第335話 目覚「遺跡調査」
0335_23-11_目覚「遺跡調査」
フォスさんが書籍を持ち込んできて、しらみつぶしに読み込んでいる。
フォスさんの私物だったはず。
「たしか、歴史の書籍の中に遺跡に関する表記があったと記憶しているんです。
ただ、どの程度だったのか……お役に立つか判りませんが、調べさせて下さい」
ふんす!
と、小さく握りこぶしを作ってやる気を出すフォスさんは年齢とは思えない幼さがある。
貴族院では国の歴史だけでなく、数千年前まで遡った歴史を学ぶんだそうだ。
あと、周辺諸国の国の内情や歴史、習慣とかも。
ただ、コウシャン領のような場合、商工業国家が中心で、帝国が少し、この国の歴史に関しては高等教育に貴族の要素が入るぐらいだそう。
「コウシャン領に関しての歴史は学ぶんですか?」
コウシャン領の貴族の子供なんだから、自分の領の歴史は学びそうなんだけど、どうなんだろう?
「家督を継ぐばあいは自分の家の歴史と血縁関係を含めて学習します。
他は、まぁ、就きたい職種によってでしょうか、選択式になっています。
血縁関係はまぁ、領主様や王族の家系と繋がっているのが、一種の格上扱いされる要素ですからね。
私の家は、領主様の家系と繋がっていますが、血縁関係は途切れています。
事務次官を排出した関係で、領都で職位を継続して賜っていますが、中の下ですね」
他人事のように言う。
割り切れたのか、それとも見限ったのか、それは判らないけど、家の都合の振り回されてきたのだから、これからは楽にして貰いたいな。
執務室の応接机に広げた書類を乱雑に読み散らかしている、うん、印象が変わるなぁ。
もっと理知的で要領よく物事をこなす、そういう印象があった。
でも、料理の時もそうだけど、夢中になると周りが見えなくなってる。
シーテさんとその様子を見て苦笑する。
別に問題があることをしているわけじゃないので、好きにさせようと相談済みだ。
遺跡探索を行う視察団チームは、挨拶が終わると直ぐに研究所を出発した。
元々の予定が遅れ気味だそうで、今日中にはコウの町へ入りたいとのことだ。
時間的には、日が落ちてしまうが暗くなる前には何とか到着できるかどうかかな?
馬車に乗ってきたそうだ、探索に必要な荷物も入っていると言っていたけど具体的なことまで聞いている余裕は無かった。
シーテさん曰く、チーム毎に色々考えて準備しているそう。
シーテさんの探索魔術に数人の集団が研究所から少し離れた場所に居ることを見つけた。
場所としては、遺跡が見つかった場所と研究所の中間付近で、街道から少し森に入った所になる。
水場もあって、長期間潜伏することが出来る場所、詳細地図に書かれているね。
距離が遠いから、私の遠隔視覚でも確認できないけど、様子から私の護衛に来ている視察団チームだろうとのこと。
翌日、コウの町経由で連絡があった、視察団チームでした。
事前に連絡をして欲しかった、迎撃の準備を始めてたからね。
翌日。
目に隈を着けたフォスさんが資料をまとめてきた。
うん、寝ようね。
「マイ様、一般公開されている情報だけですが、判ったことがあります」
うん、張り切って貰っているけど、何だろうこの意気込みは。
「何が判ったんですか?」
教科書に載っているような情報では遺跡の情報なんてわからないと思うんだけど。
シーテさんも業務を始める準備を止めて、フォスさんが持ってきた資料を覗き込む。
「具体的な史実は見つかりませんでした、当然ながらコウの町の前身となる要塞都市についての記述は無かったので」
少し、シュンとなる。
それでも何か成果があったから報告してきたんだよね。
「コウの町の前進となった、要塞都市ですが戦略的にも地政学的にも重要とは思えない位置にあるんです。
それが気になって調べたんですが、どうも何かの重要施設を守るためにあったと推測できるんです。
当時、そうとうな人財が投入されていた記録がありました。
コウシャン領が未だ1つの国として存在していた頃にその施設があったおかげで周辺の諸国より優位な立場で有り、そして狙われ、戦争も多かったようです。
……というのは公式の史実から推測できるのですが、確証となる物は当然というかありませんので、間違っているかもしれません」
顔を上げたフォスさんが私達を見て不思議そうに問う。
「どうかされたんですか?」
そう、私とシーテさんは、その事から改良されたダンジョンコア、そしてそれが引き起こした空のダンジョン、魔物の氾濫を知っている。
北の村の地下から出土した、関連が無いはずが無い。
「い、いえ何も。
興味深い話です、しかし、現状を見るにコウの町に今その施設は無いはずですね。
500年前の戦いで喪失したと考えるのが妥当でしょう。
それと、今回の遺跡との関連はどうですか?」
私は動揺を何とか隠しながらフォスさんに聞いた、今回はそれが重要だ。
「あの、コウシャン領が国だった頃、国が建国された経緯は書かれていたんですが、それ以前の歴史は不明なんです。
先住民が居たらしくその人達を取り込むことで建国したとありましたから」
「その先住民については?」
シーテさんが顎を手で撫でながら考え込んでいる、何だろう?
