第350話 遺跡「深部探索」

0350_24-07_遺跡「深部探索」


 遺跡の地下4階。

 地下3階までは、何かの避難施設の様な、それでいて使われた形跡もなく作ってそのままという印象の放棄された施設という印象だった。

 だが、地下4階に降りて施設の雰囲気が一転した。



 視察団チームは、探索者の後を追いかけて地下4階に到達している。


「リーダー、こりゃ不味いです。

 嫌な雰囲気がビンビン感じます」


 斥候を行っていたリンタが報告するが、その必要も無い。

 地下3階から下る道は巧妙に隠されていた。

 だが、何らかの理由で崩落していて道が現れていた。


 そこを通った後を見つけ、罠を解除して進む。

 引き戸を無理矢理 開けた後がある。

 慎重に進む。

 施設は古く劣化が進んでいるが、明らかに高度な設定の元に作られている。

 装飾も幾つかあるが単調な装飾で、機能性を重視しているようだ。


 通路に出ると、広い。

 幅はゆうに10mはあり、高さも4m位。

 通路と言うには大きい。

 床には埃がタップリたまっていて、複数人の人間が進んでいった足跡が残されている。


「人数は6人かな。

 遺跡の探索になれているな、それと、ほぼ一直線に進んでいる。

 周囲の部屋には見向きもしていない」


 リーダーのミサが光が届かない先を見つめる。

 長剣の柄に手を掛ける。


「それは不味い、何が有るのか判らないが、確保される前に捕まえないと」


 ユトが背中の盾を確認する、これらかは走らないといけない、音を立てないように固定されているか軽く動かしている。


「応援が居ないのは辛いな」


 ヨーチが魔法の光を掛け直して、明かりの数を増やす。

 そして、剣を一度抜いて感触を確認してまた戻す。


「ね、休憩はどうする?

 まだ疲労していないけど、遭遇したら休む暇なないよ。

 あと、索敵魔法には反応無し」


 アオが索敵魔法を行使して周囲を確認する。


「アオ、安易に範囲魔法をつかっちゃ駄目なんじゃないっけ?」


「良いじゃない、視界の範囲内程度しか届かないのだから、潜んでいて襲われるよりましよ」


 シオが救急セットの内容の確認をする。

 戦闘になる可能性が高い、なら応急処置は自分の仕事だ。


「全員、小休憩。

 その後、移動速度を上げるぞ、体力の配分に注意しろ、特にアオとシオ、疲れたら報告をしろ」


「「はい」」


 全員が座り、周囲を確認しながら携帯食を食べる。



 ズズーン


 遠くで音がした。

 全員が跳ねるように立ち上がり、そして音がした方向の深部を見つめる。


「あ、風? 動いてる」


 奥からユックリと空気が動き始めた。


「ちっ、何かが起きた。

 嫌な予想だが、奥で外に通じる道が出来た、探索者がそれを知っていたとしたら手遅れか。

 兎も角、休憩はお終いだ、急ぐぞ」



 視察団チームは、手に持った補給食を無理やりかきこむと、遺跡の深部に向かって早歩きで進んでいった。



■■■■



 説教を受けています、マイです、正座は勘弁して貰っています。

 両隣にはシーテさんとブラウンさん、正座しています。

 そして、正面には激おこのギムさん。


 理由は明白、オーガに見つかったからといって、戦闘する必要は無かったんだよね。

 あくまでも状況確認するだけの約束で様子を見に行ったんだから。

 通路は大きくないのでゴブリンのような小型の魔物は兎も角、オーガでも通り抜けることが出来ない、撤退して体制を立て直しても良かった。

 北の村へ行く可能性か無ければ。


 一通り、刻々とお叱りと愚痴と心配していたことを伝えられれば、真摯に受け止めるしか無い。

 シーテさんもブラウンさんも、私を止めなかったことを怒られていたよ。


「むぅ。

 結果としては無事だったから良かったものの、何かあったらどうするつもりだったんだ?

 マイ、君が怪我1つするだけで、多くの人達が責任を取ることになる」


 そのギムさんの声は、優しく、子供に言い聞かせるように、私の中に染み込んでくる。


 ズキン


 胸が痛む、魔導師になれた、そして色々な重責が伸し掛かってきた。

 私は自由になりたかったはずだ、魔導師という権威はその手助けになる筈だった。

 それが何だろう、この状況は。

 沢山の人達の手助けを受けて、のほほんと魔術の研究をしたり、襲われたり。

 私を守るために、沢山の人達が動いて、そして死んだ。

 自分の責任じゃない、魔導師というのが悪い、そんな言い訳をしていた気がする。

 でも、魔導師マイは私だ。

 ただ闘うのにも多くの人の命と責任が伸し掛かってくる。


「マイちゃん……」


 ふと、シーテさんに抱きしめられていた。

 あれ?

 私、泣いてる?


「ふぇ、シーテさん」


「ごめんね、マイちゃんが皆のことを考えて行動しているのに。

 もっと自由に生きても良いのにね」


「いえ、私の考えが足りていませんでした。

 皆さんが居てくれているのに、本当にすいません」


「いや。

 俺も言い過ぎた。

 兎も角、マイは此処で休んでいてくれ。

 状況の説明をしたいが……」


「はい、自重します」


 私は涙を拭って、努めて笑うように振る舞う。

 心配を掛けないように。

 シーテさん、ブラウンさん、ギムさんの表情が一瞬曇ったのは気が付けなかった。


 そして、ギムさんから冒険者チームに扮していた探索者が行方不明になっていて、遺跡の深部に向かっていることを聞かされる。

 追跡に視察団チームと冒険者チーム2つが向かっていることも。

 私の役割、遺跡の深部に有るかもしれない何かを収納する、その何かを探索者は知っているのだろうか?



