第338話 目覚「遺跡探索3」
0338_23-14_目覚「遺跡探索3」
遺跡探索の進捗は進んでいるが、状況は良くない。
そんな情報が流れてた。
「そんなに深いの?」
シーテさんがお昼を食べ終わり、食後のお茶を飲みながら、フォスさんの話を聞く。
優先度の低く機密性の低い情報は、雑談として共有されることも多い。
「ええ、予想以上に大きな遺跡のようです。
今、遺跡探索の為の冒険者チームを募って、簡単な遺跡探索の為の知識と技術の教育をしているそうです」
遺跡探索の教育が出来るのは、ギムさん達だけだね。
となると、ギムさんとブラウンさん、ジョムさんも呼ばれたかな?
ハリスさんは、流石に司祭長の立場上簡単には参画できないだろうな。
「遺跡ですか、どんな物なんでしょうね?」
ナカオさんが入ってきて、疑問を口にする。
お茶請けに薄いクッキーの様な物を作ってくれたんだ。
そば粉をフライパンで直径3cm位の丸く焼いたのを熱く柔らかいうちに筒状に丸めた物で、食感が軽くて美味しい。
フォスさんが、それに凄い興味を持って、ナカオさんを質問攻めにしている。
その様子を苦笑しながら、サクサクと2本目を頬張る。
「遺跡といっても、古い謂われが判らない人工の構造物のことだから、千差万別よ。
お墓だったり、古い都市だったり、ゴミ捨て場というのもあったわね。
今回の遺跡は、今の所は上層階は集会場か礼拝施設、その下は居住区のようね」
「何らかの避難施設、ですかね?」
私は想定できる予想を言ってみる。
宗教にしろ公共施設にしろ、これだけ大規模な施設なら、大人数を保護する施設というのが簡単に思い浮かぶ。
「なら、最下層は倉庫と水源、あとは何らかのインフラ施設でお終いね。
長期で避難なら墓地も有るかも。
確認するまでは何ともかな?
情報が出てないところを見ると、確認できていない、ね」
シーテさんは、指で机の上に遺跡の概要図をなぞる、想像しているのかな?
町からは、遺跡の内部の地図は提供されていない、また、ギムさん経由でも未だだ。
これは、其相応に機密度が高いという事を示している。
探索者の可能性が高い一団、恐らくは冒険者チームとして正規の方法で遺跡に入るのだろうね。
時空魔法が使える魔法使いが居れば、収集した遺物を隠すのは容易い。
収納空間を操作できるのは、その収納空間を作った時空魔法使いだけだからだ。
……。
例外はあると思う。
聖属性・闇属性の魔法を行使した場合は、収納空間の維持を破壊する事が出来る可能性があるからだ。
この事については、まだハリスさんに伝えていないし、ハリスさんが気が付いて居る可能性も判らない。
ただ、効果が有るのなら奥の手になる。
シーテさんには可能性として情報共有しているから、できるだけ早くハリスさんと会う機会を作らないと。
窓から差し込む日の光は、すっかり夏の暑さをたたえていた。
■■■■
遺跡探索の総責任者にはブラウンが就任した。
当初の予定では視察団チームと守衛チームの2チームで探索を終了させる予定だった。
だが、規模が予想以上に広い事を加味して、正式に指示系統を整備することになった為だ。
コウの町にある守衛の待機所、その奥の指揮官が使用する部屋に、ギムとブラウンが居る。
地図に書き込まれた、人員配置や簡易宿泊施設の場所を示す図。
参加する人員の一覧表。
その他にも、必要な食料や物資、教会に依頼する医師や薬品の調整、処理しなくてはいけない書類は大量にある。
「やれやれですね。
この規模の遺跡は私も初めてなんですが」
「うむ。
とはいえ、やることは変わらない。
盗掘者に気を付けろ、既に何人か町の外から入ってきている」
「ギム、それは難しいです。
探索者を名乗っている連中は、名前の通り探索の技術は非常に高いです、採用しないわけにはいきません。
時空魔法を使われたら、取得物の検品もできませんし、冒険者チームに守衛を1人付ける方法も無くは無いですが、危険性を考えると余り良くないですね」
「むう。
収納空間を確認する方法は無いのだったな」
「はい、マイさんの話では、収納空間は作成した本人以外は確認するのはほぼ無理です」
「ほぼ?」
ブラウンが声を潜める。
「収納空間内に入れて貰えればある程度は確認できます」
そう、マイなら他者を収納空間内に招く事が可能だ。
それでも、距離の概念が無い空間の為、収納されている物を確認するのは困難だが。
「兎も角、明日よりギルドで選定して許可を出した冒険者チームの探索を開始します。
当面は1階と地下1階のみ許可し、地図の作成を中心に作業させます。
坑道を利用したのでしょか? 枝分かれしていて確認し切れていない場所が多いですからね」
「それしかないだろう。
だが、未確認の場所に地下への入り口が有る可能性は高い。
報告した地図を元に守衛チームで確認する必要が有るな」
