第349話 遺跡「後処理」

0349_24-06_遺跡「後処理」


 不味い、探索魔術を使用して魔物に気が付かれるのを気にしすぎた。

 黒い大地の事を軽視してしまった。

 魔物が増殖している、と言っていたような気がする。

 どうするべきなのかな?

 穴の先は遺跡の深層の可能性がある、どうなるのか判らない。


 兎も角、崩落した穴の近くへ向かう。

 広場の魔物は既に守衛の人達が討伐を完了させていて、入口付近の警戒に当たっている。


「ブラウンさん、魔物が遺跡の奥に行ってしまったという事でしょうか?」


「判りません、遺跡の目的も構造もハッキリしていないので」


 ブラウンさんが崩落した穴の中を覗き込んで考えている。

 私もブラウンさんとシーテさんの陰に隠れて遠隔視覚を使う。


「どう? マイちゃん」


 遠隔視覚を使ったのに気が付いたシーテさんが私とブラウンさんにだけ聞こえるように話す。


「暗くてハッキリとは。

 ただ、かなり深いですね」


 穴の上には光の属性魔術で明かりを灯している、シーテさんの魔術で広場全体を照らすことが出来るほど強力な明るさだ。

 それでも見通せない。

 真っ直ぐにではなく、入り組んで奥まで見えないんだよね。

 人工物という感じでは無い、知識の範囲だけど、人工的な作りも無ければ、人工的に加工された様子も無い。


「そうなると、ここからの侵入は慎重になる必要が有りますね。

 当面はここは監視のみに留めましょう」


 仕方が無いかな。

 そもそも、此処を降りる為には専用の道具が必要になる。

 また、洞窟を探索するのには専用の能力が必要とされている。

 辺境師団に居た頃も、洞窟は入口付近のみで奥に入らないように、厳重に注意されていたから、それだけ危険なのだろう。



「ブラウン副隊長!

 入口付近には魔物の気配はありません。

 ただ、魔物の形跡が多数あります、外に出ている魔物が多い可能性は有るでしょう」


「よし!

 2組はそのまま此処の警備、そして1組は戻って状況報告と応援を依頼する。

 1組は入口と穴の監視、そして、1組は休め」


「「「はっ!」」」


 多数の魔物と戦った後だというのに疲れた様子を見せずにキビキビと行動を開始する。

 ブラウンさんが報告に戻る守衛に内容を伝えていく。

 私達は、この後、応援が来たら今居る守衛の人達に護衛をされながら戻る予定だ。

 あくまでも私は崩落で閉じ込められた人達の救助であって、魔物の討伐は私が関わるべき範囲では無い。

 それでも、必要が有れば迷わず戦わないと。



「一度、外を見てみたいのですが、構いませんか?」


 休憩している守衛さんがお茶を入れてくれて、それを飲みながらブラウンさんに尋ねた。

 しゃべり方は守衛さんが居るので、あぁ、面倒くさいなぁ。


「はっ、周囲の安全確認が済みましたら大丈夫です。

 外の空気を吸われた方が良いですね」


 会話の感じとしては、地下に長時間居ることによる不快感を解消したい、という感じに持っていった。

 私は、北の村の方角と距離を確認したかったんだけど。



 程なくして、戻ってくる魔物が居ないのを確認して、私達は外に向かう入口に向かった。

 改めて広場を確認する。

 生活している”ような”形跡がある。

 記憶している限り、獣の巣のような感じでは無い、ただ何か積んであったり保存食代わりなのか、草木や動物の死体が放置されている。

 不思議なのは、排泄物の後とか処理する所が無い、外に出て処理しているのかなぁ?


 自然の洞窟に出来た広場だと思っていたけど、少し違うようだ。

 それに気が付いたのは、入口に向かう地面を見た時だ。


「地面が整地されていた?」


「そうね、古い道路工事で作られた感じね。

 経年劣化が酷いから分かり難いけど。天井や壁に手を付けていないのは偽装かな?」


「落ちている岩も天井から落ちてきたかな?」


 私達が外に出ると、予想外の風景が入ってきた。

 地図を思い出して場所を推定すると、北の山の向う側に出るかと思っていた。

 それよりも、もう1つ小さい山を越えたところのようだ。

 遠隔視覚を情報に起点して周囲を確認する。

 北の村もその小さい山を越えた先にあるようだ、北の村にある砦跡の先端が僅かに確認できた。

 ここなら入ってくるのは狩人でも一部で一般の人も冒険者も入ってくることはないだろう。


「かなり北側ですね、背後の山も遺跡があった山とは違うようです」


「尾根の間で上手く隠されている感じですね、この辺へ来たとしても見つけることは難しいでしょう」


「方角としては、あの小山の向こうに北の村があるようです。

 距離が離れていので、ここまで来るのは大変でしょう」



 護衛の人達も北の村の方を見るが、木々に邪魔されて見えない。


 ガサッ


 警戒が緩んだ……のは守衛の人達だけだ。

 私もシーテさんもブラウンさんも、この時点で既に戦闘態勢に移行している。


 出て来たのは、オーガ種5匹とオーガ種の上位種が2匹。

 狩りにでも出て居たのでろう、オーガと変わらないほど大きな鹿を数体担いでいる。

 無警戒で出て来たオーガ達と相対する。


 瞬間、状況を理解できず立ち止まる、そして慌てる守衛とオーガ達。


 その次の瞬間には、ブラウンさんの弓がオーガ種5匹の額に突き刺さる。

 致命傷なのだろうね、そのまま後ろに倒れていく。

 シーテさんは私が出した短槍を核に氷を纏わせ、風の筒で照準して氷の後部を昇華させる。

 ドゴン!

