第364話 遺構「診察」
0364_25-09_遺構「診察」
予想外に疲れていたのかな、深く寝てしまっていた。
が、人の気配がして目が覚める。
今の服装は、外用の装備を外しただけの身軽な服でそのまま寝てしまっている。
コンコン
寝室のドアをノックされる、声が掛かるかと思ったら、そのまま入ってきた。
「失礼します、魔導師様。
お目覚めでしょうか?」
知らない声だ。
布団の中でナイフを構えながら、ユックリと体を起こす。
「起きていてます、何でしょうか?」
観察する、寝室の入口に控えている人は看護師の服装をしている。
そして手には服かな?色々入った大きな籠を抱えている。
そして、応接室には別の人の気配がする、探索魔術だと3人だ。
「相当お疲れだったのですね、服も着替えずに寝入ってしまわれて。
食事も取られていない様子。
お加減は問題ありませんか?」
あ、結局 夜食は食べる前に眠気が来たのでさっさと寝てしまったんだった。
「ええ、しっかり寝たので体調は良いです。
朝食を頼めますか?」
「畏まりました。
いま準備させています、その前に湯浴みを」
ああ、応接室では朝食の準備をしているのか。
そして、湯浴みと言った看護師の圧力が凄い。
口調から、看護師といっても立場は高い感じだ。
「判りました、湯浴みの場所へ案内して下さい」
何処だろう。
「はい、隣の部屋がそうです。
介助いたしますので、ご了承願います」
水回りは普通、部屋から離して作られることが多い。
なのに寝室の直ぐ隣の部屋に湯浴みが出来る部屋を用意しているというのは、ちょっと贅沢だ。
介助というが、一人で入らせてくれないのは、領都で湯浴みをした時に痛感している。
そもそも、貴族や今回の場合は患者かな?は自分で身を清めることはしないか出来ない。
彼女の仕事でもあるので、諦めるしかないかなぁ。
「判りました」
はい、洗われました、頭の先から足のつま先まで。
肌が荒れているとか、色々言われてしまいましたよ。
それに筋肉が固くなっていると、揉まれたけど時間が足りないので跡でジックリネップリという怪しい目つきで言われた時は、ゾクリと背筋が寒くなったね。
湯浴みの後、朝食を応接室で頂いた。
うん、病人食だ。
どれも栄養価は高いけど、固形物が無いか酷く柔らかい。
味は、まあまあだけど、食感が乏しいと味気なく感じる物なんだね。
食事中も看護師の女性が控えている。
飲み物を注いでくれたのと、世話をしてくれているけど、別に怪我人でも病人でも無いのでちょっと困る。
今日の予定を聞く。
「今日は、この後 医師による診察があります。
また、湯浴みの時に気が付いたのですが、体に疲労が蓄積しているようです。
診察の後は疲れを取る為の施術を行うように手配します。
宜しいでしょうか?」
「司祭長のハリスと話があるのですが時間は取れますか?
それと、遺跡の最新情報も知りたいのですが」
「はい、ハリス様の指示で、本日の夕食で会食として時間を取っております。
遺跡の情報は私では判りかねます。
フォス様が役場と折衝していましたので、フォス様が知っているかと」
ナカオさんフォスさんも来ているはずだけど、フォスさんは役場に出向いているのか。
ナカオさんは確か、高度治療施設のこの区画に居るはず。
「ナカオは今どこに?」
「はい、ご実家に戻られています。
健康状態の確認が済んでいないので、呼びますか?」
フォスさんは私の文官なので、役場と対応してくれているのは流石だ。
ナカオさんは、少し事情が異なる。
雇用主は町長で研究所には出向扱いになる、だから役場からの指示にも従う必要が有る。
無理を言う必要も無い。
「いえ、所在がはっきりしていれば問題ありません」
事務的な対応をしてくる割に、時折へんな視線で見る看護師の女性はなんか苦手だよ。
今着ている服は、かなり心許ない、患者用の服で貴族が着るようなしっかりしたものだけど、兎に角生地が薄い。
肌が透けることは無いけど、うっすら肌の色は透けている。
肌さわりは、滑らかで絹かな、高級な生地なのは判るけど、実用重視の私には不向きだ。
その上からガウンを羽織っている。
すると、またノックされて数人の人が入ってくる。
看護師の女性が何か申し送りをして壁際に移動する。
「おはようございます、魔導師様。
本日、診察を担当する医師一堂になります、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
内心は、ウゲッ、となっているのを必死に堪える。
医師に対して苦手意識は無いはずなのだけど、何なのかな、無駄な威圧感があるのがね。
診察は、はっきり言うと、形式上だけだった。
脈拍と体温、血圧を測り、少し問診を行った後『健康体です』でお終い、いいの?それで。
うやうやしく礼をすると、またゾロゾロと出て行く。
うん、あれだ、魔導師の診察を行ったという実績が欲しかっただけなんだ、多分。
看護師の女性も、何も話さないで呆れたような目で見ているよ。
お茶を入れて貰う、まだ診察は続くそうだ。
暫くしてハリスさんが来る、フーチェも伴っていて、診察の用意がされているね。
うん?
