第367話 遺構「再会3」
0367_25-12_遺構「再会3」
コウの町、町長の館はちょっとした大混乱に陥っていた。
うん、私が居るんだけど、その前を荷物を持った役所の人達が駆け回っているよ。
一応、魔導師で上位貴族相当の中位貴族の位を持っている、領主様と同格の人物なんですよ~。
と、方向違いの事を思いながら、その様子を町長の館のだだっ広い入口ホールにある待機用の応接椅子に座って眺めてる。
もう少ししたらコウの町へ来る人物。
トサホウ王国 元・筆頭魔導師にて、王族に連なる血を持つ公爵家のオーエングラム卿。
現在は、公爵家に戻っていて家督も王位継承権も放棄し、隠居している。
しかし、現王の祖父の弟である人物の影響力は大きい。
コウの町は、近年注目を集めている。
当初、改良されたダンジョンコアが発見された村を管理している町として名前がでた。
厄介物が埋まっていた、そういう意味で関わらないように腫れ物扱いされた。
たった1人で大量の魔物を屠った、時空魔術師にして英雄マイ、だが死亡した。
そして、数十年ぶりにコウシャン領に生まれた魔導師、しかも時空魔導師のマイ。
別人である事は年齢からも確実だが、何らかの関連を疑っている者は多い。
そのコウの町に、トサホウ王国の王族が、コウシャン領の直轄とはいえ、さして重要でも無い町に来訪する。
コウシャン領の貴族ですら数十年訪れたことも無いのにだ。
町長の館の、貴賓用客室の利用ですら、魔導師マイが始めて使ったかもしれない位だったのに。
その貴賓用客室もオーエングラム卿の為に清掃し整えてるのに必死だ。
私は、1つ格下の町にとって要人となる人物を迎える、町長の館から近い高級宿の客室へ移動する。
といっても荷物は全て収納しているので、移動は体だけだ。
今は、来訪するオーエングラム卿を出迎える為に待機中。
「マイ様、オーエングラム様というのはどういう人物でしょうか?」
私の近くに座っているシーテさんが、お茶を飲みながらコテンと首をかしげて聞いてくる。
その仕草は、ちょっと可愛い。
「んー、私もそんなに会話したわけでは無いのですが。
豪快で豪胆な印象があります、それでいて政治能力も高いでしょうね。
筆頭魔導師なんて役職に就いていたんですから」
「そうですか、私は王都の貴族に会うのは初めてなので想像も付かないです」
「まぁ、同じ人なので、あまり身構えないようにしましょう」
うん、北方辺境師団に居た頃も、王都の貴族出身の兵士が居たから、そんなに偏見は無い。
大抵は、小隊長など指揮官からなので一般兵は滅多に居無いんだけど、たまに七男とか家で立場が無い人が、一兵卒として働いていたりする。
と、領軍の兵士が小走りで寄ってきた。
シーテさんが立ち上がって出迎える、もしもがある可能性もあってか、魔力の高まりを感じているけど、戦闘の雰囲気では無い。
兵士は、私から少し離れた所で立ち止まり、姿勢を正し、オーエングラム卿が町に入ったことを伝えた。
これを聞いていた役所の人が町長を呼びに走るのが見える。
慌ただしく、正面の大きな扉が開け放たれ、一番上等なカーペットが入口の馬車が停車する位置まで繰り出される。
以前も放したと思うけど、貴族は平時において下履きになる靴を履かない。
室内履きとなる上履きを履いている。
それは、貴族の伝統というか見栄でもあるし、今は緊急では無い事や相手に対して敵対の意思がない事など、色々な意味があるらしい。
カーペットは室内の一部であるので、馬車から直接室内に入るという事になる。
私の時?
遺跡探索という平時では無い状況だったので、普通に下履きというか冒険者の装備でした、今は一応は魔導師の服装をしているけど、正装では無い。
公式の場では無いし問題無いと思うけど。
と、思っていたのが馬鹿らしくなってきた。
「おお、なかなか立派なじゃなぁ! クェスよ!」
「はいはい、お師匠様。
せめて部屋に入るまでは高位貴族としての対面は保って下さい」
「つれないのう。
おお、マイ、久しいの。
元気そうじゃないか、ハッハッハッハッ!」
コウさんとか出迎えている役場の人達や守衛の人達が呆然としている。
よく見れば凄い豪華な作りの馬車から、やはりよく見れば豪華な作りの服装のだまっていれは風格漂う外見の人物が、ユッタリと馬車から降り立った瞬間、腰に手を当てて大声で笑いながら言うのだから、ギャップが激しい。
私も一寸付いて来れない。
クェスさんか、以前のツンツンした様子が無くなってクールな印象が強く、久しぶりに会った私に笑顔で小さく礼をする。
オーエングラム卿が、その立派な髭を蓄えた老体、いや足運びは凄くしっかりしている。
大股でドカドカと歩いてくる。
コウさんとか一同が我に返って、膝を付いて出迎える。
私も頭を下げる。
貴族の位でいえば、公爵は伯爵相当の魔導師の更に2つ上、王族の血縁にのみ与えられる位だ。
「うむ、急な訪問にもかかわらず、出迎えご苦労。
まずは無事な姿を見ることが出来た、僥倖じゃな。
詳しい話を聞きたい、場所の用意は出来るかな?」
「コウ、場所の用意は出来ていますか?」
「はい、準備出来ております。
ご案内します」
ちょっと面倒だけど、コウの町の名目上の最高権力者は私になる、ただし実行権はほぼ無い。
魔法・魔術や魔物に関しての対応で限定で領主と同等の権力を行使出来る、となっているけど、実際は色々なしがらみでほとんど何も出来ないんだよね。
今は、オーエングラム卿の対応と言うことで、私が出なくてはいけない、損な役回りだよね?
