第352話 遺跡「迷い」
0352_24-09_遺跡「迷い」
ギムが報告に来た守衛に楽にするように指示してから報告を促す。
遺跡の深部に魔物が居たのだ、詳細を早く知りたい。
守衛は緊張しているけど、話し出さない。
「あの、遺跡から戻ってきた冒険者に直接聞くというのはいけませんか?」
ああ、一報を入れるのを重視して詳細を聞いていないのか。
ギムさんが目線で私達に確認を取る。
「よし。
その冒険者を連れてこい」
「はっ、入口に控えさせています。
入るように。
ギム隊長に事の次第を話して」
守衛が指揮所の入口の布をめくって入るように促す。
優しく接しているのは、入ってきたのが女性だからだろうか1
その女性、ハルが一人で入ってきた、どういう事だろう?
ハルは魔法使いだ、戦闘力もそう高くないはず。
入ってきたハルはジッと見つめる私達に少し緊張して、そして私を見てギョッとしている。
うーん? 以前の私とは数度しか会っていない、そして今の私の印象は大きく変わっているはずだ、何だろう?
ウォホン
ジョムさんがワザとらしい咳をする。
ビクンとなったハルが佇まいを正して、報告を始めた。
「緊急事態が発生しました。
その為、報告を優先して風属性の魔法が使える私が単独で報告するように指示を受けてきました」
近接戦闘が不得意な魔法使いを単独で移動させるというのは、斥候や監視のように別の見つからないように移動できる能力が無い限り行われない。
それだけの緊急事態だろう、と、その想像は当たってしまった。
「遺跡の深部に広場が有り、そこにオーガ種がいました。
視察団チームが確認した限り上位種が1匹、通常種が10以上……。
視察団チームは探索者を追跡して、広場で追いつきましたが、オーガによって探索者は全滅していたとのことです。
戦闘は危険との判断で、後退。
その際に、黒い雫の様な物から魔物が生み出されているのを確認したとのことです」
ビリッ!
指揮所の中の空気が一気に張り詰める。
私の中も兵士としての意識へ一気に切り替わる。
守衛とハルが尻込みしているのだけど、そんな事は気にしていられない。
「時間との勝負です、直ぐに動かないと」
「うむ。
我々で遺跡に入る、おい、副隊長を呼べここの指揮を任せる」
私の言葉に、直ぐにギムさんが反応する。
恐らく、此処の居る6人が魔物に対応するには一番適している。
他の皆も装備を身に付け始めている。
それを、怖ず怖ずと守衛が止めに入る。
「いえ、しかし隊長、魔導師様と隊長達は遺跡へ入ることは無いと聞いていますが」
守衛の主張は正しい。
本来であればコウの町の最大戦力であるギムさん達、それに司祭長に魔導師。
重要人物を最も危険な場所に投入するには、損害が発生した時の影響が大きすぎる。
「黒い雫、状況から見て中位種以上が発生している可能性が高い。
このまま放って置けば、遺跡の中は魔物の巣になる。
上位種が発生するように成れば被害がどれだけ出るのか判らん。
直ぐに対処する必要が有る」
「それはそうなんですが。
判りました、副隊長を呼びます」
守衛が礼をして退室する、そしてハルが取り残されてどうすれば良いのか、戸惑っている。
「ハルさんでしたね、報告ありがとうございます。
ユックリ休んで下さい。
我々と、守衛と交代の冒険者チームが入ったら君の仲間も交代で戻ってくるようにするよ」
「あ、はい、ありがとうございます、ブラウン副隊長。
わ、私達は、戦闘を行っていないので継続して参加できます。
ですので私も一緒に入らせて下さい」
ハルの目は真剣だ。
そして、今、遺跡に居る冒険者チームで紅牙は、オルキさんのチームに並んで実力のあるチームと言われている。
ハルがジッとギムさんを見て、すっ、と私を見る、何か辛そうな悲しい目をしている、なに?
「ふむ。
それは助かるが、君たちは戦闘特化ではない、後衛に当たるのなら許可しよう」
「はい、判りました」
ハルのその佇まいは、既に実力のある冒険者のそれだった。
■■■■
「戻ったぞ」
遺跡の深部の広場を調べに行った冒険者チームが帰ってきた。
オルキの声は固い。
様子がおかしい。
マントに包まれた何かの塊を槍と剣を支えにして運んできている。
そのマントからは血がしたたり落ちている。
その塊を部屋の床に置く。
「怪我人がいるんですか?」
マイトが聞く。
しかし、今、目の前にはオルキの冒険者チームが全員揃っている。
カイが地下へ続く通路の確認に走る、追撃が有るかもしれない。
「まさか、探索者に生き残りがいたのか?