「マイ様、聖属性の魔術を使っての診察を行いますの。
よろしくお願いします」
あ、ハリスさんが司祭長 直々に診察してくれるんですね。
フーチェさんが色々机の上に配置しているけど、何の為の器具なのか判らないな。
「よろしく」
何を確認するのかな?
あ、聖属性の魔術を展開してる、机の上の器具は何か反応して光ってるね。
ふむ、これはハリスさんの魔力反応に応じて光っている?
ん、私の体が温かい、これは私に聖属性の魔術で、浄化を行っているからだね。
その浄化の反応を見ているのかな。
「はい、体に問題は無いですね、正常です。
ただ、疲れが残っているように感じました、病気ではありません。
しっかり休んで下さい」
ハリスさんが、ニッコリと笑いながら答えてくれる。
机の上の器具は何かの魔道具だろうけど、今度詳しく聞きたいな。
ハリスさんは額に汗を浮かべている、以前、私に聖属性の魔法を行使した時はそんなに消耗しなかった、それだけ上位の魔術を使ったんだろう。
フーチェさんが、ハリスさんの汗を甲斐甲斐しく拭っていく。
その様子は、ハリスさんへの思いが溢れている。
ハリスさんには、以前から感じていた落ち着いた雰囲気に威厳というのかな、町とは言え教会の最上位 司祭長としての風格に相応しい佇まいを纏っている。
それに比べて、私は魔導師としての風格を持っているのだろうか?
「判りました、数日は静養させて貰います。
遺跡の様子が気になるので、フォスへ来るように伝えて下さい」
ふぅ、ヤレヤレという感じのハリスさんが、快く了承してくれる。
元々、今日の午後には報告に来るそうだ。
その前にハリスさんに話をしたいのだけど、2人だけになるのはちょっと難しいそうだ。
先日は私の体調が急変する危険があるから、近くで状態を確認していたんだそう。
ハリスさんは探索魔術を使うのは上手では無いけど、聖属性の魔術での探索魔術では近くの相手の体調がある程度判るんだそう。
「それとは別ですが、遺跡の方から速報が届いています。
最深部に居た魔物の討伐に成功、全員無事、だそうです。
詳細は彼らが戻ってからでしょう」
判っていた、それでも正式な報告が届いて安心してしまう。
思わず力が抜けて椅子に深く座ってしまう。
良かった。
「そうですか。
彼らとも面会する機会が欲しいですね」
「はい、手配します。
彼らも治療が必要だと思いますので」
苦笑気味に言うハリスさんの表情から、速報の中にはどれだけの損耗があったのかも有ったのかな?
同じ治療施設に入る可能性は低い。
この高度治療施設は重傷者や重病者、そして貴族などの支配層が利用する。
冒険者や守衛が利用する施設は又別に有る。
怪我の程度も、ギムさん達は掠り傷で疲労が酷いだけだ。
そして、面会するのも手配と場所の設定から手間が掛かる。
「任せます」
それに遺跡の最深部を探索する事も進めないと行けない。
疲労が抜けて装備の補充が済めば直ぐにでも再会するだろうね。
フーチェさんが机の上の器具を片付けていく。
看護師の女性が入ってくる、どうやら彼女は私の専属の看護師の様だね。
ハリスさんと何か話をして、また出て行く。
恐らく、町長への報告だろう。
「それでは失礼します。
施設の方には十分の療養を行えるように指示しておきます」
ハリスさんが、深々と礼をすると出て行ってしまう。
首を振って、窓を見る。
窓の外は、晴天が広がっている。
太陽に照らされている濃い緑の木々は、夏がそろそろ終わる気配がする。
遺跡探索は未だ終わらない。
というより、肝心の部分は手付かずのままだ。
肝心の改良されたダンジョンコアの様な物が複数。
前回の魔物の氾濫が、改良されたダンジョンコアによる物だとしたら、あれらが動いたらどうなってしまうのだろうか?
うーん?
最善手はこのまま遺跡の最深部で保管する事だと思う。
その為には遺跡を入れないように封印するか、領の重要施設として管理するのか。
探索者だっけ、彼らは何が有るのか知っていたのだろうか?
知っているとするのなら、遺跡を秘密裏に管理するのは難しくなる。
はぁ、うん、こういう事は領主様へ丸投げしよう。
それよりも、私の転移、あれ何なんだろうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます