第362話 遺構「地層」

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 俺は夢を見ているのだろうか?

 空中からマイに見える少女が現れた。

 そして、アッと言う間に、魔物を倒して見せた。

 こちらの攻撃はほとんど効かなかった相手にだ。


 少女の様子は、知っているマイと違う別人のように、感情が見られない。

 それにあの光の雫、あれはどういう事だ?

 判らない事だらけで、混乱している、だが俺はリーダーとして指示を出さなければならない。


「マイちゃん!」


「シーテ!

 待て!」


 ユックリ振り向いたマイは、ただ静かにこちらを見つめている。

 同一人物なのかも確認しなくてはならないのに、シーテが駆け寄っていく。

 いや、シーテは探索魔術や魔力の質からマイだと判断したのだろう。


「ふぅ」


 思わず、腰を下ろしそうになってしまう。

 体中のあちこちが傷む。

 ジョムとブラウンを見る、この2人も酷い状況だ、ここまで酷いのは久し振りだな。

 軽く頷いて、シーテの後を追うために歩き出す。


 目の前で、シーテがマイに抱きついて振り回している。


「うむ。

 何が何だか判らんが、終わったようだな」


「じゃなぁ」


「そうですね」


 俺たちは、またマイに助けられたのか。



■■■■



「マイちゃん!」


 シーテさんが駆け寄ってくる。

 何か声を掛けようとしたけど、体がだるい、全身に力が入らない。

 ゆっくりとシーテさんに体を預けるように倒れかけてしまう。


 その私の体をシーテさんが抱きしめて、そのまま、振り回したよ、わぁぁぁ。


「し、シーテさん!?」


 あれ?

 さっきまでの感覚がなくなって元に戻った。

 シーテさんも限界だったのだろうね、数回 回ったら、一緒に地面にへたり込んだ。

 シーテさんの腕の中にすっぽり収まったままだ。

 私は、シーテさんの肩に頭を預けて、息を吐く。


 お互い、顔を見合わせて小さく笑う。


「間に合って良かったです」


「また助けられちゃったわね」


「いえ、お互い様です」


「で、何をしたのか話してくれるんでしょうね~。

 マイちゃん」


「あの、その、どの、あの~

 私にもよく判ってないんですが」


 シーテさんに真正面からって近いですよ、問い詰められる。

 だけど、今回に関しては本当に判らない。

 出来たから出来たとしか言い様がない。

 むしろ、ハリスさんの方が判っている可能性が高い。


「判らないって、また無茶な魔術の行使をしたのね。

 はぁ、少し判ってきた。

 ハリスね、聖属性と闇属性と時空属性について研究していたみたいだし」


 へぇ、ハリスさんそんな研究していたんだ。

 聖属性の魔術を研究しているのは知っていた、時空魔術に興味があったのも知っていたけど、そこまで入れ込んでいたのかは知らなかった。

 そうか、だからハリスさんは私にギムさん達の救出が可能ではないかという推測まで辿り着いたんだ。


「兎も角。

 みな休憩だ。

 シーテ周囲の索敵と可能なら結界。

 ブラウン、爆薬の安全装置を有効しておけ」


「うん、周囲は大丈夫ね、結界はちょっと待って」


「はい、行ってきますね」


 私とシーテさんを中心に皆が座る。

 疲労が酷いようだ、肩で息をしている。

 私は、収納から飲み物と簡易食を取り出して配る。

 何時ものように。

 ジョムさんの頼みで収納から、簡易コンロと鍋や水や食材を出す。

 この辺の装備はギムさん達から貰った物だから勝手知ったるかな。

 直ぐに簡単なスープが出来て、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 チーズを沢山入れたベーコン野菜スープだ。


 皆、受け取ったそばから平らげてる、私もお腹が空いたよ。

 無言で黙々と食べる、でもその表情は柔らかい。

 食後のお茶もブラウンさんが美味しく入れてくれた。

 ちょっと良い葉っぱを出した甲斐が有ったよ。


 落ち着いた所で、はい、逃げられません。

 シーテさんに後ろから抱きしめられて、ギムさんジョムさんブラウンさんが目の前に居ます。

 えーっとね。

 えへっ。

 誤魔化してしまったけど、苦笑しか帰ってこなかった。


「ふむ。

 先ずは礼を言うべきだな。

 マイ、助かった」


 ギムさんが深々と頭を下げる、ちょっと悲しくなる。


「ギム、こういう時は、しっかり顔を見て言う物よ」


「そうですね、ありがとうございます、マイさん」


「ああ、命拾いしたぞい、感謝じゃな」


 シーテさんが補足してくれて、ブラウンさんとジョムさんが答えてくれる。

 ギムさんがボリボリと頭をかく、あ、照れているというか困っている。

 私も、なんだか気恥ずかしくなってしまうよ。


「ま、ギムをいじるのはその程度で。

 マイさん、一体どうやって此処まで来たのですか?

 それに町の方は許可を取っているのでしょうか?」


 あっ、はい。


「その、此処まで来れたのは、そのちょっと判らないです。

 私の力なのは確かなんですが、どういう理屈なのかハッキリしないので。

 シーテさんも言っていましたが、ハリスさんの提案をやってみたら出来てしまったんです」


 あ、ブラウンさんが頭を抱えてる。

 そうだよね、普通。


「それと、コウの町では私は今、検査入院による面会謝絶になっているので、速やかに戻る必要が有ります。

 はい」


 あ、ジョムさんが手を顔に当てて天を仰いだ。

 そうだよね、普通。


 シーテさんの盛大なため息が、耳に掛かる、ひゃう、って変な声出た。

 ギムさんも、落ち着いたのかなんなのか、呆れたような、それでいて易しい目で私を見る。


「うむ。

 詳しい所は後回しだな、マイは体力が戻り次第、コウの町へ戻ってくれ。

 居なくなったことが発覚すると厄介だ」


「はい、ギムさん」


 体調は、体力は問題無い。

 ちょっと魔力不足かな、でも頭痛も起きていないし回復してきている。


「魔力が心許ないですが、其れ以外は問題無いですね。

 回復するまでもう少し時間が欲しいです」


 魔力の回復は寝るのが一番だけど基本的に安静にしていれば自然回復する。


「しかし、ここは一体何なんでしょうか?

