第312話 廃棄都市「帰還」

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 ドウさんから報告を受ける。

 その間、ドウさんは私に頭を下げたままだ。

 同様にシウさんも、膝を付いて俯いている。


 理由は判る、襲撃者に襲われたとき、ドウさんとシユさんは、崖に落ちたトウさんを救うことを選択してしまった。

 任務としては完全に失策だ。

 だけど、今はそれを責める時じゃないし、私の役割じゃ無い。


 シユさんの容体を確認する、外見からの怪我は思ったほど酷くない。

 頭部の怪我も出血は止まっている、ただ、意識が戻らず体温の低下が激しい。

 既に、私の収納から出した寝袋に入れ、シーテさんが魔術で温めている。

 体温が戻ったためか、多少は呼吸が安定してきた感じだ。


 続いて、襲撃者。

 気配から人数が増えたことに気が付いたのかもしれない。

 でも、抵抗の意思はみられなかった。

 強い睡眠作用のある薬を飲ませた。

 意識が無くなって、瞳孔の反応を確認したが、安心は出来ない。

 その襲撃者の容姿を見て、異国人である事が判る。


「シーテさん、この襲撃者ですが、帝国人の容姿の特徴が有りませんか?」


 私は、北方辺境師団に居た頃に帝国の兵士を見ている。

 あの砦の戦いは、現場はお互いの損耗を防ぐため形式だけの戦闘をしていた。

 それでも、足をくじいたりして逃げ遅れた兵士を捕虜にすることがある。

 大抵は、捕虜交換を直ぐに行う。

 長時間、此方に居ることで情報を収集されるのも困るし、下手に死なれてしまうと戦いが激化してしまう可能性も有る。

 捕虜交換はお互いに捕虜が居る場合は交換、そうでなければ食料とか武器と交換することになる。

 この辺は、交渉が専門の武官の兵士と士官の仕事なのだけど、食料とか武器を運ぶのに私が随伴したこともあるんだよね。

 帝国の兵士は、その時に何度か見ている。


 顔の作りが若干異なる、彫りの深さとか、特徴的な目の色とか。

 個人的には、帝国人で確定だ。


「そうね、私も直接見たことは無いけど、知っている特徴と一致しているわね。

 ドウさん、何か聞き出したことはありますか?」


「ここに来ている仲間は、この者を入れて6人。

 通路で2人の体が吹き飛ぶのを見ています」


「地上で襲ってきた襲撃者は3人。

 全員討伐済みです」


 ワタシが補足する。

 この情報でドウさんがホッとする。

 肩から力が大きく抜けて、へたり込んでいるのが判る。


「これからの予定を決めましょう。

 コウの町へ帰還します、できるだけ早く。

 なので、収納空間を最大限利用します。

 移動はワタシともう1人、それ以外は全員収納します」


「反対を具申します。

 マイ様を守ることが出来ません」


 ドウさんが頭を床に叩きつけるように下げて、反対する。

 忘れていた、立場上は私は領主と同じ貴族格を持つ魔導師だ、この言葉には強い強制力がある。

 それに反対すると言うことは、反逆とも取られかねない、それを行ったのは私より妻を優先してしまった失策を繰り返さないためか?


