第310話 廃棄都市「収納空間」
0310_21-13_廃棄都市「収納空間」
時空魔法、時空魔術。
例外魔法と呼ばれる、基本6属性とは異なる魔法の総称の1つ。
収納空間という現実とは異なる空間内に物を収納することが出来る魔術だ。
そして、多くの人はそれしか出来ないと認識している。
なので、差別的に荷運び魔法などと言われることが多い。
だが、時空魔術師と呼ばれるほどの術者ならば、倉庫単位の荷物を収納することが出来る、軍隊などでは輸送部隊の中核として重用される。
魔物の氾濫、約500年前よりも小規模だとは言え、多くの人・物が失われた。
コウシャン領でもそうだった。
特異点があった。
コウの町、この町には特種と呼ばれる巨大な魔物が2匹も発生した、大量の超上位種や上位種と共に。
多くの兵士や冒険者が死傷したが、町はほぼ無傷で切り抜けることが出来た。
その中に、英雄と呼ばれる時空魔術師が居た。
その時空魔術師は収納爆発という、本来なら失敗とされる現象を利用した時空魔術で巨人と呼ばれる魔物を倒して見せた。
だが、戦いの中で死亡してしまった。
それから時空魔術に関しての注目度は大きく変わった。
守られるだけの非戦闘系の魔術ではない。
だが、収納爆発を再現できない、そして巨人を切り裂いたという魔術はその原理すら仮説の域だ。
コウシャン領に時空魔導師が生まれた。
経緯も特殊だがそれ以上に、英雄と呼ばれた魔術師と同じ名前なのが象徴的に受け止められた。
そして、収納爆発の仕組みを解き明かせて見せた。
収納魔術を使える魔術師は実用で有用で研究に回せる人員は居ない、だからこそ時空魔導師になった少女に期待が集まっていた。
■■■■
「状況の報告をいたします」
コウシャン領、領都の領主の館。
その中の執務室で領主は苛立ちを隠せない様子で、机の上を指で叩きながら宰相からの報告を聞いていた。
「本格的な襲撃は行われました。
現在、12カ所での確認、その全てで甚大な被害が出ています」
「目的は判ったのか?」
「いいえ、襲撃された場所も要衝としての重要度はまちまちでして、たいして価値がない施設を壊滅したりもしていました」
宰相は、概要をまとめた資料を領主に手渡すと、更に続ける。
「襲撃を予測された施設と要人に関しては、全て殲滅に成功しています。
ただし、被害は甚大です、兵士の死傷者が大量に出て居ます。
また、施設への被害も大きく復旧には数年以上掛かるでしょう」
「重要度が低い場所ではどうか?」
「情報がまとまっていません、施設そのものが破壊された事が多いようです。
施設に居た者は全て死んでいるので何が起きたのかは不明です」
少しの間、静寂が包む。
領主は手を組んで思案するが、途中で息を吐き方を落とす。
「で、あるか。
それで何か目的について推測は出て居ないか」
「目的は不明のままです、現在調査中です。
しかし、共通点はありました。
全ての場所が500年前の魔物の氾濫の前から存在している場所です」
そういえば、領都は襲撃を受けていない。
単に警備が厚いためと思っていたが、コウシャン領の領都は魔物の氾濫後に小さな町を再整備する形で作られた都市になる。
では、魔物の氾濫の以前に存在した施設に何があるのか?
「ううむ。
ん? では魔導師の研究所はなんなのだ?」
そうだ、時空魔術研究所は今年に作られたまだ中身の無い張りぼて状態だ。
「コウの町は、魔物の氾濫の前は要塞都市でしたぞ。
しかし、都市の中枢機構は何らかの攻撃で全て消失しています」
そう、コウの町は元々 要塞都市の跡地を利用して作られている。
今の町長の館と役所、そしてギルドの建物が面している広場、そこから上にあったはずの施設が消失している。
残っていたのは、上下水道施設のインフラ機構で、それも冒険者が偶然発見するまで瓦礫に埋もれていた。
コウの町は東の町を除いては他の町や都市との繋がりが無い。
その為、復旧させる必要性は低かったが、上下水道のインフラが再開可能であるとういことで町として復旧させることになった、との記録がある。
では何故、時空魔術研究所が襲われたのだ?
「推測ですが、要人の襲撃もあります。
特に魔術の研究や開発に関わる者が多いようです。
魔導師ならば、魔術の研究開発の第一人者と捉えられても不思議では無いでしょう」
だが、特に心配は無い。
過剰とも言えるほどの戦力を投入し、更に魔導師 本人は廃棄都市へ待避させたのだ。
廃棄都市……?
