第372話 東方「思惑」
0372_26-04_東方「思惑」
ぇっとぉ?
一寸混乱しています。
ここは町長の館の裏にある、町長が普段住んでいる家。
町長の館は、基本的に迎賓の為の物で、町長家族は普段 住んでいない。
その代わりに、裏庭に普通の民家が用意されている、もちろん防犯は十分に確保されているけど、家の作り自体は比較的 庶民的なものだ。
その町長の家の食堂、そこに町長に昼食を招待されて来た。
以前にも来たことがあるので、場所は問題無い。
あ、魔導師としては始めてか。
問題なのは、出席者だね。
席の中央、町長のコウさん。 これは主催者なのだから居て当然。
コウさんの隣に奥さん。 今回は調理をしていないで、横に並んで座っている、これも問題無い。
その対面に私とシーテさん、フォスさん。 昼食に招かれたのだから当然。
問題なのは、コウさんと奥さんの隣に、オーエングラム卿とその弟子のクェスさんが居ることなんだ。
困惑している私を見て、上機嫌なのもなぁ。
クェスさんが、軽く頭を下げて謝っているよ。
チラリとシーテさんとフォスさんを見る。
2人とも緊張しているのが判る。
上位貴族、それも王族になる人物が居るのだから仕方が無いのだろう。
私は、以前 会っているので、それほど動揺していない。
困惑はしているけど。
この会食は、町長とオーエングラム卿への対応を詳細に詰める予定だった。
打ち合わせをする為に来たんだ、それが、その当人が来ているのだからね。
さあ困ったぞ。
「今日は良くおいで下さいました。
体調の方はもう宜しいでしょうか?
簡単ではありますが、体に良い食事を用意させていただきました」
コウさんが、穏やかな対応をしてくれる、食事が配膳される、それを見る限り食べやすい料理を用意してくれているようだね。
料理を運んできてくれている人に見覚えは無い、役所の人?
いや、体の動かし方にブレが無い、守衛? いや、町長の護衛か?
オーエングラム卿が居るのだから、当然だろうね。
どの程度の護衛が控えているのだろうか、探索魔術を行使する?
いや、オーエングラム卿が居るのに安易に魔術を使うことは出来ない、場合によっては敵対行動と取られかねないから。
遠隔視覚なら?
使わない方が良い、危険を冒す必要は無いはずだ。
「ご配慮 感謝します。
体調の方は、医師の結果待ちですね。
オーエングラム卿も、お久しぶりです、ご健勝そうですね」
思いっきりキリッと、作り笑いをしている自覚がある、威厳を持って返答した。
何となく、シーテさんが忍び笑いをしている気がするけど、気のせいだ。
フォスさん、一寸むせてません?
「うむうむ。
ワシらのワガママで魔導師に任命してたからの、気になっておった。
ちゃんと魔導師をしておったのでビックリしたぞ。
しかし、魔導師に成って早々、色々あったな」
私を魔導師に推挙しておいて、その後は放っておいた事を気にしている。
まぁ、実際に魔導師の任命とかは領主様が主導で対応されてたから。
王都とは早馬でも数ヶ月掛かる、いちいち確認しながら進めてられない。
だから、先王様とオーエングラム卿の委任状をもって、領主様の責任で行われている。
宰相様からの説明では、オーエングラム卿は委任状を書いた後は関わっていない、とのことだ。
色々あった、まぁ、それは予想外だった、襲撃は未だに原因が判らない。
襲撃者が何者かも、詳細は知らされていない。
ちゃんと魔導師をしている、というのは何なのだろう?
今の自分が魔導師として出来ている自信は無い、というよりも、魔導師は何をすれば良いのかすら判っていない。
取り敢えず、領主様から指示された、英雄マイの能力の解明と、時空魔術を含む魔術研究をしているだけだ。
うん、ここは良い機会だ、元筆頭魔導師様に聞くのが一番だね。
「魔導師として、何をすべきか、は、模索中です。
出来ましたら、道を示していただけないでしょうか?」
「ふむ、それには、今何をしているかを知りたいかな」
あ、不味い、研究内容に関しては未だ早い。
「用意する時間を下さい。
そうですね、時空魔術研究所に一端戻る必要があるでしょう。
……所で、今回こちらに来られたのは、何が目的でしょうか?」
「ん、
ニヤリと笑いながら言う。
多分それも少しはあるはず、だけど、本当の目的は何だろう。
遺跡? 何処まで情報を持っているのか次第で変わるかな。
襲撃者? 捕虜を尋問した情報は持っているはず、わざわざここまで来る理由が無い。
「それも1つだと思いますが、わざわざここまで来られた理由にはなりません。
そもそも、襲撃者について確認するために来たと聞いています。
コウシャン領の領都ではなく、コウの町まで来たのは判りかねます」
オーエングラム卿に駆け引きは無駄だろうね。
上官や宰相様とかよりも、手強い、何やっても良いようにあしらわれてしまう感じがする。
うん、ここに居る時点で既に手のひらの上で遊ばれているんだろうね。
「ふむふむ、状況を理解しておるのか。
じゃろうな。
マイが無事なのを確認したかったのは確かじゃ。
襲撃者、捕虜については新しい情報は出てこんじゃろ、会って本当に帝国人か確認したかっただけじゃな。
遺跡を直接見ておきたい、というのが1つ。
それと、別件じゃがな」
食事をしながら、器用に話す。
帝国人を確認したかった、何でだろう、帝国とは国交は無いが、定期的な交渉はしているらしい。
その交渉団の人に確認して貰えば十分なはず。
オーエングラム卿が帝国人を見ている?