「索敵の能力が高い、シユかシーテが先行。

 接触していれば私と一緒に収納空間に待避が可能です。

 また、襲撃者の監視とトウの看病にも人員が要ります。

 私の身を案じての上申、理解しましたが私の策より有効な策がありますか?」


「ありません。

 我が身の至らなさを痛感いたします」


 ドウさんが、妻達を選択してしまったことに関して、私は罪に問うつもりは無い。

 だけど、報告すれば確実に処罰されるだろう。

 挽回する機会でもあれば良いけど、そういう事態に遭遇することは避けたい。


「今は、やるべき事が有るはずです。

 後悔しないように判断を間違えないように」


 ビクンとドウさんの体がはねる。

 ちょっと言い方に問題があったかも知れないな、それでも、私のように失敗をしてしまわないようにして貰いたい。


「では、全員収納します。

 収納空間で出来るだけ休んで、日が出たら移動を開始します」


 全員を1人ずつ収納する。

 襲撃者も収納するか、シーテさんと話し合って、収納することにした。

 ただ、収納空間内では離れた場所に設定した。



■■■■



 ギム達は砦跡で装備を再確認し、廃棄都市に向けて移動を開始していた。

 その中、懐かしい感覚を思い出していた。


 視察団チームに入る前、ギム達は廃棄都市の様な500年前の魔物の氾濫で無人になった廃墟を探索する事を中心とする冒険者であった。

 魔道具は例え動かなくても、支配階級の人間が高い値段で購入してくれる、何十日も森の中を移動するので、独特の技能を習得していた。


 だが、年齢としてはベテランを超え始めている、体力の衰えは無いつもりだが、それでも疲れを感じてしまっている。


「全員。 状況報告」


「ブラウン、問題なし」

「ジョム、問題なし」

「ハリス、疲れ始めています」


「うむ。 水源はあるか?」

「森が深く確定で無いが、地図ではもう少し先に小川があるはずだ」

「では。 そこで休憩と食事を取る。

 廃棄都市までの距離は?」

「あと、約30km」

「本日中に廃棄都市の外縁に辿り着くぞ」

「「「はっ」」」


 再び、足音と草をかき分ける音だけか森の中を移動していく。



 暫く移動すると、小川が見つかった。

 そこで携帯食を食べる。

 水の補給をする、今回は浄水機能がある水筒を支給されているので飲み水に困る可能性は少ない。

 それよりも、冷たい風が気になる。


「ギム、なんで冬期に廃棄都市へ避難するなんて無茶な作戦が行われたのでしょうか?」


 ハリスがようやく息を整えて、ギムに問う。


「判らん、領主様の発案だそうだ。

 作戦としては悪くないが、バレてしまえば脆い。

 本来なら、廃棄都市へ向かうのも偽装した魔導師にするべきだな。

 本命は確実に守れる場所に囲い込むのが定石とするべきだ」


「領主様は、廃棄都市の探索を成果とする事も考慮しているんじゃないかな?」


 ギムの回答にブラウンが補足する。

 ジョムが周囲の様子を確認している。


「季節にしては小動物の動きが活発だな。

 大型の獣の気配は今の所無い」


 小動物が豊富なのは森が豊かな証拠だ。

 そして活発に動いていると言うことは、肉食系の獣が不在である事を示している。

 ふと、ジョムが気づく。


「ここで休憩した形跡がある、恐らくだか」


「本当か?」


「痕跡を消してあるから判らんが、ちょっとまて、もう1つあるぞ。

 両方とも複数人か、片方は念入りに痕跡を消している。

 もう1つは、我々と同じ方法だな、おそらくシーテ達だ。

 どちらも十数日は経過している」


 ブラウンが覗き込むが、ただの小川沿いの草むらにしか見えない。

 何を根拠にそこまでの情報を引き出せるのか、相変わらずの斥候能力に舌を巻く。


 ギムが考え込む。


「ジョムは何で判るんですか?」


 ハリスがジョムに聞く。

 ジョムがフンと鼻を鳴らす。


「そんなもん、見れば不自然に決まっとるからな」


「えー」

「ジョム、何処が不自然なんだい?

 僕には普通に見えるんだけど」


「普通すぎるじゃろが、未熟じゃぞ」


 ジョムが呆れているが、ハリスとブラウンはその普通すぎるという草むらを見ても何も判らない。


「うむ。 ここからはジョムが先頭で周囲の痕跡を探れ。

 ブラウン、中長距離の斥候は任せる。

 慎重にかつ迅速に移動するぞ」


「判りました」

「了解」



 ……、ジョムが黙ったままだ。

 そして腰から戦斧バトルアックスを抜き取る。

 全員が戦闘態勢に移行する、ハリスを中心にした陣形だ。


「すでに此方を認識されておるな、かなりの使い手だ場所が判らん」

「魔法を使った感じがします」


 ジョムとハリスから小声で報告が上がる。

 小川のせせらぎの音だけが流れる。



 ふっと、ジョムが戦斧を降ろして緊張を解く。

 その様子に全員が驚く。



「みんな腕はサビ付いていないようね」


 森の中から声が聞こえる、シーテだ。

 ガサガサと草をかき分けて歩く音が聞こえて近づいてくる。


 先頭はシーテ、次に弓を構えた女性。

 そしてマイが居た。


「4人の反応があったから直ぐ判ったわよ」


 シーテの索敵魔術はかなり離れた場所からギム達を捉えていた。

 そして、その反応から個人識別を行い、懐かしいチームのメンバーであることを確認した。

 ギリギリまで接近したのは、単純に試していただけか?


