第343話 目覚「エピローグ」
0343_23-19_目覚「エピローグ」
「全く、コウの町は何か起きないと気が済まないのか」
コウシャン領 領主は宰相とグラスを交わしながらぼやいた。
領主の個人的な私室、部屋は領主の趣味の魔道具や何かの器具、小型の精密な機器が並んでいる。
特に時計が多い。
変わった物が大好きな、トサホウ王国の先王ディアスと似ている。
政策も現行維持を優先しているのも共通しているのは偶然か。
コウシャン領に幸いなことは、宰相が改革を推奨している。
その事を領主は受け入れて容認していることだ。
なにより、領民の安定した生活を優先している。
コウシャン領が特出した産業も無く、ごくありふれた畜産農業を主体とする領であっても、問題無く
ただし、下級貴族にとっては、義務が重く仕事が多い、施政者としての資質を強く求められる。
支配階級として優遇された生活を過ごすのは難しい。
その為か、貴族の領主への忠誠は微妙ではあるが。
カラン
グラスの中の氷が音を立てる。
中身は琥珀色のお酒だ。
だが、領主も宰相も酔っている様子は見られない。
「コウの町、元の要塞都市でしたな。
調べさせていますが、何も判っていないですな。
つまるところ……」
「記録に残せない物が有ったという事か」
「ですな」
「遺跡からは何が出る、改良されたダンジョンコアであれば即刻封印だぞ」
「それに"時空魔導師”が居るのも、良いのか悪いのか」
時空魔導師であれば、改良されたダンジョンコアを収納できるだろう。
安全に封印できる可能性が高くなる。
だが、魔導師を危険に晒すのは良くない、戦闘能力がそれなりに有るのは判ってきたが、戦闘の専門家に比べれば、新兵程度だろう。
護衛を得意とする視察団チームを2つ配置している。
そして、東の村と東の町の間には領軍を駐屯もさせている。
十分なはずだ。
「コウの町から、遺跡の中から出て来た遺物の収納と輸送に、魔導師を使うことを嘆願す書簡が届いていたな」
「はい、重要物である限り、万全の体制で許可する、で良いでしょうか?」
「ああ、構わん。
だが時期として、そろそろオーエングラム卿が到着する筈だな。
先触れは来たか」
「未だですな。 お年故ゆっくり来ているんでしょう」
「元筆頭魔導師か、魔導師マイの様子が気になるのであろうな。
先王様の御意志とはいえ、未成年の何の実績も無いマイを魔導師に任命してしまったのだからな」
その言葉を聞きながら宰相はマイが本当に先王様に気に入れられただけなのか疑問に思う。
先王ディアスは確かに変わった物が好きな好事家ではあるが、無能では無い。
トサホウ王国の国王を若くして世襲し、大きな混乱も無く統治して見せたのだ。
「さあ、私にはオーエングラム卿のお心は推測できませんな」
「ふん、まあ対応の準備はしっかりしておけよ」
「もちろんです」
「所で、商工業国家の対応だが……」
領主と宰相の話は夜遅くまで続いた。
■■■■
オーエングラム卿の一行は、王都からコウシャン領への旅を続けていた。
夏に近づいたため、馬への負担を考慮して進みは遅い。
馬車の客室から御者の腰付近にある小窓を開け、オーエングラムは御者に問うた。
「のう、コウシャン領へ入るのは何時になる?」
「はっ、あと10日もあれば領の境界に到達します」
「遅いのう」
「急ぎの体制ではありませんので、普通の移動速度です。
それに、急げば周囲に穿った見方をされかねません」
「判った、判った、安全にな」
「はっ」
小窓を閉じると、体を椅子に深く座り直す。
対面に座っていたクェスが保温瓶から冷たく保冷したお茶をカップに注ぎ、オーエングラムに渡す。
「ご師匠様、ごねても馬は速く走りませんよ」
「わかっとるよ、だが一言 言っておかないとな。
事実、予定の行程よりも遅れている」
「この暑さですからね。
この遅れも想定内ではないでしょうか?」
ニコリと微笑むクェスを見ながら、少し口元が緩む。
周りの目を意識しすぎて、何事にも癇癪を起こしがちだった性格が随分と落ち着いた物だ。
その切っ掛けになったのは、魔導師マイである事は間違いない。
あの出会いはクェスにとって良い出会いであったのだろう。
クェスの魔力を扱う実力は、残念だが魔術師になるのが精一杯だろう、それは本人も自覚しているはず。
だが、それを悲観している様子は見られない。
「お主に言っておいたことは決まっておるか?」
「はい、自身の魔力をどのように使えるのか、今回の旅で見極めたいと思っています」
「ふむふむ、どんな結果が聴けるか楽しみじゃな」
「余り期待しないで下さい。
個人的にはマイ様にお目にかかれれば嬉しいです」
「それは大丈夫だ、儂の目的を行った後、マイの居る時空魔術研究所へ行く予定だからな」
「はい、楽しみです」
クェスの瞳に力強い光が宿っていた。
■■■■
コウの町の北側にある遺跡。
その近くに作られた簡易宿泊所の中で、6人の冒険者は輪を作り食事を取っていた。
「2つにチームを分けて探索しているが、どうだ?」
「今の所、何も。
壁画らしき物も無いし、施設が使われていた形跡も乏しい。
規模が広いので今の所は不明ね」
「こちらもだ、地下3階に行かせて貰えない。
全ての階段に警備が付いている。
何も出て居ないが、少なくても此処の連中は何かあると思っているな」
「リーダー。
強行する?」
「補給が乏しい、俺の収納魔術の制約で大量に運ぶには魔力を食うからな」
「その補給もだね、探索に十分な量を支給されてはいるが、それ以上の入手も強奪も無理だよ。
町でも売買は余所者には厳しいな」
「方針は変わらん。
目標は連中に見つけさせる、我々はそれを頂く、それだけだ」
「手段を選ばずね、誰か来た」
そこにオルキが歩いてきて声を掛ける。
「よ、そちらの状況はどうだい?」
「今晩は、地図を作っているだけですね。
冒険者のとりまとめ役のオルキさんでしたね」
「オルキでいい。
冒険者同士で敬語を使われてもムズかゆいだけだ。
ま、成果は みな同じのようだな。
困ったことはないか? コウの町は初めてなんだろ」
今回の探索では、オルキの冒険者チームがとりまとめ役をしている。
オルキのチームには、コウの町の冒険者ではまとめ役だったクルキが臨時で復帰していることも大きい。
主にコウの町以外から来た冒険者の面倒を見るのが役目だ。
「いえ、良い待遇で楽です。
ただ、日の光を浴びれないのは困ったことですか」
「はは、シフトが変わるから次からは昼間に休めるよ」
「昼間なら逆に蒸して休むのが大変ですよ」
「そればっかりは仕方が無いな。
兎も角、何か問題があったら早めに連絡してくれ」
「はい、ありがとう。
良い夜を」
「ああ、ユックリ休んでくれ」
オルキは全員に問題が無い事を確認したら、軽く手を振って戻っていく。
「ふーん、なかなかいい男ね。
警戒していないようで、隙が無いようにふるまってるわ」
「まぁ、実力は足りてないが、経験は十分にあるな」
「監視されているのは間違いないな、迂闊に動けないか」
「俺たちへの連絡役との接触は十分に気を付ける必要が有る」
「連絡の合図は未だだ、信頼されないのなら、その積もりで動く。
明日も又、探索だ、全員疲れを残すなよ」
「「「はっ」」」
暫くして、寝息が聞こえてきた。
探索者と目される冒険者チームをクルキは物陰から気配を完全に消して見つめている。
その目には感情が完全に消えていた。
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