第22章 魔導

第314話 魔導「コウの町」

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 ふぁぁぁ、可愛い!

 今、私は幼児に指を捕まれています、動けないです。


 コウの町、その西側の区画にある宿屋タナヤ。

 その長男で、生まれて数ヶ月。

 名前は、フリオ だそう。

 父親の実名と母親のオリウさんの名前から取ったんだって。

 タナヤは宿屋タナヤを継いだときに継承した名前で、本名があるんだけど、教えてくれなかった。

 引き継ぐまではタナヤが自分の名前なんだって。

 籠の中で、柔らかい厚手の布に包まれたフリオと、今日対面した。

 これは、1日置いて病気などに掛かっていないか確認してからにしたいと、ハリスさんからの意見によるもの。

 もちろん、ハリスさんの聖属性の魔術で浄化を受けているので危険性は低いけど念のため。


 シーテさんと私は会うのは初めてだし、幼児に接触する機会は無かったので、凄く緊張した。

 で、今はメロメロですよ。


「ふひょぅ」


 変な声出た。

 フリオが私の指を咥えてチュパチュパしだした、ムズかゆくて、どうしたら良いのか判らず硬直する。

 その様子を見て、フミが笑い出し、皆して笑う。

 笑ってないで、助けてよぉ。

 私が涙目で、訴えると、オリウさんがフリオを抱き上げた。


「おなかが空いたんだね、ちょっと乳を飲ませるよ」


 オリウさんがフリオを抱いて、育児用の服で胸を開けて飲ませる、じっと見るのは失礼だと思うのだけど、その様子を何か神聖な物に見えてしまう。

 家族や親しい人の前なら普通に授乳するそう。

 私とシーテさんを身内として受け入れてくれていることにも感謝する。

 今は、タナヤさん一家と私とシーテさんが居間に居る。


 私は、身分を隠して宿屋タナヤに宿泊して2日が経過している。

 時空魔術研究所へ戻るのにしばらく待って欲しいとの要請と、捕虜にした襲撃者の尋問結果を待っている所だ。

 久し振りの宿屋タナヤでの生活は、襲撃事件や廃棄都市での気疲れを癒やしてくれてる。

 身を隠している都合で外出できないのは仕方が無いかな。



 改めて整理する。

 私、マイは時空魔導師になって時空魔術研究所の所長としてコウの町の東側に作られた研究所に赴任した。

 襲撃事件が起きた。

 これは、トサホウ王国の東側全体で起きている、同時多発的な事件だったそう。

 その後、トサホウ王国の北東部にキリシア聖王国と名乗る一団が侵略?してきた。

 北方辺境師団と東方辺境師団、そしてそこの領の領軍が全滅させた。

 このキリシア聖王国の一団を追って、帝国と商工業国家が侵入しようとして、国境沿いで膠着状態になっているそうだ。


 コウシャン領の領主は、本命の襲撃が国内で起きると推測した。

 その中で、一番 防備が乏しく狙われやすい研究所を囮とする計画を出した。

 その際に私を避難させるために、囮役を残して廃棄都市へ隠密調査する作戦を実行した。

 計画通り研究所は襲撃され、その襲撃者の討伐に成功したとのこと。


 だが、廃棄都市にも襲撃者が現れた。

 どこから情報が漏れたのか判らない、報告待ちだ。

 その襲撃者は1人の捕虜を確保して討伐できた。

 捕虜からどんな情報が得られるのかは不明だ。


 廃棄都市では、私とシーテさんの護衛に3人の視察団チームが担当した。

 襲撃者に襲われたとき、私とシーテさん、そして護衛チームと分断されてしまった。

 そして、このときシーテさんが体を分断され死んだ、私の記憶では間違いなく。

 多分だけど、私は収納したシーテさんの、いや、収納空間の時間を巻き戻した。

 結果として、シーテさんは分断される前の状態になり、生き返った?


