第340話 目覚「密談1」

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 それから町長との会談はやや違った方向に進んだ。


「もし遺跡の深部に重要な何かが発見された場合、時空魔導師様に収納し補完して頂きたいのです」


 フォスさんの推測が、コウさんの懸念が正しいのなら、遺跡の深部には改良されたダンジョンコアかそれに関連した物が有るはずだ。

 それを地表に出すわけにはいかない。

 もし今再び魔物の氾濫を起こしてしまえば、どんな被害が出るのか判らないし、国の国力は大幅に衰退してしまう。


 断る理由は無い。

 だけど、今回の遺跡探索は私は関わらない方向で進んでいる。

 魔導師を何度も危険な状況に置くことを、領主は是としていない。

 了解すると言うことは、私が遺跡の深部に行くのと同意になる。


 今の所、遺跡内に罠や有毒な物は発見されていない。

 だから この先の深部も安全という保証にはならない。


「領都の宰相様に了承を。

 あと、探索する冒険者チームを再度 精査して下さい」


「探索者と名乗る盗掘者ですね、金目の物なら平気で盗む不法者です。

 懸念のある冒険者は特定していますが、物によっては気の迷いを起こしてしまう可能性も考えないといけません。

 冒険者を監視する守衛を増やす方向で検討しています。

 ただ、時空魔法を使われてしまうと……」


 ああ、町長も懸念していたのか。

 収納空間内に入れてしまった物は、外部から確認する手段が無い。

 町の冒険者なら魔法使いと魔術師の能力は把握しているけど、外部から来た冒険者が自分の能力を全て偽りなく申告している保証は無い。


「そうですね、ですが鑑定を使える魔法使いは居ませんか?

