第336話 目覚「遺跡探索」

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 あ、窓だけどまだ鎧戸だ、それがガラス窓に修復される事が決まった。

 領都から職人が来て、町の職人と一緒に一気に直すとのこと。

 時空魔術研究所の建築はコウの町が中心となって行われたけど、家具装飾品や窓ガラスなどは領都から資材や職人が派遣されている。

 短納期で作られた研究所だから無駄な構造や装飾は無く、比較的 規格化された建築様式を利用している。

 そういう新しい建物だから設計図面も有り、事前準備で必要なガラスを準備できていたそう。

 こちらの準備は、工事で不特定の人が入るという事で、事前に見られたくない資料や高価な物を収納しておいたくらいかな?



 時期的に微妙だ、遺跡探索の時期と重なってしまっている。

 ただ、今の時期を逃すと、貴族が避暑などで領都の本邸を離れる時期に入り修繕工事の依頼が多く入るそうだ。

 避暑って何か? とフォスさんに聞いたら、涼しい地方や湖畔などに作った別荘に移って熱い夏の間を過ごすんだそう。

 貴族の考えることは判らない、まあ、そういう物なのかな?


「一般的に避暑なんてするのは、隠居した主か大した責任も無い役職に就いているだけか、見栄っ張りな貴族ですね。

 大抵は、領都から数日にある川岸か用水池に別邸を持っていて、そこで数日を過ごすくらいです。

 その間は仕事をせずに純粋に休暇を楽しみます」


 フォスさんが、領都から来る職人と町の職人との調整の為の資料を作りながら答えてくれた。

 でも、数日過ごすだけでも十分贅沢じゃ無いかなぁ?


「あ、避暑をする貴族の護衛をしたことがあるわね。

 守りの薄いところに行くから、本当に狙われる危険のある依頼主の場合は神経すり切れる思いよ。

 狩猟をしたがったりすると、護衛の私兵も含めて大仕事ね。

 その分、依頼料は良いし、無事に終われば実績としては高く評価が貰えるけど。

 拘束期間は長いし、場合によっては貴族の相手もしないといけないから、不人気案件ね。

 大抵は指名依頼だから断りにくいのが厄介なのよ。

 実績があって信用のある冒険者は少ないから」


 この辺の感覚は判らない。

 辺境師団に居た頃も、護衛はされる側だったし、貴族や士官を護衛するのは専属の部隊だったから、輸送部隊が直接関わることは無かった。

 緊急輸送で運んでいたかもしれないけどね。


 窓から入ってくる風に生暖かさが混じっている。

 暑い季節ももうすぐだ。


「遺跡探索、暑さは大丈夫かな?」


 ふと口にする。


「洞窟状の遺跡の中なら、大抵は涼しいわね。

 むしろ、遺跡の入り口周辺に待機したり警備している人達は大変でしょう。

 気温が上がって、北の森は湿度も高いわ」


「そうですね、東の森に比べると遊水池、それに山側には湿地帯もありますからね。

 ですが、そこから更に山側は地盤がしっかりして居るので風向き次第ですか。

 採石場跡付近なら見通しが良いから湿度は気にしなくても良いでしょう」


「あ、そうか」


「マイ様、お詳しいんですね」


 ギックウ。

 シーテさんと普通に冒険者としての会話をしてしまった。

 シーテさんは、コウの町へ移住してから冒険者としての活動をしているけど、その経験と実績から森の中を採集したりするような依頼を余り受けていない。

 才能の有る人員の教育、領都や他の場所から来る要人の警護など、町での依頼が中心だ。

 だから、コウの町の周辺にある森々についてはそんなに詳しくなかったりする。

 それでもギムさんのチームに居た頃や冒険者になって直ぐは、森に入ったりしていた、その頃の事を思い出したんだね。


「コウの町近くの村出身ですからね。

 それに、コウの町周辺の地形情報は襲撃事件があった際に確認しました。

 実際に体験したわけでは無いですけどね」


 苦しいかな?