シオ、来てくれ」
ミサが様子を見に来た、状況から判断したのだろう。
直ぐに薬師のシオを呼ぶ。
「はいはい、って酷い」
マントを広げると、辛うじて人だと判る状態だ。
両足は千切れた様に無く、片腕も折られて酷い状態だったのだろう切断している、皮膚もあちこち剥がれ、無残な状態だ。
止血のために傷口を紐で結んでいるのも痛々しい。
生きているのが不思議なほどだ。
シオが時空魔法使いのアオを呼んで収納から幾つかの医療用具を取り出して貰い手当を始める。
「よく生き残りを見つけたね」
「ああ、岩の陰に転がっていたのを運良くね。
悪い情報だ、広場にオーガの姿が見えない、何処かに移動している」
オルキがミサに言うと、ミサの眉間の皺がより深くなる。
「あたし達じゃ対応できる範囲を越えちまってるねぇ」
視察団チームも憔悴していた所から持ち直したのだろう。
目に力が戻り、全員が装備の確認を行っている。
魔物が増えている、この情報は視察団チームで共有されている、そしてその危険度も。
だからこそ、自分達では対応しきれないことを理解している。
自分達の未熟さに歯痒い思いをしたが、何もしないという判断は出来ない。
「ミサさん、彼らの荷物を確認して下さい。
俺たちでは判らないので」
ボロボロの荷物だった物が置かれる、それを手早く広げて確認するが、使い物に成りそうな物は少ない。
「これは地図でしょうか?」
「その断片だな、だがこの遺跡では無い。
恐らくだが、連中は似た遺跡を幾つも攻略していたのかもしれない。
だからこそ、ほとんど迷わず移動できたんだろう」
「もしくは、依頼主から提供されたかかな?
背後を洗って貰わないと」
辛うじて断片を残している地図を幾つか並べて見る。
バラバラになっていて、どの階層のを示すのかハッキリしない。
コトが盾を床に置きながらじっくり見る。
「うむ、恐らくだが、この1枚が一番深層の地図になりそうだ。
広場の奥に重要な施設があって、何か保管されているようだ。
なにかは書かれていないな。
この地図が正しければ、広場から施設までの間に扉か?が幾つかある。
それだけ重要なのだろう」
「まさかと思うが、魔物はその施設へ行こうとしていないよな?
どこから入ったか判らないが、そこへ戻っていった可能性は?」
コトの言葉に、オルキが口を挟むが無視された。
オルキが覗き込むが、視察団チームは幾つもの可能性と対応策を早口で話し合っていて、それどころでは無いという雰囲気が伝わってくる。
立ち上がり、振り返ると冒険者チームが休んでいる所に戻る。
マイトがオルキに肩をすくめて、周囲の見張りの順番について話し始めた。
■■■■
「許可できません!」
遺跡の入口。
完全武装した私とギムさん達、そして後衛についた守衛と冒険者チーム。
それを体を張って止めるギルドの、ジェシカさんだ。
両腕を広げて、涙目になって止めている、あ、足も震えてるよ。
他のギルド職員も震えながらも入口を塞いでいる。
ジェシカさんは、冒険者ギルドの副ギルドマスターになっていて、いま遺跡に来ている冒険者と役場の責任者にもなっている。
遺跡探索の最高責任者は、ブラウンさんに任命されている。
ジェシカさんは、事務方の責任者として、冒険者の衣食住の確保や守衛との調整を行っているんだ。
町長の名代として、ある程度の権限も有り、遺跡探索 以外ではブラウンさんよりも優先される権限があると言っても良い。
けど、あくまでも総責任者はブラウンさんなので、これは反対意見を真っ正面から伝えていることになる。
「ま、魔導師様をこれ以上 遺跡に入られることは町として容認できません。
ましてや、戦闘を前提としているのなら尚更です!
体制を整えるために町に増員を要請しています、物量で押し切りましょう!」
「うむ。
だが知っているだろう、黒い雫は時間が経てば対処が困難になる。
もしも、中から超上位種が現れたら、被害の想定が出来なくなる」
「そ、それでもです。
魔導師様やハリス様を失うわけにはいきません」
涙目になっているけど、その場を動かない意思は強い。
「では。
ハリスと魔導師マイ様は此処で待機、ならば良いか?」
ギムさんがとんでもないことを言い出した。
私とハリスさんがギョッとしてギムさんを見る、いや私とハリスさん以外の皆はそのつもりだったのかもしれない。
全く動じていない、シーテさんもだ。
「それでしたら、許可できない理由が無くなるのですが」
ジェシカさんが少し躊躇っている。
時空魔導師と聖属性の魔術師この2人が居るだけで、どれだけ生存確率が上がるのか、その程度の知識はジェシカさんが知らないはずが無い。
私とハリスさんが抜ける事で危険度が跳ね上がるんだよね。
私の戦力は兎も角、潤沢な物資が収納されている。
それに、私には人を収納するという強力な避難する手段がある、私が行かないという手は取りたくない。
しかし、納得させて私が行く方法が思いつかない。
どうしたら良いんだろう?
「ギム、私だけでも駄目でしょうか?」
「ハリス、教会の司祭長が現場に出てはいけないわよ」
シーテさんが釘を刺す。
当たり前過ぎる理由なので、何とも言えない。
私がシーテさんを見る、連れて行って欲しい。
ニコリと笑いながら、軽く首を振る。
あ、泣きそうになってきてしまった。
理由は判る。
表向きは国の重要人物になってしまった魔導師と、領の重要人物である聖属性の魔術師の安全を確保する。
でも、本当には私と結婚したばかりのハリスさんを危険から遠ざけたいんだ。
いやだ。
「ジェシカ、でしたね。
私が戦闘に参加しない、のであれば問題無いのですか?」
私はジェシカさんを見つめる。
その目は、私の事を心配してくれている事が判るだけに嬉しい。
ジェシカさんが、その私をビックリするような顔をして、おずおずと頷く。
「はい、魔導師様の安全が最優先ですので」
ハリスさんが私の意図に気が付いたのだろう。
「私も同様で良いですね」
「え、ええ」
ニッコリと笑って、宣言する。
「でしたら、私とハリスは先行部隊の後衛として安全な場所から援護します。
それならば、遺跡に入っても問題無いでしょう。
コウの町の守衛と冒険者達なら、私を確実に警護してくれると確信しています」
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