第351話 遺跡「蹂躙」
0351_24-08_遺跡「蹂躙」
遺跡の深層、ようやく探索者達を発見した、遠くで存在だけだが。
そして探索者の目的地も近い、猶予はほぼ無い。
突貫を決意した時、事態が変化した。
探索者達の悲鳴が響く。
そして、肉が骨がひしゃげて砕ける音が響く。
笑うような雄叫びは魔物、オーガか?
視察団チームは突貫を中止した。
何かが起きている、そしてそれは探索者達に取っても予想外の出来事だ。
好機とみて良いのか? 危険は無いのか?
リーダーのミサは瞬間逡巡する。
「入口まで行く!
魔物の排除、ここを魔物の巣にするわけにはいかない」
「探索者は?」
「戦力として利用させて貰う、連中に闘わせて我々は仕留めていく」
「了解」
通路に落ちている岩を利用して進む。
視察団チームは魔物に気が付かれないように、慎重に。
だが、それでは遅すぎた、失敗だった。
広場の中で生きていると思われる探索者は1人のみ。
それが生きたまま食われている所だ。
「やめろぉぉぉ、ぐぁ……」
蹂躙された探索者達の、それが最後の言葉だった。
地面には人だったと思われる物が幾つか転がっているだけだ。
何が有ったのかは見れば判る。
上位種のオーガ1匹と通常のオーガが5匹、首をはねられ導体に穴が開き地面に転がっている、闘って敗れたのだ。
多数のオーガに囲まれて、それで6匹を倒したのだから、その戦闘力は並外れていた。
だが運が悪かった、彼らの力では数の暴力には勝てなかった。
広場にはまだ、上位種1匹と30匹近いオーガが居る。
駄目だ、このチームは魔物との戦いはそれほど得意では無い。
通常のオーガでも1匹ずつ対処するので精一杯だろう。
撤退を決意する。
合図をしようと、展開している仲間を見る。
一番前に居る斥候を担うリンタが真っ青な顔をしているのが見える。
感情を表に出さない彼が脅えるというのは何か?
手で合図をして理由を聞く。
リンタは口元に指を当て静かにするように言うと、広場の奥の1カ所を指さした。
ちょうどミサの位置からは少し見難い、慎重に移動して確認する。
黒い雫があった、いや、似ているが違和感がある。
そこから魔物が出てきている、ゴブリンに混じってオーガまでが。
見て判る、出て来たばかりのゴブリンやオーガは生まれたての様に動きが鈍い。
増殖しているのか?
ミサは全身の冷や汗を止められなかった。
が、意思の力で押さえ込んで、撤退の指示を出した。
全員が、いつも以上に慎重に、それでいて
やばい事になってきた。
ただ、それしか考えられなかった。
背後から、魔物達の唸り声が不気味に響く。
■■■■
遺跡の入口付近に作られた拠点。
そこに2人の人物が応援に駆けつけてきた。
ジョムさんとハリスさんだ。
今、司令室として使われているテントの中には元視察団チームが再集結している。
全員が完全武装の様子は私の中に震える物が有る。
「ハリスさん、よく来れましたね」
「探索者が遺跡の深部に侵入したとの報告が来ましたからね。
私の聖属性の魔術で対処できる可能性があるとの話は町長と調整済みです。
治療していた患者も引き継げましたので、来たと言うことです。
ジョムに護衛を頼んでね」
ハリスさんはコウの町の教会の司祭長という要人だ、本来なら守衛が護衛に付かないといけないが、今は人手が足りない。
町長はもう町に戻っているけど、情報共有はしている。
それでハリスさんに許可が出て、ジョムさんに声が掛かったのだろう。
「嫁にケツを叩かれてな、ま、何とかなるだろう」
ハッハッハッ、と豪快に笑うジョムさんは変わりない。
ジョムさんの奥さんとは、一度挨拶しただけだけど、兄弟と言われても不思議じゃ無いほどそっくりな夫婦だ。
あ、血のつながりは、凄く遠くだけど有るみたい。
同じ村の中なので、何らかの血のつながりは有るらしい、田舎あるあるだね。
「マイさん、所で探索者の時空魔法使いへの対処ですが、対象の使い手を限定しないと難しいです。
何度か練習をしていますが、抵抗されることを考慮すると、何人にも行使するのは難しいでしょう」
これは解決できていない問題だ。
鑑定の例外属性を持つ魔術師が居れば、使い手の使いこなせる属性を看破することも出来る、が、そんな使い手は領都とか都市にしか居ない。
私だと、魔法を使えるかどうかが何となく雰囲気で判る程度だ。
シーテさんも、私よりも精度が高いとは言え属性までは判別は難しい。
「ハリスさん、私とシーテさんで魔法使いを判別します、魔法が使えるかどうかは判るので。
あとは総当たりになってしまいますか」
「まぁ、多くても3人位よ、頑張ってハリス」
シーテさんがハリスさんの肩をポンポンと叩く。
がっくりと肩を落とすハリスさん、昔と変わらない。
「うむ。
今は待機だ、我々は遺跡には入らない。
探索者が脱出してきた所で対処する」
「地下2階に出来た通路はどうするのですか?」
「守衛に守りを固めさせた、それと通路に障害物を配置して、簡単には入れなくしている」
「その奥の広場に出来た穴から出て来たらどうしようも無いじゃろ」
「ジョム、見た限り簡単には登ってこれるような状態では無いです。
落ちていったオーガと会敵する事にもなるので、可能性は低いでしょう。
それに、出た先は森で人の気配はありませんでした」
「ブラウン、上から見ただけでは判らんぞ。
念のため対応を考えておく必要が有る」
「うむ。
近くにマイの直衛に来ている視察団チームに応援を頼むか」
「彼らが承知するでしょうか?」
「浅はかじゃな、ブラウン。
護衛に来ているのなら、諜報部隊を控えさせているはずだぞ」
「あ、それもそうですね」
何度も観た、穏やかな雰囲気の中、油断の無い真剣さがある。
力を抜いているけど、直ぐに全力で行動できる、そんな気配が漂っている。
改めて凄いと思う。
ジョムさんが、スッと姿勢を正す。
直ぐに全員が緊張状態になる、私もその様子を見て外の様子がおかしいことに気が付いた。
「隊長!大変です」
「うむ!
