第331話 目覚「高等教育」
0331_23-07_目覚「高等教育」
魔法教室に午後に残っている生徒の意欲は高い。
ほんと、ビックリするぐらい取り組んでいるよ。
魔法教室 自体は領から開設を推奨されては居るけど、運用費は町の資金から出されている。
町としては、魔術師を増やすよりも町に有益な魔法使いを増やしたい思惑がある。
それは才能が有る有用な魔法使いや魔術師は領や領軍などに召喚されてしまうから、どうしても町に残るのは微妙な能力だったり、第一線を退いた使い手が主になる。
領としても当然だけど町や村に使える魔法使いや魔術師を派遣できないので自分達で何とかして欲しいという思惑があるのだろうね。
その辺は、今度 領都に行ったときに宰相様に聞いてみよう。
で、だからこそ、魔法教室に居る生徒は既に町に生活基盤が出来ている成人が主になっている。
午後に残っているのも、魔法学校への進学より町に留まる事を望んでいる人達だ。
実力的にも、残念だけど年齢の不利を加味して入学は難しい。
魔法学校の入学条件は、基本的に才能が第一で次が未成年であること。
例外は認められているけど、私が知っている限り成人した人が入学したことは無い。
午後は、実技が中心になる、午前中だけの生徒と学習の差が出ないようにするためかな。
私達も見学する事になった、午後 訪問予定の教会の病院が事故の怪我人対応のため中止になったからだ。
事故は、町から北にある採石場跡で、前回の魔物の反乱の時に崩れた岩から採石し運搬する際に発生したそうだ。
救助も町への搬送も既に実施中で助力は不要とのこと。
「是非、実技をシーテ様に見て頂きたいです」
以前、シーテさんの指導を受けていたであろう男性が申し出る。
シーテさんが軽く頷いた。
そして魔法が行使される。
場所は町の中にある教会の広場だから強力な魔法では無いけど、美しい赤い炎の魔法が的に向かって飛んでいく。
的が一瞬で燃え上がり、焼け炭になっていく。
他の生徒たちも感心している。
だけど、シーテさんの表情は硬い。
それはそうだ、助手として時空魔術研究所に来てから、大きく伸びている。
私の魔術師より上位の魔導師になるために身に付けた知識と技術を、私以上の実技と組み合わせて身に付けている。
個人的には、魔術の行使だけなら魔導師になる資格があるんじゃないかと思う、本人は興味が無い様子だけど。
「どうでしょうか?
以前教えを頂いた時よりも威力も速度も上がっています、実戦に十分使えます!」
以前どの程度の能力があったのかは知らない。
彼もシーテさんの表情に気が付いたのか、困惑している。
「確かに上達していますね。
しかし、炎の温度は変わっているように見えません。
今行使した魔法の目的は何ですか?」
「え、火属性の炎を出して飛ばして、的を燃やすのが目的でしょうか、それ以外に何があるのでしょう?」
魔法使いとしては正しい。
魔法使い、魔法学校で基礎魔法を習得できなかった人は、炎を木が燃える程度のイメージしか出来ない。
そして、なぜか空中に浮かべて飛ばせると思い込んでいる。
魔法は曖昧で柔軟性が有る、強みでもあるけど出来る範囲が曖昧だ。
今回の、的を燃やすのでも、炎の温度が高ければ一瞬で炭化させたり燃え尽くす事も可能だし、範囲を限定できれば的の中心だけを燃やして穴をあけることだって出来る。
その物理現象を理解できると、明確で確立した魔術を行使出来る。
私は小声でシーテさんに話しかける。
「シーテさん、私達の常識は一旦忘れて下さい」
ハッとなるシーテさん。
シーテさんは割と自分を基準にして考える傾向がある、ただ、それで他人を軽んじたりしないのだけど、魔術に関しては例外みたいだね。
「失礼。
目的を より明確にした方が魔法の効果が出ます。
頑張って下さい」
「はい、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる男性。
でも、その少し困惑した表情のままだ。
「あの、今後の方針について指導して頂けると……」
この言葉が話題にしてはいけない事に気が付いたか、尻すぼりになる。
教師がハラハラしている。
当然だけど、ここに居る生徒は身の程をわきまえることを理解している、この言葉も昔の癖だろう。
そこに状況を理解できずに居た、フォスさんが不思議そうに男性に聞く。
「あの、なんで魔導師様から送られた教科書を使おうと思わないのですか?
基礎魔法の基本に関しては記載されていると聞いていますが」
その場に居た人達が我に返る。
うん、そうだったよ、今回持ってきた教科書には基礎魔法の基本に関わる部分が書かれている。
そして、基礎魔法は行使する魔法の効果を目的に合わせて明確化するための知識が書かれているんだった。
私も忘れてた。
「フォスは中を読んでいるんですか?」
確か、フォスさんは魔法学校の1年目が終わる頃に貴族院に転校している。
1組だったとして、基礎魔法の学習はしているはずだ。
ん?
