第324話 魔導「エピローグ」

0324_22-11_魔導「エピローグ」


「ドウ、体の方はもう問題な無いな」


「はい」


 コウシャン領 領都の領軍の総指揮官の部屋、そこのに宰相と総指揮官が居る。

 そして、ドウが率いる視察団チームが召喚された。

 質実剛健な部屋の中、ドウ達は椅子に座って対応している。

 少なくても問責では無い事を示してはいるが、緊張で体がこわばっている。

 総指揮官の質問にドウは声を堅く返答した。


「お前達には、再度 廃棄都市に向かって貰う、良いな」


「はっ、目的は?」


「襲撃者との戦闘跡を調査せよ、特に魔導師様が戦ったところだ」


 ドウは困惑する。

 戦闘跡の調査は別の領軍の兵士か入って行っている。


「何か調査漏れがあるのでしょうか?」


「ああ、魔導師様の戦闘跡の調査は場所の特定が出来ず、行われていない。

 魔導師様からの報告では、魔術師シーテと協力して風属性の斬撃系魔術で倒した、とある。

 それを確認して貰いたい」


「了解しました」


「それとだ、ドウ」


 総指揮官がジッと見つめる。

 その目に幾つもの感情が静かに浮かぶ。


「この任務を最後に、お前達は除隊とする。

 任務中に安全を確保せずに護衛対象から離れるなど、資質に疑問がある。

 調査終了後、好きな場所に行くと良い」


「ありがとうございます」


 ドウは深く頭を下げる。

 それに合わせて、トウとシユも頭を下げる。

 名目上は処分だが、これは実力のあるドウたちを辞めさせるため方便だ。

 ドウは除隊処分を希望していた、それは事実だ、すでに2人の妻を危険に晒すのに耐えられなくなっている。

 限界を感じ、話し合い除隊を申し込んだ。

 総指揮官はそれを最大限配慮した結果として除隊を受け入れた。

 少なくても何処の都市でも町でも好待遇で迎えられるだろう。

 この調査も最後の任務を成功裏に終わらせたという実績を作るためだ、戦闘跡には特別の関心は無い。


「当然だが、魔導師様と襲撃者を含む任務に関しては箝口令を敷く、墓まで持って行け」


「はっ」




 ドウ達が退席した後、宰相がようやく口を開く。


「ふむ、前に総指揮官が私に直接報告を持ってきたときは何かと思ったが、何処から驚けば良いかわからなかったわ」


「宰相様、魔導師様に関してはそちらで。

 収納空間に入れる、というのは確かに貴重ですが軍としては使い所がありませんから。

 むしろ、魔術師シーテの能力を捨て置けないと思っていますが、正式に除隊させたのは失敗でした」


 総指揮官は、コウの町へ移り住んだギムが率いる元視察団チームに関心がある。

 魔術師シーテだけではない、聖属性魔術師ハリスも司祭長にまで昇格するほど強力な聖属性魔術を行使するそうだ。


「襲撃者についてお聞きしても?

 襲撃者の自白を加味するに、6年前の魔物の氾濫の原因が我が国にあり、その原因となる都市核を破壊するのが目的だった、という事ですが。

 何処まで信用して良いのか」


「情報を集めている。

 魔物の氾濫の原因が我が国にあったのは事実ではあるが、対外的には認めていない」


 魔物の氾濫は、帝国まで影響があったのだろうか? 情報は入ってきていない。

 商工業国家にも被害はあったという情報は無い。

 ただ、入ってきていないだけなのか?


「はっ。

 それとです、襲撃があった場所をまとめました」


 宰相が今更と眉を歪め、渡された資料を見る。

 暫く見て、奇妙な違和感を感じた。


「500年前の都市や施設、これを帝国が知ってる可能性は自白で判っている。

 が、なぜこうも”満遍なく”襲撃されている?」


「はい、トサホウ王国の東部、その500年前からある都市や施設に満遍なくです。

 侵入から襲撃まで5年の時間を掛けたとしても、不可解です」


「……内通者、協力者、か?

 それも大規模な」


「かもしれません」


 襲撃者がいかに能力が高くとも、地理的要因や重要度である程度の偏りは出るはずだ。

 それが無い、つまるところトサホウ王国の国内に協力者が居るということだ。


「だが、いったい幾つの領が被害を受けたと思う?

 こんなに広い範囲の幾つもの領に関われる者など居るのか」


 宰相の言葉に総指揮官は静かに、1つの可能性を話した。


「王国軍 東方辺境師団ならば可能かと」


「ばかな!」


 宰相が資料を握りつぶし、総指揮官を睨み付けた。

 総指揮官は、目を合わせず、ピクリとも動かない。



■■■■



 トサホウ王国 王都。


「オーエングラム卿」


「ほっ、ほっ、なにかね?

 それに、隠居した爺に卿は不要じゃよ」


 王都の外れ、貴族の別荘地がある地域。

 その1つ、小さい湖が見える質素な館に、1人の老人が……筋トレしている。

 薄手の服からは、汗が湯気になって沸き立っている。

 顔だけ見れば、年相応に年齢を重ねてきた事が見て取れるが、体は若々しさを残している。


「隠居した者の体格じゃないな。

 本当に魔導師なのか信じられなくなる」


 元筆頭魔導師オーエングラム、王都の貴族の出身だが魔術師の才能を開花させ、魔導師になり、そして魔導師達の頂点として辣腕を振るっていた。

 先王が王位を辞したのに合わせて、筆頭魔導師を辞し職務を離れ、先王の遊説に付き添っている。


 今は、冬期で先王か遊説から王都に戻っている、遊説の合間になる。

 そこに豪華な馬車がやって来た、1人の男性。

 貴族の服装だが私服だ、ぱっと見には貴族の青年にも見える。


「トアス王、護衛も付けないのは感心しませんな、はっはっはっ」


 トアス王に孫に語りかける様にオーエングラムは笑う。

 トアス王も表情を崩す。


「はは、じいがおれば心配は無い」


「さて、儂に何か用かの?」


 大きなジョッキに入った飲み物をあおる。

 ゴクリゴクリと豪快な音を立てて一気に飲み干して、プハーと息を吐く。

 服をはおった途端、老齢の魔導師に見えてしまうのだから不思議だ。


 進められて、テラス席に案内されると、席に座り身を乗り出す。


「東部で起きた襲撃事件の調査報告書は読んだな。

 どう見る?」


「不明な点が多すぎますな。

 まずは、帝国で何が起きているのか、知る必要が有りますな。

 北方辺境師団の報告では、北の砦は帝国が守る気が無いように見える、不可思議じゃ」


 帝国の名が出てくるのは想定していたが、北方辺境師団が出て来たのにトアス王は興味を引かれる。


「キリシア聖王国や商工業国家は関係ないと?」


「あるでしょうな、ですが動きの元は帝国にあると見ますぞ。

 ならば、帝国の内情を知る者が必要ですが……コウシャン領ですか」


 トアス王はゆっくりと、オーエングラムを覗き込む。

 ニヤリ、と笑う。


「うむ。 コウシャン領で自称 帝国の貴族が捕虜になっている。

 幾人もの兵士を屠った襲撃者どもの1人だ、見聞して貰いたい。

 何人か連れて行って貰えないか?」


 命令では無い、が王の言葉だ。

 オーエングラムが姿勢を正す。


「御意」


 オーエングラムは胸に手を当て、静かに頷いた。






 湖から心地よい風が吹いてくる。

 オーエングラムは、捕虜を捕まえた魔導師マイにも会う必要があると心に決めた。

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