「シーテ、いたずらが過ぎるぞい」


 既に、戦斧は腰に戻されている。

 呆然としているブラウンとハリス、ギムは長剣を鞘に収めているところだ。



■■■■



「ギムさん! ブラウンさん! ジョムさん! ハリスさん!」


 私は懐かしい皆の顔を確認すると、立場を忘れて名前を呼んでしまう。

 来てくれた!

 私が子供のように声を出したので、横に居たシウさんが驚いているけどいいや。

 私は、駆け寄ってしまう。

 一番まえにいたジョムさんに体当たり気味に抱きつく。


「来てくれたんですね」


「うむ。 無事で良かった」


 みんなに囲まれて、私は久し振りに、ただのマイに戻っているように感じた。


「……、しかし何も無かった、様ではないですね」


 ブラウンさんが、シユさんだけしか残っていない護衛の視察団チームを見て言う。

 あ、そうかドウさんは収納空間の中でトウさんの看病と襲撃者の監視をしている。

 状況だけなら、ドウさんとシユさんが犠牲になったとも取れるね。


 私は、シーテさんに頷いて了解を取る。


「皆さん、私の時空魔術を受け入れてくれますか?」


 ぽかんとするが、直ぐに了解してくれた。


「うむ。かまわん」

「ええ、どうぞ」

「なんじゃな、はよせい」

「かまいませんよ」


 心が温かくなる、ここまで私を信用してくれている、大切な人達だ。


 最初に、シユさん、そうしてシーテさんを収納する。

 それにギョッとする。

 一般的な時空魔術では生きている物を収納することは出来ない。

 極希に収納できる時空魔術師は居るが、人間を収納できたというのは歴史書に載る程度しか居ない。


 私が、両手を差し出す。

 ギムさん、ブラウンさん、ジョムさん、ハリスさんが私の手を取る。

 全員が私に触れていることを確認して、一緒に収納空間に収納する。


「マイちゃんの収納空間へようこそ」


 シーテさんが、ニコニコ笑いながら出迎えてくれた。



■■■■



 まず、ハリスさんが負傷したトウさんの治癒を行う。

 収納空間内なので魔術の発動に不安があったが、特に問題無く行使できた。

 そして、聖属性の魔術師の能力の高さが判る。


「外傷は兎も角、頭の中で出血がありますね、それを取り除いて治癒しました。

 他にも潜在的な問題もあるので直しておきましたよ」


 人体に関する知識に関しては、私にも理解できないほど深い造詣を持っている、すごい。


「しばらくは静養して下さい、動かさないように。

 栄養の有る物を食べていれば、十分回復できますよ」


 ドウさんとシユさんが泣いて感謝を何度も口にする。

 凄いなぁ。



「この装備は見たことがありませんね、帝国の装備なのでしょうか?」


 ブラウンさんが襲撃者の装備を見て話す。

 経緯の説明を済ませているので、無理に装備を剥がすのは危険と判断してそのままだ。


「いえ、私の知っている限り、帝国の兵士の装備ではないです。

 作りは違いますが、私達の兵士との差異は少ないです。

 恐らくですが、何らかの特殊部隊の専用装備ではないかと?」


 私が帝国と接している北方辺境師団に居たことを知っているので、普通に話す。


「そうなると、当人がどれだけ情報を知っているのか、になりますが。

 尋問はどうしましょうか?」


「うむ。 専門に任せるべきだな。

 情報の正否を確認することも我々できない」


 襲撃者には定期的に水と睡眠薬を飲ませて、意識が無い状態を維持している。



 そして、私達は当初の予定通り、私と斥候能力のある人の2人で移動した。

 ただ、シーテさん、シユさん、に加えてブラウンさんとジョムさんが加わったので移動速度はかなり上がった。

 野営も収納空間を利用したので、不寝番が要らないことも大きい。






 数日後、私達はコウの町へ帰還した。

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