うことが出来ない。

 遠隔収納と取出しを使った奇襲攻撃も、今の私が使える事は知られていないと思う。

 威力が低い上に制限も多い、例えば大質量の物を出したとしても、回避される可能性は高い。


 知られている私固有の魔術は、最初の収納爆破、極弱い時空断のような物。

 そして時空転移と自他共に収納できる時空魔術。


 結果として、私は一番奥で待機を余儀なくされている。

 歯痒いけど、不用意に動けないのは事前に判っていたことだ。


「マイ、クェスを頼むぞ。

 いざとなれば迷わず収納して逃げよ」


 オーエングラム卿が私個人に言った言葉だ。

 やはり、人を収納できることは王都まで知られている。

 正式にコウシャン領の領主様にも報告していないのにだ。

 未完成、未検証の状態であるとしているけど、廃棄都市からの脱出では実用として十分な運用をして見せてしまっている。

 予想はしていたけど、情報の共有は早い。

 領と王都の間を結ぶ早馬だけじゃない、辺境師団や他の手段での連絡方法があるのだろうね。



■■■■



 探索者の襲撃は虚を突かれた。

 周辺を探索していた冒険者からも守衛の部隊からも、発見の報告が無かった。


 突然現れた。


 コウの町の東にある東の村には、街道を通る人を確認するための関所がある。

 ここを通った形跡が無い。

 東の町からコウの町まで、馬車や荷物を持った人が連続して移動できる速度で移動したら4~5日掛かる。

 関所を回避して森の中を移動する事は可能だが、無補給での移動は難しい。

 必ず何処かで補給をしているはずだ。

 不審者を確認する際は、まず旅人や商人が訪れたときに宿屋も含めて情報が集まる。

 守衛も冒険者も、領軍であってさえ、この情報が来るまで待機状態を維持していた。


 だからこそ、遺跡への襲撃が発生した時の防衛は、何処か油断が生じていたのだろう。

 遺跡地下の広場。 此処には領軍の兵が待機していた。

 十分に広い場所で、出入口を塞いで有るとはいえ、オーガ種が入って来れないようにするためで、人であれば簡単な扉を通って行き来することが出来る。

 森の中には水源も見つけているので、水の補給のために案外出入りをしている。


 昼の交代と昼食を取る所、気が抜けたところを狙われた。

 火を使うために、半数以上の兵士が外へ出て居たところに突然出入口に攻め込まれた。

 爆発が起き、出入口が一時的に塞がれる。


 そして、乾いた破裂音が幾つも鳴り響く。

 慌てて岩を除去して突入すると、中に居た兵士の過半数が倒れている。

 随伴していた非戦闘職の兵士が慌てて応急処置をしている蚊、見たこともない傷跡で混乱しているのが判る。


 だが、肝心の探索者が居ない。

 入ってきた兵士は近くで慌ただしく救急用品を運んでいる者を捕まえて問いただす。


「突然入ってきたと思ったら、出入口が爆発して。

 慌てて立ち上がった兵士達が、筒から飛び出した物を受けて戦闘不能に。

 何人かは死んでしまっています。

 入ってきた者達は、迷い無く地下へ続く通路へ走り抜けていきました。

 一瞬の出来事で、我々にはどうすることも」


「判った、手当に戻ってくれ。

 我々は追跡する。

 先行と本体、報告に戻る者を至急選抜して行動せよ!」


 隊長は自分の迂闊さを責めていたが、直ぐに行動に移す。

 5人の小隊を2つ先行で直ぐに出す。

 同時に、2人の風魔法が使える兵士が遺跡入口に向かって報告と応援要請に走る。

 そして、21人の本隊と、時空魔法が使える兵士を含めた後方支援5人が続く。

 怪我人が多数いる、治療できる医師と聖属性の魔法使いが何人居ても足りない。

 そして、探索者が撤退するために戻ってくる危険もある、そのための守りも必要だ。

 いや、更に追撃として探索者が突入してくる危険も考慮する必要が有る。

 残す人員で足りるだろうか?

 応援が来るまで持つだろうか?


「副隊長、ここは任せる。

 追撃の可能性も有る、防衛に徹して、いざとなればここを放棄して構わない。

 動ける軽傷者から順次 撤退させよ。

 私は本隊と共に最深部へ向かう」


「はっ」


 コウシャン領 領軍の精鋭部隊、精鋭部隊?

 隊長は、選抜された自分達が自惚れていたのではないかと自戒する。

 魔導師マイを軽んじていたわけでは無い、たった2人で襲撃事件での襲撃者の撃退に成功している。

 だが、どこかで先王の気まぐれで推挙された成人していない幼い魔導師、その護衛という簡単な仕事と思っていなかったか?

 元筆頭魔導師であるオーエングラム卿が来ている、その重要性を理解できなかった無能ではないか。






「よし!本隊も行動を開始する。

 全員 気を引き締めろ、相手は手強いぞ」

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