第366話 遺構「再会2」
0366_25-11_遺構「再会2」
遺跡の探索は当面中止の判断がされた。
この判断は、遺跡の最深部の扉を破壊せずに通過する為に修復する時間が掛かるとの事から、遺跡探索の総責任者でコウの町の守衛の副隊長ブラウンさんが下した。
そうなると、私、魔導師マイをどうするかが話し合わされた。
時空魔術研究所へ戻るのが順当なんだけど、秋の収穫祭も近い、町長としては町の要人に顔合わせをして親密度を上げたがっているようだ。
その私は町長の館の客室で引き籠もっている。
面会も断っている、全てフォスさんに対応を一任している。
というのは建前で、夜になると抜け出して宿屋タナヤに遊びに行っていったりする。
部屋を抜け出す方法は、転移だ。
時空転移は遠隔取出と自身を収納できる事を利用して実現している。
それに対して、新しい転移は理屈が判らない、出来るから出来るという非常にモヤモヤした魔術とは呼べない魔法だね。
複数人を転移できるかも、全く不明だ。
転移先も今の所は一度でも行った場所の周辺に限られる、みたい。
今後検証していくことになる、術式と出来るかも自信が無い。
転移の手順は大きく次のようになる。
収納空間内を観測するのに似たイメージで転移先を知覚する。
収納空間に入る。
自分自身を更に収納空間で包んで、転移先をイメージしながら取り出す。
うん、判らない、なんでこんな手順で転移できてしまうのだろうか?
そもそも転移先をイメージできてしまうのは何故だろうか?
空の迷宮のような物をイメージしたけど、シーテさんに確認して貰ったけど、コウの町の空に空の迷宮のような模様は出現していない。
あと、シーテさんに教えて貰って盛大に驚いたのが、転移を行う時に胸のダンジョンコアを中心に体全体が光ることだ。
眩しい程じゃ無いけど、明らかに通常の魔法や魔術と異なるので安易に人前で使うことが出来ない。
と言うわけで、町長の館の客室にある寝室から、宿屋タナヤの1室に転移している。
タナヤさん達には隠し事をしたくないのだけと、知っていることで危険に晒してしまうこともある。
なので、時空転移を複数回 使って転移している、という事にしている。
時空転移は知られてしまっても問題無いという判断だね。
「フミ、こんばんは」
「マイ、いらっしゃい」
私が部屋から出ると、フミが出迎えてくれる。
そのフミも私が見上げる位 身長差があるし、大人の女性としての雰囲気を纏っている。
それに対して私は全く成長の気配が無いのは解せぬ。
宿屋タナヤでは、夜食としてタナヤさんやフミが作った物を食べながら、取り留めも無く話をして過ごす。
村から来た人達の話になった。
今年は比較的 豊作だったそうだけど、逆に夏の暑さから畜産の方は若干 生育不良なんだそう。
でもそれは、庶民の人達にとって影響が出る範囲では無いそうで、それよりも雨の年が始まることに対しての警戒の方が大きいそうだ。
雨の年になると、農作物の病気が発生しやすいらしい、湿度が影響するのかなぁ?
楽しい時間は早く過ぎてしまう。
深夜遅くになったら、私は町長の館の客室へ戻らないといけない。
シーテさんが待機してくれているけど、不在を知られてしまうのは問題だからね。
「じゃ、又、おやすみなさい」
「おやすみ、マイ」
軽く抱き合って、別れを惜しむ。
次に会えるのは何時になるのかは判らない、ここ数日会えたのは、シーテさんからギムさん達を経由して調整をしたからだけど、明日は時空魔術研究所へ戻る予定だから。
それでもフミやタナヤさんオリウさんが元気なのを確認できたのは本当に嬉しい。
私がコウの町に居るということで、何か起きていることは気づいているはずなのに、触れずに居てくれている。
私が部屋には行って、転移を行使する。
胸のダンジョンコアが熱くなって、町長の館の客室が頭の中に浮かぶ。
シーテさんは応接室で本を読みながらお茶を飲んでいるみたいだ、あ、周囲をキョロキョロしている何かに気が付いた?
ん? 私が見ていることに気が付いたのかな?
待たせてしまっても行けないので、窓が閉められているのを確認したら、転移を行使した。
相変わらず、転移は判らない。
自分の収納空間から出る時も、周囲の様子を確認できない、それに時空転移に比べると時間と手順が掛かりすぎる、要改善だなぁ。
応接室に転移して出現する。
数回になる転移なので、シーテさんも慣れてきたかな、ゆっくりと着地する私を出迎えてくれる。
「お帰りなさい、もう夜は遅いわ、早く寝てね」
「あ、はい、シーテさんも遅くまで待たせてしまって申し訳ありません」
「はいはい、明日は時空魔術研究所ね、フミちゃん達とユックリ話が出来たのは良かったわね」
「ええ、次に会えるのが何時になるのか判らないですが」
ポンポンと頭を撫でてくれる。
私が室内着に着替えて、寝る支度を済ませたら、お休みの挨拶をして別れる。
シーテさんは同じ町長の館の客室にある従者用の部屋へ入っていく、軽く手を振ってドアが閉まる。
さ、私も寝よう。
■■■■
翌日。
時空魔術研究所へ戻る為の用意をする。
準備自体は事前に済ませているので、ナカオさんフォスさんと合流するのと、運ぶ荷物を積んでいる荷馬車と合流する手筈を確認するだけだ。
町長のコウさんと簡単に話をする、やはり町の要人との面会を断られたのを残念がったけど、特に不満を持っている感じは無かった。
そうこうしていると、馬に騎乗した領軍の兵士が走り込んできた。
守衛の人達が緊張する、私もシーテさんフォスさんに護られる形でその様子を確認する。
急いでいるが、慌てている感じは無い、問題が発生しているのでは無い?
