第361話 遺構「光の雫」
0361_25-06_遺構「光の雫」
「何なんだ一体」
ジョムがバトルアックスを振り回しながら毒づく。
目の前のアー・オーガがバトルアックスで打ち合っているからだ、その技はジョムに引けを取らない。
ガン!
ガキン!
ガシャ!
打ち合ったり、打ち流したり、技の応酬が続く。
「やだもう」
「厄介ですね」
もう1体のアー・オーガは何と魔法を使ってきた。
威力そのものは大したことは無い、が、速度が異常だ。
何発もの魔法の攻撃が連発される。
シーテの魔術も物量で打ち消される。
ブラウンも近づけない。
そして、2体の魔物、その前にはギムが1人立ち向かっている、いや、相手にもされていない。
ギムの強力な攻撃が直前で跳ね返される。
時空壁に酷似している?
だとしたら、攻撃は通らない。
魔術での相殺を狙うしか無いが、シーテが魔法を使うアー・オーガから離れる事は出来ない。
完全に手詰まりだ。
予定していた手段を最悪の最後の手段として使用するしか無い。
「シーテ!」
「大丈夫、視察団も冒険者も探索範囲から出たわ」
「ブラウン、用意は出来ているか?」
「ああ、通路全体を破壊するように配置済みだ」
手に負えない物が有った時の手段として遺跡を崩壊させて埋めてしまう事を考えていた。
もちろん、設置したら安全な場所まで避難して遠隔爆発させる予定の物だ。
威力は、視察団チームが持ち込んだ最新式の爆薬だ。
商工業国家の技術を流用してようやく国内でも実用化できた数少ない切り札。
これは、極秘だ価値のある遺跡を破壊するような行いを公に行う事は出来ない。
あくまでも、崩落事故として扱うし、その為に必要なことはする。
それを今 此処で使う。
いくら強力な魔物でも、地下深くで生き埋めになれば簡単には出てこられないだろう。
だが。
俺たちが避難している間、魔物達が大人しくその場に居てくれるだろうか?
爆薬を発見されて無効化される危険は?
知能が低ければ、手が無い訳じゃ無かったが、相手は高度な知能があると思われる。
「皆。
すまんな」
俺は、自分の力の無さ、不甲斐なさに嫌気が差す。
こんな手しか選択できなかったのか。
自虐気味な笑みが浮かぶ。
マイもそうだったのだろうか?
「ギム」
「ギム」
「ギム」
ジョムがブラウンがシーテが声を掛ける。
良い仲間に出会えた物だ。
いや、まだやることがある。
「シーテ。
魔法でこの通路を塞いで離脱。
マイを頼んだぞ」
そうだ、マイを1人残していくわけにはいかない。
マイの助手であるシーテを逃がさなくては。
「じゃな」
「そういう訳です」
「そんな……」
「マイさんを1人にしないであげてください」
「報告は解っているな、戦闘中に大規模な崩落事故。
魔物と我々は崩落に巻き込まれて行方不明」
「ジョム!
っ、判ったわ」
オーガと2体の魔物は会話を邪魔せずにジッと見つめているだけだ。
侮っている?
それとも、この状況を楽しんでいる?
何方でも良い、こちらの最後の手段を行えるのだから。
さあ、一緒に逝こうか。
ジョムを中心にギムとブラウンが左右に展開する。
そして、後方からシーテが魔術の行使を開始する。
魔物と元視察団チームが相対する。
2体の魔物が手に黒い魔力を纏わせる。
キィィィィィ!
突然!
戦いの空間を切り裂く音が響く。
「何だ?」
周囲を見るが、閉鎖空間内に音が反響して発生源を特定できない。
「ギム! 何かの魔力反応、まるで黒い雫の様だけど違う!」
「不味いぞ、これ以上の敵は捌ききれん」
「シーテ、直ぐに魔術を!」
ブラウンがシーテにこの場所を封鎖するように指示を出したが、シーテが動きを止めた。
「え、なんで?」
信じられないという表情で宙を見上げている。
思わずその方を見る、丁度 魔物と俺たちの間の魔物に近い天井付近だ。
そこの空間が歪んで虹色の様な光の屈折が見える。
不味い、黒い雫だ。
大きさから、大きな魔物は出てくる可能性は低いが、黒い雫が落ちて黒い大地になった場合、魔物達が本来の力を取り戻す。
そうなったら崩落させても脱出される危険が出て来てしまう。
魔物達は?
宙を同じく眺めている、いや2体の魔物は驚愕だろうか、顔を歪めて驚いている。
オーガに至っては、頭を抱えている者まで居る、何なんだ?何が起きている?
空間の歪みが進み、そして。
光り輝く白い雫が現れた。
黒い雫では無い。
薄暗かった地下を明るく照らす。
ユックリと下降し始める。
その光る雫に、幾何学的な筋が走る。
音も無く、開いていく。
花がつぼみから開くように。
一人の少女が姿を現した。
■■■■
不味い、不味い!
