第332話 目覚「冒険者たち」
0332_23-08_目覚「冒険者たち」
ダンジョン。
改めてダンジョンには2種類有る。
1つは遺跡や廃墟、人工ダンジョンと言われる物。
そして、もう1つが自然発生するダンジョン、通常ダンジョンというとこっちだね。
後者は、放置すると中から魔物が発生するので国として発見次第、踏破して奥のダンジョンコアを取り除く事を求められている。
ダンジョンコアが無くなったダンジョンは消滅する。
だからこそ不思議だ。
ダンジョンが見つかったのなら、直ぐに冒険者が攻略するために依頼が出て動く。
それにダンジョンの後を調査するため視察団も来るはずだ。
だから此処で聞く報告はダンジョンが見つかった、では無くダンジョンが発生して処理された、だ。
私がいぶかしんでフォスさんを見る。
「はい、人工ダンジョンと区分される物が見つかったそうです。
資料では古すぎて時代を特定できない、また、冒険者の侵入も現在禁止しているようですね」
私はシーテさんを見る。
多分同じ懸念を持っている。
そう、コウの町の北側、北の村は改良されたダンジョンコアが埋められていた。
コウの町 自体が要塞都市の跡地を再利用された場所だ。
そして、町の丘より上にあった施設は何らかの攻撃で完全に消滅していて、どんな用途で使われていた要塞都市なのかは記録に残っていない。
コウの町とその四方にある砦跡を利用した村の範囲にある場所で見つかった人工ダンジョン、何かある可能性は捨てきれない。
だからこそ、不用意な事をされないように町は侵入を禁止しているのだろう。
「この事を知っている人は?」
「ええと、町長と発見した作業員、その関係者だけで箝口令をしいているそうです。
領都へ確認の早馬を出しているそうです。
マイ様へも報告が行く予定でしたが、ちょうど町へ来ていたので私へ連絡が回ってきました」
時間的にまだ何もしていない、入り口を守衛に封鎖させているだけだろう。
そして、町長のコウさんは改良されたダンジョンコアが前回の魔物の氾濫の原因になっている事を知っている。
だからこそ慎重になっている。
現在、人工ダンジョンを専門にしている冒険者は少ない。
単純に簡単に行ける所の遺跡や廃墟が取り尽くされてしまい、行っても収穫が無いからだ。
そういう意味では、ギムさんたちのように人が簡単に行けない場所の遺跡を専門にしていた冒険者は貴重だったんだろう。
さてと、こまった。
フォスさんは、前回の魔物の氾濫の事について、公的に公開されている情報しかしらない。
改良されたダンジョンコアの事は上位貴族しか知らない。
それに伴い、空のダンジョンの発生や黒い雫の発生要因なども、あくまでも自然現象という事になっている。
知っているのは、この事に関わった人たちだけだ。
シーテさんは兎も角、私は知らないはずの事になる。
私は魔導師なので貴族位として知る事が出来る立場には居る、けど公開された情報しか宰相から教えて貰っていない。
なのでフォスさんと私が知っている事は同じという事になる。
「マイ様、もし町から正式に調査依頼が来たら対応するか検討しましょう。
現状は情報収集するだけで良いかと」
シーテさんが考えながら、ちらりと給仕の女性を見ながら言う。
私達が話した事を、町長に報告する可能性は無くは無いから。
「あの、人工ダンジョンはただの遺跡ではないのですか?
何か重要な遺物があるのでしょうか?」
フォスさんが、私とシーテさんが深刻にしているのに動揺している。
まぁ、この問題を知っていなければ、ただ古い遺跡が見つかっただけだしね。
それに町としても慎重な対応をしている事に気が付いてるのだろう。
改良されたダンジョンコア、これはただ単に無差別に地中に埋められていたのだろうか?
