第357話 遺構「膠着」

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 遺跡の最深部、その広場。

 ミサをリーダーとする視察団チーム、そしてオルキをリーダーとする冒険者チーム。

 現在、遺跡探索に参加している人員の中では最も実力がある。

 なお、生き残りの探索者を連れ帰ったマイトをリーダーとする冒険者チームは単純な戦闘力としては若干見劣りする。


 そして、その2チームは広場で足止めされていた。


「ちょっ、ゴブリンが何でこんなに?」


「黒い大地があったとしても、数が多すぎです」


「判っているから、手を動かせ、数を減らさないと進めないぞ」


「魔法使って良い?」


「駄目だ、オーガの上位種に取っとけ、それより周囲の警戒を頼む。

 囲まれると厄介だ」


「はいよー」


 最小の行動でゴブリンを切り倒していく、ここで体力を消耗してはいけない。

 奥にはオーガそしてその上位種のアー・オーガが居る、通常の状態でも強敵だ。

 ましてや、地下の閉鎖空間という場所は、地の利を生かすのが難しい。



 それでも、何とかゴブリンの群れを倒す事に成功する。


「はぁ、面倒な。

 全員小休止、リンタ、済まないが先の様子を確認してくれ。

 深入りしなくていい、オーガがこっちに来ないか判れば十分だ」


「了解リーダー、直ぐに戻る」


「シオ、アオの収納から食事を用意して配ってくれ」


「はい」


「わたしも手伝うわ、シオ」


 オルキ達も各々で食事を取り始める。

 お互いの死角をカバーするように座り、周囲への警戒を怠らずに飲み食いを始める。


「オルキ、クルキの旦那は今何しているんだ?」


 メンバーから質問が来た。

 オルキの父親で、コウの町ではトップクラスの冒険者と言われていた、現在は引退しているが、遺跡探索では臨時で復帰している。


「親父は、遺跡入口側の警戒と他の冒険者の取りまとめをギルドの方と一緒にやってる。

 親父は顔が広いからな、ギルドから頼られているんだよ」


「そか、じゃなくて、引退して今何を正職としているか何だが」


「ああ、そっちか。

 何の事はない、ギルドで闘い方とか教えている」


 魔物の氾濫で戦闘の経験が少ない冒険者の死傷者が大量に発生した。

 少なくても身を守る技術を教える必要性から、ギルドより依頼があった。


「ああ、ギルトが主催しての冒険者講習か。

 獣と人とは闘い方が違うとか、護衛で必要な技術とか、タダで教えてくれるという」


「タダじゃないぞ、技術が身に付いた奴に、強制で幾つかの依頼を行って貰っている。

 卒業試験代わりだな、人気の無い依頼の処理も兼ねているらしい」


「うへぇ、ギルドも考えているなぁ」


「まあな、技術を身に付けても、依頼を受けれないと意味ないからな、地元での実績と顔つなぎを兼ねている。

 それと、他の町へ行かれないようにという意味もあるらしい」


「へー」


 後継者の育成、特に冒険者も正職として認められてからは、副業としての何でも屋からの脱却を目指している。

 成果は出ている、マイトのように魔物の氾濫から生き残った冒険者たちから有望なチームの輩出に成功している、ただ経験不足だコウシャン領は比較的 治安が良い、戦闘が起きることは希だ。

 魔物の発生も多くなく、被害の拡大を懸念してベテランが対応してしまうので、なかなか機会が設けられない。

 今回も、だ。

 そこにミサがやって来た。


「興味深いこと、コウの町じゃやっているんだな」


「あ、お疲れ様です、こちらは何時でも行けますよ」


「……良いんだね?

 この先は、あんたらに気を使って居られない。

 間違いなく死地だ」


「判っていますよ。

 でも1人では無い、仲間が居ます、生きて帰りますよ」


 オルキの言葉に違和感を感じる。


「誰か亡くなったのかい?」


「英雄マイを知っているでしょう。

 俺、何度も助けられました、そして頼りすぎて彼女1人を犠牲にしてしまった。

 そんなのはもう無くしたいんですよ、俺たちは」


 そのオルキの目は力強くそして真っ直ぐだ、ミサは思わずドキッとしてしまった。


「そうか、全員で戻るぞ」


「はい」


 オルキ達とミサの力強い声が広場に響いた。



■■■■


 オーガとその上位種は、遺跡の最深部の広場、その奥にある扉を攻撃していた。


 ミサは、崩れた通路を進んでいった先の光景をじっくりと観察する。

 探索者の残した地図を考慮すると、あと数枚の扉があるかもしれない。

 希望的な予想は止めよう、ミサは扉の破壊に夢中になっているオーガ達を後ろから強襲する事を決める。

 上位種アー・オーガが1、中位種のオーガが3、下位種のゴブリンは見当たらない。

 大分数が減っては居るが、油断できる状況に無い。

 各個撃破ならギリギリ、集団として対応するのなら力不足だが、やるしかない。

 と、オルキが腕を突いてきた。


「ミサさん、魔物が増殖している黒い雫が見当たりません。

 嫌な予感がします」


「ああ判っているが、今対処しないといけない。

 何が起きるか判らないが、魔物をこの先に行かせてはならない」


「了解です、俺たちの役割は?」


「アオとシオを護ってくれ。

 戦闘はあたいらで受け持つ」


「俺たちは闘う方が向いているんだがなぁ。

 シーブル、魔法で護ってやってくれ、俺たちも出る」


「大丈夫かい?」


「オーガなら数十体倒している、2体までなら俺とグルブ、バリスで力押しで倒せる」


 それは単純に確認だ、ここまで連れてきたのは十分過ぎる能力があると判断されたからだ。

 オルキたち冒険者チームは、前任のクルキのチームと同じく戦闘を行う前衛を中心に組んでいる。

 シーブルという魔法使いも攻撃に使える魔法を得意としている。

 残り、グルブはオルキと同じ剣士、バリスは盾とバトルアックスを使う攻撃重視の防御だ。


 そして、コウの町の森に逃げたオーガを何体も狩ってきた。

 オーガを見かけたと言う情報を聞くと真っ先に向かって行った。

 ただ、ギム達の視察団チームも同じくオーガを狩っていたので、単純に倒した数なら負けているが。


「さて、やるかね」


「ええ、確実に」


 ミサとオルキが頷くと、音を立てずに突進した。



 グギャ?


