第339話 目覚「定期会談」
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フォスさんと町の役所との迅速な調整で、というかナカオさんがコウの町へ買い出しに行くのでフォスさんも一緒に行って予定を詰めてきた。
出来る人ですね。
私達も直ぐにコウの町へ行けるように準備済みだよ。
そして、そのナカオさんフォスさんが居ない1日、絶好の機会だ。
魔術の研究で見せられない物をどんどん試していく。
時空断と時空壁はある程度は自由に移動させることが出来る様になってきた。
飛ばすのに比べると遅いので、飛ばした時に多少の誘導が出来る程度だけど、それでも使い勝手が上昇していることは間違いない。
シーテさんは、私と2人で行っていた氷の槍を打ち出す魔術を1人で行使出来るようになってしまった。
消費する魔力量が多いので、私と組んで行使した方が効率が良いけど、凄いね。
今は、氷の槍ではなく槍に炎や雷などの付与が出来ないか模索している様子。
私の遠隔視覚、自分自身を起点とすると常時、全周囲を見続ける事が出来る。
死角という問題が無くなるので有利かと思ったけど、これが使い慣れないと厄介だ。
戦闘とかに集中していると、何となく何とか出来てしまうのだけど、日常だと情報過多で、それに合わせようとすると自分の体の可動範囲が邪魔に感じてしまう。
逆に時空魔術は絶好調だ。
通常は発生するはずの制約が起きない、それでいて収納容量は推測できないほど広がっている。
物の出し入れも、ほぼ瞬間に行う事が出来るし、遠隔の収納・取出も30mまでならほとんどの負荷無しで行使出来る。
つまる所、時空転移は30mまでなら連続使用が可能と言うことだ。
ただ、自分以外の生物に対しての制約は相変わらず変わらない。
抵抗されればどんなに魔力を込めても収納できないし、私に直接触れていなければ多人数を収納は出来ない、そして取出は私が外に出てから1人ずつだ。
変わらないのもある、収納爆発。
収納空間内に別の収納空間を作る、そこへ岩などの質量の有る物を入れて、収納空間の大きさを小さくする。
擬似的に収納限界を超えた収納を行った状態とする。
結果として、爆発的に現実空間に飛び出す。
収納できる質量に依存するのと爆発する方向はある程度決められるが収束が難しいので範囲攻撃になってしまう。
なお、この収納爆発、他の時空魔術師でも再現できたので、正式に私が解明した英雄マイの魔術ということになっている。
違いとすれば、時空断に収納爆発を込める事が出来る位か、ただ、時空断に使う使い捨ての収納空間は容量が極端に少ない、なので威力も目くらましが出来るかどうか程度。
今は庭園の奥にある広場で、シーテさんと組手をしている。
当然だけど、周囲に人が居ない事は確認済みだ。
私はショートソード……うんちょっと長いナイフを模した木の棒。
シーテさんは普通のショートソードの長さの木の棒。
打ち合いと、搦め手、そして非殺傷の魔術を織り交ぜて、実戦形式だ。
ハッキリ言うと、どんな手を使ってもシーテさんに完璧に対応されてしまう。
時空転移を使った移動も、初見殺しと思ったら、アッサリ対応されてしまったし。
全力じゃ無いシーテさんと何とか渡り合えているのは、遠隔視覚による全周囲を見れていることが大きい。
それも、シーテさんは知っているから、フェイントを入れられて簡単に転ばされてしまう。
これでギムさん達の中では一番、物理攻撃では弱いんだそう。
ハリスさんも実のところ並の兵士よりも強いんだから判らない、初めて会った頃はてっきり非戦闘員で戦えないと思っていたからなぁ。
何度目かの突き出したナイフを絡め取られて、ひょいと転がされて力尽きる。
地面に大の字になって、堪えていた息が一気に乱れ、一瞬意識が薄くなる。
全身から汗が流れ出てて、インナーの服がビショビショだよ。
シーテさんが差し出した手を取り、起き上がる、シーテさんも汗で服が体に張り付いて、ちょっとどころでは無い色気が出てますよ。
水と塩を取り、沐浴場で汗を流して着替える。
「マイちゃん、相変わらず防御が堅いね、攻撃する隙を狙わないと駄目ね」
「攻撃できないんでは、はぁ、意味ないですよ」
体格に不利があるだけじゃ無い、筋力も弱いので攻撃しても通らないし、隙だらけになってしまう。
唯一、持久力はある方だけど、それもこの体格にしたら程度だ。
訓練のような、ヌルい手段であれば技術で誤魔化す事が出来る。
以前、私に部下に採用するように進言してきた女性の領軍兵士が居たけど、一見して彼女は実戦を全く経験していない素人なのが判った。
だからこそ搦め手で簡単に決着を付けることができたんだよね。
回りの領軍の兵士も苦笑いしていたし。
日が傾き始めてきた。
さて、今日最大の難問に取りかかるぞ、夕食を作らないと。
ナカオさんがレシピと下ごしらえを済ませてくれているから、作業は少ないはず。
失敗しないよね?