「判りません、少なくても現在民族として存在していません。
遺跡もその先住民族が作ったという記録も無いです、領都の学術図書館なら詳しく研究した資料が有るかもしれませんが」
言い終わったのだろう、私達の反応を待ってソワソワしているフォスさんは確かに有能だ。
貴族の子供が普通に入手できる書籍だけでここまでの推測をして見せたんだ。
「十分過ぎる情報です。
宰相に調査の依頼を出しましょう、領都でも調査をしている可能性がありますしね。
私達ではここまで考えが及びませんでした、フォスが来てくれて良かったです」
私が本当に感謝して言う。
私とシーテさんだと目の前の問題に対して対応するのに精一杯になってしまうだろう。
遺跡が依然として不明なのは気になるけど、遺跡があるからこそ要塞都市が造られた、そういう見方も出来る。
「ひ、ひゃい、ありがとうございます」
顔を真っ赤にして、からがを小さくする。
うーん、最初の頃のクールな雰囲気は大分無くなってきたなぁ
普段も雑談を少しだけどするようになってきた、まだ遠慮が見えるけど。
「クスクス。
兎も角、判断材料が増えたのは嬉しいわね。
今の所は、何も判らなかったから」
シーテさんが笑いかけている。
以前から持っていた、領主様や宰相様からの
判断材料が増えた、と言ってもやれることが増えるわけじゃ無い。
領都へ問い合わせても返信が来る頃には、初回の遺跡探索は終了しているだろう。
遺跡探索は1回で済むものじゃ無い、中に何が有るか大体の見当が付いたところで、学術的な調査に入るのか、それとも魔道具などの遺物を回収調査に入るのか、方針を決めて更に探索する要因を選定する。
当然、遺跡内の全てを探索して地図を作る必要も有るし、数年単位の作業になるはずだ。
ここで、区切りを付けるために お茶にする。
執務室に備え付けの小さい給湯設備でお茶を入れる。
お湯を出すような魔道具は研究所にはないので、シーテさんが基礎魔法を使って水を直接沸騰させる。
フォスさんがお湯が入ったポットを受け取って、手慣れた感じでお茶を入れる。
雑談中に聞いたんだけど、貴族でも簡単な料理やお茶を入れるのは嗜みとして覚えるそうだ。
周りが信用できない時などは食事を自分で用意する必要が有るからだとか。
形骸化した風習らしくて、今は料理を全くしない人も多い、フォスさんもここに来るまではそうだった。
応接セットの椅子に移動して、入れてくれたお茶を飲んで、少し考えをまとめる。
懸念点は、遺跡探索の視察団チームが言っていた、非合法な手段も行う可能性がある探索者と呼ばれる人達か。
私に関わる可能性は少ない、と思うけど、手段を選ばないのであれば襲撃の可能性はある。
私やシーテさんの戦闘力に関しては箝口令ほどでは無いけど広めることは禁止されている。
だから、戦える事を知っているのは、たぶんコウの町では守衛と一部の町の管理者、位かな?
非戦闘職である時空魔導師を拉致したりする危険はあるのだろう。
明日から、守衛の数が4人が常に警備するようになるのも、その一環だと思う。
もっとも、そんな事をしたら領だけじゃ無い国からも反逆行為と取られるので、やらないと思うのだけどね。
もう一度、コウの町について思い出す。
約500年前の魔物の氾濫の時、要塞都市として存在していた。
そして、その要塞毎、何らかの攻撃で消失した。
コウの町の地下は北側に浄水施設、南側に下水処理施設があるだけで、町の中央には何も無いという。
こればっかりは不明だ、ただ、探索魔術で魔力的な何かが無い事だけは確認済みだ。
フォスさんが推測した、重要施設を守るため、だとしてそれが消失した施設なのか、または何処かに隠されているのか。
今回の遺跡は、第一報の報告を詠む限り、1,000年以上前と推定しているらしい。
知っている歴史上、1,000年前に魔石による産業革命が起きた、それ以前は今のように馬や牛、水力・風力などが動力の中心であったらしいから、複雑な魔道具がある可能性は低いはず。
窓を見て、開けてある窓越しに遠くに山々が見える。
予定通りなら、遺跡探索が明日明後日には開始されるはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます