第375話 東方「武装」

0375_26-07_東方「武装」


 銃、上官がそう言った金属の杖を見る。

 魔術師殺し、というのも大概な別名だと思う。


「一般に、魔法使いや魔術師が物理的な攻撃を防ぐ手段に乏しいのは知られていることです。

 この銃というのは、小型の金属の塊の弾丸を火薬の力で高速で打ち出し殺傷させる武器になる。

 この銃は、有効射程300m、弓よりも早く30発の弾丸を1秒間に3発の速度で発射可能です」


 魔法や魔術での防御は、よく知られているのは土属性で壁を作る事だ。

 だけど、戦闘中に十分な防御能力がある壁を作るのは難しい。

 他の属性でも弓を想定していて、威力を殺しながら方向を逸らすのが普通だ。

 この銃というのは、それを越えた能力があるというのだろうか?


「信じられんの。

 だが、弓より早い鉄の塊なら防ぐのは難しいな。

 魔道具ではないと言うことは、誰でも使うことが出来ると言うことか?」


「ええ、的に当てるには訓練が必要ですが、使うだけなら誰にでも。

 欠点を上げるとしたら、発射音が大きいこと、弾丸の補充が難しい事。

 そして、見かけによらず精密な機器で、取扱は気を使います」


 うーん、1秒間に3発も火薬を使って打ち出す機構だから、複雑な機構をそれなりに耐久性を持たせる必要が有る。

 だからこそ、精密で壊れやすいのだろうか?


「ふむ、この先端の穴を塞いだら、簡単に自爆しそうじゃな」


「ええ、連続して発射した場合、穴の中でつかえて暴発しました。

 かなり酷い怪我を負ったらしいです」


 弾丸という物をみせてもらう。

 尖った鉄の塊を火薬を入れた筒に納めてあるそうだ。

 これが沢山あって手元で爆発したら、それは危険だな。


「我が国では、同様の仕組みの大砲が有るが、全く技術の水準が異なるな」


「はい、商工業国家の大砲が一体どれほどの物なのか、肝が冷えます」


 威力の類推は出来ないが、近距離で使われたら防ぐのはかなり難しい。

 私の時空壁でなら、どれだけ防げるだろうか?

 この銃の使い方……えっ?


「この銃は、魔物と闘うためというより、人を沢山殺すためのように感じます」


 思ったことを言ったが、上官の表情が険しくなったのを見る限り、当たっているのだろう。

 オーエングラム卿も、少し考えて頷いた、同じ結論に達したようだ。


「魔物を倒すには威力不足です、が、人間相手なら十分です。

 そして、1つで沢山の人を殺せます」


「商工業国家の連中は一体何と戦っておるんじゃ?」


「帝国か、もしくは、大陸の東側に存在しているという、列島群国家かもしれません。

 こちらが把握している限り、大規模な戦闘の情報は無いですな」


 椅子に深く座って、距離を取る。

 他の物は?


「こちらの服は厚みがある部分でこの弾丸を受け止めることが出来る性能がある。

 また、防刃、防爆の性能もある、我が国の最先端の軍服よりも遙かに高機能だ。

 そして、この透明のは、兜になる、厚みと重さはあるが鉄と同等以上の強度があり、透明だから顔面も保護できる」


 持たせて貰う、確かに軍服に近いが、関節や急所の部分に厚みがあって弾力のある何かが入っている。

 透明の兜は、被る部分は色が付いているが、同じ素材の様に見える。

 軽く叩くと、堅い皮のような音がした。


 これが一般の兵士に供給されているというのなら、戦争になれば不利だろう。

 トサホウ王国の大多数の兵士の装備は、弓と槍そして剣と部分鎧だ。

 この高性能・高機能な装備、を、あれ、ちょっと待て。


「ふむ、トサホウ王国の特殊部隊が装備している物よりは優れておるの」


 有るの?

 私は特殊部隊の人達に会ったことが無い。

 襲撃事件の時に時空魔術研究所をコウシャン領の虎の子になる特殊部隊の人達が守ったというのは報告書では聞いているだけだ。

 特殊部隊といっても、装備に違いは無いと思っていたけど、そうじゃないの?


 それだけじゃない、私は別の特殊部隊の人を見ている。


「襲撃者が装備していた物とは大分 感じが異なりますね。

 襲撃者は、もっと薄手で全身を覆うような装備でした。

 武装も魔法か何か、身体能力を底上げした感じでした」


「ワシらの方でも調べておるが、あれを防具と言って良いのか見解が分かれておる。

 耐久性と耐刃性は高いが、衝撃吸収性能は無い。

 材質も不明だ、ま、ここのもそうじゃな」


 襲撃者の装備については、私も簡単に確認しただけで詳細はわからない。

 私が受け取った報告書にも書かれていなかった。

 関連性が無いのなら無視だ。


 上官は、なんでこれを見せたのか?

 目的があるはずだ、考えろ。


 そも、この装備をどうやって手に入れたのか?