私は遠隔視覚では無い何かで見える風景に心が急く。
ブラウンさんが、戦いの場を移動しながら何かを設置していく。
大きさは小さいが、恐らくは爆薬だ。
私ならそうする、奪われる危険があるのなら埋めてしまい手出しできなくする。
魔術だと魔術師がその場に居る必要が有るが、爆薬なら遠隔や時間で爆発させることが出来る。
これに魔術で効果を最大限発揮するように閉鎖空間にするとか、爆発方向を調整するように地形を変えれば大規模な崩落を造り出すことは可能だろう。
その爆薬を戦闘中に使おうとしている、自滅行為だ。
他の視察団チームと冒険者チームが撤退して行っている。
時間が無い。
やるしかない、術理どころか魔法として使用する方法すら推測の只の願いを実現する。
ぶっつけ本番の無謀な行動だけど、自分の中にある不思議な確信が出来ると言っている。
そう、私の中居る、幾つもの私、その私を統合する私がだ。
その私が微笑んでいるような気がした、感情が無いはずなのに?
収納空間に入った私は、目的地を強く思う。
なんでこんなに広範囲の特定の場所を認識できるのか、理屈が判らない、でも今はそんなことは考えている余裕は無い。
ギムさん達の近くにしたいが、出現する時に何が起きるのか全くの未知だ、距離を置く必要が有るが遠すぎても駄目だ。
魔物とギムさん達の間で、魔物に近い方が良いかな。
遠隔転移の要領で自分を取り出そうとする、失敗だ、何の反応も無い。
遠隔取出の位置設定はしたはずなのに、いや、本来の方法とは違う方法で知覚してその位置を設定した。
全てはただそう願っただけだ。
原始的な魔法の使い方、魔導師としては褒められた方法じゃ無いけど、未知の魔法ならば有効だろうね。
ならば、ただそこに行きたい、そう願うだけで良い。
私の体が収納空間内で移動する感覚を感じる、距離が無い空間で変だけど、なんというか、今居る場所が別の場所に繋がった感じだ。
だけど、現実空間へ出られない。
必死に願う、このままだとギムさん達は爆薬を使用してしまう。
駄目だ、そんなの。
残された人達は私はどうしたら良いの?
……、あ、私はあの時……。
強い後悔が湧き上がる。
巨人とオーガ種と戦った時、私は自分を使い捨ての只の一兵卒として使った、私の事を心配してくれていた人達の気持ちを考えずに、自分本位で。
判っていたつもりになっていただけ、本質的に理解できてなかった。
今度こそ間違えない、その思いが強くなっていく。
私の回りになにかが展開されていく。
これは私の作り出す収納空間かな、それが私を包んでいく。
私の収納空間から別の収納空間に切り離されて、そして現実空間へ出て行くのが”判る”展開された収納空間がなぜか光っていて周囲の様子が判らない。
感覚として現実空間に出ることが出来た感じがした。
展開していた収納空間を時空壁として展開し直す、幾つかのブロックに別れて私の回りに広がっていく。
ギムさん達が居る!
間に合った。
探索魔術で、いや時空魔術を行使していることで全周囲の視覚を得ている。
私の後ろには複数のオーガ種、魔物が居る、知らない魔物が居るけど、そんな事はどうでも良い。
体が熱い。
胸の中にあるダンジョンコアが激しく熱を持ち輝いている。
私自身もなんか光っている気がするけど、気のせいかな?
恐ろしく、冷静になっている。
兵士としての自分に似ているけど、それよりも達観したような、思い上がりかな?
ギムさん達を見る、驚いているのが判る。
そして、満身創痍だ立っているのが不思議な位。
怒りも悲しみも湧いてこない、ただ、その事実を見て判断する。
魔物を殲滅する。
ユックリと振り向く、大きな岩の1つに降り立つ。
2体の魔物が何か言っている。
言葉だと理解できるが、意味は全く判らない。
オーガが武器を振りかざしてくる、あ、アー・オーガも居るや。
手をかざして展開済みの時空壁を時空断として使用する。
迫ってきたオーガとアー・オーガが半分に切れ、また半分と体が崩れていき地面のシミになる。
一瞬で粉々に切り刻んでしまえた、私の知っている時空断より遙かに威力が大きい、何でかな調べないと。
2体の魔物が魔法を使ってきた。
なにかが飛んでくる、それを時空壁で受ける、対消滅した、まるで時空断か聖属性の魔術を受けた時のように。
危険か?
再び同じ魔法を使い飛ばしてくる。
それを時空壁で受けて観察する。
聖属性というより闇属性に近い、たぶん、闇属性の魔法を観察したこと無いから。
そして、時空断に似ているが、異なる、ただ属性の魔力を薄くして飛ばしているだけだ。
時空壁が壊れたのは、魔力で干渉してか、な?
ま、もう良いか。
私は、時空断を2体の魔物へ向ける、魔物は何かの障壁の魔法を使ったようだけど、意味は無かった。
ただ、縦一文字に切られてお終い。
探索魔術を行使する、魔物の反応は全く無い。
振り返る、ギムさん達が彫刻のように固まって動かないで居る。
すこし、その様子が可笑しく感じてしまう。
私は、間に合った。
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