 例外属性の時空魔法を使えるかどうか、どの程度使えるか鑑定してもらうんです。

 少なくても申告していない時空魔法使いは見つけることが出来るはず」


 なお時空魔術師は魔法学校を魔術師として卒業した時点で、領と国に登録されているので、詐称はほぼ無理だったりする。

 そして、鑑定を掛けられてこまるのは、もう一人。


 私だ。


 今の私の能力は魔法学校の卒業時点よりも伸びている、それに時空魔術に関しては収納量を過少申告している。

 鑑定されて、色々バレるのは嬉しくない。


「鑑定を使える魔法使い・魔術師は、現在コウの町には居ません。

 遺跡の調査をする隊の中に鑑定を使える人が居るそうですので、依頼しましょう」


 遺跡の調査をする人達に鑑定を使える人が居る、考えてみれば当然か。

 何か判らない物が出て来たら、鑑定を使って確認するのが手っ取り早い。


 おさらい。

 例外属性に分類される1つ、鑑定は自分の知り得ている知識と鑑定対象を結びつけて、記憶の中から該当する情報を引き出す、という変わった特性を持っている。

 なぜこんな事が出来るのかは不明だ。

 そして制限として、知らない事は判らないと鑑定されてしまう、だから鑑定が使える魔法使いや魔術師は大量の学習や見学を行って知識を増やす。

 普通は国や領の公的機関で働いている事が多い、素質が有ると判ると引き抜かれるから。


 それと、鑑定が行える魔道具がある。

 仕組みは全くの不明、一度概要を概要を書かれた説明書を読んだけど、意味が全く判らなかったよ。

 鑑定魔道具の機能はそれぞれだけど、コウの町にある鑑定の魔道具は素材の材質を鑑定しか出来ないらしいし、それで十分だそうだ。

 情報を記録する魔石の容量に制限があるとかなんとか、これは宰相様からの情報。


 鑑定の魔法・魔術の対象は何でも構わない、結果が出るかは別として。

 沢山の魔法使いの観察をしてきた人なら、ある程度 魔法使いの実力を鑑定することが出来てしまう。

 人間観察をしてきた人なら、善人も悪人も、嘘も本当も。

 鑑定を使える魔法使い・魔術師は人間嫌いが多いと聞く。

 魔法の発動条件を知らないけど、知りたくも無い情報を勝手に判ってしまうのは生き難いんだろうな。



 直接会わなければ多分大丈夫、気を付けよう。



■■■■



 コウの町での業務、残すは教会の見学。

 慰問じゃ無いんだね、教会の医療施設に関しての見学だ。

 医療関係の責任者の方が案内してくれた。

 高度治療施設だ、ここは重篤な患者を診るところで、入院も長期になる人が多い。

 以前、慰問で来た時は、その患者の生活を激励するのが目的だった。

 今回は、医療設備を見る。


 専用の服に全身着替えた。

 暖かい湯に浸かって専用の石鹸を使って全身を洗って、徹底している。

 髪の毛が出ない様に帽子を被るので、胸の名札を見ないと区別し難い。


 通された施設は窓が無い、そして明かりの魔道具を使用していて、十分に明るい。

 何も置かれていない、酷く無機質な印象を受ける。

 そして漂う、死の気配。


「魔導師様、ご不便をおかけしますが、ここから先には少しの風邪を引いただけで死ぬかもしれない患者も居ます。

 病気の元を持ち込まないための処置ですのでご了承願います」


「事前に聞いておりますし、理解しています。

 今回、この重要な施設の見学の許可、礼を言います」


「はっ、こちらこそ魔導師様にご覧頂くのは光栄です」


 そう言いながら、施設内を案内してくれる。

 窓こそ無いけど、所々 太陽の光が入るようにガラスがはめられていたりしていて、不思議と開放感がある。

 今の時間、午前中は検査がほとんどで病室で検査を受けているか、検査室に移動している。

 時々、小さい車輪付きのベッドに乗せられた患者が運ばれていくのを見送る。


「この施設では幾つかの医療用 魔道具が使われています。

 ですが、ほとんどは薬と回復のための運動ですね。

 魔道具や手術は患者の必要に応じて使われます。

 設備と扱える人員の関係で、待ちの全ての人に等しくとはいきません、ですが、可能な限り受け入れるようにしています」


「費用に関しては?」


「はい、通常は一般の治療と変わらない値段です、また、無利子の分割支払いも出来ます。

 通常では無い、は犯罪者または国民では無い人が該当します、この場合は一生掛かっても支払うのは無理ですね」


 トサホウ王国で国民では無いと生き難いというのは、こういう所に出てくる。

 国民で有れば、国(と領)から生活に必要な補助が得られる、住むところも仕事も、そして医療も。

 ただ、庶民の医療知識は深くない、どうしても病院は避けられる傾向に有るんだよね。

 私でも、なかなか行くのに躊躇するし。


「まぁ、その場合は町が建て替えますので、こちらは深く追求しません。

 ここが手術室です、外科治療と言って判りますか?

 意図的に体を切り、体内の損傷したところや病気に冒されている場所を治療します。

 聖属性の魔法使いの方と一緒に行う事で術後の回復を早めています」


 室内には入れなかったけど、入り口から中を見て驚く。

 沢山の明かりの魔道具が用意されている、そうとう明るくすることが出来そうだ。

 それに清潔に整えられた設備一式、待ちでこれほどの設備があるなんて知らなかった。


「コウの町の高度治療施設は此処だけですか、町の規模でしたら普通は2カ所以上はあります。

 片方が何か問題があったり、大量の負傷者や患者を出したり。

 そして、疫病が発生した場合は隔離用に片方を占有したり。

 コウの町の人口が今の1.5倍になったらもう1カ所は施設が無いと、もしもの時には対応できないでしょう」


 説明の中にさりげなく、でも明確にコウの町への公共投資として高度治療施設の追加を要望してきた。

 私の権限では当然行う事は出来ない、行政に関しては私は口出しは出来ないから。

 それでも魔導師の言葉は意味がある、報告書として宰相様へ上がれば優先的に検討される可能性がある。

 だからこそ、コウの町の重要人物は私との会談を設けて実情を知ってもらいたがっている。


「すでに町長より要望は出ています。

 領としてもコウの町の重要度は上がっているので、検討しているでしょう」


 ちょっとズルい言い訳だよね。

 コウの町の公共投資は既に他の町に比べて多い規模になっている。

 とはいえ、今までが重要度が低い町だったので、今すぐ手を付けないといけない公共事業は多い。

 現状問題が無い高度治療施設はどうしても後回しになってしまっている。

 責任者の男性はこれが不満なんだろう、もしもの時が来て足りないでは責任が取れないから。

 責任者の男性は少し落胆している、ここで色よい返事が貰える事を期待していたのかもしれない。


 その後、幾つかの設備を見て予定通り医療施設の見学は終わった。

 事務的な説明が終わり、患者と同じ食事を応接室で頂いて、総評をする。

 私が高度医療に感服したこと、それと職員達へのねぎらいの言葉を掛けた。


「医療に関しては、世話になることが無かったので、どれも勉強になりました。

 職員の練度の高さも感心しました。

 今後も充実した医療の提供を期待します」


「はい、町の人達の健康のため、励みたいと思います」


 私としては、初めて見る設備ばかりで興味深かった。

 それに知っている以上に医療が進んでいる、というか町の規模でここまでの医療施設があるのは驚いている。

 コウの町は約500年前に廃墟から復興した町だ、つまりそれらの設備を領都から送られてきて設置し運用しているわけだ。

 この世界の技術レベルがどの程度か、思った以上に高いのかもしれない。


 その技術を誰が持っているのか。

 貴族であり支配階級の人達だ。

 上官や辺境師団で貴族出の人から『先代からの技術を継承して後世の人達が使えるようにするのが貴族の使命である』と聞いたけど、そういう事なんだ。






 やや、他人行儀な見学は無事に終わった。

 今日は宿屋タナヤへ行って宿泊する。


 そう、久し振りにフミに会えるんだ。

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