第345話 遺跡「崩落」

0345_24-02_遺跡「崩落」


 遺跡の地下2階、ここは沢山の部屋があるが作業用の部屋のようだ。

 壁は岩をくりぬいた作りだが、綺麗に仕上げをしてあった跡が見て取れる。

 窓が無い事を除けば、一般の施設と変わらない。


「何なんだろうな、ここは」


「さあ? 何も無いのは確かだな、地図の作成は終わったぞ」


「作り自体は厨房みたいだが、違和感があるなぁ」


「おい、こっちにも通路があるぞ」


「まて、地図を確認する、集まってくれ」


 地図を作成していた冒険者のランプの明かりの下に集合する。


「判っている限り、この階の他の部屋には繋がらないな。

 恐らく別の部屋か外に繋がるんじゃないかな?」


「そうだな、どうする先行するか?」


「止めとこう。 食料も燃料も心許ない、危険なところは探索が出来る連中に任せよう」


 部屋の中の測量が終わった彼らは報告のために戻っていった。

 翌日、3つの冒険者チームが未知の通路に入ることになった。



 まず、先行していた1チームが立ち止まる。

 その通路は途中で岩が崩れていて簡単には進めそうに無い。

 だが、幾つかの岩を退かせば進めそうな感じはする。


「駄目か?

 下手に退かすと崩れそうだ」


「だが、この先は長いし空気が流れてきている。

 とると、報告にあった通り外に繋がっている可能性が高くなる。

 出来れば出入り口は全て抑えておきたい」


 そこに後方確保をしていたチームが合流する。


「どうだい?」


「ああ、岩が塞いでいる、下手に動かせないが、動かせないわけじゃ無い。

 そして、奥から風が流れてきている」


「行く必要が有るか……」


 不用意に1人が岩に手を掛ける。


カラッ


 握り拳大の岩が崩れた。


「あ」


 誰かが言った途端に、大きな岩がズレ、通路が連鎖的に崩落を始めた。


「ヤバイ、走れ!」

「痛で!くそっ」


 だが、既に戻る通路に岩が落ちてきていた。


ガラガラガラ……


 数分、岩の崩れる音が続き、止まる。

 立ちこめる砂が落ち着いてきた頃、瓦礫の中から声が出る。


「生きているか?」


「何とか、だが岩に挟まれた」

「おれも岩に埋まっている、おい、気をしっかり持て、不味いこいつ頭を打っている」

「奥にも入口にも戻れないな、閉じ込められたぞ」


 それぞれ声を掛け合う、意識を失った者も居るが、幸い生きている。

 完全に閉じ込められたが。

 だが、通路の探索は3チームで入った。


「おーい、大丈夫かぁ」


 風属性の魔法だろうか、遠くから声が聞こえる。


「ああ、何とか生きているが、崩落に巻き込まれて動けない、救助を要請する」


「判った、兎に角 体力を温存しろ、直ぐに助けを呼ぶ。

 怪我人は居るか?

 あと、食料と医薬品も用意する」


「ああ、頼んだ。 程度は判らないが怪我人が出ている。

 それと、この先は外に繋がっている可能性がある。

 余裕があれば、反対方向の入口の調査も頼む」


「ああ、了解だ。」




 冒険者の報告を受けて、遺跡入口に居た遺跡探索の責任者ブラウンは町と研究所へ救助要請を出した。

 これが顛末だ。

 そうか、ブラウンさんの指示か。


 私とシーテさんは、フォスさんナカオさんに留守を頼むと、馬車で町へ移動している。

 移動中に守衛から話を聞いていた所だ。


「それで、その、魔導師様は何故 町へ?」


「魔導師に救助要請を出来るのは町長だけです。

 ですので形だけでも町長からの言葉が必要ですね」


 シーテさんが代わりに答える。


「そうですね、失礼しました。

 後席に移動し警護します」


 一礼すると、馬車の扉に手を掛けて外に出る。

 守衛は馬車が走っている中、器用に馬車の後ろにある荷席に移動する。

 緊急時とはいえ、客室の中に居続けるのは失礼に当たる。

 守衛は入口でのやり取りを思い出した、つまり魔導師様は最大限の配慮をして下さっている。

 会ったことも無い研究所に居る魔導師、どんな人物なのか気になっていたが、大人びているが少女だ。

 協力して下さっていることに感謝しながらも、その力量に不安を感じていた。

 遠目にコウの町の外壁が見えてきた。



■■■■



「マイちゃん、良いの?」


「判りません、ただ断るのは無いです。

 辺境師団に居た時も、住民から救援要請が嘆願されることは良くありました。

 断るのは簡単ですが、住民からの信用は失います。

 ですので、可能不可能は現地の責任者に委ねて、こちらは最大限の協力をするのが通例でした。

 無論、作戦中は別ですが」


「うん了解、危険性が大きいのなら止めるわよ。

 あと、ブラウンが何を考えているのか……」


 遺跡、近いのは炭鉱か、炭鉱の崩落事故の救助要請は部隊に来たことがあったっけ。

 辺境師団に居た頃の私は収納量が少なかったので、炭鉱の中に入らずに入口付近で支援物資を運んでいたけど。

 その時の結末は聞いていない、ただ「遭難者の何名か助けられた、良くやった」とだけ聞かされた。


 コウの町の東の門、その手前で馬車が停車した。

 何だろう?

