第313話 廃棄都市「エピローグ」

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「魔導師様が戻られたぞ!」


 コウの町の町長の館。

 その一部は現在、領軍の一部が接収して利用している。

 隊長はここ暫く眠れない日が続いた。

 安全だと思われた廃棄都市に襲撃者が向かったらしいからだ。


 直ぐに救援部隊を編成した。

 廃棄都市を含む人工ダンジョンへの探索経験のある元視察団チーム、魔導師様の知り合いでもあり、実力も有る。

 先行させた、そして、途中の砦跡に中継基地の構築を進めていたところだった。



 魔導師様と助手、そして護衛の視察団チームが全員無事だ。

 護衛の視察団チームは怪我をしているということで、町の中央にある一番施設が充実している病院に全員入れる、面会謝絶にし、護衛を付ける事も忘れない。

 彼らの持ってきた情報の価値は計り知れない。


 驚愕の情報が入る、襲撃者5人の殲滅、そして1人の捕縛に成功したとの事だ。

 だが、襲撃者は体の中に黒い大地を内封している、大丈夫なのか?

 救援部隊も無事だ。

 状況としては、最高の結果と言っても良い。


「捕縛した襲撃者について情報は?」


「今は眠らせている、それ以外は特に」


 状況としては当然だ、現場で尋問しても、その情報を信じることは難しい。

 つまり、我々に正確な情報を取り出すことを求められているのだ。


「直ぐに査問官を、薬もなんでも使用を許可する。

 場所を確保しろ、場合によっては魔術か爆薬で処理する事も視野に入れろ」


 報告した部下が慌てて出て行く。

 領軍の隊長は、椅子に深く座ると、大きく息を吐く。


「兎も角、魔導師様が無事だった、僥倖だな」



■■■■



 トサホウ王国と商工業国家の国境に当たる大河。

 北部の、この辺の降雪量は多い、辺りはすっかり雪で覆われている。


 その商工業国家 側にある商工業国家の簡易砦、その上では隊長が椅子に座り、すっかり冷めてしまったお茶を飲んで渋い顔をする。


「隊長、動きがありました」


「ん、良い知らせか?」


「はぁ、帝国の連中ですが、撤退を始めました」


「どういう事だ?」


「判りませんぜ、上官らしき連中はもう駐屯地にいませんぜ」


 慌てて砦から横に作られている帝国軍の駐屯地を見る。

 兵士が相変わらず不気味なほど整然と動いているが、確かに士官と思われる武装をした兵士がほとんど見当たらない。


「トサホウ王国へ侵入した帝国の特殊部隊はどうなった?」


「さぁ? 王国へ入った密偵の情報ででは大半は処理されたようですな」


「情報の正確度は?」


「全く、かなり完全に情報の統制がされています。

 一般が入手できる情報以上は入ってきません。

 ここ数年で、王国の内部情報が入り難くなっていますので」


「まぁ、今までがザルだったからなぁ。

 で、うちの国はどうすると?」


「帝国が完全撤退したら、戻れと。

 トサホウ王国へは一切の干渉を禁止されています」


「威力侵入も?」


「そっちは判りません」


 特殊部隊を盗賊に偽装させて、トサホウ王国の商人を襲わせて軍事力を測り削ぎ落とす下劣な行為。

 まだ続けるつもりか?

 隊長は、机の上に足を投げ出し、ふて腐れたのを隠そうともしない。


「なんだかねぇ。

 くそ下らないぜ。

 部下に伝達、向こうから突かれても一切反撃禁止、それと、川を渡って密入国する連中がいたら無視しろ。

 酒飲んで寝てろ」


 トサホウ王国への干渉の禁止は詭弁だ。

 おそらくは、トサホウ王国へ侵入した特殊工作員の帰還を黙認しろという事なんだろう。


「了解です、と、これは差し入れだそうです」


 水筒を受け取る。

 特殊な製造方法で中の温度が変化しにくくした物だ、まだ商工業国家の中で一部でしか使われていない。

 蓋を開けると、湯気共にアルコールの匂いがする、甘い香りこれはハチミツか?

 顔を上げる。


「体を温めてください。

 監視は別の者を寄こします」


「ああ」


 隊長は、お湯とハチミツで割った酒を口にする。

 ハァーー、っと吐いた息が白く筋を作った。



■■■■



 宿屋タナヤ。

 コウの町が出来る前から営業していたという触れ込みの老舗の宿屋だ。

 規模は中堅で価格が安く、食堂が無く食事は部屋でのみという変わった様式を取っている。

 そのため、一部屋が十分に広くそして食事が美味しいことで、近隣の町でも知る人も知る宿屋になるほどだ。


 冬期は宿泊客が減る時期でもある。

 店主のタナヤは、昼の作業を済ませて、夕食の献立を思案し始めた。


カランカラン


 ドアが開けられた音だ。

 今は妻は息子を託児所に向かえに、娘も買い出しと所用で出掛けている。

 応対のためにカウンターに出ると、男性が入ってきた。


 身なりは普通の町民だが、立ち振る舞いから違う事がうかがわれる。

 先触れを名乗る男性は、これから6人の受け入れは可能か? と問う。

 部屋は開いている、特に問題は無いので了承する。

 10日分は有る金を前金として置いて出て行く、宿泊客は来れば判ると告げて。


 今ある食材で夕食用の献立を検討する、時間の掛かる料理は難しい。

 食材を地下の食料庫から集めて、厨房に戻ると、妻のオリウと息子、そして娘のフミが帰ってきた。

 宿泊客が来ることを伝え、その準備を始めて貰う。

 部屋の簡単な掃除、そして寝具の準備。

 6人というが、男女の構成が判らないので2部屋用意する。

 オリウから叱られる。


 夕食の調理を始めるが、宿泊客が来る気配が無い。

 フミが騙されたのかもしれないと不安になっているようだ。


カランカラン


 宿のドアが開けられる。

 出迎えようとしたフミが、破顔する。


「あ、ギムさん、お久しぶりです。

 今日は何の用ですか?」


 最近は元視察団チームは予定が合わず会食する機会が減っていた。


「うむ。 暫く厄介になる、部屋の準備は出来ているかな?

 先触れを出して置いたが」


 驚く。

 別に先触れなどしなくても、部屋が開いていれば歓迎するし、そんな余所余所しい関係じゃ無いはずだ。


「あ、はい、2部屋用意していますよ」


 そこにブラウン、ハリスが入ってきて、フードを被った2人の女性が入る。

 そして、殿に入ったジョムが周囲を確認してからドアを閉める。


「……っ」


 フミは体を硬直させる。

 この状況で来る2人の女性、判りきっている。

 フードが取られる、シーテとマイだ。


「フミ」


 マイが笑いかける、何かあったのだろうか、疲労した様子があるが何時も通りの笑顔だ。


「マイ!」


 フミが駆け寄り抱きつく。

 成長していないマイの頭を胸に抱きしめる。

 ゆっくり、優しく腕が背中に回され、しっかりと抱きしめる。


 最後に会ったのはマイが研究所へ来たときだ。

 それから半年も経っていないが、久し振りに思う。


 マイが声も無く泣いている、それを皆、気が付かないフリをする。






 フミが優しくマイに話しかけた。


「おかえり、マイ」

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