第337話 目覚「遺跡探索2」

0337_23-13_目覚「遺跡探索2」


 最初の遺跡探索から数日が経過した。


 ギムさん経由での第一報では、内部の広さは不明、地下に向かって階層構造になっていて、1階部分は礼拝堂か集会場のような広い部屋が幾つかあるだけだそうだ。

 罠のような物は現在確認されて居ない。

 時代考証も作りから1,000年より前らしい事しか判っていない。

 なんでも、扉に使っている金具の作りで判るそうだ。

 判らなすぎて、領都へ古代建築物か考古学の専門家の派遣を要請しているとのこと。


 なお、町からの正式な報告書には、現在1階部分の探索が問題無く終了して、地下1階へ向かう計画の策定中と簡単な説明だけだった。

 これはある意味当然で、確定した情報以外は通常は報告書には記載しない。

 口頭での説明が聞けれはまた別なんだろうけど、今の所はコウの町から報告のために誰か来る予定は無い。

 仕方が無いとはいえ、自分から行くわけにはいかないので歯痒い。



 今日交代できた守衛から口頭での報告があるとの伝言がナカオさんから来た。

 基本的に守衛とは直接話すことは無い、これも立場上の都合なんだけど、例外として町長から非公式の情報を伝える時は、こういう事も有る。

 朝の交代の時に、コウの町から持ってきた荷物をナカオさんかフォスさんが受け取るので、この時に簡単な情報交換が行われる。

 直接私に話をするというのは異例だ。


 1階にある、一番格の低い応接室で対応するので急いで向かう。

 床に膝を付いた守衛さんが控えている、正直慣れない、私は傅かれるほど立派な人間とは思っていない。

 椅子に座って、軽くため息をついて、気持ちを切り替える。

 出来るだけ平静を装って、軽く笑顔を作る。

 自分でも、不自然な顔をしている気がしている。


「日々の業務ご苦労様です、楽にして下さい。

 本日は口頭での報告が有るとのことですが、何でしょうか?」


 ねぎらいの言葉の後、楽にして良いと言ったけど、下げていた頭を少し上げただけで、顔を見せてくれない。 悲しくなる。


「はっ。

 怪しい1団を確認しました。

 冒険者チームで東の村で商人の護衛依頼を受けてコウの町へ向かっています」


 うん、怪しい。

 東の町なら兎も角、なぜ東の村なんだろう。


「一応、聞き取りでは東の町で、東の村までの依頼を受け済ませて来た、ついでにコウの町へ行ってみようと言うことで依頼を受けた、との事です。

 目的は、英雄マイの足跡を見てみたい、と」


 一応は筋が通っている。

 だけど、視察団チームのミサが言っていた言葉が気に掛かる。

 探索者。

 非合法に遺跡・廃棄都市からの収集品を回収し売りさばく人達、この1団が探索者である可能性は判らない。

 中尉をするに越したことはないだろう。


「情報提供、了解しました。

 その冒険者チームは今どこですか?」


「はっ、今日には研究所を通過する予定です。

 事後承諾になりますが、守衛を追加で4人配置しています」


 私は、シーテさんフォスさんに目配せをする。

 了解したと頷いてくれる。

 日数的に整合性が合わないけど、厳戒態勢を取ってくれるはずだ。

 それに、研究所近くに待機している視察団チームにも情報は行っているはず。


 連絡が遅れたのは何だろう?

 東の村の関所とコウの町は早馬での連絡を密にしている、当日になるまで遅れるのは?


「なぜ、直前になってしまったんですか?」


 フォスさんがキツい表情で守衛に問う。


「はっ、連絡の早馬が暑さでバテてしまい、町への連絡が遅れてしまいました。

 途中の村には代りの馬がおらず、回復を待って居たため、その申し訳ありません」


 緊急事態でも無い時の定時連絡はこんな物だ、早馬といっても夜通し走らせるわけにはいかない、天候や馬の調子で1~2日はズレるのは普通にある。

 責めるわけにはいかないなぁ。


「研究所にも一報を入れるべきでしたが、権限が無かったのですね」


 フォスさんも、少しため息をついて追求を止めた。

 研究所で私へ連絡するためにも、基本的に先触れが必要だし門番をする守衛でも手順を踏まないと簡単には接触できない様になっている。

 それに、怪しい、今回はコウの町では無い冒険者がコウの町へ来るという情報は比較的多くある情報だと思う。

 今回は探索者と呼ばれる一団が来る可能性があったから、口頭での報告を急いだんだろうし。


「では、商人と冒険者が接近したら連絡をして下さい。

 正面に4人、1人は連絡役で。

 通常業務の体制で、もし関わってきても、あくまで防御優先として下さい」


「え? は、はい了解いたしました」


 守衛さんには、もし戦闘になったとしても関わらないで貰うつもりでいる。

 何故なら、先日まで遺跡と研究所の中間付近に展開していた視察団チームが今は研究所の横に有る宿泊施設、旅人や旅商人が休息する場所に移動しているからだ。

 その事は、ギムさん経由で連絡が来ている。

 コウの町の守衛とは別系統の連絡網があるみたいだね。



 その日の昼過ぎ。

 商人を乗せた馬車と、それを護衛している冒険者チームが研究所に接近してきたとの報が入る。

 守衛さんは直ぐに知らせてくれて私達は脱出または戦闘の準備を整えてる。

 普段通りに警備に就いている守衛さん。

 そして、今回はシーテさんの探索魔術が研究所の入り口付近に到達する位置に移動して様子を確認する、この位置なら私の遠隔視覚でも確認できる。

 ナカオさんとフォスさんには、庭に移動させた2頭の馬の準備をお願いしている。

 いざとなった時、私達4人でコウの町へ移動する予定だ。


 商人の馬車2台を中心とした隊列はその周囲を慣れたように6人の人物が警戒しながら歩いている。

 全員、フードを被っていて背の高さ以外はよく判らない。

 天気は晴れ、太陽の光を嫌ってというのなら判らなくも無いけど、この辺の地域では長袖長ズボンと帽子の服装が一般的だ。

 別の地域から来たからかな? それとも顔を見られたくない?