 そして、私が襲撃者を倒したのは時空断、巨人やオーガ種の魔物達を切り裂いた魔法。

 魔術と言えるような術理の構築が出来ていないので、魔法だね。

 これを行使した。

 自分でも何で思い出したのか、使えるようになったのか、判らない。

 これから検証しなくてはいけないな。


 護衛チームと救援に来たギムさん達に、私の秘密の1つの、収納空間に入ることが出来る事を明かした。

 移動や野営の負担を減らすことに成功したけど、この情報は領都の上層部に伝わるはずだ。

 人を安定して収納できる、これは貴重な能力だ、どのように扱われるのか注意しなくては成らない。



 私の秘密は次の通り。


 1つ目、収納空間には入れる。

 明らかにしてしまった秘密。

 色々な制限があるけど、今の所は上限の人数は不明。

 自分自身を収納することで、今の所は完全に避難することが出来る、それを期待しすぎて失敗してしまっている。

 2つ目、ギムさん達は知っている、時空転移。

 ごく短距離だけど私か誰か1人を転移させることが出来る。

 収納空間には入れるのと遠隔取出の合わせ技になる。

 時間を掛けて良いのなら、全員を収納して遠隔の取り出し位置に設定した場所に1人ずつ送り出す事が可能だ。

 3つ目、ようやく判明したと思う、時空断。

 英雄マイが使ったとされる魔術、これは報告する必要があると思う、ちょっと躊躇している。

 英雄マイの力の解明が、魔導師となった私の最初の実績になる予定だから。

 コウの町の近くに研究所を作ったのもそのためだ。

 時空断の秘密は判ってしまえば簡単な物だった。

 これは後述しよう。

 4つ目、これは私にも全く訳が判らないんだけど、時間逆行。

 結果からの推測なんだけど、私の収納空間内の時間に限定で、流れを逆流させることが出来たらしい。

 私の魔力のほとんど全てを消費して、恐らく十数分。

 もし、意識的に行う事が出来れば、限定的だけど蘇生復活が可能になる。

 時間停止の収納空間を作ることが出来るだけでも、私の時空魔術の価値は跳ね上がる。

 5つ目、英雄マイと魔導師マイが同一人物である事。

 2年間、ダンジョンの中に居て、失った片腕と片足を復元させ、さらに10歳近く若返った容姿で復活した。

 時間逆行も関わってくると思うのだけど、謎だらけだ。



 兎も角、私達は1人の捕虜を連れて、全員無事にコウの町へ帰還することが出来た。

 研究所を罠と防衛用に改造したのを元に戻す作業が遅れ、身分を隠して宿屋タナヤに宿泊することになったというわけ。

 研究所には、今も私の囮役の視察団チームが、私のふりをして残っているそうだ。



■■■■



 翌日。

 領軍の隊長、今回の襲撃者に対応する部隊の総隊長にあたる人物が私服で私の元を訪れた。

 私とシーテさんが部屋で対応する。


「領軍の兵士33人、守衛20人、特殊部隊5人が死亡。

 また、重軽傷者も数十人におよびます。

 研究所も、裏庭の農園は半壊、建物も窓を中心に被害が出ています。

 居住の家の一部が燃えました」


 襲撃者の撃退に成功した事は、コウの町へ帰還するときにギムさんから聞いていた。

 でも、こんなに被害が出ていたなんて知らなかった私は、思わず椅子から腰が浮いてしまった。


「そんなに……」


 言葉が出なかった。


「魔導師様が、襲撃者を撃退しただけでなく、捕虜を捉えることに成功したと聞きました。

 我々の無力さを恥じるばかりです」


 隊長は襲撃者がやってきた夜を思い出し、握りこぶしを震わせる。


「私達の場合は日中で、遭遇戦でした。

 状況が全く違うので比較は無意味です。

 死者が多くなった原因は分かっていますか?」


「はっ。 守衛は森の中で潜伏待機中に襲われました。

 相手の方が上手うわてでした。

 また、戦闘中に黒い大地の中に居た敵に効果的な攻撃が出来なかったのが大きいです」


「襲撃者が魔物の力を使っていたと?」


 これはシーテさん。

 シーテさんは襲撃者が黒い大地を吹き出した所までしか見ていない。

 廃棄都市での戦闘については、未だ詳細を伝えていないので気になるのだろうね。


「それは不明です。

 個人的な主観ですが、単純に強化されているという感じがしました。

 ただ、制御できなくなると黒い大地と魔物に支配されて理性を失ったのかもしれません」


「黒い雫、大地? を使って強化ですか、人が手にして良い力だとは思えないわね」


 うん、少なくても人を止めてしまっている。



 私達の場合は?

 最初の2人は、炎と槍の魔術で瞬殺した。

 3人は、自滅?をして黒い大地をまき散らして、魔物を生み出した。

 それを、時空断で瞬殺した。

 出来てしまっだ、単純な切断系の魔術とは効果が段違いに強力だった。

 時空断について、どのように報告するべきか悩む、この魔術を多くの時空魔術師が使うようになる未来は少し怖い。


「敵は帝国で断定しても良いのですか?」


 捕虜にした男性、人種は間違いなく帝国人の特徴が有った。


「少なくても我々はそう見ています。

 ですが、そうなると帝国の戦力が無断侵入した事になります。

 国同士の問題として、どのように判断するのか判りません」


 隊長が悩んで慎重に言葉を選ぶ。

 ギムさん曰く、国内の反乱だったらもっと簡単だったそう。

 帝国人を捕虜としてしまったのは、色々な方面で大きな問題になりかねなくて、慎重な対応が求められるだろうと。

 それに、襲撃はコウシャン領だけじゃないはず、他の領での状況はおそらく入ってこないだろうけど、気には成るな。


「捕虜の様子は?」


「現在、領主様直轄部隊と領軍の査問官が対応しています。

 情報については、私の判断で機密指定し領主様の判断待ちです。

 詳しいことをお話しできず、申し訳ありません」


「いえ、適切な対応かと」


 コウの町へ帰還して、直ぐに引き渡した、あの襲撃者の男性。

 魔物を生み出す黒い大地を内側に内封している可能性があるため、町の中に入れずに何処か別の場所に隔離したそう。

 何処かも機密とのこと。



「今回の作戦での死者と負傷者に慰問の機会を設けたいのですが」


「はい、調整します。

 負傷者はコウの町の病院に居ます。

 死者は、守衛はコウの町の墓地に、領軍の兵は研究所の近くの墓地に埋葬済みです。

 時期については、町長と調整しますのでお待ちください」


 隊長が大きく頭を垂れる。

 感謝してくれたのだろうか?

 襲撃事件の真相は全く判らない、私も魔導師としての価値を利用して囮にされた立場だ。

 何と言って良いのか、正直判らないよ。






 隊長が、退室するときに寂しそうな顔で呟いた。


「多くの部下を死なせてしまいました、魔導師様にも危険にさらしてしまいました。

 私が恨まれるべきなのです」


 泣いているように見えた。

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