私だって、辺境師団に居た頃に、捕虜になった敵兵を見たことがあるからだけだ。
遺跡はやっぱり、最深部に何があるのか、ある程度 確実な情報を持っているんだ、コウシャン領では知らない情報を。
ん? 別件。
頭の中で警告が鳴り響く。
そもそもだ、責任ある者が別件とか濁して言うときは、ものすごく面倒事が控えていることが多い。
「マイ達には、当面の間、我々と同行して貰うぞ。
これは、命令と取っても良い」
目的を言わない。
ますます嫌な予感がする。
フォスさんが反応してしまった。
「失礼します、行動の強制は越権ではありませんか?
マイ様は魔導師として期間は短いですが、行動の制限を受ける理由はないかと」
「フォス、そこまで。
失礼しました。
オーエングラム卿が私達を”保護下”に置きたいというのは、何が起きているのでしょうか?」
私の言葉に、フォスさんがハッとなる。
そして、あからさまにシーテさんの警戒度が上がる。
軍隊でも良くあるのだけど、保護や警護とするには色々な手続きが必要になる。
特に指揮系統が別にある人を保護・警護する場合の手続きの煩雑さは、呆れるほどらしい。
なので、緊急時は一緒に行動する建前で、指揮を一時的に委任されるということで保護する。
特に立場的に管理下に置くのが難しい立場の人、別の領の貴族や教会の人とかを保護する場合によく使われる言い訳だ。
それをオーエングラム卿が使ってくるとは予想外だったけど、元々 貴族とか身分の制約がある人達が使って居た方法だと、上官が昔言っていたなぁ。
それと、自分の失言に気が付いた。
オーエングラム卿の雰囲気が一変したからだ。
そこに居るのは、正しく王族の佇まいを身に纏っている上位貴族のそれだ。
「ふむ。
魔術の才がある事は判っておったが、これだけの言葉から、状況を判断しおったか。
ただ、才能が有るだけでは説明が付かないな」
しまった、今の私の言葉は北方辺境師団での経験、それも上官から数年にわたって教えられてきた指揮官としての知識からだ。
その知識は、たとえ視察団チームであっても持ち得ない特種な物になる。
ただの村娘が身に付けるには、異質すぎる。
言い訳を考えるが、思い付かない。
「そうは言われましても、そう思ったので」
苦しいが、単純にそう思っただけにするしかない。
ふっ、とオーエングラム卿の威圧感が無くなる。
「そうかの。
他に説明のしようがないか、ま、今はそれどころでは無いな。
その通りじゃ、身内の恥をさらすようで済まないが、魔導師を辺境師団が取り込もうと画策しているようじゃ」
頭が痛くなってきた。
それじゃあ、なに? オーエングラム卿がコウシャン領の方へ出張ってきた来たのは、襲撃事件や私の事もついでだったのかな?
東方辺境師団の動向を把握するためだったのだろうか。
オーエングラム卿は元筆頭魔導師として戦闘魔導師で有名だったと記録にあった。
だから、王族で元筆頭魔導師であるオーエングラム卿が来たのであれば、十分な抑止力になるのだろう。
……、いや、東方辺境師団が王都の意向から外れた行動を取る理由は何だ。
襲撃事件、違和感はずっと持っていた。
トサホウ王国の東部の各領に広く同時多発的に発生した襲撃、どうやって実行できたのか疑問だらけだった。
もし仮に、東方辺境師団が手引きしていたら?
簡単だろう。
でも、東方辺境師団がそんな事を行う目的が判らない。
そして、私を取り込もうという理由もだ、時空魔導師に爵位以外に価値は少ない。
何か別の理由があるのか?
遺跡の最深部に眠る、改良されたダンジョンコアとその関連の物。
確実に移送するには、高度な制御された収納空間を持つ魔術師が必要になるはず。
私か、な?
何となく、根拠は無いけど繋がってきた気がしてきた。
確証を得るには証拠がまるで足りていないけど、備える事が必要なのは判った。
と、食後のお茶を配って退室していた給仕をしていた人が、慌てて入ってきた。
断りを入れるのを忘れたのに気が付いて、慌てて謝罪する。
「申し訳ありません、急な報告が入りました」
室内の全員の注目を浴びて、萎縮するが、何とか言葉を続けた。
「時空魔術研究所のナカオ様が東方辺境師団に拉致されました」
ガタン!
私は思わず立ち上がってしまった。
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