コウさんの案内で、貴賓室の繋がりで用意されている執務室へ通される。
オーエングラム卿が人払いを指示する。
執務室には、私とシーテさん、そしてオーエングラム卿とクェスさんの4人だけになった。
コウさんも居たいような素振りをしたけど、オーエングラム卿の一睨みで一礼して出て行った。
オーエングラム卿からの威圧感が強くなる。
「さて、マイよ、何が有ったのか詳しく話してくれないか」
■■■■
オーエングラム卿への説明は案外簡単に終わった。
もっと詳細に聞かれると思っていたので、不思議に思っていたら、諜報部隊が動いていて、その情報との摺り合わせをしただけだったとのこと。
簡単に話すなぁ。
先ほどまでの威厳と威圧感がタップリの様子から、一転して姿勢を崩してお菓子を食べながらだらけている、何だったんだろう?
「なに、マイも魔導師として王都へ赴いた時には知ることになる、早いか遅いかだ。
ならば、今のうちに知って置いた方が良い。
基本的に魔導師は国王直轄だからな」
「今の私は?」
「コウシャン領で保護されている、という事になる。
先王と儂が後ろ盾になるから、大抵の貴族には睨みが効くが、他の領主はな。
成人までに回りを黙らせる力を付けるんだな」
やっぱりか。
私が魔導師に成れたのは、先王ディアス様と元筆頭魔導師オーエングラム様の強い後押しによるものだ。
つまるところ、正規の手順で魔導師に成ったわけでは無い。
この国の魔術師や魔導師、他の貴族の位も資格であり、相応しい知識と技術そして人格がある事が求められている。
例外は必要にかられて特別に行われるべきで、私の魔導師就任はその特別であることを認めさせなくてはならない。
その認める作業は私に丸投げなんだな、はぁ。
嫌そうな顔をしているのを、面白そうに眺めているオーエングラム卿。
私を魔導師に推挙した本当の理由は判らない、何か目的があっての事だと思う。
良い性格をしているよ。
それとクェスさんが、突っかかってこないのが不思議だ。
以前の彼女なら、このような特別待遇された私に不満をぶつけていたはずなのに?
私がクェスさんの様子を伺っているのに気が付いたのかな、オーエングラム卿が話を振ってくれた。
「クェスよ、話すことがあれば席に着くと良い」
シーテさんと同じく、クェスさんも立っている。
「いえ、今の私は彼女と話せるほどの覚悟がありません」
「まったく、生真面目すぎるのだけは直らんか」
大きく溜息を付く。
きっと彼女を変えるほどの何か大きな事があったのかな、少し影のある笑いをして固辞した。
窓から見える空が少し暗くなってきた、夜の鐘が近い。
そろそろ、話を締めよう。
「それで、オーエングラム卿。
遺跡の中にある物は、どうされますか?
何があるのか、推測されているようですが、私は知りません。
知らないのは我々コウシャン領の者だけですか?」
ジッとオーエングラム卿を見る、気の抜けた対応をしているが、その目は少しも油断していない。
本当に食えない、宰相様よりもやり手の気がする。
「ふぉっふぉっふぉっ、聡いな。
中に何があるのか、は、マイも気が付いて居るのではないか?
ただ確信できていないだけじゃろ」
「資料にあった、改良されたダンジョンコアでしょうか?」
知っていることは、ギムさん達と私だけだ。
鎌を掛けてきたのかな?
としても、非公式だけど知らされている事だけで回答する。
「ふむ、まぁそうだろうな。
コウの町の者が最深部の扉を壊さないで居てくれたのは
国としてこの遺跡は封印する事になるじゃろうな、実際にはコウシャン領に任せるじゃろうが」
「ですが、調査も確認もせずに封印はコウシャン領としても容認できないかと。
コウの町としても、遺跡付近は採石場に近く安易に封鎖されても困るかと。
私はとやかく言える立場には無いですが」
この辺の実務に関しては、コウさんに投げて欲しい私には決定権がないんだから。
オーエングラム卿が前屈みになると、ニッカリと獰猛な笑みを浮かべる。
クェスさんとシーテさんが思わず身構えてしまっている。
私は、嫌な予感がしてつい見返してしまう。
「ま、先ずは直に遺跡の最深部を見ようじゃないか」
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