第334話 目覚「探索者」

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 先触れが来た。

 領都から視察団チームが訪問するとのことだ。

 また、宰相様からの書簡も届いた。


 ギムさんからの情報と一致する。

 領主様は、この遺跡に注目して其相応の人員を動かしているとのことだ。

 コウの町からは、あれから遺跡に関する連絡は無い。

 研究所には常に2頭の馬が居るようになり、研究所への備蓄品も追加で増やしている。


「ギムからの連絡だと、領軍も動かすようだけど、本当だと思う?」


 シーテさんが、研究室の中で研究中の魔術のデータをまとめながら聞いてきた。

 なおフォスさんはナカオさんと台所でお菓子を作ってる。


「宰相様からの手紙だと、一般部隊を展開させるようですね。

 東の村と東の町の間に演習か巡回の目的で駐留するそうです。

 これは、東の町に経済的な恩恵を出す目的もあると書いてありますね、コウの町の依存性が低くなって焦っているそうです」


「変なことを考えないように、か。

 マイちゃんに手を出すより、領都と直接関係を持てた方がいいもんね」


 フッ、と肩をすくめるシーテさん。

 東の町の支配階級の人達が何を考えているのかは判らない。

 ただ、今までの間にかなりの中間搾取をしていた事から、コウの町との関係は余り良いとは言えない。


「兎も角、私には”無闇に関わるな”と。

 危険性が無い事が判って、輸送する必要が出て来た時に力を借りる可能性があるそうです。

 私の収納容量は少ないことになっていますからね」


「なるほどね、魔道具や精密な遺物なら、マイちゃんの出番という訳か。

 っと、どうやら来たみたいね」


 シーテさんの探索魔術に引っかかったのだろう。

 私も探索魔術を行使してみるけど、うん研究所から門の所までは指向性を持たせてもハッキリ判らない。

 今回来る視察団チームは、遺跡の探索を行うチームとのことだ。

 シーテさんに聞いたけど、知らないチームとのこと。


 何時の間にか応対の準備を終わらせたナカオさんが私達を呼びに来て、フォスさんが視察団チームを応接室に案内している。

 私も身なりをそれなりに整えて貰って、シーテさんを伴って応接室に行く。



 入り口で待機していたフォスさんが、扉を叩いて先に入室する。


「マイ様が来られました。

 宜しいですか?」


 中の人達が動く気配がする。


「マイ様、どうぞ」


 フォスさんに促されて入室する。

 そこには6人の冒険者チームの服装をした視察団チームの人達が礼をして向かえてくれた。


 男性3人、女性3人のチームだ。

 確か、宰相様からの手紙だと。

 中心で剣士風の女性がリーダーのミサ、大型の剣を使う剣士。

 体格がしっかりしていて女性らしい装飾を見なければ男性か女性か分かり難い。

 その横に副リーダーのユト、盾を中心に槌鉾 鉄製の棍棒を使用する。

 ミサとちがい理性的な印象がある。

 前席にいるのその2人。

 後ろの席で4人が立っている。

 リンタ、剣と弓を使う遊撃で探索の中心らしい。

 ヨーチ、珍しい魔法剣士を名乗っている。

 アオ、魔法使いで火・風・水を使う実用的にバランスの良い魔法使いだ。

 シオ、薬師でこれも珍しい、聖属性の魔法使いが居ない代りの回復担当だろう。


 礼をしているが、義務的な感じが強い。

 ま、私達だって義務的に面会している様な物だから文句言えないか。


「任務ご苦労様です」


 私が一言、ねぎらいの言葉を掛ける。

 それと、この一言で彼らは私と話して良い許可を得たことになる。

 目上の人に対して言葉を掛けるためには、目上から一言 発言の許可となる言葉が必要になるそうだ。

 面倒くさい貴族のマナーだけとね。


「さ、座って楽にして下さい」


 私が座り、その横にシーテさんが座る。

 そして、シーテさんが視察団チームに話しかける、基本的にはシーテさんかフォスさんが対応することになっている。

 座っている間にナカオさんがお茶を入れてくれる。


「視察団 風情に魔導師様が直接お会いになって下さるとは思いませんでしたよ」


 ミサがニヤリという感じの笑い顔で低調な言い回しだけど挑発的な言葉で話す。

 知らないのかな? シーテさんは元視察団なの。

 フォスさんの表情が険しくなる、貴族位を持つ彼女からすれば、十分に暴言と受け取るだろうね。


「私が魔導師に成るまえ、視察団の方々に鍛えられた、知りませんでしたか?」


 挑発的な言葉に挑発と取れるように言い返してみる。

 私は実戦でも戦えますよと言う意味を含ませている。

 ミサが獰猛と言っても良いような笑い側を作る。

 シーテさんの体内の魔力が練り上がるのが判る、フォスさんも腰にある短剣に手を掛けた。


 私は心配していない、だってこういう態度を取る人達は兵士にも沢山居た。

 別に私は彼らの上位指揮権を持っていない、だから何か指示する必要は無い。

 だから、私は静かに見つめ返す。

 確かに強そうだ、だけとギムさんやドウさんの方が頭二つは強い。

 もちろんだけど、ギムさんやドウさんの剣士としての実力がずば抜けて強いんだけどね。

 ただ、チーム全体としての力量はどうだろうか?

