第330話 目覚「魔法教室」

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「マイ様、どうしましょうか?」


 フォスさんの様子が変わってからしばらくして。

 執務室での業務中、困った顔をしてフォスさんが私に聞いてきた。

 コウの町との関係性は信頼と相互の利益を得ることにある。

 具体的には、研究所があることでコウの町はコウシャン領からの交付金が増える。

 コウの町は、この税金に加えて交付金から町や村の運営を行う、もちろん、研究所の警備や維持費も含まれている。

 研究所があることで、コウの町は他の町よりも格段に多くの事業費を得ている、そうだ、具体的な金額は知らないんだけど。


 その結果だけど、コウの町は今 公共事業ラッシュが続いている。

 特に力を入れているのが、出生率の向上を含む育児教育だそう。

 その一環として魔法使い、そして魔術師の素質のある子供の輩出にも力を入れてる。


 フォスさんが相談してきたのは、以前の面談の時に町長から上申があった魔法教室についてだ。

 魔導師の私は原則として魔導師の素質か魔術師として高い素質のある人に対してしか教育を行えない。

 そして、シーテさんもまた、魔導師の助手という立場から魔術師の素質のある人に対して教育を行う、立場になってしまっている。

 なので、それに届かない人を教育するというのは、高い素質があると誤った認定が付いてしまう。

 だからこそ、領都から基礎魔法を教えることが出来る教師の派遣を依頼しているのだけど、人材不足で実現していない。


「領都の魔法学校からの返答はどうでしたか?」


「教師として教えるのは問題があると。

 公式な形での教育は許可が出ていないそうです。

 あと、中古の教科書が数冊送られています」


 やっぱりかぁ。

 そうなると、非公式にやるしかない。

 シーテさんが先に口を開いた、私が話すわけには行かないから、かな。


「じゃ、授業では無く見学とかかな?

 こちらが見学と訪問とか教科書の譲渡に行くのがいいかな。

 で、懇談会という形で何かするとか」


 うん、これが適切かな?

 教会の訪問もしたことがあるから前例があるとも言える。

 ちょっと長い話し合いの場でも用意すれば良いだろうね。


「良いと思います。

 ただ、行う回数は考慮しないといけないですね。

 一度に行える人数にも制限が必要ですし、全員は無理でしょう。

 才能がある人物を厳選する必要があるのですが……」


「だれがどうやって選出するか、が問題ね。

 今のコウの町の魔法教室の教師は、魔術師の兄妹の2人と、魔法学校を2年目以降で退学した人が中心になって教えているわ。

 基礎魔法のを教える程度なら兎も角、評価まで行えるかは微妙かも」


 コウの町の教師は,以前シーテさんが筆頭で行っていた。

 魔術師の実力が大きく伸びたのも、シーテさんの影響が大きかったんだね。

 だからこそ、コウの町の町長は面談の際に上申という行為を行い、そして、フェスさん経由で問い合わせが続いている。


「マイ様、では授業を見学する方向でコウの町と調整します。

 人数も有望な人員に限定するように。

 回数は、今回は決めずに見学を行った結果で今後調整して決めると。

 こんな感じで良いでしょうか?」


「いいんじゃない」


「ええ、フォスそれでよろしく」


「はい!」


 フォスさんが、力強く返事をした



■■■■



 数日が経過した。

 今日から魔法学校を含む幾つかの施設を訪問します。


 こちらから具体案を出してから、コウの町の魔法教室に行く日程が決まるまでは、トントン拍子に進んでいった。

 たぶん、町の方でも待ち望んで焦れていたのかもしれないね。


 色々調整した結果、魔法教室だけでは不公平感が出るということで、慰問の様な形で幾つかの施設や町の要人との会食を行うことで決まった。

 やることが増えたのは、やるなぁコウさん、はぁ。


 移動は魔導師用の馬車。

 馬車を引くための馬は前日のうちに研究所に来ていて、守衛さんが世話をしてくれている。

 あと、馬車の整備のために町から技術者が来ているそうだけど、会うことは無かった。

 馬車は使っていなかったから、清掃するだけだと思ったら、色々と整備する必要があったらしいね。

 可動部の確認や油を付けるとか色々やっていた模様、これは支出の明細書で知ったけど内容は不明。


 コウの町から時空魔術研究所までの街道は石畳になるように工事が進んでいる、まだ途中なのは石材の不足、そして何より人材の不足による所が大きい。

 コウの町へ近づいて石畳の道に変わり、町が近いことが判る。

 窓から見ると、昔、東の森に行くための道が森に続いているのが見えるね。

 馬車の中には、6人掛けに私とシーテさん、フォスさんが居るのでユッタリとしている。


「ん?

 フォスはコウの町は始めてでしたか」


「はい、今日が初めてですね。

 行程の都合で研究所への赴任が先になりました。

 町長への挨拶を行う必要がありましたが、すいません、先日の面談で青あわせを行いました」


「フォスは文官で位としては町長より上ですから、特に問題ないでしょう。

 コウの町については理解していますか?」


「畜産を主産業とする町です。

 主に東側が農耕馬や農耕牛、山羊などを貸したり打ったり。

 南側が、食肉用の牛・羊・など肉や皮などに加工されているす。

 西側が林業、北側が農業で町や村で消費する分を生産、と主となる役割を分担しているのが特徴でしょうか?