 シーテさんが探索魔術を行使して私は窓から遠隔視覚を行使して目視確認。

 うん、私達の馬車が止まったところは、北の遺跡の方へ向かう道との分岐の場所だ。

 そして、前方からは少し豪華な町長の馬車が向かって来ている。


「馬車が向かって来ていますね、町長のようです。

 コウさんも事情を先読みしてこちらに向かっているようですね」


「ええ、人数は馬車に4人、護衛かな10人が居るわ」


 ひとまず警戒を解く。

 街道の脇に馬車を移動して貰うと、コウさんが私達を出迎えるのを待つ。

 礼儀として私達は常に後から行動する必要が有るんだよね。

 フォスさんの貴族としての礼儀作法が最近厳しい、うん。


「魔導師様、このたびは偶然お会いできた幸運に感謝いたします。

 どうか、我々の陳情をお聞き下さいませ」


 コウの町で一番偉いコウさんが両膝をついて頭を垂れる。

 シーテさんが扉を開けて先に降りて、私をエスコートしてくれる。


「先日振りですね。

 話すことを許可します」


 対外的に行う茶番だから、さっさと済ませたい。

 その意を汲んでくれたのか、コウさんが更に頭を下げる。


「はっ。 北の遺跡にて崩落事故が発生しました。

 コウの町には崩落した岩を安全に取り除ける時空魔法使いは居りません。

 なにとぞ、そのお力をお貸し頂けないでしょうか?」


 私は頷いて了承を示す。

 ちょっと言葉にするのには躊躇したからだ。

 不用意に約束すると、それは責任として背負わないといけない。


「時間が惜しいですね。

 直ぐに向かいましょう、町長はこれからどうされますか?」


 シーテさんが御者をしている守衛さんに馬車を遺跡の方へ剥けるように指示を出す。


「はい、私も向かいます。

 魔導師様のお力をお借りするのです、その意味と重要性を理解させますので」


 魔導師を動員するというのは、本来は領主でも国に伺いを立てる必要が有る案件だ。

 それを一つの町の町長が嘆願するというのは、そうとうに異例な事になる。

 だからこそ、なのだろうね。



 手短に儀礼的なやり取りを済ませる。

 それを見ている守衛さんはハラハラしていたけど、私も町長も織り込み済みの対応だから、ね?

 そして、2台の馬車が遺跡に向かって走る。

 先頭はコウさんの馬車、そして私の馬車が続き、私の馬車を守衛さん達が護衛する。



 急いで出たので、装備を装着している余裕が無かった。

 なので、私の収納空間に入れてある装備を取り出して装着していく。

 もちろん、シーテさんの分もだ。

 夏用の戦闘装備を実戦で使うのは初めてかな?


 私の装備は辺境師団のそれに魔導師の異装を加えた時空魔導師 専用装備だ。

 使われている布の耐久度も撥水通気性も国の最上級に当たる。

 そして、シーテさん。

 視察団チームに居た頃の装備を元にして、魔導師の助手に相応しい実戦重視の装備に変わっている。

 これらは両方とも領都から支給されてた物になる、相応しい服装をする、これもまた重要なことなんだそうだ。

 でも、格好いいので良し。



■■■■



 遺跡の入口では救助が始まり慌ただしい。

 遺跡探索をしていた守衛と冒険者は全ての作業を中断して救助に回っている。

 今は、崩落現場までの通路を木材で補強して二次遭難を防いでいるところだ。


 指揮を執るブラウンが遺跡から出て来た守衛に問いただす。


「遭難者の状況はは?」


「全員生きては居ます、2人が意識不明で3人が重傷。

 残り5人は意識はありますが、状態は不明です。

 食料と応急手当は済ませましたが、直ぐにでも……」


「判った、兎も角今は現場までの通路の安全確保を最優先だ」


「はい了解しています。

 ですが、危険を冒して救助を行わない理由は何でしょうか?」


 部下の質問は単純だ、目の前に助けられる仲間が居て、手を伸ばせば届きそうだ。

 なら、崩落の危険を取っても救助をするべきだと。

 ブラウンはそれを是としていない。


「最高の救助能力を持った方が来るからだ」


「え、それは一体?」


 馬の嘶きが聞こえる、守衛が見ると町長の馬車が見える。


「え、町長の馬車?

 町長が最高の?」


 ポカンとしている部下を無視して、町長の馬車の先を見る。

 来てくれた。

 魔導師専用の馬車、それが町長の馬車の先導で遺跡の入口に気づいた簡易施設に入ってこようとしている。

 ブラウンは近くの小隊長達に命じて今居る守衛を整列させる。

 救助を中断してまでの整列に理由を聞こうとしたが、町長の馬車とそれに続いて魔導師の馬車が来た。

 慌てて整列していく。



 そして、整列した守衛とブラウンの前にマイが乗る馬車が止まる。

 コウは先に降りて、横に控える。

 最初の様にシーテさんにエスコートされて降りていく。


 少しの どよめき が起きる。

 完全装備の私を近くで見るのは、ほとんどの守衛は初めてだと思う。

 私はブラウンさんに儀礼的な挨拶をすると、ブラウンさんは慣れたように私を司令室として使われているテントに案内してくれた。



■■■■



 魔導師が馬車から出て来た。

 幼い、成人していないとは聞いていたが、10歳にも満たない外見だ。

 あんなのが魔導師なのか?

 だが周囲の対応は、魔導師、中位貴族と呼ばれる領主と同格の爵位を持つ支配階級の人間だ。

 雰囲気だけなら側に付いている魔術師の方が威圧感がある。


「見たか?」


「うん、背伸びしている感じがして可愛い」

「なんだ、子供かよ」

「……」

「気になるのか? 確かに違和感があるけどね」


 簡易宿泊所の陰から様子を見ている。


「見た目はどうでも良い。

 ただ、救助は直ぐに終わるとみて良い。

 この好機を逃すのは惜しい、潜るぞ」


「よっしゃ!」

「やっとね」

「くくっ」

「浮ついて足をすくわれるなよ」

「お前が言うな」






 冒険者の救助作業が行われている中、1組の冒険者チームが行方不明になった事に気が付くのはまだ先だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る