第347話 遺跡「オーガ集落」

0347_24-04_遺跡「オーガ集落」


「い、いえ。 1組の冒険者チームが行方不明です」


 守衛さんの言葉に、最初は未だ救出できていない人が居るのではないかと思った。

 次に混乱によって遭難した可能性。


「崩落に巻き込まれた冒険者に救出漏れがあったのですか?」


 つい語気を荒げて聞いてしまう。

 私が強い口調で話してしまったので、萎縮させてしまった。


「す、す、す、すいません。

 あの、全く別で救助に当たっていた後方の冒険者です。

 食事の支給をしようとしたら、1チームが受け取りに来なかったので。

 間違いかもしれません、町に戻ったのかも、その確認……」


 ブラウンさんが言葉を止めて、更に質問する。


「まて、行方不明になったチームは何処のチームだ?」


「え? えっと、コウの町の冒険者ではありません、チーム名も無いですね。

 その、どうしましょうか?」


 ブラウンさんが考え込む、ここはブラウンさんに任せよう。

 私とシーテさんは目で頷き合う、多分考えていることは同じだろう。


「ギム隊長へ報告、私はこれから地下2階の奥に探索に向かうので指揮を引き継ぐように。

 視察団チームにも伝えることを忘れるな。

 行方不明の冒険者を探すように依頼と指示を受けるように。

 急いで対応するように!」


「はっ!」



 走って行く守衛さんを見送る。


「例の探索者のチーム?」


「でしょうね、救助の混乱で監視が緩んでしまっていたようです」


「だとしたら、追跡するチームは、遺跡探索を主導している視察団チームですか?」


「ギムと視察団ならそうする筈です。

 捕縛するので、戦闘になる可能性は高いですね」


 通路の崩落と、魔物が居たことは偶然だと思う。

 探索者はその機会に上手く便乗した形になるのかな。

 それでも疑問は残る、確かに好機だけど、それは地下4階以下へ行くことが出来るという点だけだ。

 何が有るのかは不明のままで行動を起こすのには、掴まる危険性と天秤に掛けても、分の悪い賭だね。

 となると?


「ブラウンさん、探索者は地下に何が有るのか知っているのでしょうか?

 この機会に先行して探索している視察団を出し抜く事はできるでしょう。

 でも、それを行うだけの動機が判りません」


「マイさん、それは私にも。

 少なくても何かがある事は確信しているでしょう。

 もしくは、見つけられなくても脱出できる自信があるのか」


「マイちゃん、探索者はギムに任せましょう、視察団チームも注意していたから対応は大丈夫だと思う。

 私達は、魔物の方よ集中、集中」


「そうですね、魔物の対応に集中しましょう」


 私達3人だけの探索は、後から来た町長の使いの役人に強い難色を示された。

 結果として後衛を用意することが妥協点となったよ。

 私達の後方にはギリギリ目視で確認できる距離で3組の守衛が等間隔で追従する。

 何か問題が発生したら、私達の応援に入ったり、逃げる時の壁になるとの事だ。


 程なくして、私達は探索の準備を整えて通路に入っていった。



■■■■



 魔導師が救助に入ると言うことで、コウの町の守衛は総動員で対応を開始している。

 隊長のギムは町の方での準備に手間取り遅れて遺跡に到着した。


 既に救出作業は終わっていて、救助者の搬送準備をしている、その様子にギムはホッとする。

 指揮所に入ると、視察団チームが待機していた。


「よ、ギム、久し振りだな」


 視察団のリーダーはギムと面識があるようだ。

 ギムは口元を緩ませて、その後、ドカッと椅子に座る。


「ああ。

 何年ぶりか、俺は引退したがな」


「冗談言うなよ。 コウの町の守衛は魔導師様の直衛部隊だと聞いているぞ。

 それよりもだ、少し不味い状況だ」


「むぅ。

 聞かせてくれ」


「簡単に言うぞ、崩落事故の処理は完了、死者は今は居ないが重傷者が数名。

 問題は2つ。

 1つは、探索者チームを見失った、地下に潜ったと思われる。

 1つは、崩落事故の先にオーガ種と思われる魔物が見つかった、巣かもしれん。

 そして魔物所に魔導師様が先行調査に向かわれた、ブラウンとシーテの組で3組の守衛を後衛に付けては居る」


「そうか。

 探索者の方へは御前達が?」


「ああ、強行追跡になるから、銭湯が出来る冒険者チームも連れて行く。

 すまんが、此処の守りを確実にしてくれ、探索者チームを補助している者が居るかもしれない」


「判った。

 魔導師様の方は十分だろう、問題が解決するまで遺跡探索は中断する。

 後ろは任せろ」


「ああ、しかし魔導師様は大丈夫なのか?

 能力は兎も角、実戦経験は数度だろ報告には それなりに戦えているらしいが」


「むろんだ。

 俺たちが鍛えた、と言えば十分という意味が判るか?」


 ゴクリ、視察団チームの皆は緊張した。

 見た目は幼い少女に過ぎない、だがギムが信頼する程の力、魔導師としての魔術、どれほどなのだろうか?