「ちょっと待て、500年前の魔物の氾濫 以前から存在していた施設に襲撃だったな。
では、500年前に廃棄された都市はどうなっている?」
宰相の顔色が悪い。
直ぐに返答が出ないのは報告するだけの情報が揃っていない場合が多い。
「現状判っている範囲で構わん!」
「はっ。
襲撃者と思われる集団が廃棄された施設付近の町や村で物資の強奪が行われていると思われます。
ただ、野盗との区別が出来ていないので何とも」
「魔導師が向かった廃棄都市ではどうなのだ?」
沈黙が流れる。
この時点で、時空魔術研究所は襲われて間もなく、早馬での報告が向かっている際中だ。
「襲撃者の目的が、500年前から存在している施設にあったのなら?
魔導師と遭遇する可能性は高くなる。
直ぐに対応を行え」
「はい、直ちに」
宰相は深くお辞儀をすると、執務室を退室する。
領主は、額に手を当てると、大きく息を吐く。
「目的を見誤っていたのか」
領都は重い雲が立ちこめていた。
■■■■
意識が戻る。
全身が冷え切っている、体が動かすことが出来ない。
何が起きたんだろう?
気力が全く涌かない、体に雪が薄く積もっている。
気を失う前に何があったのか、ボンヤリとした頭で思い出そうとするが、曖昧だ。
はーっ。
息を吐く、白くなって流れていく。
動かないと、でも、何をすれば良いんだっけ?
思い出し始めて、目から涙が流れる。
シーテさん。
シーテさん、ごめんなさい。
目を閉じて収納空間を確認する。
現実を受け入れるために。
はっ?
えっ?
目を見開き、その内容に混乱する。
だって、収納空間に居るシーテさんが、必死に何か踊っているんだもん。
慌てて、自分を収納する。
「シーテさん!」
「マイちゃん、やっと気づいてくれた!」
シーテさんに抱きつく。
暖かい、生きている、なんで?
え、え、え~ぇ?
状況を受け入れられず、シーテさんの体を触り、顔を撫で回す。
切られたはずの胴体を服をめくって確認しようとして、頬を摘ままれて止まる。
本当にシーテさん?
はえ?
「シーテさん、ですよね?」
「何言っているの?
私はシーテに決まっているでしょう?」
何時ものシーテさんの笑顔で私の頭を撫でてくれる。
シーテさんだ。
「ふぁぁぁぁぁん」
「マイちゃん? え、冷え切ってるじゃないの、大丈夫?」
抱きついて、泣いてしまった。
シーテさんは、冷え切った私を、驚いたようだけど優しく抱きしめてくれた。
暖かくなる、体が心が。
タップリと泣いた後。
私はシーテさんに抱きついたままだ。
手を離したら消えてしまいそうな、そんな恐怖が心を占めている。
何とか、状況を説明する。
「え、マイちゃんの話だと、私は胴体を真っ二つにされて死んだの?」
シーテさんを見ると、服も何もかも切られた痕跡は無い。
「はい、収納する直前に切断されて、収納空間には即死したシーテさんが……」
あ、また涙が滲んでしまう。
「でも、私は切られていないわね。
それに、服も痕跡は無いわよ」
そうだ服も切られたような跡は無い。
「私の記憶だと、マイちゃんへ腕を伸ばした所までかな?
気が付いたら、収納空間の中に居て、マイちゃんが居ないから呼んだんだけど気づいて貰えなくて困っていたのよ」
何が起きた?
私が気を失う前に何が起きたのか、思い出そうとする。
記憶が混乱している、正常な状態では無かったのだろう。
『時間なんて!
時間なんか、巻き戻ってしまえば良いのに!!』
この言葉が浮かぶ。
いやいや、時間は不可逆の特性を持っている。
この世界において時間が巻き戻る現象は有り得ない、それが魔術であっても無理である事は魔術の勉強を行った者にとっては常識だ。
この世界?
ボンヤリとしていた頭が急速に回り出す。
収納空間、この空間の理は現実の世界とは大きく異なる。
私の収納空間の場合は、距離という概念の無い世界だ、だから何処に有っても手に取ることが出来る。
時空魔術の収納空間には固有差がある。
収納容量の違いは良くあるが、それも体積なのか重量なのか、また、生きているかどうか、温度や時間の流れも遅くなるというのはたまにある。
そう、時間の流れだ。
可能性だけど、私は収納空間内の時間の流れ、その法則を決定するのはその空間を作った時空魔術師による。
なら、時間の逆行は可能だろうか?
架空の話でなら、呪いで若返っていくというのもある。
時間の逆行は聞いたことが無い。
だけど、今、シーテさんが此処に生きている理由を説明するには、私は私の収納空間の時間を巻き戻したということにでもしないと説明が付かない。
疑問点もある、シーテさんを収納した時点で切断されていた。
だから巻き戻したとしても収納した時点で止まるのではないか?
「でも、兎に角生きていてくれたんです、それでいいんです」
「判らないけど、助けて貰ったみたいね。
ありがと、マイちゃん」
シーテさんの胸に頭を沈めながら、鼓動の音を聞いてようやく落ち着いてきた。
私は、間に合う事が出来たんだ。
そして思い出す。
自分自身が、時間逆行を行っていた事実を。
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