 通常の交易では軍用品はまず流通していない。

 そうなると、考えられるのは幾つかの方法だ。

 1つが、商工業国家の商人が営利目的のために、禁制品を密輸出した。

 1つが、トサホウ王国の商人?が営利目的?のために、商工業国家から密輸入した。

 どちらも、纏まった数を運ぶのは難しいだろう、上官が入手できるほどの数を手に入れるには現実的では無い。


 そうなると、交易路を使わない密輸入。

 だが、トサホウ王国だけでは成り立たない、商工業国家 側にも協力者が必要になる、それも軍に大きく関わっている。


 北方辺境師団の輸送部隊に居た私の経験上、軍の装備品の横領が酷く難しい事を理解している。

 輸送部隊とは言え、荷物を自由に扱う権限は無い、文官が積載している荷物の数量を厳格に管理しているから、数が合わないと、徹底的に再調査される。

 商工業国家の軍については、判らないけどトサホウ王国 以上に損得を重視していると聞くので同様なんだろうね。


 ならば、トサホウ王国と商工業国家の両方でそれなりに高い立場の人達が関わっているとみるべきか?

 いや、単純に利益目的の密輸出という線も可能性としては高い。

 軍用品を生産している所が、民生品や廃棄品として運び出したかもしれない、可能性は幾つもある。


 はっきりしているのは、それを入手したのは東方辺境師団である事だ。


 東方辺境師団は何か目的を持って、商工業国家の最新装備を手に入れた。

 それを、オーエングラム卿と私に見せた、輸送部隊のオッペンハイマー指揮官に持たせて。

 何か明確な意図を感じる。

 オーエングラム卿にも見せたという事は、王都の近衛騎士団や王都師団、いや他の辺境師団にも内密だった可能性だって有る。



「これを、ここで見せた、という事は私達に何を期待しているのでしょうか?」


 上官を見る。

 その表情からは、特段の感情の起伏を見て取れない。


「トサホウ王国の軍備の更新を具申したい。

 だが、現場の意見は、中央では重要視されない、現状何とか出来てしまっているからなおのことだ。

 変えるためには、公爵や王族の手助けが必要になる、だからこそだ。

 このままでは、商工業国家や帝国に圧倒的に不利になる。

 戦争が起きるかどうかは兎も角として、交渉としても強気に出れないだろう」


 少しホッとする。

 最悪、東方辺境師団の独走が頭をよぎっていた。

 幾つかの領と協力を得られれば、トサホウ王国の東部が独立する事だって不可能じゃ無い。

 辺境師団には、それだけの軍事力があるからだ。


「では、何故 私を呼んだのですか?

 オーエングラム卿が居れば十分だと思いますが」


 オーエングラム卿は、先王の父の弟に当たる人物だ、現在の王にも大きな影響力があるだろう。

 でも、私は?

 魔導師としても未熟で、知名度こそ異例の任命のために高いが、それだけだ。

 私の魔導師としての影響力は、ほぼ無い。


「儂が呼んだのじゃ、マイを同席させることを会うことの条件にしてな。

 コウの町の英雄マイと同じ名前で時空魔術を使う魔導師マイ。

 そして、英雄マイの元上官のオッペンハイマー大尉、何か因縁めいた物を感じての」


 ニコニコ笑いながら言う、こういう時は本心じゃ無くて楽しんでるんだ、この人は。


「そして、その心は?」


「現役の魔導師を同席させたかったのと、それで断る程度の事なら拒否しようと思ったのじゃよ」


 私が不機嫌そうな顔を作って、形だけ睨むと簡単に吐露した。

 この話の重要度が、私一人を同席しただけで断る程度の話かどうか確認するために、私を同席させたんだ。

 はぁ、多分面白半分で私の意見もついでだろう。


「のう、オッペンハイマー大尉、魔導師マイに会えて得る者は会ったかの?」


「ええ、この出会いに感謝を」


 そう言いながら、私を見る、その目は不思議なほど優しい。

 何で?


「くっくっく、よし、軍の装備を更新することは儂からも現王に強く言おう。

 それと、儂の伝を使って装備の研究も進めさせる。

 この装備は、非公式に近衛騎士団か王都師団に持ち込まれるで良いな。

 トサホウ王国の民を兵を、こんな鉄の玉に蹂躙されたくはないからの」


「最大限の感謝を。

 装備に関しては、信頼できる相手に渡したいので、オーエングラム卿に王都で渡しましょう」


「ふむ、儂の王都への帰還に会わせるのじゃな。

 ならば、儂の一行に運ばせるのが良いか」


 ふぅ。

 東方辺境師団の輜重部隊がコウの町に来たのは何事かと思ったけど、オーエングラム卿との関わりを持ちたかったのか。

 その理由は確かに驚いたけど、軍の装備が進歩するのなら多分良いことなのだろう。


 あれ、何かを見落としている?



「さて、マイが指摘しないので言うが。

 時空魔術研究所の家政婦の即時解放は問題無いのだな」


 あ。

 自分のバカ、ナカオさんの件を言わないと行けないのに、すっかり頭の中から抜け落ちていた。


「勿論です、明日直ぐに送り届ける。

 無論、丁重に扱っているので心配しないで欲しい」


 最初に聞いていたけど、無事に返してくれることを明言してくれたのでホッとする。

 上官の言葉なら信用しても良いかな。





 っと、突然オーエングラム卿の気配が変わる、これは殺気だ。


「最後にじゃ、なぜ東方辺境師団は襲撃者を招き入れて襲撃に協力した?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る