第378話 東方「下見」
0378_26-10_東方「下見」
遺跡の最深部を見たい、というオーエングラム卿の要望は比較的すんなり許可が下りた。
これは、探索者の襲撃対応という事で、領軍と守衛の対策が十分に行われて、装備も人材も十分に配置できている事が大きい。
さんざん、遺跡に入ることを拒んでいたのが嘘のようだ。
オーエングラム卿、そして弟子のクェスさん。
私マイと、助手のシーテさん。
直衛に、オーエングラム卿の親衛隊が5人、コウの町からブラウンさんと4人の守衛、そして領軍から11人。
そして後衛としてハリスさんが3人の医師・聖属性の魔法使いと6人の看護師の計10人と一緒に、こちらも守衛11人に守られて入る。
個人的には妥当な人数だと思う。
狭い遺跡内を考慮しても、重要人物であるオーエングラム卿を守る以上は必要な人数としては最低限に絞っている。
親衛隊はオーエングラム卿を、守衛は私を、確実に守るために動く、そして領軍が主戦力として戦う。
武装としては、多少の意匠の違いはあるけど、東方辺境師団から拠出された武装を元にしている。
遠目には、1つの中隊としても見えると思う。
私も、出来上がったばかりの装備を身に纏っているけど、慣らしをしていないので、ちょっと違和感があるなぁ。
後衛としての10人の医療関係者は過剰な気がするけど、それも仕方ないかな。
そして貴重な医師・聖属性の魔法使いやハリスさんを守るのも当然だ。
なお、フォスさんは遺跡の入口で待機。
戦闘経験が無いのに入るのは無謀だからね。
遺跡入口も、ギムさんを中心とする守衛と、領軍が陣を組んでいる。
オーエングラム卿の残り親衛隊は、その中心で基本的には待機だ。
何かあったら、オーエングラム卿の安全確保のために動く、その為に特に役割は割り当てられていない。
それと、魔物が居た空間と出入口、これは突貫工事で塞いでいる。
簡単に突破される可能性は有るので、人数的に余裕のある領軍の兵士が遺跡内の待機場所として入っている。
いざとなれば、最深部に繋がる縦穴から最深部へ突入する計画があるそうだけど、そもそも岩で塞がれて居るので無理だよね。
「それでは、入るとするかの」
この中では、一番偉いオーエングラム卿が、緊張感の無い感じで遺跡へ入ることを宣言する。
オーエングラム卿とクェスさん、私とシーテさんが、先頭の案内役をしている守衛さん達に続いて入る。
シーテさんが探索魔術を行使して、結果を教えてくれた。
私だと、遮蔽物が多い場所での探索魔術は極端に範囲が狭くなる。
「マイ様、遺跡内ですが、かなりの人数が居ます、冒険者もたぶん」
「ありがとう。
最深部までの間も、各所で見張りが立っているようですね」
遺跡の入口では、風属性の魔法使いと、送風機を使って空気を送り込んでいたし、送風管かな?が、奥まで伸ばされている。
そして、通路の各所に人が立っていて、明かりのランプや松明を点けている。
私達は、灯の準備はしているけど、基本的には不要なほどだね。
ゾロゾロと、守られて進んでいく。
人工ダンジョンになる遺跡は、報告書を読んでなかったら、たぶんこんな感じと思ってしまっていたと思う。
報告書に有った通り、いかにも地下居住空間の様に作られているが、使用されている感じが無い。
そして、地下深くに入ると、遺跡の作りようが変わる。
巨大な通路と、それを覆うコンクリートの様な壁。
無機質で、人が住んでいる気配がまるで無い。
「あ、この感じは廃棄都市の地下施設に近いですね」
「ええ、確か都市核の制御施設でしたか。
作りとしては、此方の方が無骨な印象があります。
実用的とも言えますね。
この壁にある細長い溝の所は、全て灯の魔道具ですよ」
廃棄都市では盗掘されつくされていたけど、ここでは全てが残っている。
使えるかどうかは判らないけど、物理的に損傷している感じは無い。
「これは、価値があるんですか?」
「そうですね、500年前の遺跡ならば使える物が有るかもしれません。
それ以上古いと、魔石も劣化していることがあるので、何とも。
学術的には、この大規模な明かりを灯す仕組みに意味があると思います、以前、研究者を廃棄都市に護衛したことがありますね」
ユックリ見ていきたいけど、今回は最深部に行って、その状況を確認したら直ぐに退避する予定になっている。
途中で休息する時に確認する程度しか出来ない。
休息場所だけど、本当に人が居ることを考慮していない施設だったんだね、普通なら一定間隔で休息所があるはずだ。
「弱いが空気が流れているな。
縦穴が完全に塞がってはいない様じゃ」
奥の方から、ユックリだけど風が流れている。
窒息やガスの心配は少ないと思う。
正直、炭鉱に鉱石の運搬をするために入ったことがあるけど、浅い場所だけだった。
完全に閉塞した空間というのは息苦しいね、以前の廃棄都市も閉塞感は有ったけど気にしているほどの余裕は無かった。
今は、安全に誘導されていている、警戒はしているけど輸送部隊に居た頃のように守られている感じが強い。
約2日掛けて遺跡の最深部に到達した。
歩く程度の速度だとこんなものかな。
その最深部は、大きな通路か、何カ所か崩落している場所を見る、最深部と縦穴を繋ぐ大きな通路の途中に出るみたいだ。
事前に調査してくれた地図を見ると、本当に大きな施設のようだね。
そして、戦闘跡が残る広場に出る。
既に片付けられているが、その戦闘跡は爆発する系統の魔術が使われたようになっている。
ギムさん達が偽装処置をしたんだ。
私が行使した、時空断の痕跡は私が見る限り残っていない。
その奥、幾つもの傷が付いている大きな扉の前に私達が対峙する。
大きい。
高さは5mはある幅は20m位かな?