否だ。
改良されている以上、人為的な加工がされている。
それを何の理由も目的も無く埋める事は考えにくい、なら何でになる。
この事に関しての検討は、当時行われていないし私が知っている範囲では行っているとは聞いていない、けど支配階級が行っていないはずが無い。
コウの町の前身となる要塞都市、軍事的に地政学的に特に重要でも無いこの場所に作られた理由。
そして要塞都市が消滅するほどの攻撃を受けていた事実。
要塞都市には重要な何かがあった、と考えるのが妥当だ。
それも人工的に空中にダンジョンのような物を作り出す為の要素の1つに関して。
改良されたダンジョンコア、あれで完成品であるのなら、使用目的が判らない、だから恐らく要素の1つ、中核となる部品なのかもしれない。
そして、今回発見された人工ダンジョン。
これと、要塞都市や改良されたダンジョンコアとの関連性は全く不明だけど、無関係と断じるわけにもいかない。
だからこその立ち入り禁止のうえ封鎖をしているのだろうし、少なくても町長はその危険性を理解している。
私はフォスさんに作り笑いとは判っているけど無理に笑って返答した。
「何があるのか判らない、だからこそ町は慎重になっているのでしょうね。
記録上、コウの町の周辺に遺跡があるという話は聞いていなかったですし」
「は、はあ」
キョトンと不思議そうな顔をしているフォスさんを見ながら、今後の展開を想定していた。
■■■■
採石場での事故は、死者0人、重軽傷者が12人。
うち、重篤な障害が残って働け成ってしまった人が2人。
この報告書を研究所の執務室でフォスさんから聞いた。
コウの町への魔法教室の見学から数日。
私達は通常の生活に戻っている。
今の報告書も町から定時連絡として送られてきた中にある情報の1つだ。
そして、町長の封印がされた手紙が1通。
それを開ける。
中は人工ダンジョンの調査についてだ。
「マイ様、何が書かれているのでしょうか?」
「人工ダンジョンについてですね、一般には非公開情報になるので、守衛やナカオさんに伝わらないように注意して下さい。
内部調査を行う為の冒険者の選定が終わり、近日中に入るそうです。
ええと、オルキがリーダーを勤めるチームとブラウンが率いる守衛の部隊、あと遺跡調査経験のある視察団チームが1つ来るそうです。
後方支援にマイトのチームが中心として入り口付近の探索。
守衛の部隊が入り口付近に簡易拠点を作り後方支援をする。
とありますね」
オルキさん、クルキおじさんの息子で、コウの町では1,2を争う実力のあるチームを率いている。
ブラウンさんは、ギムさんのチームで人工ダンジョンの探索をしていた元冒険者だ、ただ率いる守衛は経験が無い。
おそらく主力は経験があり現役の視察団チームなんだろうね。
後方支援にマイトのチームが選ばれたのは驚いた。
この数年で実力を伸ばし、コウの町では知らない人が居ないほどの冒険者チームなのだそう。
私へは、もしもの時に備えて欲しい、とだけあった。
少し悩む。
これは魔物が発生したりして戦力が不足した時に応援を期待しているのか。
不測の事態の際に、領都へ避難して欲しいのか。
文面からは何方にも取れる内容だ、此方に判断を任せたのだろうね。
少し嫌らしいやり方だ。
人材の配置から戦力を想定してみる。
後方支援部隊の規模まで書かれていたので、その内容から類推できる。
私が補給部隊に居た経験からだと、先行して強行偵察するチームが2つ、その後ろで周囲の安全を確保するチームが5つ以上、また、遺跡周辺を巡回するのに3チーム以上、支援施設を警備するのに3チーム以上。
遺跡の探索がどの程度ものかは判らないけど、かなり慎重に編成されているように感じる。
人材は足りるのだろうか?
今のコウの町の冒険者や守衛の状況は、魔物の氾濫の為に経験豊かな人材が不足している。
コウの町だけじゃ無い、トサホウ王国 全体の問題だと思う。
それでも6年も経てば若かった人達が主力として活躍するようになっているので、今後は人材不足も解消されていくと良いのだけど、そう簡単にはいかない。
懸念として、慢性的に人材不足な領都や都市が有力な人材を引き抜いてしまうことかな。
上位の支配階級から要請されれば断るのは難しい。
定期的に来る領軍の巡回も人材発掘の側面があるし、王国軍である辺境師団が各地の領を巡回しているのも同様だ、優秀な人材は何処も喉から欲しがっている。
「これは、どう判断しましょうか?」
フォスさんの言葉で我に返る。
そうだ、私達の行動指針を決めないと。
「マイ様。
遺跡への接近は避けるべきだと」
シーテさんが考え込んで言う。
シーテさんは遺跡探索をしていた経験がある、その経験からだろうか。
「マイ様の収納爆発を含む魔術は閉所での使用をするには向いていません。
遺跡内に魔物が居る可能性は低いですが、町の対応を見る限り内部に何かあると判断しています。
ならば研究所に留まって、必要に応じて柔軟に対応できるようにしておいたほうが良いでしょう」
「シーテ様、それはマイ様を待避させるという事ですか?
町へそれとも領都へ?
遺跡へ行くことに関しては私も反対します」
「どっちもよ。
馬車が直ぐに出せるように手配をお願い。
で、良いでしょうか?」
少し逡巡してしまったが、これと言って良い案があるわけじゃなかったのでシーテさんの暗に同意した。
「ええ、お願いします」
遺跡についても教えて貰おう。
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