「っ、兎も角、俺たちは直ぐに潜る。

 付いてくる冒険者を定期的に交代させるから報告はそいつらから聞いてくれ」


「ああ。

 任せた、相手の力量は不明だ、慎重にな」


「無論だ、任された」


 それぞれが装備を身に付けて視察団チームが出て行く。

 1人残されたギムは腕を組んでこれからの事を考える。

 まずは、此処の場所が襲撃される危険がある、守りを固めなくては。


「誰か居るか!?」


 ギムの太く大きな声が響いた。



■■■■



 遺跡、地下2階の奥。

 通路を進んだ先に地下広場がある。

 此処までの通路は人工的に作られた物だったが、広場は自然の物のように見える。

 その広場から魔物の特徴的な生臭い匂いが漂ってきた。

 その様子を確認してから、少し戻る。


「マイ様、目視確認ですがオーガの上位種が2、最初の報告では3だったので1以上は外に居ると思われます。

 オーガ種は21、見えない場所にも居る可能性を含めると30は想定した方が良いです。

 探索魔術は気が付かれる可能性から使用していません。

 それと、外へと繋がると思われる通路も確認しています」


 シーテさんが外向きの対応をしている。

 それは、私達の後衛についた守衛チームが一緒に居るからだ。

 私達は魔物の様子を確認した後、後衛チームの待機している場所まで戻って対応を話し合う事にした。

 代わりに守衛2人が魔物の様子を監視している。


「数からして、対処には十分な要員を確保する必要が有るようですね。

 コウの町だけでの対処は不可能では無いですが、真っ向からの対処は難しいでしょう」


 ブラウンさんが総評する。

 多数の魔物に真っ正面から戦うの事はしないけど、戦力比を比較するのには使われる。

 戦闘力だけなら、私とシーテさん、そしてブラウンさんが居れば作戦次第で何とかなりそうだ。

 例えば、反対側の入口を塞いでしまえば、後は窒息の魔術や火炎の魔術で攻撃すれば一網打尽にすることが出来る。

 塞ぐことが出来なくても、1体ずつ個別に倒していけば良い。

 でも、危険は許容されないし無理は出来ない。

 それにコウの町の戦力を集めれば十分に対応可能だろう、懸念はあるけど。



「出入り口の確認は必須ですね、戦闘を行うのなら二面で攻撃できるようにする必要が有ります」


 私が補足する。

 集団戦闘の知識は辺境師団に居た私の方が豊富だけど、もはや昔の話。

 ギムさん達も魔物の討伐で集団戦闘の指揮をしている、魔物の集団での戦い方ならギムさん達の方が上だろう。

 二面作戦もごく普通の事なので、特に否定されることも無く進む。


「私は知らないのですが、あの魔物は魔物の氾濫の時から居るのですか?」


 ブラウンさんに聞く。


「不明です、確認する方法がないので。

 ゴブリン、コボルド等の下位種の存在も確認されて居ます。

 今も出現している、と見ている人が多いです」


 魔物が今も黒い大地が発生して生み出されているのは、暗黙の了解だ。

 知っている人は知っている、でも風潮して回るのは禁止されている。

 それと、すでにダンジョンによる魔物の発生よりも重要視されている。

 自然に発生するダンジョンの数よりも圧倒的に多いから、ただ、ダンジョンが発生した場合に直ぐに踏破して消滅させる必要が有るのは変わらない。


 ここでの会話は守衛の人達に向けて話しているという面もある。

 今、ここに居る守衛は実力があるが、魔物の反乱で主力として戦っていた人達では無い。

 魔物の討伐を経験している人達は、十分に数の差がある場合に限られている。

 黒い大地が発生した時に戦った人達も居るかなぁ?



「マイ様、必要な情報は集まりました。

 戻りましょう」


 シーテさんが退却を進言する。

 勿論、異論は無い、元々はそういう予定だったからね。


「わぁぁぁ!!」


 魔物の監視をしている守衛が悲鳴が響く!

 何が有った?

 走って戻ってくる。


オオオオォォォ!


 オーガ達の叫び声が通路の中にまで届く。

 気が付かれた!?

 不味い。


「大変だ! 魔物が増えている!」


 真っ青な顔をした守衛が転げるように走り込む。

 その向こうから、ゴブリンと思われる魔物の群れが入り込んできていた。


「シーテ! 下位種を押し返します。

 その後、通路を閉鎖して下さい」


 私が宣言する。

 通路の大きさなら、オーガは入って来られない下位種ならシーテさんの作る壁を破るのは不可能だ。

 想定外だけど、対応可能な範囲だ。

 問題があるとすれば、此処に居るオーガ達が何処かに逃げてしまうことで、その先がコウの町や村である危険がある。


「私の術で十分です」


 シーテさんが風属性の魔術を行使して、一気に押し返す。

 急激な気圧の変化で耳が痛い。

 ブラウンさんが短弓を構えて様子を確認に先行していく。


ズシン!ズシン!


 オーガが壁を殴っているのだろうか?

 振動が伝わってくる。


「ブラウン、戻って!

 壁を作るわ」


ガラガラガラガラ!


 岩が崩れる音と振動が伝わってくる。

 何処が崩れた?


「シーテ待て!

 様子が変だ」


 ブラウンさんが急いで戻ろうとして、立ち止まる。

 そして、また広い部屋を見に戻る。


「なんてこった」


 慌てて、私達もブラウンさんの横へ行く。






 広い部屋の中心付近に大きな穴が開いて、オーガのほとんどの姿が消えていた。

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