軽く叩く、壁だ厚みが全く判らない、本当に扉なのかな?
周りを見る、普通、城壁の様なところでは、大きな扉の横に小さい人が通る用の扉が用意されている物だ。
扉の大きさを考えると、かなり離れた所なる。
「人が通る用の通用門がありませんでしたか?」
案内してくれた守衛の人に聞く。
「はっ、周囲を確認しましたがそれらしい構造物は見つかりませんでした。
現在、別の通路から到達する可能性があるとのことで、探索中です」
「ありがとう。
シーテさん」
守衛に礼を言うと、小声でシーテさんに確認を取る。
探索魔術を念入りに行っているはずだ。
「確認した限り、私の探索魔術の圏内には通路は無いわ。
おそらく、ここが唯一の出入口ね」
ズン。
強力な探索魔術が行使される、思わず発生源のオーエングラム卿を見てしまう。
シーテさんも驚きの表情で固まっている。
私達魔術が使える物だけじゃ無い、守衛や領軍の兵士、親衛隊の人達まで驚愕している。
とんでもないほどの出力だ。
「ほっ、他に道は無いようじゃな。
無駄なことはせんで良いと伝えよ、それより、この扉の仕掛けは解除できそうかの?」
あれほどの魔力量を消費した魔術を行使したというのに、息一つ乱していない、化け物か?
全員が声を発する事が出来ずにいる。
いや例外が1人。
パッカーン
乾いた、なんとも間抜けな音が地下に響く。
「師匠!
いきなり断りも無しに馬鹿多い魔力を使った魔術を行使しないで下さい。
皆さんに迷惑でしょう!」
クェスさんだ。
「すまんて、まったく母親に似てきおってからに。
もっちょっと愛想良くせんとモテんぞ」
「大きなお世話です!
師匠のお世話で忙しいんですから」
あれがクェスさんの素かな?
何となく、おじいちゃんと孫のように見える。
クェスさんの母親を知っていると言う事は、血が繋がっているのかもしれない。
……私が踏み込んで良い範囲では無いな。
そのやり取りで、ようやく周りの人たちも我に返った。
守衛の誰かが、扉の横で作業していて、突然の魔力の影響出て固まっている人を揺すっている。
あ、あそこまでは声が届かないのか。
「現状ですが、構造は判った段階です。
動かせるかどうかですが、かなり掛かるかと。
魔力を動力源にしている魔道具ですが、扉を動かす機構が劣化していて部品の交換が必要になります。
ですが、その部品も1つずつ作る必要が有り、正しく動作するか確認するだけでも年単位の時間が掛かるでしょう」
申し訳ないようにしている。
これも報告書に有ったことだ、それから変わらないとういことだね。
扉の破壊をしての侵入なら可能なことは判明している。
それは、この扉と同じ扉が3つ破壊されて居るからだ。
破壊したのは魔物なのか探索者なのかは判らないけど、物理的な破壊は可能である事が証明されている。
この奥に収蔵されている物、その保管を考慮すると、このままこの遺跡を利用するのが良い。
そういう目論見もあって、これ以上の扉の破壊を禁止し、正しく開けるために調査と修理を行う事になっている。
そして何時扉を開けることが出来るのか? は、判らないが数年から十数年だろう、とのことだ。
「うむ、変わらんと言うことか。
わしが生きている間に開けて貰いたいものじゃが、ま、いいじゃろ。
それよりも破壊されないようにな」
「は、了解しております。
壊されている扉も、可能な限り復元して扉として使えるようにする予定です」
ここに来る途中にあった、破壊された扉も、新しい人が通る扉を付けて直すのだそう。
侵入者を防ぐ為に。
それと、扉の開ける機構はほぼ同じなので、幾つかの部品を取り外して確認している。
部品といっても、巨大な扉を動かす物だ、私の背よりも高い魔道具の塊が外されて置かれている。
構造が判ったといっても、私には全く理解できないよ。
と、一人の冒険者が走ってくる、風をまとっているので魔法使い? 斥候かな。
「大変だ! 襲撃されているぞ!」
え? 探索者がこのタイミングで?
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