第322話 魔導「信用度」
0322_22-09_魔導「信用度」
時空魔術研究所、その裏手にある家。
コウの町の町長の館と同じく、研究所で生活しているのではなく、寝食はごく普通の一軒家があってそこで生活している。
研究所とは渡り廊下で繋がっていて、雨でも濡れずに移動できるよ。
2階建てで作りは庶民よりも少し豪華で、10人程度は暮らすことが出来る広さがある。
研究所で働く人が増えた場合、別の宿泊棟が作られる予定なので、ここに住むのは私と助手か護衛と家政婦だけとなる。
将来、私が家庭を持ったことを想定している、んだろうね。
2階の私の部屋に、寝間着に着替えた私とシーテさんが入ってくる。
部屋の中は、光属性の魔術の明かりが満たしている。
「ん、マイちゃんの光属性も大分安定してきているわね」
「判るんですか?」
「ええ、揺らぎも無いし明るさや色合いもしっかりしているね。
ちゃんと制御された魔術なのは慣れると判るわよ」
私は他の人の魔力がどのように行使されているのかを見るのは苦手だ。
現象として眼で見えるのなら分析できるのだけどね。
魔力の検知を詳細に分析するのことは、安静にした状態で感覚を研ぎ澄ませれば、多少は判る程度かな?
シーテさんはそれを日常的に使いこなす。
複雑な複合魔術を使いこなせるのは、この魔力を視覚出来る事が大きいらしい。
クスクスと笑うシーテさんに、私も笑い返す。
椅子に座り、膝が触れるほど近い位置で小声で話す。
「で、本題だけどフォスさんは信用できそうですか?」
私は本題を切り出す。
シーテさんも真剣な顔で見つめる。
「判らない、が、今の所かな?
ギムから調べて貰った内容と宰相様からの情報は、ほぼ合っている。
でも、視察団で調べられる範囲だから、公表されている情報のみ。
彼女の貴族院での評判も秀才で模範的な生徒としか出てこなかったわね」
この辺の情報の摺り合わせは、私が宰相様から聞いた内容より詳しいことは判らなかった。
まぁ、判るようなら貴族の情報管理に大問題がある事になるけど。
フォスさんについて、改めて。
18歳、女性。
身長はシーテさんよりやや低い、ほっそりとした体型の美人さんだ。
領主様とは遠い血縁関係があるが、まったく別の家なので領主の継承権は無い。
長男が亡くなったので現在は長女、そして幼い弟が居る。
魔法学校に入学するが、例外魔法の錬金の才能と魔力量・魔力操作の関係で伸び悩む。
詠唱魔法に手を出したのもその為とのこと。
政略結婚の為の婚約者が居たそうだ。
長男が亡くなった為、家督を継ぐために貴族院に転籍。
嫁に出るための婚約が解消され、入り婿となる男性と再度婚約することになった。
弟が生まれる。
貴族院で貴族位の習得を内定していた彼女の立場が微妙になった。
このままだと彼女が家を継承することになる。
そして彼女が子供をもうけた場合、弟が継承することは出来なくなる。
両親はそれを
宰相様からの口伝では、何らかの方法で子供をもうける事が無い状態にする予定になっていた。
その方法の中の1つが、栄誉職として私の文官に就く事だ。
魔導師という領主と同格の爵位を持つ者の補佐として就くのは、宰相と同格扱いという事になるので、栄転には違いない。
そして私は女性だ、その関係で彼女は身ぎれいな形で私の所に来る必要があった。
婚約者が居ては問題があるという理屈で2度目の婚約も破棄された。
研究所へ来るまでの間、彼女は魔導師へ取り入ろうとする貴族を炙り出す餌として使われていたそうだ。
うん、人間不信になってもおかしくないと思う。
状況が変わる度に、周囲の良いように役割が変えられ、そこで精一杯努力しても、また役割が変わってしまう。
少し自分と似ている、と思った。
「私も会話をほとんどしていません、今話したのが一番長いですね。
取り繕っている感じがするので、私も信用する以前だと思います」
信用できる関係が築けるかな?
判らない。
「フォスさんは研究所へ来るまでに期間があったわね。
恐らくだけど宰相様から何らかの指示が出て居ると思われるわ。
それが、マイちゃんの秘密を探るためなのかは判らないけど」
「魔術に関して勉強し直している可能性は?
私の時空魔術を調べられるくらいには」
「それは期間的に短すぎて無理だと思うな。
魔術師の行使する術を解析するなんて、かなりの実力と経験が必要だから。
ただ、マイちゃんの時空魔術、秘密にしている部分に関しては使い難くなったわね」
行動の制限が付く、監視役の可能性は間違いなくある。
これは通常の業務とも言えるから問題は無い。
問題なのは、私が秘密にしている時空魔術の練習が難しくなる事だ。
人を安全に収納できる事は知っているだろうか?