 フォスさんは、ホウホウと頷いている、純粋に信じてくれているみたい。

 フォスさんに秘密を話すことはあるのだろうか、隠し続けるというのは少し心苦しい。

 表情が柔らかくなったフォスさんは、何というか新しい事を知ってワクワクしている少女のようだ。


 私は、そのフォスさんの顔を見つめて、頬が緩むのを感じた。



■■■■



 遺跡の入り口。

 元々は採石場跡だった山の崖は その多くが破砕されて崩れている。

 山も、特種となる巨大な巨人の一撃でボロボロの状態となっていて、雨が降ると何処かしらで崩落が起き、簡単には入山できない状況だ。

 その麓付近の岩が崩れた間に、ポッカリと大きな穴が開いている。


 穴はよく見れば、岩で作られた門のような装飾のような物があるが、風化しているのかほとんど判らない。

 そこに4人の守衛が門番を行っている。

 そして直ぐ近くに守衛や冒険者が駐留すいための仮設テントが幾つも作られている。

 簡易柵も設けられ、門の一帯は小規模な砦の様になっている。


 遺跡への突入準備が終わっていた。

 ミサがリーダーの視察団チーム、このチームは人工ダンジョンになる遺跡や廃棄都市の探索を主としていた元冒険者によって結成されている、今回の探索の主力だ。

 そして、ブラウンがリーダーとして編成された守衛のチーム。

 ブラウン以外は遺跡探索の経験が無い、守衛の中でも優秀な人材を選抜し、即席で訓練を積んだものの力不足ではある。

 守衛は今回の探索ではあくまで視察団チームの後衛となり、長期の探索では物資の輸送や休憩中の警備を担う事になっている。


 入り口近くで全員が装備の確認をしている。

 初回の今回は入り口周辺の安全確保が目的なので物資は少なめだ。


「ブラウンさんよ、損な役回りを押し付けて部下の連中の不満は無いのかい?」


 ミサが砕けた口調で話しかける。

 ミサは、ブラウンが自分と同じ人工ダンジョンの探索を主とした冒険者から視察団チームになって、そして除隊している事を知っているからこその口調だ。

 実際に会うのは初めてだが、ギム率いる視察団チームの噂は何度も聞いている。


「ええ問題無いですよ。

 経験を積む事が出来るのですから、特に不満は出ても納得させました」


 ニッコリと笑うブラウンの表情には重みがある。

 ミサが気圧されてしまう、柔らかい笑いなのに逆らいがたい力強さが伝わる。

 これが超上位種をも討伐して回った視察団チームの実力か、冷たい汗が流れた。


「そいつは良かった。

 背中を預けるんだ、信頼してるぜ」


 握手を求め、お互い握手をする。

 お互い、見つめ合い力量を確認し合うと直ぐに自分達のメンバーの場所へ戻っていった。



 ミサは、自分達のメンバーを見渡す。

 自分達も遺跡の探索は数えるほどしか無い、そして未発見の遺跡は初めてだ。

 探索の難易度を感じ取っているのか、表情は硬い。


「おら、お前らシャンとしな。

 守衛の皆さん方に、探索の先輩としての模範を示すよ」


「ああ、わーかってるって。

 しかし、未発見の遺跡が町のこんな近くに有るなんて思いませんぜ」


「そうね、しかも岩で隠されていた? 崩れて塞がれていた?

 古い遺跡の場所が推定できれば、もっと待ちの近くで見つかるかもしれないわね」


「その遺跡の場所になる、旧文明の情報自体が無いからどうしようも無いわよ」


 500年前の魔物の氾濫の時、それ以前の情報のほとんどは貴族を含む支配階級が管理するようになり、庶民が入手する機会はほぼ無い。

 そもそも、庶民が旧文明の情報を必要とはしていない。


「未発見だろうが、新発見だろうが、遺跡は遺跡だ、やることは変わらない。

 慎重にかつ視野を広くだ。

 準備は良いな」


「「「はっ」」」


 準備が整った全員が立ち上がって、略式の敬礼をする。

 その表情に迷いは一切無かった。



 遺跡に入る守衛のチームは既に準備を整え整列していた。

 その中、ブラウンの補佐をしている守衛が話しかけた、どうやら部下に不安が広がっているようだ。


「隊長、彼らは信用できるんですか?

 視察団というのを知らないんですが」


 まだ若い守衛がブラウンに質問する。

 視察団が領軍の遊撃部隊である事は当然知っている、だが、知っているのは守衛の隊長に就任したギムと、副隊長のブラウンだけだ。

 戦闘力がずば抜けているのは身に染みているが、それは2人が特別じゃないかとも思う。

 旅商人から噂で伝わってくる、上位種の魔物を狩って回る、強力な視察団チームの1つがギム達のチームだったから。


「ああ、視察団チームとしては調査を得意としている感じだな。

 視察団は基本的に領軍や領の重要な物が移動する際に先行して状況確認と安全確保、移動の援助を行う。

 私のように戦闘を得意とする方が少ない。

 だが、それでも全員が領軍でも精鋭部隊と変わらない強さがあるぞ。

 魔獣や盗賊の殲滅は早ければ早いほど被害が少なく済む、その為に各地に展開されているのだからな」


 ブラウンは、殲滅の対象に反乱を起こした町や村、犯罪者が占拠した場合を話さなかった。

 今話すような事じゃない。


「判りました、ありがとうございます」


「遺跡探索をする機会なんて、一生にあるかどうかだぞ。

 しっかり経験を積んで身に付けろ。

 身につけた事を仲間にも展開させるからな、気を抜くなよ」


「「「了解しました!」」」


 全員が綺麗に沿って、守衛の敬礼を行う。

 その表情を満足げにブラウンは見て敬礼を返す。



■■■■



 遺跡の近く、山の中の木々に紛れて数人が潜んでいる。

 マントを頭から被り、少し離れると人が居ることが全く判らない。


「あちゃー、がっちり固められているよ。

 別の入り口はなさそう、侵入は難しいかな」


「ではどうする、リーダー」


「魔導師の方はどうだ?」


「守衛4人で、研究所への侵入は容易いな。

 だが、魔導師の居る場所の警備がその程度とは思えない、別働隊は居るだろう。

 それに、助手の魔術師も驚異的な戦闘力がある、それ以上に魔導師の戦闘力は未知だ」


 少しの時間が過ぎる。


「遺跡に入る。

 直ぐには無理だろうが、中の様子が判れば人手が居る、冒険者に依頼が出るはずだ。

 我々は正規の手順で侵入する」


「で、お宝は私達の物と」


「もしくは、高く買ってくれる貴族様ね」


「無駄口は終わりだ、一度東の村まで移動する、あくまでも仕事を探して流れてきた冒険者を装うぞ」






 暫くして、木々の中から完全に人の気配が消えた。

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