 雰囲気だけでは私には判らないけど、視察団チームである以上、弱いわけが無い。


 少しの間、ミサと私が見つめ合う。

 ミサが驚いたように目が開かれ、そしてフッ、とミサの目から威圧感が無くなると、丁重なお辞儀をした。


「大変失礼しました。

 魔導師マイ様、宰相様より聞き及んでいましたが、それ以上でした。

 我ら一同、ご指示があれば全力で答えましょう」


 今度は私が驚く。

 少なくても今回の遺跡に関しては、私から関わる権限が無い。

 その私に指示を仰ぐというのは異例だ。

 それに驚いているのは、私だけじゃ無い、ミサのチームのメンバーも驚いている。

 シーテさんとフォスさんは何か考え込んでいるようだ。

 ところで、宰相様、私の事を何て伝えたんだろう?


「ミサ、これは宰相からの指示ですか?」


 少なくても宰相様からの書簡には配置される視察団チーム3つに関わって欲しいように読める内容は無かった。

 緊急時には町を無視して脱出するようには書かれていた、この事だろうか?


「いいえ、私達のチームは遺跡探索に注力するように言われています。

 他のチームは、場合によっては魔導師様を脱出させるために行動するはずです」


「という事は、宰相様は遺跡の危険性がそれなりに高いと考えているのでしょうか?」


 フォスさんが言う。

 シーテさんも小さく頷く事から同じ事を考えているのだろう。


「遺跡に関しては、領都でも記録が見つかっていません。

 危険度に関しては不明でしょう。

 だからこそ、不測の事態を懸念されています。

 詳細は知らされていませんが、東の村から出るところまで無事にお連れできたら、万全な迎えが来ているはずだと。

 私達チームは遺跡探索を行いますが、力になれることがあれば、お使い下さい」


 遺跡に関しては、書簡でも不明としか書かれていない。

 どれだけ危険かもしれないかは、シーテさんから聞かされている。

 領軍を動かすことは聞いていたけど、一般部隊では無いのかもしれない。

 もしくは、馬を代えながら速度優先での移動を考えているのか。

 ただ、危険と言っても遺跡の外にまで影響する事はあり得るのだろうか?


 そして、ミサに気に入られたようだ。

 力を借りるようなことは無いと思うけど、心強い。


「協力感謝します。

 少なくても、遺跡が原因で周辺に影響が出たという話は聞いていませんし、体験したことも無いですね」


 シーテさんが補足してくれる。

 シーテさんが元視察団のチームであり、そして廃棄都市や遺跡を専門とする冒険者だったことは知っているはず。

 ミサも特に何も言わないで聞き流している。


 ここは、宰相様が慎重に慎重を重ねてきた、で良いかな?


 そこにフォスさんが、少し恐縮しながら割り込む。


「その、未確認の情報です。

 探索者と呼ばれる者がコウの町へ侵入したらしいとのことです」


 この言葉を聞いてシーテさんがこめかみを押さえる。

 ミサやその他のメンバーも溜息やら天井を見上げてる。

 なんなんだろう?


「探索者とは?」


 私の問いにミサが答える。


「遺跡や廃棄都市を専門にしている盗掘者ですね。

 探索者と言っていますが、職業でも無いです。

 冒険者で専門にしている者も居ます、しかし、冒険者ギルドで管理しています。

 探索者は自己責任で勝手に行っています、得られた魔道具などは内密に欲しがる貴族も多いです。

 また、許可しない限りギルドに買い取りが義務づけられている冒険者では魔道具の所持が出来ないですから」


「そ、後は探索者と言っても普段は普通の冒険者として活動しているわ。

 人工ダンジョンに行くのも普段はギルドを通しているの。

 ただ、価値のある物を見つけたら、それを報告しないで非合法に所持または売買しているのね。

 探索者と名乗っているのは、ただの自己満足の格好付け」


 シーテさんが付け加える。

 多少、侮蔑の雰囲気を漂わせている。


 人工ダンジョン、遺跡や廃墟で発見された魔道具を含む遺物はギルドに報告する義務がある。

 その上で、協議して所有するのかギルド(経由で領主)が購入するのかが決まる。

 事実上、ギルドの意思の方が優先されるのは仕方が無い。

 そして所有していたとしても、それを勝手に売ることも出来ない。

 それはギムさん達が持っていた、冒険者の頃に入手した魔道具の武具が、視察団チームを辞める時に領軍へ買い取られたのが良い例だ。


 私は、この国の裏の面を詳しく知らない。

 盗賊が存在する、政治体制に反対する思想を持つ集団が居る、場合によっては町や都市規模での反逆もある。

 それは辺境師団に居た頃に知っていたが、それだけだ、なぜ存在しているのか、どんな組織なのか判らない。

 探索者もそういう国の枷に繋がれているのを嫌っている人達なんだろうか。


 兎も角、不安要素が増えた。

 話を聞く限り、普段は冒険者として活動している、が活動から監視対象になっているのだろう。

 視察団チームのほとんどが冒険者として活動している理由の一つのようだし。

 それでも探索者が私を攻撃する可能性は低い、研究所にある魔道具は明かりを灯す魔道具と水を浄化する魔道具。

 どちらも領都で生産された、高価ではあるが貴族は普通に持っていて貴重では無い。

 それ以外に、貴重なのは書籍ぐらいか、これも高価ではあるけど貴重では無い。

 余り心配する必要は無いかな。






 私が、気を抜いたのを見て、シーテさんが心配そうに私を見る。


「マイ様、探索者は非合法なことをする者達です。

 この研究所で一番貴重なのは、時空魔導師にして非戦闘職のマイ様であることを心にとめて下さい」


 あ、私が一番貴重?

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