第342話 目覚「密談3聖属性」

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 私は、シーテさんと目配せする。


「マイちゃん、部屋の周辺には階下のタナヤさん達以外は居ないわ。

 あと、盗聴系の魔法の気配も無いわね。

 念のため、風の結界を張るわ」


 盗聴系の魔法、といっても専用の魔法が有るわけじゃない。

 風属性の魔法で遠くの音を聴く、光属性の魔法で遠くの様子を見る、基本属性の魔法を使い工夫して遠くの様子を探る魔法・魔術の事を用途で区別するために使う言い方だ。

 だから、私の遠隔視覚やシーテさんの探索魔術も盗聴系とも言えるね。


 風の結界、音を遮断して盗聴を防ぐのが今回の目的。

 他にも、有毒ガスなどを防ぐ為にも使われる、弓矢避けも有名だけど近距離では弓矢の威力に負ける事が多い。


 さて、これから話すことは、個人的にかなり慎重に扱う必要が有る情報だと思っている。

 だからこそ、シーテさんに盗聴や結界をお願いしていた。


「こんなにする必要が有る情報なんだね」


 ブラウンさんが椅子を座り直して、お茶を一口飲んで口を潤す。

 ハリスさんも、姿勢を正している。

 ギムさんとジョムさんは変わらずだ。


 私は、コクリと頷いて見渡す。


「今から話すことは検証が不十分です、ですが、上手くいけば収納空間を無効化する事が出来る可能性があります。

 それが出来るのは、ハリスさんです」


 全員がハリスさんに注目する、けど、ハリスさんは心当たりが無いのかキョトンとする。


「聖属性の魔術に関して、ハリスさんの考え方を もう一度 説明して貰えますか」


「え、ええ、良いですよ。

 聖属性は、安定した状況にする効果がある、1つの特性のみで効果を出していると考えられます。

 健康の状態を安定しているとすると、怪我や病気になっている状態は異常な状態です。

 この異常な状態を正常な状態にすることで怪我や病気を治しています」


 ハリスさんが、前に説明してくれたことを改めて話してくれる。

 ギムさん達も特に驚かずに聴いていたので、既に共有している情報なんだね。


「マイさん、この聖属性がどうかしたのですか?」


「ハリスさん、聖属性の魔術を行使する対象をもっと広げて下さい。

 魔法・魔術はこの世界の理に干渉して、本来有り得ない現象を具現化しています。

 つまり、魔法・魔術は世界の理に対して異常な状態と言えます」


「ハリス、つまり聖属性の魔術は、他の属性の魔術に対して特効があると私達は考えているの。

 効果や効率は検証しないと判らないけど、場合によっては魔法使い・魔術師の天敵になりえるわね」


 私とシーテさんの説明で、意味がようやく伝わったんだろう、ギムさんブラウンさん、ジョムさんが愕然としている。

 それ以上にハリスさんが自分の手を見ながら呆然としている。


 今まで聖属性の魔術を、他の魔術に対して行うなんてした人は居無かった。

 だって、聖属性の魔術は治癒か浄化の効果が有るという物なんだから。

 だけど、答えに気が付いてしまえば、少し考えるとたどり着けたかも知れない。

 呪いと呼ばれる闇属性の魔法や魔物や黒い大地などに特効がある、魔物も黒い何かもこの世界の理から外れた物だ。


「つまり、ハリスはどんな魔術でも打ち消してしまえると?」


「いえ、そうはならないと思います。

 この世界の理に干渉したとしても、存在させた物質や現象に対しては、効果は無いでしょう。

 ですので、魔法・魔術を使おうとした時点で行使する必要が有るかと」


 ブラウンさんの質問に私が答える。

 考察している限りだけど、この世界に存在してしまえば正常な状態となる筈だ。


「うむ。

 それはそれでも十分凄いが、それと収納空間とどう結びつくのかな」


 ギムさんが腕を組んで深く考えながら言う。

 確かに今問題になっているのは、探索者が時空魔法を使った際の対応だ。

 でも、ギムさんは魔術には詳しくない、だから判らないのか。


「マイ、もしかしてじゃが、収納空間はこの世界にとって異常な状態で、ハリスの聖属性魔術で無効化できるのかな」


 ジョムさんが正解を言い当てる。

 そうだね、収納空間はこの世界にとっては歪だ、聖属性の魔術の対象になり得る。


「マイさん、しかし以前から何度かマイさんには聖属性の魔法を行使しています。

 私ではありませんが、時空魔法の使い手を治療した記録も多数残っています。

 この理論が正しいのなら、収納空間に対して影響が無かったのは疑問です」


「それは、対象をしっかり絞って行使しているからじゃないかな。

 というよりも、収納空間に作用するというイメージ自体を持っていなかった。

 だから、収納空間には影響が無かったと」


 ハリスさんの疑問にシーテさんが答えた。

 私は少し別のことを考えてたんだよね。

 兎も角、補足しよう。


「ハリスさん、収納空間には時空魔術を行使している時に聖属性の魔術を行使するのが一番効果が有るかと思います。

 なので、通常時には意識して収納空間に影響を与えようとして聖属性の魔術を行使しないと効果が出ないのではないでしょうか?」


 といっても、全て仮説に過ぎないんだよね。

 だから検証する必要が有る。


「しかし、検証するとなると時空魔法・魔術を使える、信用できる術者がいません。