 それと、魔物・巨人を倒したという英雄が居たと」


 英雄マイの名前をぼかしたのは意図的かな。

 研究所に来たときには、本当に何にも予備知識を持っていなかったので、数日のうちによく学んだと思う。

 その後、町の運慶状態など説明するフォスさんの几帳面さがよく判るね。


「コウの町は、食肉の加工、家畜の売買の商売を行うこと。

 各町の生産物の再分配を行うとか。

 各村を含む行政の中核をしていることね。 まぁ、これは常識だから抜けてしまっても仕方ないか」


 シーテさんが補足した、うん、私も一般常識だと思っ体から忘れてた。


「良いと思います。

 補足すると、何処の場所でも同じですが。

 中堅からベテランの戦える人が少なく、それに伴って、教育を行える人材不足による技術の継承問題がありますね。

 今回の魔法教室もその対応策で、領主様主導で行われています。

 魔術師と魔法使いは特に年齢に関係なく能力があれば戦ったようなので」


 コクコクと頷くフォスさん。

 領都だと人材不足に関してはあまり気にならないのかな?

 それとも貴族からしてみては、庶民は数でしか認識していないのかも。

 このへんの感覚は私には分からない。

 支配階級が人口を増やすために庶民の生活環境を整えている、という所ぐらいかな?


 そんなやり取りをしてているうちに、馬車は町長の館に到着した。


■■■■


 コウの町の魔法教室を立ち上げたのは約5年前。

 当時、視察団を退役してコウの町に移り住んだシーテさんに町長のコウさんが冒険者への依頼と言う形で行ったそうだ。

 ただ、当時のシーテさんは実践主体で理論は二の次だった。

 この伝統が引き継がれているかもしれないと、シーテさんから聞かされている。

 フォスさん経由でコウさんからは理論と知識を含む魔術師の素質のある子供の育成を期待しているとのことだ。


 実際に教室の様子を見学してみて、予想していた物と大きく異なっていた。


「ずいぶん、年齢差があるんですね」


 今 教えているのは魔法学校を退学した生徒。

 私の知らない人で年上だけど成人していない感じ。

 教わっているのは、まだ初等教育を始めたばかりの5歳位の子供から、40歳以上かな中高年の大人まで含まれている。

 男女も女性の方がやや多い。


「はい、魔力を使える素質がある者で、魔法を使えなかった者が一定数居ました。

 大人になってから魔法を学び始めた者が見つかった結果として、このような状況になってます」


 この魔法教室の責任者の男性が説明してくれている。

 魔法教室は、その生徒の理解度に応じて入門・初級・中級となっているそうだ。

 上級が無いのは、そこまでの実力があれば魔法学校への入学をしているからだそう。

 そして、此処のに居るのは中級の中でも選抜された5人。

 魔法の技術も魔法使いとしては実用的で有り、知識も基礎魔法の概要を理解しているそうだ。


 一通りの授業が終わる。

 これから私の教科書の授与式を行って、その後にシーテさんの授業の感想と講話を行う予定になっている。

 教科書の授与式は生徒の中で一番若い、4歳の子供が代表して受け取ったけど、うん、良く理解していない感じだ。

 本の価値とか知らないんだろうね。


 そして、今回のコウの町にとって本命、シーテさんの講話。

 教壇に立って、生徒を見渡すシーテさんは様になっているよ。


「久しぶりの人も初めての人もこんにちは。

 以前、魔法教室の前身の勉強会で見た人もいますね。

 現在、魔導師様の助手をしているシーテです。

 授業の様子を見させて貰いました、私が居なくても十分に学び成長しているのが判って嬉しいです」


 生徒から歓喜と落胆が見られる。

 シーテさんから褒められたのは嬉しいのだろう。

 と同時に今後はシーテさんの教えを受けることは無い事も示している。

 私の隣でシーテさんの言葉に落胆しているのは、魔法教室の総責任者の老人。

 魔法使いの中でも珍し行く理論派で少ない魔力量を自己流の技術で補い、この町で活躍してきた人だ。

 前回の魔物の氾濫では高齢のため町の防衛に当たっている後衛の魔法使いになる。

 属性は水と風らしい、今はほとんど使えなくなっているとのこと。

 年齢で魔法が使えなくなるというのは、ある。

 集中力や魔法を行使するためのイメージが難しくなる為で、魔力が尽きるという訳では無い。


 シーテさんの講話が続く、半分授業のようになっているが、これは黙認で。

 授業を見ている限り、魔法学校で2年から3年生になれる生徒の実力からは見劣りする感じがするね。

 特に、基礎魔法に関する理解力が不足している感じだ。

 それでも、中には魔法学校の生徒としてやっていけそうな人も居るよ。


 シーテさんの講話が終わる。

 今回は、実技の見学は無し、これは私の護衛の都合で安全管理が出来ないためだと言われた。

 魔法や魔術の攻撃を防ぐのには避けるのが一般的だ。

 対消滅させたり障壁を構築するのは、咄嗟に行うのは難易度が高く、その魔法・魔術を得意とする使い手以外は難しい。


 魔法教室の見学と一連の式が終わると、教会関係者との昼食になる。

 教育に関する管理者だけでなく、医療や育児・介護を行う人たちもいる。

 人数が多いので対応が慌ただしいけど、深い話をして区手済むのはありがたい。

 事前に此処で何か決めないし、口約束もしないとフォスさんが通達しているで、顔つなぎしたいという所だろう。






 午後、生徒は基本的に自分の家に帰り家業の手伝いをするか、副業を行う。

 だけど、余裕がある家庭や特に才能が有って来年度に魔法学校への入学を目指している、もしくは町で魔法使いとして更に盤石な立場を作りたい人は午後も残っていた。

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