「そろそろ、夕食の準備をしますか」
「ええ、そうね」
うん、シーテさんの少し引きつった笑顔が怖い。
なんでかな? どうしても少しこれじゃ無い味になってしまうんだよねぇ。
夕食は、可もなく不可もなし、と言っておこう。
■■■■
数日後、私専用の馬車に乗ってコウの町へ向かう。
護衛は、全日から研究所の警備をしてくれて交代する守衛さん達だ。
今、4人体制になっている警備だけど、毎日2人ずつ交代している。
今日は、私の護衛の関係で6人が来て、4人と交代、2人は馬車の御者と警護へ。
馬車の客室は6人乗りで、私とシーテさん、フォスさんの3人が乗っている。
車内は暑くならないようにシーテさんが風属性の魔術を使って快適な温度にしてくれているけど、外は朝から日差しは厳しい。
午前中の内にコウの町へ到着する、当然のように東の門で止められることも無く、そのまま町長の館へ。
町中の様子を見ると、屋外での作業をしている人はやはり少ない。
私が冒険者をしていた頃も朝の内に森に入って、帰りは日が傾いてからだ。
夏場の外は、ジットリとした湿気と暑さで辛い。
それでも、仕事をしている人は居るし、そこそこ活気は感じられる。
町長の館では、入り口で町長のコウさんが出迎えてくれている。
貴族を受け入れる手順としてカーペットもひかれている。
相変わらず、この待遇は慣れないな……。
自分が嫌っているはずの支配階級に居ることを突き付けられていると感じてしまう。
何度目かになる町長との会食は、大分他人行儀が薄れたと思う。
町長夫人とも雑談を交わせている。
今回の昼食は調理人が行ったそうで、普通の料理を豪華に飾り立てている。
味は、まぁ、調味料多めで普通に美味しいな。
昼食後に早速 会談を実施する。
最上級の応接室に通されて、コウさんと役所の実務で偉い人かな? が控えている。
「今回はわざわざおいで頂き、申し訳ありません。
遺跡について判明していることを報告させて頂きます」
そう言いながら、4枚の大きな地図が広げられる。
右下の地図の説明が書かれているところを見ると、遺跡内部の地図である事が判る。
一番上が1階だね。
「現在は地下3階を探索中です。
地下1階については、冒険者の協力の下、地図が完成しています」
役所の方が地図を指さしながら簡単に説明してくれた。
1階の構造は入り口から暫く進むと広い部屋に出る。
その周辺に倉庫のような作りの部屋が幾つかあり、更に通路で離れた場所に3つの広い部屋と倉庫のような部屋の組み合わせがある。
実用的な作りかな? 人が住むような感じでは無い。
また、襲撃に対しての対応する構造にも成っていないな。
そして、3つの広い部屋にはさらに地下1階に進む通路と階段がある。
通路の幅は……幅3m程度かな、高さは書かれていないか。
地下1階は一転して沢山の部屋が用意されている。
厨房らしいもの、トイレのような物、それと居住区画らしい所。
ほとんどの物が朽ちてしまっていて判別できない、食器らしい土器の破片が見つかっている、とのこと。
地下2階、こちらも沢山の部屋が用意されているけど、用途は不明。
石の机らしき物がある事から、なにかの作業をしていたのではないかと推測しているそうだ。
遺物らしい物は、錆びた金属の断片が少し。
地下3階は地下1階と似た作りだけど、やや部屋が広くなっている身分が高い人向けかな。