 マイさんが適任ですが、研究所に普段居ますし、簡単には会えないです」


 ブラウンさんが考え込む。

 ハリスさんもコウの町の重要人物だ、研究所へ簡単に来て良い立場じゃ無い。

 代替え案が必要だね。


「時空魔術師や時空魔法使いが、何らかの理由で収納空間を維持できなくなる事例はあります。

 幾つかありますが代表的な物ですと。

 魔力が尽きてしまうこと、そして、大きな怪我や病気をして治療を受けた時です」


 他にも精神的に壊れてしまった場合や、死んでしまった場合とかあるけど、基本的には他の魔法・魔術と変わらない。

 ただ、時空魔術は収納空間を維持し続けるという例外があるのが特徴だ。


「収納空間が維持できない場合、内容物が排出されるのなら判るけど、消失したら判らないわね」


 シーテさんも時空魔術を勉強しているので、特性について詳しくなっている。

 その通りだ、だからこそ検証しないと。


「なので、できる限りですが今のうちに検証したいと思っています。

 幸いですが、私は収納空間を複数作ることが出来ます。

 検証用の収納空間を使えば良いですね」


「複数ですか!?」


 ブラウンさんが驚く。

 でも前に説明したはずだよ。


「時空断・時空壁は収納容量がほとんど無い収納空間を作って、それを この世界との取出口を開いたまま使用する術です。

 物の収納・取出を無視すると、強度が上がるようですね。

 それに複数作れると言っても、2つ目以降は収納容量は小さいですね、物を収納する事は考えていないので」


「判りました。

 危険は無いのですね、それなら今のうちに検証しましょう。

 教会の聖属性の使い手にも使わせたいところですが、影響を考えると私達だけにしておく方が良さそうですね」



 それから、少しの時間だけど聖属性の魔術が収納空間への影響、それに他の属性の魔術への影響も検証した。

 結論としては、考察していたのとほぼ同じ結果が得られた。


 収納区間に対しては、現実空間との接合面を出している時に浄化を当てると収納空間が消滅して中身が放出されてしまう。

 収納空間に直接だと、何処へ浄化を当てれば良いのか不明で時空魔法使いの周囲数メートルを強力に行う必要が有った。

 基本属性の魔法も、行使中ならば無効化できてしまった、そして水や土のような物質は存在した時点で無効化は出来ない。

 その他の光・陰・風・火は、魔力を込めて存在させている場合は無効化できる、が、現実の現象として存在している場合は駄目だった。


 ……、つまるところハリスさんは私の奥の手になる時空断・時空壁を無効化できてしまうんだよ。

 気が付いて居るよね。


 魔力と魔力の干渉、これは昔から試されている、良い例がシーテさんだね。

 多重行使に並列行使を組み合わせて、威力を大幅に引き上げたり、全く異なる現象を起こしたりしている。

 魔力に対して、魔力を使って打ち消したり、これも同じだ、組み合わせて威力が大幅に引き下げられたり、全く異なる無害な現象に変化したり。



「マイさん、探索者の対策が出来そうです。

 ありがとうございます。

 使い所は良く考える必要が有りますね、ブラウン」


「そうだね、何度も使えば対策されかねない。

 此処という所で使うようにするよ、ハリスを遺跡まで連れ出すのだって簡単じゃ無いから」


「うむ。

 この情報はみな秘密だ。

 だが、この事に気が付いて居る者は居るだろうか?」


 私程度が考え付いた事だ、他の魔術師や魔導師が到達していないという保証は無い。


「そうですね、気が付いて居る人は居るはずです。

 その上で広まっていない事を考えると、自分だけの奥の手にしているのか。

 あるいは、極一部の組織にのみ秘術として伝わっているのか」


 私以外の魔導師達につていはオーエングラム様しか知らないし、その力量は未知数だ。


「私達の様にね。

 ただ、コウシャン領の魔術師は実用重視と特出した能力を重視しているからどうかしら?

 少なくても、魔術の研究所はコウシャン領には時空魔術研究所しかないわね。

 王都には魔術師だけの部隊が有るから、魔術の研究施設も有ると思う」


 魔導師を多数保有している王都なら、魔導師の下に複数人の魔術師が居て色々研究していそうだ。

 いずれ王都へ行く必要が有る、どうなるのか不安だね。



 他の魔術師や魔導師の事を考えてもしょうがない判らないんだから。

 今問題の遺跡に入っている探索者の対策にも目処が立ったと思う。



「さて、夜も遅くなってしまいました。

 名残惜しいですが、此処までとしましょう」


 ブラウンさんが閉めに入る。

 もう夜も遅い、ギムさん達は宿泊する訳じゃ無いからね。


「そうですね、またの機会に」


「ええ、ギム達も元気でね」


 私とシーテさんが、宿屋タナヤから見送る。

 タナヤさん達は後ろで様子を見ているだけだ。

 しっかりと、皆と握手をする。


 ランプの明かりを持ったギムさん達がバラバラに闇の中に消えていく。

 寂しい。


 言葉が出ない私を、シーテさんとフミが支えてくれる。

 今の私に何が出来るんだろう?






 空を見上げる、曇りだろうか真っ黒な空が広がっていた。

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