 という音と共に上位種の1体が首元がえぐれるように吹き飛ぶ。

 そして、最後に私の時空断を風属性の魔術に見せかけて、残りの1体の上位種の首を跳ね飛ばす。

 阿吽の判断だ、目視だけで合図して行動に移した。


 守衛さん達は、ようやく剣をを抜いて私達の壁になるべく移動を始めたところで、終わってしまい、呆然と立ち止まる。


「あれ?」


 私はシーテさんとブラウンさんはお互いの対応について話す。


「弓の連射、凄いですね」


「5発までなら、ですねそれ以上は威力を落とさないと無理です」


 いやいや、5発をほぼ一瞬で性格に放つなんて、聞いたこと無いです。

 しかも上位種でないとも言え、オーガ種を一撃で倒せる威力も凄いです。

 そして今回、シーテさんの複合魔術、私と2人がかりで行っていた魔術を1人でやってのけたんだ。

 しかも実用的な速度で。

 相変わらず凄い、なんでも組み合わせる魔術で、丁度良い相乗効果を生む組み合わせを見つけられたからだそう。


 それに対して私はどうなんだろう?

 時空断、確かに強力な魔術だけど、収納空間の特性をそのまま使っているだけで、捻りが無い。

 もっと何か工夫する方法があるはずだ。


「戻りましょう、そろそろ応援が来る頃ですよ」


 シーテさんに促されて戻る。

 ブラウンさんは護衛の守衛にオーガの死体の処理を指示している。

 普段なら私が収納してしまえば良いのだけど、私の力を簡単に貸し出してはいけない、と何度も言われているからなんだよね。

 探索魔術での周囲の様子は問題無い。


 戻る途中で振り返った森の様子はやけに静かだった。



■■■■



 魔導師の護衛に付いた守衛の1チームが大急ぎで戻ってきた。


 ギムが待機している遺跡の入口に作られた拠点は崩落で怪我をした冒険者を町へ送り出して一段落が付いたところだ。

 懸念は地下2階の奥で見つかった魔物の対応だ、規模からして今居るコウの町の冒険者と守衛を ほとんど全て投入しなくてはならない。

 今は出入り口が何処に繋がっているかで、対応が変わってくる。

 北の村に近ければ、兵士を送り込めるし、通路側からも攻撃できる。

 戦い方の案を練っている時に、だ、護衛に付いた守衛の1チームが走り込んできた。


「魔導師様が魔物と戦闘になっただと!?

 何をしていたんだ! お前達は!」


 ギムは怒声を挙げてしまう、いったい何度マイを戦いに巻き込んでしまえば良いのか?

 戦わせないために3チームも守衛を付けたというのに。


「ふーっ。

 兎に角、報告をしろ、魔導師様は無事なんだな」


 ギムの怒りに及び腰になってしまったが、報告をする守衛。


「はっ、戦いになってしまったのは、1人が魔物が増えているのを見たと、驚いてしまいました。

 そして、通路に侵入しようとしたオーガが床を踏み抜いて大半の魔物が落下。

 残った魔物が外へ逃亡しようとしました、魔導師様はそれを阻止する判断をされました」


 そこまで一気に話して、続きを話す。


「戦闘は一方的に終わりました。

 私達が陽動で弓を放っている間、魔導師様とシーテ様、ブラウン副隊長が広場に入り、魔術で一気に殲滅しました。

 我々は、残存のゴブリンの処理と穴と外に出て居る魔物が戻ってくる可能性から2チームで警備しています」


 報告が終わった後、ブラウンからの伝言を伝えるべく佇まいを正す。


「ブラウン副隊長からの伝言です。

 穴の監視と、入口から戻ってくる魔物を討伐するための応援を。

 穴からの侵入は難しいとのご判断です」


 ギムは大きく息を吐く。

 シーテとブラウンは上手くやったようだ。


「判った、交代要員を送ろう。

 魔導師様は現在居る護衛と帰還で良いのだな?」


「はい、ブラウン副隊長より、その予定だと聞いています。

 応援が来てから最終判断するとのことです」


 まずはマイの方は大丈夫だろう。

 問題はあるが、もうマイを関わらせるべきでは無い。


 更に問題が出て来た、魔物が落ちた、その先は何処だ?

 遺跡の深部の可能性が高い、今入っている視察団チームが危ない。

 かといって、今入っていける守衛も冒険者チームも居ない。


 いや、居る、俺とブラウン、シーテそしてマイ。

 ジョムやハリスもいれば完璧だが、難しい。

 ジョムは鍛錬は欠かしていないが既に現役を引退している。

 ハリスは教会の司祭長という重役に就いている、簡単に現場に出られる立場じゃ無い。

 俺もそうだ、今は守衛の隊長を務めている、指揮する者が最前線に行くべきでは無い。


「今、遺跡に来ている冒険者で戦えるのは?」


 近くに控えていた守衛の副隊長に問う。


「オルキがリーダーの冒険者チームでしょうか?

 あと、戦闘向きでは無いですが紅牙とかいうチームは万能型です。

 他にも居ますが、力量として抜きん出ているのは、この2チームでしょう」


「以前、抜きん出て強い5人組のチームが居たと記憶しているが」


「あのチームでしたら、魔物の氾濫の時に1人失った後は精彩を欠いてしまって、その、昨年から冒険者としての活動は確認しておりません」


「むぅ。

 2チームだけでは不安だな、かといって力量が劣る者を投入しても被害を増やすだけか。

 俺が出れば早いのだがな」






 ギムは副隊長にマイ達への応援の選抜と、2つの冒険者チームの呼び出しを命じた。

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