■■■■



 遺跡、その地下。


「地図が当てにならない」


「当たり前だ、同じ系統の施設だが、全く同じ作りになっているわけが無い」


「わーっている」


「今、地下何階?」


「地下6階だ、それよりさっきの振動は何だ」


「判らない、それに風が動き始めた。

 追跡の守衛か冒険者が別の道から入ったのかな」


「可能性は低い、その道を知っているのなら最初からそこを使うはずだ」


「しっ!」



「不味いな、後方に複数の人の気配がある。

 前方と後方から挟まれたら厄介だぞ」


「その時は奥の手を使う。

 先ずは目的地へ降りるぞ」


「罠を仕掛けておく、時間稼ぎになるか怪しいが」


「急ぐぞ!」



 探索者達は更に急ぐ、幾つかの階層を降りたち、そして一本の直線の道に出る。

 その道は幾つかの崩落があるが、移動するのに支障は無い。

 息が上がる、が後方からの気配はどんどん強くなっていく。

 ついに、後方の通路で、遠くに魔法の明かりがチラリと見えた。


「ちっ、視察団か、厄介な領主の犬どもめ」


「それ、自分のこと?」


「やかましい!」



 走る探索者達、だがその足音はほとんどしない。

 明かりも最小限で足元だけを照らしている、油を使用したランプだが明かりが照らす方向を制限している。


「前方、広くなっている、倉庫と思われる」


「よし、そこを抜ければ目的地だ、確保を優先する」


 声が聞こえる、そして聞こえる足音は確実に走っている。


「追いつかれるぞ、攻撃する」


「俺と2人で足止めだ、倉庫の入口で迎撃する。

 殺してしまっても良いんだろ?」


「好きにしろ、確保したら離脱する、遅れるなよ」


「当然!」


 役割を確認する、2人が入口の両脇に潜み、接近したところを陰から攻撃。

 また、油をまいて魔法の補助で爆炎を起こす、地下通路の火災だ、躊躇するだろう。

 その間に倉庫の先にある施設、ここに目的となる物が保管されているはずだ、それを1つで良い収納して持ち帰れば、莫大な報酬が得られる。

 残りは勿体無いが破壊する。


 お互い、頷き合い、全力で走る。

 先行して走る斥候役が通路を抜けて倉庫のような広い場所に、走り込んだ。

 と、なにかの陰が頭上に迫ってきた、見上げた、そこで意識が途絶える。


 グシャ


 通路の両脇に潜んでいたオーガの上位種から放たれた、丸太のような棒が地面毎、原形を留めない地面のシミになってしまった。


「な!」


「わぁぁぁ!」


 倉庫内の物の陰からオーガ種がユックリと姿を現す。

 獰猛な笑い顔を見せた。


 全力で走っていた探索者達は止まりきれずに倉庫の中に入り込んでしまった。

 オーガがユックリと確実に取り囲んでいく。


「くそっ!

 引き返せない」


「プレスが!あぁぁ」


「陣形を作れ、何とか抜けるぞ!」


「いゃぁぁぁぁ!」


「アルス! 脱出しろ!」


 頭を捕まれた、そして持ち上げられる。

 必死に捕まれた手をナイフで切りつけるが傷一つ付かない。


「おおっ!」


 魔法の攻撃がオーガの頭部に当たるが、空いた片方の手で簡単に振り払われる。

 掴んだ腕を振り回す。


 ゴキン


 鈍い音がして、アルスの体から力が抜ける。

 その体がしなって叩きつけられた、吹き飛ばされる。

 転がっていく、そして止まったオーガに踏みつけられて。


「畜生め」


 オーガの体重が骨を砕き内臓を押しつぶしていく痛みを一瞬感じた。

 目には、3人の仲間が背中を合わせてオーガに対峙している様子だった、声が出ない、口から声の代わりに血が噴き出す、そして動かなくなった。



■■■■



 視察団チームは、僅かな光を見つけ探索者達に追いついけたことを理解し、仲間と手の合図で示し合う。

 こちらは通路を照らすように明かりの魔法を使っている、気が付かれている可能性は高いが、話して状況を教える必要は無い。

 風の魔法を使えば、小さい声でも聞かれてしまう。

 向こうも気が付いたのだろう、足音は小さいものの走っている。

 そして、足音の反響音が変わった。

 広い場所があるのだろう。

 一端止まる合図を出す。


「不味い、通路が終わる。

 この先で待ち伏せするな、俺なら」


 リンタが武器の弓の準備を始める。


「そうだな、足止めを狙ってくるだろう。

 あいつらの目的が奥にあるのなら、脱出手段もあるはずだ」


「強行か?」


「それしか無いわね、覚悟を決めな」


 ユトが盾の持ち方を変えて、防御重視にする。

 ヨーチが魔法を行使するために息を整える。

 リーダーのミサが剣を抜いて奥に切っ先を向けて宣言する。

 アオが時空魔法で収納空間から予備の矢を取出リンタに渡す、そして仲間の荷物を収納していく。

 シオは最後尾に移動する。


 準備は出来た。

 無効は罠を張っているはずだ、それを食い破って奥にある本命に辿り着く。


「行くぞ!」


「「「おう!」」」






 突貫しようとしたその時、奥から悲鳴が響いてきた。


「わぁぁぁ!」

「いゃぁぁぁぁ!」


 何が起きている?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る