 1体のオーガが振り向く。

 ミサとオルキの剣が首と胴を平行に切り裂く、十分に速度と体重が乗った剣は、あっさりとオーガを切り捨てた。


 直ぐに残りのオーガが闘おうとするが、視察団チームと冒険者チームがそれぞれ攻撃を行い足止めをされる。

 視察団チームのヨーチ、魔法剣士が魔法と剣術を組み合わせた技で的確に急所を切り裂く。

 冒険者チームのバリスが攻撃をいなして、膝をバトルアックスで砕く。


 アッと言う間にオーガを全滅させ、アー・オーガに向かう。


 グオォォ


 意味は判らないが、不愉快らしいのは伝わってくる。

 話し合いをしにきたのでは無い、最初の一撃と同じ攻撃を繰り出す、ミサとオルキの同時攻撃だ。

 決まった、そう思ったが、肌に傷を付けることも出来ず簡単に弾き返されてしまった。

 ヨーチとシーブルが攻撃魔法を行使するが、それも軽く振り払われてしまう。


「強いよ、今までのアー・オーガと同じじゃ無い」


「ええ、だけど魔法は振り払いました、剣は無視していたのに」


「魔法は効果が有るんだね」


「の、ようだな」


「ヨーチ、アオ、魔法攻撃だ、あたいらを盾にして前に出るな」


「シーブル、魔法攻撃、俺たちが注意を引く、確実に当てろ」


「「はい」」


「おう」


 1体多の、一方的な乱戦が始まった。



■■■■



 ギム達は体力の消耗を押さえつつ可能な限り早く移動していた。

 シーテの魔術を使えば最速だが上位種の魔物相手ならばシーテの攻撃魔術が必要だ、温存しておく必要が有る。

 そして、魔物に特効を持つ聖属性の魔術を使うハリス、強力な斬撃の時空断を使うマイが欠けている、戦力が大幅に下がったことは否めない。

 無言で進む、進路は簡易的に聞いていたし、移動した形跡が残っている、ジョムに掛かれば獣道よりも判り易い。


 遺跡の最深部の広場に近づく、シーテが探索魔術を行使して入口から見えない範囲まで確認する、動く物は無い。

 全員で突き進む、広場は風のうなり声だろうか、低い音が耳鳴りのように響く。

 全員の緊張が高まっていく、まるで元の冒険者に戻ったように。


「ギム、あちらの方から戦闘らしい音がします」


 ブラウンが腰から剣を抜き獰猛な視線を周囲に張り巡らせる。

 その横のジョムは、盾を背負い、バトルアックスを両手で構えている、攻撃重視の体制だ。


 広い空間の中、遠くに見える壁の方から音がする。

 よく見ると、壁があってその向こう側に大きな扉があるようだ。

 入ってきた入り口にも壁があったと思われる瓦礫が残っていた。

 戦闘の後だろうか、地面には血の後があったが、死体は無い。

 僅かに、探索者が持っていたと思われる装備が転がっている。


 奥に進んでいく、壁が近くなって戦闘音が大きくなってた。

 慎重に大きな通路を確認する。

 扉が破壊されている。


 ジョムの合図で素早く進む、戦闘中ならば、この先で魔物と視察団・冒険者が戦っているはずだ。

 急ぐ必要はあるが、稚拙に突入する愚を犯すわけには行かない。

 シーテが探索魔術を行使した後、全員に状況をしらせる。



 瓦礫の影からオーガが飛び出てきた、不意を突いたつもりなんだろうか?

 瓦礫の影から飛び上がるように躍り出たオーガは直ぐに驚愕?する。

 落下する場所に何も居ない。

 そして顔に向かって風属性の攻撃魔術が音も無く襲い掛かり、喉笛を掻き切る。

 体勢を崩しながら着地しようとした瞬間、片足をバトルアックスで切り落とされる。

 踏ん張れず、背中から地面にたたきつけられた。

 起き上がろうとして踏ん張った両腕が強力な剣で深手を負う、片方は切り落とされるほどだ。

 声を発する事も出来ず、周囲を見たとき、ようやく自分が襲おうとした相手を確認した。

 喉へ吸い込むように下ろされるバトルアックス。

 胸に向かって突き立てられる大剣。

 他はこちらを見ようともしていない、周囲をキョロキョロしているだけだ。

 オーガは自分に何が起きたのか理解する前に、その動きを止めた。



「活動停止を確認」


「うむ。

 胸の魔石を破壊しておけ」


「周囲に他の魔物の反応無し」


「罠は無いようじゃな」


「戦闘音、依然継続中ですが、音のリズムが狂い始めています」


「よし。

 突入して戦闘に介入する。

 おそらく上位種のアー・オーガだろう、やる事は判っているな」


「「「はい」」」






 上位種を含む魔物を狩ってきた集団が奥に進む。

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