 遺跡と言うより、えっと」


 改めて見渡す、巨大な通路だ。

 材質は判らない、転がっている塊を見る限りコンクリートに似ているけど、それよりも滑らかな印象を受ける。

 装飾は無い。

 そして、かなり高い場所に明かりだろうか、器具が等間隔に並べらて壁に埋められている。

 大規模な施設の印象だ。


 そして、魔物達が居たその向う側、大きな扉がある。

 ん?

 反対側かなり離れた所にも扉がある、そっちは壊されていて、大きく崩れているね。


 ここは何か?

 判らない、何かの施設のような感じもする。


「廃棄都市にあった地下施設のような感じがあります。

 えっと、都市核とかいう物を扱う関連施設だったかな?」


 そうそう、雰囲気としては廃棄都市の地下に有った施設に似ている。

 作りは大分違うけどね。


「詳しいですね」


「いえ、護衛で同行していた視察団チームに廃棄都市のような人工ダンジョンに詳しい方が居たんです。

 その人の分析と、遺跡の雰囲気が似ているからですか。

 それの意味する所は判らないですね」


 ブラウンさんが、ああ、という表情をする、そして、他の人に説明してる。

 情報は全員に共有しているけど、必要以外の部分については忘れていることも多い。

 既に終わった事件の関係者が持つ技能まで覚え続けるのは無駄だしね。


「とはいえ、これ以上の探索は難しいでしょう。

 我々は消耗しすぎていますし、後衛を下がらせたので援助が期待できません。

 それに、マイさんとハリスを同行させた方が良いでしょう。

 その為の根回しも必要になります」


「じゃが、この先にそれだけ重要な物が有るのか?

 墓地があるだけ、なら、むしろ過剰すぎやしないかの」


 ジョムさんが言うけど、違うと言うことはた理解している。

 魔物が必死になって進もうとした先にある物。


「ええ、改良されたダンジョンコアの様な物が複数保管されていました。

 加工された物もあるようです。

 空の迷宮を作り出した元となる物なら、魔物が手に入れようとするのも納得できます。

 理由までは不明ですが」


 ……あれ?

 何か変なこと言ったかな?


「マイちゃん、なんでそんな事を知っているのかな?」


 あ、そうか。


「この、転移かな、を使った時に出現場所を探そうとして、この先まで見たんです。

 探査、みたいな感じでしょうか?」


 シーテさんが難しい顔して悩んでる。


「うん、どんな魔術か判らないわ。

 兎も角、この先は大問題な物が有るのね。

 それで今は十分よ」


 あ、考えるの止めたね。

 優先順位かな。

 跡で質問攻めになりそうだけど、ハリスさんに全振りしよう、そうしよう。


「うむ。

 方針としては、一旦後退し体勢を立て直す。

 マイとハリスの同行については、依頼するが安全が確保されるまで後方待機になるだろう。

 ともかく、数日は休養する、その積もりで備えよ」


「「「はいっ」」」


 ギムさんの発令で全員が答える。

 時間が経過して、私の魔力もほぼ回復している。

 さて、問題は同じ転移で変えることが出来るのか?だね。


 ん?

 ジョムさんが難しい顔をして壁が崩れた所を見ている。

 地面というか岩が露出しているね。

 それが何なんだろう。


「のう、ブラウン。

 この地層に見覚えはあるかな?」


「いえ、というより、私には判りませんよ。

 シーテ、マイさん、判りますか?」


「うーん、パス、マイちゃん?」


「え、ええっと、私の知っている中には無いですね。

 もっとも、魔法学校での土属性の習得の為に学ぶ範囲は狭いので。

 地層も、専門的なのを学ぶのは土属性に適性のある人 位でしょうか。

 私だと、代表的な材質の見方とか堆積層か火山関連の層とか判りやすいのだけですね」


 とはいえ、土属性に適性のある魔術師でも判らないと思う。

 基本的には、魔術の行使の時に生成する鉱物の特性を中心に学ぶから。

 岩も単一の物質ではなく複数の鉱物の集合体で生成される時の状況によって色々変わってくるとか何とか。

 うん、忘れてるなぁ。


「ちょい気になる。

 岩の採取をしてもよいかな?」


「うむ。

 構わん、荷物にならない程度にな」


「あ、私が収納しましょうか?」


「いや、それでは受け取るのに時間が掛かってしまうな。

 それに調べるだけなら少量でかまわないから問題無いぞい」


 そうだった、ここから別行動になるし次に会える機会は暫く先になるよね。

 ジョムさんが、手慣れた手つきでナイフを使って露出した地面の土や岩を少しずつ削り取って小分けにまとめていっている。

 初めて見る作業なので、ついつい興味深く見てしまった。

 はー、地層のスケッチも取るんだ。


 ん?

 皆が私を見ている。


「えっと、何か要る物がありますか?」






 皆してガックリしている、なんなんなの?


「うむ。

 マイくん、そろそろ帰らないとまずいのでは?」


 あ。

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