確か、初等教育と中等教育のノートを未完成ながらフォスさんは作っていた、貴族の子供ならわざわざ作る必要は無かったはず、何でだろう?
「そうでした、今回、領主様と魔導師様から下賜して下さった教科書があれば、皆 より良い魔法使いになれるでしょう!」
教師がやや芝居掛かった口調で周囲の人に聞こえる声で話す。
教科書の内容を理解して教えることが出来るのが、おそらくだけど私かフォスさんだけだ。
シーテさんは教えることが出来るほど深く理解できていない。
この事を理解している人は、私だけだろうか?
不安になり、フォスさんを見ると特に気にした様子も無い。
私の視線に気が付いたフォスさんが、軽く頭を下げて小声で私とシーテさんに聞こえるように言ってくれた。
「教育に関しては、教会の高等教育を教えることが出来る人が担当すれば良いかと」
「大丈夫なのですか?」
「はい、基礎魔法の大部分は、高等教育の中の物理化学や理数に関する所とほぼ同じです。
魔法を行使するのに対して魔術的な行使をする部分が有るか無いかの違いと以前聞かされました」
おお~。
小声が周りが静かにしていたせいで全員に聞かれていた。
周囲の、私もう含めて全員がフォスさんを見つめている。
視線に気が付いたフォスさんが、真っ赤になって狼狽えている。
最初の頃の人形の様だったのと比べると別人のようだ。
高等教育、基本的に大学院か貴族院に進学する生徒が履修する所で、私も存在しか知らない。
魔法学校での魔術師に成るための授業は高等教育やより専門性の高い教育から必要な箇所を抜き出している。
どれをどのように抜き出しているのかは判らない。
これを行うのは、領都で選抜された魔術師を教育する人たちが行っているらしい。
フォスさんは貴族院で高等教育と貴族としての教育を受けている。
専門分野以外の高等教育に関しては、おそくらコウの町では一番なのかもね。
「では、基礎魔法の教育に関しては教科書を中心に。
不明点に関しては、フォス経由で領都の魔法学校に問い合わせる、で」
「あ、はい畏まりました」
「ええ、是非お願いします」
フォスさんの立場は文官だ、だから教育を行うことは業務上出来ない、が、問い合わせに関して回答できる事に関しては裁量の範囲で行える。
領都に問い合わせをしていたら、日数が掛かりすぎて章が無い。 フォスさんが回答できるのならしてしまうのが普通だ。
町としては、シーテさんに変わる教師を手に入れた形になる。
むろん、正式な教師じゃ無いから絶対じゃ無いけど、私やシーテさんが教えることが出来ないので次善策だ。
ただ、フォスさんの負担が大きくなるようなら考えないと。
「マイ様、私は魔法教室の教師になるということですか?」
「いえ、あくまでも領都の魔法学校との橋渡しです。
ただ、フォスが回答できる内容なら回答してしまって構いません。
仕事を増やしてしまいましたね」
「いえ、今は十分に余裕があるので問題ないです」
ポリポリと頬をかきながら小さく笑う。
これは、最近まで仕事以外では引きこもっていたからかな?
ちょっとした表情が普段との落差で可愛い。
その後、町長の館で夕食を取る。
私達への負担を考慮して、町の養殖の人たちを招かず、私達だけで食事になった。
探察魔術を行使しても、給仕を行っている女性以外は反応が無い。
食事も良い所の食材を使っているけど、コウの町で一般的に食べられている料理だ。
牛肉のスープにサラダ、そして和え物とパン。
味付けの癖を覚えていないけど、町長の奧さんが作ったのかもしれないなぁ。
「マイ様、明日の予定ですが特になければ、このまま研究所へ戻ることになります」
フォスさんが手帳を見ながら確認する。
今日は教会の病院施設で医療体制の説明を受ける予定だったのが、事故で中止になった。
これが繰り越されて明日になるかと思ったけど、単純に中止みたい。
「事故についての情報は入ってる?」
シーテさんがフォスさんに尋ねる。
「はい、紙の資料ですが受け取っています。
昨日の夕方に、北の森を抜けた場所。
採石所の後で岩を砕石していた際に崩落が置き下に居た作業員が十数名巻き込まれたとのことです。
死者はまだ出ていませんが、重傷者が数名いるとのことで設備が整っている病院へ搬送されています。
炎と爆発系の魔法を行使した際に、軟弱になっていた崖の岩が崩れたようです」
記憶をたどる
北の山、昔の採石場跡を今の体になってから見に行った事がある。
建てに割れる特徴的な岩が戦いの後に大量に破砕されて散らばっていた。
砕石する技術が無く放棄されていた場所から石材を確保できるようになったのだから、町の事業として取れる岩を集めている。
今は、破砕しないといけないほど大きい岩が残されているだけらしい。
「それとダンジョンが見つかったらしいです」
フォスさんが最後に気になる事を言った。
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