「シーテさん、遠隔視覚で確認しました。

 馬車の外に居て警戒している冒険者は6人、距離があるのと全員フードをしていて外見では詳細はわからないですね」


「マイちゃん、今回は戦闘は無しで。

 守衛が会敵したら直ぐに待避よ、視察団チームも準備を開始しているわ」


 最初の襲撃事件を思い出す。

 今回は敵かもしれない事が判っているから、一方的に攻撃される危険は少ないはず。

 視察団チームも挟撃出来る位置へ移動している。

 なら、私がやることは邪魔にならないように移動する事だ。


「シーテさん、念のためです。

 待避する経路の方にも探索魔術を行使して下さい。

 万が一、商人と冒険者が囮だった場合、全力戦闘を考慮しています」


「ええ、そっちも確認済みよ。

 守衛の1チームが既に待機していて、反応も変化無し。

 潜入している探索者の数も6人だったから、情報に間違いが無ければ、挟撃は無いわ」


 既に検討していたとはいえ、万が一もあるからね。

 ナカオさんとフォスさんを危険に晒すわけにはいかない。



 シーテさんと私を収納空間に収納して遠隔視覚で様子を監視する。

 視点を遠くに設定したので、数秒おきに光属性の魔術で様子を映した映像を更新する。

 遠隔視覚の常時発動は自分を起点としている場合のみで、起点を遠くにした場合は都度交信する必要が有る。


 馬車の隊列が研究所の前に差し掛かる。

 守衛は何時も通り、正門付近の守衛室から様子を見みている、その手には抜き身の剣を持っている。

 部屋の奥に居る守衛は緊急連絡用の花火の準備を完了し、直ぐに打ち上げられるようにしてある。

 マイ達に報告した守衛が巡回のフリをして守衛室に戻る、馬車に気が付いた感じで足を止めて様子を見る。

 馬車は止まることも無く、通り過ぎる。

 御者台に座っている男性が帽子を脱いで頭を下げる動作をする。

 研究所へ寄る必要が無ければ、止まって敬意を示す必要は無い、普通の対応だ。

 護衛の冒険者はチラリと見る素振りを見せたが、特に何もせずに通り過ぎていった。


 遠隔視覚の映像で確認できない位置まで離れた。

 私は周囲の確認をして、シーテさんと一緒に収納空間から出る。


「研究所への襲撃は無いようですね」


「ええ、今回は、ね。

 コウの町に居る間は、監視対象になるようよ。

 もっとも、連中の目的が遺跡なら、コウの町から出る時までは安心して良いと思う」


 研究所へ戻りながら話す。

 そこへ、報告に来た守衛と合流する、商人と冒険者は見える範囲ではコウの町へ向かっていったことを確認したそうだ。


「判りました、ご苦労様です。

 庭に居る馬の回収をお願いします」


 シーテさんが守衛さんへ指揮する。

 取り敢えず、は、一安心かな?



■■■■



「見たか?」


「ええ、ガバガバに見えて、凄い危険な雰囲気がありましたね」


「守衛の緊張しているのが丸わかりで、笑えたわね」


「宿泊施設かな、あそこにかなり使えるチームが挟撃の準備をしているのにはワザとかな?」


「研究所に来るまでは探索魔術が何度も飛んできたのに、近づいたら反応が無くなった。

 なのに常に見られているような、そんな視線を感じたわ」


「魔導師という肩書きは伊達では無いということか。

 兎も角、当面は手を出すのは禁止だ、目的は遺跡だ間違えるなよ」


「戦ってみたかったんだがな」


「一人でどうぞ、巻き込まないでね」



 馬車の御者台から男性が冒険者チームのリーダーに話しかける。


「どうかされたんですか? 皆さん」


「ん、コウの町がそろそろ見えるかなぁと、話していたところです」


「そうでしたか、ならあの緩い丘の所、あそこまで行けばコウの町の外壁が見えますよ」


「ほう、そうですか、護衛も何事も無く済んで良かったです。

 所で、さっき帽子を脱いで頭を下げたのは何ですか?」


「時空魔術研究所ですね、魔導師様がいらっしゃるんですよ。

 こんな辺鄙な町ですが、魔導師様がいらっしゃるおかげで色々と良くして頂いています」


「魔導師様が何かされたんですか?」


「さて、まだ就任されて1年一寸ですし、詳しくは。

 話ならコウの町の冒険者か守衛に聞いた方が良いでしょう」


「そうします。

 ま、私達は英雄マイの方に興味があってきたんですけどね」


「英雄マイ様ですか。

 英雄ね……」


「何か?」


「いえ何も、さ、あと少しですが、『問題は、もう大丈夫と言うときにやってくる。』と言います。

 最後まで気を引き締めて行きましょう」


「ええ、判っていますよ」






 それから暫くして、商人と冒険者は無事にコウの町へ到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る