私の馬車の近くまで来ると、まだ私がコウさんと話をしている所を見たのか、ホッとした様子だ。
下馬して、丁重な挨拶をする。
「失礼します!
私は領主様の命により元筆頭魔導師オーエングラム様の護衛をしている者です。
魔導師マイ様におかれては、オーエングラム様とお会いして頂きたくお願いいたします」
「連絡ご苦労様です。
オーエングラム卿は今何方に?」
オーエングラム様は筆頭魔導師を引退し、魔導師としての位を返上している。
そして、王都の上位貴族であるので、オーエングラム卿と呼ぶのが正しい、とフォスさんから聞いている。
「はっ、ただいまコウの町へ向かって移動中です、本日の昼には到着されるかと」
騎士の礼をし、私の答えを待っている。
えっと、どうしたら? フォスさんを見る。
小声でフォスさんが私に釈明する。
「マイ様、捕虜にした襲撃者の審問の為に王都から人が来ると聞いていました。
申し訳ありません、まさかオーエングラム様が来られるとは知らず、コウの町へ来ることもまた。
先ずは、時空魔術研究所へ戻られるのは待たれた方が良いかと」
「そうですね。
先触れご苦労様です。
私はこの館でオーエングラム様を出迎えさせて頂きます、そのようによろしく」
「はい、承りました。
オーエングラム様と、その弟子クェス様がおいでになります。
では、私は知らせに戻ります」
丁重な礼をして、馬に騎乗し今度は並足で馬を走らせながら出て行った。
その様子を確認した後、コウさんへお願いする。
「コウさん、申し訳ないですがオーエングラム卿を迎える準備をお願いします。
フォス、上位貴族への対応を頼めますか、多少の不手際は私の出自をだしてしまって構いません。
先方もそれを承知しているでしょう」
「はい、かしこまりました。
直ぐに準備します」
「はい、マイ様」
うん、オーエングラム様は私が村人だったことを知っている。
十分に余裕の無いのなら、対応に不備があってもある程度は押し切れるはず。
というより、知っているオーエングラム様なら、細かいことを気にするタイプじゃ無いはずだ。
コウさんが慌てて役所の方へ走っていく、見送りだけだったからコウさんだけだった。
役所の人が1人でも居たらよかったね。
王都の上位貴族を迎えるのなら、多分大騒ぎになる、頑張って欲しいな。
フォスさんも、コウさんと一緒に走って行く、貴族としての知識を持っているフォスさんにも負担が掛かる。
シーテさんと私が残される。
えっと、どうしよう?
「取り敢えずナカオさんへ連絡しないといけませんね」
「そうですね、守衛に連絡を頼んでおきましょう。
多分だけど時空魔術研究所の隣の宿泊施設を使ったんでしょうね。
先触れが直前になってしまったのは判らないわね、意図しているのか急いでいたのかな?」
「遺跡のことが伝わったのなら、かなぁ?
でも、遺跡の最深部にある物が何か判っていない今の段階で急ぐ必要が判りません」
「判っているのかもね。
ね、辺境師団の情報収集能力ってどの程度?」
「すいません、私は知る立場になかったので。
でも領軍の情報収集能力と比較すると、広範囲や他国との情報収集は得意ですが地元の情報は劣る感じでしょうか?
輸送部隊として移動に必要な情報を得る時は、内容になって領軍に協力を求めてましたから」
北方辺境師団に居た頃、輸送に必要な色々な情報が入ってくる。
それに生鮮食品は出来るだけ現地に近い所で買い上げる方が良いけど、この辺の手続きは専門の部署の人達がやってくれていた。
上司はよく、その情報の意味まで加味して考えろと言っていたなぁ。
「領軍の情報収集能力はどうなんですか?」
「ん、さぁ?
視察団チームは、独自の情報収集網を作って運用していたわ。
領軍の情報部隊に頼ることは少ないから。
連中、視察団を下に見て恩着せがましいのよ」
シーテさんが、ため息をつく。
どういう事だろう?
情報部隊というのは軍の中でも重要機密を扱う非常に機密性が高い部隊の筈、だからといって実働部隊である視察団に情報を渡さない理由が判らない。
理解できないでいると、シーテさんも頷く。
「ん、私達にも理解できないわ。
多分だけど、貴族がらみなんでしょうね」
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