入室を許可する報告だ」
指揮所の外から守衛が慌てた声で緊急事態を告げる。
部屋に飛び込んでこないのは、訓練が出来ている証拠だよね?
それより何が起きたんだろうか。
魔物が穴から這い出てきた?
それとも外から戻ってきた魔物が多い?
いや、両方とも対処方法は決めてあると聞いている。
そうなると。
入ってきた守衛が、中に居る私達に少し怯んで、慌ててギム隊長に膝を付く。
「遺跡の深部に向かった冒険者から魔物発見の知らせです」
あ、穴に落ちた魔物が遺跡の深部に行っちゃったんだ。
私は腑に落ちたような感じで、重要度を理解できないで居た。
■■■■
遺跡の深部、地下8階。
そこの小さい小部屋で休憩を取る視察団チームと冒険者チーム。
視察団チームの憔悴している様子に冒険者チームは狼狽えているが、役割を果たしている。
地下9階へ向かう階段がある通路に罠を張り、そして監視。
視察団チームへ、食料と休む場所の提供。
そして、風属性の魔法が使える魔法使いが移動速度重視で報告に戻る。
一通りの対応を済ませて、冒険者チームも交代しながら休息を取っている。
冒険者チームも、魔法を使えるメンバーを連絡のために送り出したため、魔法での対応が難しく、動くに動けない。
探索も攻撃も魔法が有るか無いかは大きい
いや、それよりも憔悴しきっている視察団チームから次の指示が出てこない。
「あの、我々は次に何をすれば良いんですか?」
オルキがリーダーのミサに質問する。
そのミサは考え込んだまま口を開かない。
オルキの隣に居るマイトが肩をすくめる。
「マイト君、君たちでここを守ってくれないか?
我々は、先の様子を確認してくる。
むろん、戦闘はしない」
「え、はい。でも大丈夫なんですか? オルキさん。
そちらも魔法使いさんが居ないんですね、こちらも居ませんが」
「それは大丈夫、遺跡の探索は兎も角、僕たちは森での探索には自信があるんだ。
それに魔物との戦いの経験も多い。
対応は十分に出来るよ」
「判りました、カイ、索敵を任せるよ」
「了解、リーダー。
オルキさん達、早めに帰ってきてくれよ、俺たちは今2人しか居ないんだからね」
「判っているよ。
皆、疲れは取れたな、様子を確認する為に降りるぞ。
魔物が1匹でも発見したら、気が付かれる前に直ぐに戻る。
狭い場所が幾つかあるから、オーガが入ってきている可能性は低い。
ゴブリンでも倒すことでオーガに気が付かれる危険がある。
それに未知の種類の魔物が居る危険も考慮する。
異常事態だ、慎重に慎重を重ねよう」
「「はい」」
マイトは、先の魔物の氾濫の際に最もコウの町に貢献した冒険者チームの1つクルキのチームを引き継いでいるオルキのチームを見て、流石だと感心する。
自分達も成長している実感があるが、まだまだだと実感する。
そのマイト達を見るオルキも、感心していた。
3人というチームとしては最小単位での活動をしている、コウの町の冒険者としての評価は高い。
マイトの戦闘力もそうだが、カイの索敵能力と弓を交えた支援能力、そして頭脳としての魔法使いハルは、魔法の威力こそ見劣りするが使い方が上手く全体の能力を底上げしている。
それでいて、奢った対応を取ることが無く、依頼者の印象も良い。
今では、旅商人や役場が指名依頼をしてくる程だ。
オルキ達が出発し、また部屋に沈黙が訪れる。
マイトは、沈黙を続けるミサを不安げに見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます