第25章 遺構
第356話 遺構「魔物狩り」
0356_25-01_遺構「魔物狩り」
魔物の氾濫。
7年前に発生したそれは、公には魔物の活動が活発になって起きた事になっている。
それを信じるのは、情報を持っていない庶民だけだ。
王都に運び込まれた、改良されたダンジョンコア、これが原因ではないかと思われている。
ただ、王国として認めていないので、それを口にすることは出来ない。
魔物の氾濫は収束した。
多大な犠牲を払って。
その後も魔物の発生は止まらなかった。
小規模ではあるが、魔物の氾濫の時に発生した黒い雫、そしてそれが地面に落ちて広がる黒い大地。
その中から魔物が出てくる、どういう理屈なのかは全て推測の域だ。
ある森の中。
魔物との戦いが行われていた。
闘っているのは、冒険者チームだろうか、危なげなく魔物を屠っていく。
「おい、黒い大地の破壊は未だか?」
「魔法使いが居ないんだ、もう少し待ってくれ!」
「リザードが出て来たぞ、気を付けろ!
黒い大地の中に居る間は、まともに相手をするな」
「コボルドを見えている限り全部倒した、だが、急がないと出てくるぞ」
ドン!
戦闘用に加工された金槌が黒い大地に突き刺さる、更にもう1撃、一体何度目だろうか?
全身から汗を飛び散らせながら、一心に金槌を振り下ろす。
パリン
黒い大地が割れた。
へたり込む。
「よし、休んでいてくれ、俺たちで残りを処理する」
「ああ、任せた」
その先にはリザードが大きな口を開き食い付こうとする所にロープをかけていく。
リザードは噛む力と尾っぽの振り回す攻撃が危ないが、移動速度は遅い。
危なげなく拘束する。
が、彼らの剣ではリザードの堅い皮を貫くことが出来ない。
「はぁ、はぁ、もう一働き頼む」
「ああ、判ったよ」
金槌を担いで、ユックリとリザードの所に行く。
到着する頃には、暴れるリザードをひっくり返して、比較的柔らかい腹部を晒していた。
「よっこいせ、っと」
ドン!
お腹に金槌の跡がクッキリと刻まれる。
だが、まだ身悶えるように暴れるリザード、その耐久力にウンザリしながら、金槌を大きく振り上げた。
森の中に、金槌を打ち付ける音が響いた。
■■■■
私、マイは今年で10歳ということに成っている。
コウの町の東側にあった村の、唯一の生き残り、そしてギムさん達 当時の視察団チームに救助された。
でもそれは捏造された記録だ。
本当は、元 北方辺境師団の輜重部隊、まぁ、軍隊の中で必要な物を何でも輸送する部隊だ。
その中で時空魔術師として活動していた。
軍隊で、時空魔術師は歩く倉庫として使われている、個人差はあるが倉庫単位での輸送を可能とする時空魔術は輸送部隊の中核として重用されていた。
理由は判らないが、魔法学校に在籍していた当時の私は、収納容量が少ないのにも関わらず、徴用された。
そして、5年もの間、未成年なので非正規兵として活動して、退役した。
思い出したくない事件が起きていて故郷を失った、そしてコウの町へ流れ着いた。
コウの町の生活は楽しくて、冒険者としての新しい人生として過ごしていた。
魔物が発生した。
魔物はダンジョンと呼ばれる自然現象?によって生まれる洞窟から出てくる。
この頃から、魔物の発生が頻発するようになった。
原因は、コウの町の北にある村の貯水池の拡張区画から発掘された、改良されたダンジョンコアという塊らしい。
この塊は、どういう経緯かは判らないけど王都に運ばれた。
そして、何かが起きた、魔物の氾濫の始まりだった。
この戦いの中、コウの町は2つの巨大な黒い雫、大黒球と呼ばれたそれが発生し、そして2つの特種とよばれるドラゴンとジャイアント、それに従う大量の魔物達。
この戦いで、私は死んだはずだった。
何故か生き返った、それも2年以上の年月を過ぎてから、幼い5歳程度の体になって。
理由は全く判らない。
ギムさん達は、私を別人に仕立てる事を実行した。
そう、コウの町の東側にあった壊滅した村の唯一の生き残り、マイとして。
そして、私は再び魔法学校へ入学した。
2度目の魔法学校は順調で魔術師に再び成れると思われていた。
先王ディアス様と元筆頭魔導師オーエングラム様との出会いと魔物との戦いで、私は魔導師に推挙された。
異例ずくめの推挙だった。
魔導師は、1代限りで色々制限があるが、上位貴族と同格の格を持っている。
領内で同格は領主だけだ。
私は、時空魔導師に成ってしまった。
異例ずくめの時空魔導師の誕生は、色々な問題がある。
なので、私はコウの町に近い場所、私が救出されたことになっている村の跡地に時空魔術研究所を作り所長として就任した。
事実上の軟禁状態だ。
トサホウ王国の東部で襲撃事件が多発した。
理由は不明、帝国とか商工業国家が動いていると言われているが、明確には成っていない。
私も襲われた、避難した廃棄都市の中でだ。
襲撃者の目的も判らず、そして見たことの無い装備、体内に黒い雫を宿している。
シーテさんが殺された。
私の判断ミスだ、それが切っ掛けで、襲撃者を倒した。
私はギリギリまで追い詰められないと何も出来ないのかな。
そして、シーテさんが生き返った。
正確じゃ無いな、シーテさんを収納した空間の時間を巻き戻したらしい。
らしい、というのは、私が覚えていないのと再現することが全く出来ないからだ。
シーテさんを失わずに済んだのだけは、本当に安心した。
兎も角、この後、驚くほど襲撃事件については収束してしまった、原因も目的も知らされていない。
そして今、コウの町の北側にある山の採掘場跡地に遺跡が見つかった。
コウの町の北側、偶然で片付けるには無視できない。
北の村の貯水池から、改良されたダンジョンコアが見つかった。
意図的に人の手で埋められていた。
遺跡が無関係と断定することは出来ない。
万全かは判らないけど、コウの町も領都も力を入れて調査を行っていった。
魔物の巣がある所に繋がっていたり、探索者と呼ばれる見つけた遺物を非合法に売り払う一団か抜け駆けしたり。
魔物の巣に居たオーガが地下に落ちて、遺跡の最深部に行ってしまった。
最深部に改良されたダンジョンコアに関連する物が有るとしたら?
魔物とその関連する物が出会ってしまったら?
どんなことが起きるのか判らない。
だからこそ、私はかなり無茶を言って、再結成したギムさん達 元視察団のチームに同行した。
んだけど、探索者の生き残りを救助することになってしまった。
ハリスさんと私は、コウの町にある境界の高度治療施設に戻ることになった。
今、ハリスさんは命の火が消えかけている探索者を救う為に病院の人達と全力で闘っている。
ギムさん達は、先行している視察団チームの人達と、魔物を討伐する為に遺跡の最深部のその先にある何かに向かって行っている。
私は、町長の館の客室で何も出来ずに、ただ遠くに見える北の山を見つめることしか出来ない。
死にかけた探索者をハリスさんが治療しながら安定して運ぶには、2人を収納空間内に入れて運ぶのが最善だったはずだ。
その為に私はこの館から出られなくなってしまった。
魔導師を領内で領主と同格の重要人物を、これ以上 危険な場所に行かせるわけには行かないのだろうね。
判ってはいるけど、納得は出来ない。
町長のコウさんに、後衛として再度 遺跡に入ることを提案したが、土下座されて断られてしまった。
命令しても、命がけで止められてしまいそうだ、比喩では無く命を持って上申をするというやつだ。
いくら支配階級であっても、無理矢理や立場を利用した命令とかは出来ない、それは支配階級の貴族格を持つに相応しくない行動と判断されるからだ。
部屋には役場から来た女性職員が付き添っている、私の行動監視なんだろう。
その日の夕食は、私は疲れたと言って部屋で食べた。
食事中も、部屋の外には人の気配がある、はぁ。
■■■■
コウの町のギルド、その1室で執務に追われている。
ジェシカだ。
彼女は副ギルドマスターとして働いている。
数日の間、遺跡で冒険者達の指揮を取っていた為、書類が貯まっている。
女性で管理職になるのは珍しい。
これは単純に国の施策の都合だ。
トサホウ王国は人口が少ない、その為に人口増加を最優先にしている。
だからこそ、庶民の生活は比較的豊かだし、子育ての環境は優遇されている。
そして文化として初等教育の頃から子供同士の相性や家庭の事情を考慮して、仲の良い組み合わせになるようにしている。
その為、10歳を過ぎる頃には親しい異性の相手が居るのは普通だし、15歳の成人で結婚するのも多い。
そして、子供を授かるのも早く、地区の大人が協力し合って子育てをする。
結果として、女性が職務で上に立つだけの時間が取れないだけだ。
例外はある。
能力がある女性は結婚よりも仕事を優先される場合がある、また、後継者に女性しか居ない場合もそうだ。
なので、珍しくはあるが特例でも無いし、禁忌と感じられることも無い。
次代のギルドマスターはアンという女性に内定されている、今の所は問題は出ていない。
将来、その補佐として十分な経験と実力のある女性が望ましい。
そういう経緯からジェシカは副ギルドマスターに任命されている。
「良かったのかな?」
ポツリと言葉が漏れた。
後悔、いや何だろうか。
魔導師様とハリスさんを遺跡に入れないように止めた、これ自体は町長とギルドマスターから強く申し渡されていた。
責任も彼らが取ると約束してくれた、だから職員と一緒に立ち塞がる事が出来た。
後衛として安全な場所に居てくれる、と言ってくれたので了承したが、それは言い訳だった。
前衛の直衛として一緒に遺跡に入る、失敗したと思った。
それから間もなく、何らかの理由で町の高度治療施設へ行く為に戻ってきた。
理由は判らない、が、これを断る訳にはいかない、直ぐに馬車を用意して出発して貰った。
その、魔導師様の顔が憔悴しているのが、脳裏に焼き付いて離れない。
今、町長の館の客室に留まって貰っている、それが本当に良かったのか、その思いが口から漏れた。
書類の確認の手を止めて、ふと何も無い前を見る、幻視した。
ギルドの受付の机、そしてその前に居る、どこか寂しげに笑う一人の少女。
「彼女ならどうしていたんでしょうか?」
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