「そうですね、人手が足りません。
シーテが居てくれれば、地形把握は簡単なんですが」
「駄目だ。
シーテもマイも今回は関わらせてはいけない」
「判っていますよ、ギム。
では、失礼します」
ブラウンが、守衛の礼をやや崩して行うと、静かに出て行く。
一人残されたギムが、大きなため息をつくと、遺跡の報告書を手に取る。
こそには、礼拝堂などの宗教設備は未発見、との一文があった。
その一文で、こめかみに皺を寄せる。
今の所、入り口は中型の馬車が入れるぐらいの広さがある、そして最初の広場から奥には大きな物を運び込める通路は無い。
単純に考えれば、避難施設になるが疑念を払拭できない。
壁には自分の大剣が掛けられている。
視察団チームの事に使用していた魔剣には比べられないが、それでも守衛として持つ剣としては最上級の品質で大きさも重さもギムに合わせて作られた一品だ。
コウの町に武器製造が行える鍛冶場は1つしかない、守衛だけでなく冒険者も新品の武器を購入する場合は、そこを利用するかしない。
作成には他の製造を遅らせるほどの力の入れようだった。
こいつで、何処までやれるか
ギムは実戦で出番の無い相棒を横目に、机に積み上がった書類と格闘を再開した。
■■■■
遺跡に1つの冒険者チームが到着した。
町が用意している馬車を利用していない、徒歩での移動だ。
遺跡を囲むように作られた柵を馬鹿にしたように見て、入り口に待機しているギルドと守衛に受注した冒険者であることを名乗り、中に入る。
中は、思っていたより広く、馬小屋や指揮官の守衛が居ると思われる建物まである。
遺跡の入り口が見える場所に冒険者達が寝泊まりし補給を受ける簡易宿泊施設が設けられている。
案内のギルド職員に簡単に礼を言うと、全員が遺跡を凝視する。
「此処が新発見の遺跡か」
「切り立った採石場跡か?
やけに雑に破砕しているが」
「この岩場と東側に広がる山とは地質が異なるようですね。
坑道を再利用した施設の可能性が高いかな」
「お宝の匂いは、あんまりしないなぁ」
「あんまり、か?」
「うん、多分浅い階にはゴミばかりだと思うよ」
「深く潜る必要が有ると?」
「深いところに施設があるような遺跡に見えないな」
「地下1階までしか許可が出ていないんだっけ」
「そうだ、まずは行儀正しく行くぞ、何時も通りにな」
「ま、一休みしようぜ」
冒険者達は簡易宿泊施設に入ると、既に待機している冒険者達に挨拶しながら部屋の隅に居場所を作った。
その様子には不自然な様子は全く見られない、周囲に居るコウの町の冒険者達も数度挨拶と簡単な雑談をした後、自分達の作業に戻っていった。
■■■■
複数の冒険者に遺跡探索を依頼して、数日後。
1階に関してはほぼ完全な地図が出来上がった。
現在は地下1階の確認中で、先行して探索しているチームは地下3階に入っているとの情報が来た。
朝の執務室で、フォスさんが守衛から受け取った書簡を確認しながら、重要度によって分けていく。
「町長からです、近いうちに直接 現状の報告をしたいそうです。
何か意図があるのでしょうか?」
「遺跡の? 早過ぎるわね、何か見つかったのかもしれないわ」
シーテさんが腕を組んで考え込みだした、確か初期の報告書が出るまで半年は風津に掛かると帰っていたような。
少し考える、遺跡探索の結果が出るには早いのなら、公的に発表しにくい何かを発見したのかもしれない。
何か、改良されたダンジョンコアの様な危険物かな、いや、それは無い、それだったら領都への報告と合わせてもっと大事になっているはずだ。
「それで、会う予定については日時を指定していますか?」
「いえ、こちらの要望に合わせると」
「なら、こちらからコウの町へ行きましょう。
先触れとして守衛に連絡を、あと、教会で前回行えなかった見学を行いたいと」
うん、本来の行事予定だと、年4回 定期的に行う会談の夏がそろそろだね。
その次が秋の収穫祭の開催時に貴賓客として招かれる予定だけど、それは自分の時間を作る余裕が無い。
基本的に私がコウの町へ行くのは秋と春の2回、秋は町の一番のお祭りに合わせて、春は今年生まれた子供の誕生を祝い、今年死んだ人を弔い、成人した人を祝い、魔法学校へ行く人達を激励する、うん大変だ。
夏と冬はコウの町から町長やギルドマスターが来て報告する予定だった、これは移動に不向きな時期だからという理由だね。
今回は予定を変更して貰い、報告を受けるのと前回の魔法教室と合わせて行く予定だった教会に行こう。
そして、ハリスさんと個別に会う予定を作れば良い。
可能なら、ギムさん達と会いたいけど、どうかなぁ。
宿屋タナヤに泊まれるかな。
ちょっと楽しみになってきた、不謹慎だけど。
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