「彼女が今、私の時空魔術をどの程度理解しているかを知りたいですね。
人を収納できる、これを知っているかどうかが目安かもしれません」
「そうね、それとなく聞いてみようか。
時空の例外属性についての知識も探りたいわね」
方針が見えてきた。
現状、フォスさんを信用することは出来ない、それは単に信用するための情報が足りていないだけだ。
宰相様が送り込んだのだから、人格には問題が無いはず、なら役割が当てられているかどうかになるかな?
宰相様からの伝言がほとんど無かったのが気になるけど。
「こんな所かな?
今日はもう遅いから寝ましょ」
シーテさんが私の頭を撫でてくれる。
ん、と声が出てしまう。
出来れば一緒に寝て欲しい、未だに一人になると怖くなってしまう。
シーテさんは、大丈夫、と優しく声を掛けて自分の部屋に戻ってしまった。
静かになった部屋の中、考える、フォスさんは研究所に来て幸せになれるのだろうか?
■■■■
翌日。
時空魔術研究所の敷地内にある施設を案内した。
といっても、研究所の施設は多くない。
中心となる研究所は昨日ナカオさんが案内しているので省略。
正門にある守衛の待機所へ行き彼女を守衛に紹介する、ついでに町長へ紹介したいとの言伝を頼んだ。
恐らく数日中に研究所へ挨拶に来る事になるだろうね。
訪問に来た貴族の護衛が泊まる宿泊施設、そして車庫にある私の馬車を遠目に紹介。
研究所を通り、裏庭に出る。
研究所の1階は応接室になっていて、そこから庭にテラスが用意されている、私が使ったこと無いけど。
そこから小さい庭があって、手の掛からない観葉植物が植えられている、月に1回程度、庭仕事が出来る守衛さんが手入れをしてくれている。
そこから垣根を越えて向う側が一面畑だ、領軍の兵士や守衛が訓練がてら開墾したので無駄に広い。
管理しきれないので、幾つかは雑草を燃やして、ほったらかしに出来る野花を植えてある。
農園と間違われそうだ。
畑の中央付近には作業小屋と休憩所が用意されてる。
井戸があって、山から引き込んだ水とは別の水源となっている。
最後に、墓地。
以前からあった村の墓地、そしてそこに新しく作られた墓標も並んでいる。
そこで祈をした後、フォスさんを見る。
感情を表に出していない。
「フォス、以上が研究所の施設になります。
何か質問はありますか?」
私とシーテさん、フォスさん、そして守衛さんが1人、墓地から研究所の施設を眺めながら質問する。
「僭越ながら、魔導師様を迎える施設にしては、防備も何もかも貧弱かと思います。
守衛は小隊規模とまでは言いませんが、せめて今の3倍には出来ないでしょうか?」
フォスさんからの真剣な目は私をジッと見つめている。
研究所の施設が他の要人が居る施設に比べて凄い貧弱なのは最初から判っている、それも意図された物だ。
時空魔導師、時空魔術という非戦闘系で魔導師としての価値しかない、と思わせるため。
唯一の攻撃手段である収納爆発に関しても、魔術師が近接戦闘を行わなければならないという欠陥魔術とされている。
実際には、コウの町は地理的に防衛しやすい、それに周辺の村々が大きな防備として整備されている、外見的には全く判らないけど。
その事をフォスさんは知らない、単純に領都から離して軟禁状態にしていると思っている、事実だけど。
「現在の防備に関しては、宰相様と打ち合わせを行い、必要十分であると判断しています。
東の村の関所とコウの町の守衛も即応可能な状態を維持しています。
研究所に余計な干渉をしないように配慮していると考えて下さい」
フォスさんは納得できない様だ、仕方が無いよね。
そして、私の言葉に反論はしなかった。
「所で、フォスは文官の内示が出てから今までの間、何をしてきましたか?」
「はい、文官として必要な手続きや法律、関連部署との顔合わせなどを行ってきました」
あれ?
私に関しての勉強はしていないのかな。
「時空魔術に関しての知識は?」
「魔法学校の教科書を読んだだけですが、問題はありますか?」
おかしい。
幾ら何でも私の属性の魔術を教科書程度の理解しかしていないとは。
思わずシーテさんを見るが、困惑している表情だ。
「私は、マイ様の文官としての職務を遂行する事が第一と考えます。
ですので、魔術に関しては最低限の知識で良いと。
詠唱魔法の研究を許可して頂きましたが、あくまで空いた時間でのみにしたいと思います」
淡々と言うフォスさんからは嘘を言っている感じは無い。
ただ、違和感が残る。
文官として研究所に来たのに、魔術に関しての知識が乏しいのは何故だろう。
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