第346話 遺跡「救助と行方不明」

0346_24-03_遺跡「救助と行方不明」


 町長の馬車には教会から聖属性魔法の使い手が同乗していた。

 ハリスさんが来ると思っていたけど、急病人の対応をしているため、動けないとの事。


 私達は指揮所になっているテントに入る。。

 大型のテントは10人入っても余裕がある。

 私はブラウンさんの案内で一番上座にあたる奥の席に座る。


 全員が座り、準備が整った所でブラウンさんが私に会釈で了解を取ってきた、同じく会釈で了解を示す。


「では、まず最新の情報を報告します。

 地下2階の1室で北方向へ伸びる通路が発見されました。

 調査中に崩落が発生、現場にいた冒険者チーム2組10人が巻き込まれました。

 崩落の危険があり、助け出せないで居ます。

 そして、通路の補強は間もなく終わり、救助に移行する予定です。

 1人が心肺停止したとの連絡が先ほど来ました」


「どういう予定で救助を行うのですかな?」


 コウさんがブラウンさんに聞いてくる。


「守衛と冒険者だけでしたら、通路の補強をしながら救助の予定でした。

 魔導師様が来られたので、対応を一任したいと思います」


 私が引き継ぐ。


「ならば、シーテによる土属性の魔術で遭難者付近の通路を補強。

 私の収納で通路内の岩の除去。

 聖属性の魔法使いも同行し応急手当を、心肺停止しての時間が不明ですが蘇生処置をしていたら生き返る可能性があります。

 怪我人の町への搬送の準備は?」


「はい、ある程度の医療設備は用意していますが、町へ搬送するための専用の馬車も1台用意しています」


 病人の搬送用馬車はコウの町に2台しかない。 その1台を持ち込んでいるんだ。

 振動を吸収するための機構や、延命処置をするための設備を乗せている馬車は主に急病人を病院まで運ぶのに利用されている。


「判りました、では直ぐにでも入ります、護衛は最小限で構いません。

 迅速に行動しましょう」


 私が立つと全員が起立して礼をする。

 うん、魔物の氾濫の時を思い出してしまう。



■■■■



「ミネスト! 意識を取り戻せ!」


 岩に埋もれた中、心肺停止した冒険者に必死に声を掛け、身動きが取れない仲間と人工呼吸と心臓マッサージをしている。

 だが十分に場所があるわけではない、瞬きをしない開いた目の瞳孔は開いている。


「畜生、こんな形で死ぬんじゃ無い」


 岩の隙間から声が掛かる。


「おい、強心剤を持ってきたぞ、注射して見ろ」


「だめだ、心臓がもう止まっている」


 更にまた1人がぐったりとしている。


「ボンゴ!? おい、意識を保て!」


「あ、ぁぁ、妻に済まないと・・・・・・」


「自分で言え、馬鹿野郎」


 と、岩をどかす音が、突然に救助の手が止まった。

 何でだ?


「魔導師様が来られたぞ!」


 は、何を言っているんだ?

 魔導師とかいったら領主と同じ位 偉いんだろ?

 そんなのが来るわけが無い。

 支配階級の人間にとって、俺たちは家畜なんだろ?


 と、突然周囲の不安定な岩のぐらついた動きを止める。

 そして、俺たちを閉じ込めていた岩があっという間に消え去る。


「岩の除去を完了しました、シーテ」

「はっ、通路の補強完了しました、いつでも入れます」

「直ぐに救助を!」


 俺の目には何が見えているんだ?

 少女が周りの守衛達に指示をしている。

 それに押しつぶしてきていた岩は何で消えた? 時空魔術?


 駆け寄ってきた教会の人間だろうか、ミネストを見て直ぐにボンゴの手当に移る、そうか。


「マイ様、心肺停止しているこの者は……」


「電撃を行います、離れて」


 ミネストに付いていた人を離すと、バチンという音がする。

 しばらくして、もう一度バチンという音がする。


カハッ


 ビクンと大きく体を反らした後、大きく息を吸い込んだ!

 ミネストが息を吹き返した?


「彼の治療も行います、呼吸が弱い人工呼吸器を」

「は、は、はい!直ぐに!」


 あっという間に担架に乗せられた俺たちは、そのまま遺跡の外に運び出される。

 治療用に用意されたテントに運び入れられて治療が行われた。

 幸いなのか、俺は足の骨を折った以外は打撲だけだった。

 そして、ミネストもボンゴもまだ生きている。

 容体が安定したら、コウの町の病院へ搬送されるそうで、専用の馬車に乗せられていた。



 俺たちは助かったんだ。



■■■■



 ふぅ、私は一息つく。

 崩落現場から離れ、近い部屋に戻ると、簡単な椅子と休息場所が用意されていた。

 案内されて座る、緊張が解けて大きな息を吐く、はぁ~、兎も角はやれることはやった。

 収納空間から水筒を出すと、一気に飲む。

 もう1つ水筒を出して、周囲を警戒してくれているシーテさんへ渡す。


 休んでいる中、守衛と冒険者は忙しく働いている。

 応急手当が終わった遭難者から担架で運び出されていくのを見送る。

 遭難者の救助が終わると、残った冒険者チームの1つが通路の奥を探索した。

 が、直ぐに走って戻ってきた。


「不味い、オーガ種が居るぞ」


 声を小さめにブラウンさんに報告する。

 地下2階の部屋で休憩中に受けたその一報に全員が硬直した。


「詳しい状況報告」


 ブラウンさんが厳しい口調で言う。

 ブラウンさんが私に目配せをしている、私の判断が必要になるかもしれない。


 報告に来た冒険者が緊張している。


「は、はい。

 通路の奥に広い部屋がありました。

 中にはオーガ種、上位種だと思います、それが3体。

 通常のオーガ種が複数。

 確実では無いですが、外に繋がる入り口らしき物がありました」


 最悪だ。

 魔物の氾濫で取り逃した魔物は多い。

 その中でも定着してしまった種は繁殖している可能性を示唆されている。

 この事は非公開だから、支配階級になる貴族と町長やギルドマスター等しか知らされていない。

 オーガ種が繁殖していたらどうするのか?