こちらの探索は始まったばかりのようだ。
階段から最初のホールのような所と広い部屋1つだけが記載されている。
遺物はほぼ朽ちた物品ばかりで、魔道具のような物は見つかっていない。
朽ちた物でも学術的に価値があるので、出来るだけ現状保存しているそうだ。
詳しく調査するのは、領都から来る学者に一任されるとのこと。
地図は1階は全て埋まっている。
地下1階と地下2階は、まだ先が記入されていない通路が幾つかある。
これらもしからしたら地上に繋がる道かもしれないと推測されているそうだ。
地下3階は、まだ探索を始めたばかりだ、部屋を繋ぐ通路が幾つも先が記載されず途切れている。
「盗掘されている可能性は?
ここまで物が出てこないのは少し違和感があるわ」
横で見ていたシーテさんが質問する。
この遺跡が使われていたとするのなら、確かにそうだ。
「はい、盗掘の可能性は今の所有りません。
扉を破壊した痕跡も、開けた痕跡も見つかっていません。
また、使われていたかどうかですが、使っていない箇所がほとんどですが使われていた箇所には何かしらの痕跡が残っています」
はて?
どう見るべきかな、遺跡が存在していた目的が判らない。
どんな施設であれ、作ったのなら管理されているはずだ、たとえ避難するための施設だとしても、訓練などで実際に機能するのか運用に問題無いか定期的に試しているはずだから。
考え方を変えよう、遺跡が作られた目的があるんじゃない、何かがあって遺跡を作る必要が有ったと、したら?
改良されたダンジョンコア。
そうだ、北の村の貯水池を作るために掘った穴から出て来た。
これは偶然地面に埋まっていたとするには無理がある。
でも改良されたダンジョンコアは土の中にあった。
遺跡は岩盤の中に掘り進められて作られている、条件が違いすぎる。
コウさんは最初から疑っていたんだ、そして領都でも。
私達も可能性については話していたけど、すっかり忘れてた。
「では、この遺跡は何かを厳重に保管、ええと、発掘されたものを隠すための施設である可能性があると?」
フォスさんが言う。
その場に居た全員がギョッとして見つめる。
全員に見つめられ、コウさんは立ち上がり掛けてもいる、フォスさんが目を丸くして驚く。
何で気が付いたんだろう。
改良されたダンジョンコアについては箝口令が敷かれていて、関係者の一部しか知らない。
私だって、英雄マイの足跡を辿りその値らかの秘密を解明する、そして魔導師という高位貴族に相当する位を持っているからこそ、知らされることが出来た。
もっとも、私は当事者だったんだけど。
「なんでそう思ったんですか?」
コウさんが優しい口調だけど、どこか有無を言わせない圧力で訪ねる。
フォスさんは不思議そうに、少し首をかしげてる。
「いえ、単純にですね遺跡の入り口付近の施設に重要な物が無いのなら、奥に大切な物が有ると。
そして、この施設は今の所は戦ったり守ったりする作りになっていません。
結論として、最初から奥底にある何かを隠すために作られた遺跡ではないかと」
「素晴らしい洞察です」
私が褒めて、みんなが小さく拍手する。
それを真っ赤な顔になって恐縮しているフォスさん、うん、有能だね。
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