 勘の良い人たちは気が付いて居るらしいけどね。


「マイ様、いかがされますか?」


 シーテさんが私に聞くが、立場上はここから離脱するのが正しい。

 しかし、どうしようか?


「オーガ種がこちらに来る事は無いのですね?」


「え、は、はい、通路が狭いので入ってこれません」


「そうですか、でしたら先ず私達が様子を見ます」


「マイ様?」


 ブラウンさんが驚く。

 今、守衛さんも冒険者のみんなも救助で手一杯だ、自由に動けるのは私達だけ。


「確認ですね、了解しました。

 私とブラウン、この2人で十分でしょう。

 人が多くても邪魔なだけです」


 シーテさんが意味を理解して、秘密を知っているブラウンさんだけを同行させるようにした。


「判りました、危険な場合は我々が盾となりますので直ぐに避難を」


「はい、信頼しています」


 私はニッコリとブラウンさんに笑う。

 ブラウンさんは何時もの優しくて困ったような笑顔を返してくれた。

 とはいえ、直ぐには出発しない。

 準備もあるし、行くことを町長へ知らせておく必要が有る。


「おい、直ぐに町長へ連絡!

 通路の奥に魔物を発見したこと、そしてその実地調査のために魔導師様が入られること。

 急げ!」


 近くに控えていた守衛が礼をして掛け出していく。

 報告に来た冒険者にも、ねぎらいの言葉を掛けて休ませる。


 テントの中には私とシーテさん、ブラウンさんだけになる。

 シーテさんが風の結界を張って、周囲攣とが漏れないようにしてくれる。


「で、マイちゃん、なんで以降と考えたんだい?

 守衛としては、魔物と戦った経験の無い者が多いから助かるけどね。

 個人としては、マイちゃんはもう戦わせたくない」


 しっかりと私を見つめてブラウンさんが言う、うん、ごめんなさい。

 未だに無理して戦ってしまったことの責任を感じてしまっているんだ。

 シーテさんも、一緒に居るので慣れてきてしまったけど、とっさに結界を張ったりしている所を感じると心配させてしまっている。


「勿論、無理はしないです、私一人じゃ無いですしね。

 魔物に関しては、宰相様から幾つか気になる情報が来ています。

 魔物が未だに残っているのは、繁殖して定着している可能性が高いそうです。

 確認したいのは、規模と種類、そして繁殖している形跡です。

 殲滅は必要ですが、緊急時に限りましょう。

 奥の手として時空断がありますが……」


「そうね、閉所空間での戦闘は経験が少ないわ、避けるべきね。

 魔物の繁殖は、幾つかの視察団チームが確認しているけど、増え方については明確な情報が出て居ないわ」


「コウの町の各4つの村とその周辺で、魔物の氾濫で取り逃した魔物の駆除はほぼ完了していますね。

 ただ、人が入らないほと深い森や山は確認できていないです。

 私達が領内を駆除して回っていた時には、増えた形跡を確認は出来ていなかったでしたか? シーテ」


「ええ、最も殲滅を最優先にしていたから、いちいち数を確認なんてしなかったけどね」


 ギムさん達が魔物の氾濫の後、領内を上位種以上の危険な魔物の討伐に駆り出されていた。

 この事は、聞いていたけど、どんな無いようで、どれほどの事かは教えて貰っていない。

 話したがらないのもあって、何時か聞ければ程度に思っている。

 それでも、私が復活した後に会ったギムさん達が、二回り以上に強くなっていたのは、そういう事だろう。


「マイちゃん、今回は本当に確認だけよ。

 戦闘は冒険者チームと守衛に任せるから」


 あんまり信用されてないなぁ。

 私の時空断が、本当に魔物の氾濫の時にオーガ種を切り裂いた魔術なのか確認したい気持ちはあるんだよね。

 でも、それは今回封印しないと。


「はい、判っています。

 確認作業の指示はブラウンさんで良いですか?」


「はい、任されました」


 ニッコリと笑ってくれる、ブラウンさんは頼もしい。

 調査する際の手順を確認していると、入室を願う声が掛かる。


「失礼します、装備と食料などを持ってきました」


 守衛さんか。

 シーテさんが結界を解いて、ブラウンさんが入室を許可する。


「よし、入れ」


「はっ」


 ブラウンさんの今の装備は、遺跡探索の責任者と言うことで、軽装備をしているだけだ。

 持ってきた装備は、探索を行える一般的な装備の指揮官用で上等な物、ブラウンさん専用では無いようだ。

 食料は私の収納空間にも3人で1ヶ月分程度は入っている、コツコツと保存食を溜め込んだ成果だ。

 それに、今回用に指揮官用の少し良い携帯食や飲み物を入れた水袋を用意してくれた。

 それを収納しておく。

 あ、なおだけど、崩落現場にあった岩は部屋の隅に積んで有る、幾つかは収納爆発用に収納したままだけどね。






 ブラウンさんが装備を調えていると、別の守衛が来た。


「なんだ? 町長から言付けか」


「い、いえ。 1組の冒険者チームが行方不明です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る