第307話 廃棄都市「失敗」
0307_21-10_廃棄都市「失敗」
失敗した。
隊列を組むという事は、重要な部分を最も守りを堅くする。
そう、私だ。
襲撃者にとっては目標は此処だと知らせるのと同じだ。
あの出入り口、あそこで躊躇せずに収納空間に待避してしまえば良かったんだ。
一瞬、悔やむが反省は生き残ってからだ。
空中に躍り出た人影は3つ。
シユさんの矢とシーテさんの何かの攻撃魔術、そして私とシユさんの弱いが攻撃魔術と魔法を同時に行使する。
空中で身動きが取れないはずなのに私・トウさんとシユさんの攻撃が避けられた。
当たったのは速度と威力が抜きん出ているシーテさんの攻撃魔術だけ。
1体は攻撃を受けて崖近くに着地、ダメージは確認できない、いや体は焦げていてあちこちに服が切れかかっているのが、ここまで接近してようやく判る。
それは残り2人もそうだ。
その2人は攻撃を避けたが、こちらへの攻撃が出来ずにそのまま通り過ぎて、挟まれた。
3対5、人数的には此方が圧倒的に有利だけど、相手の力量が全く読めない。
そもそも、あの灼熱の部屋から生還したんだ防御力はかなり高い。
「防御陣形、このまま塀の方へ……」
ゾクリ!
悪寒が走る、シーテさんが私のそばに寄る。
クキャァァァァァ!!!
シーテさんの攻撃を受けた襲撃者が叫び声を上げると、体を屈めて自分自身を抱きしめる、そして今度は空を仰ぎ絶叫する。
体がブクブクと肥大し、服が破れ。
そして、黒い大地が吹き出した。
『まずい、暴走だ』
『撤退を巻き込まれる』
『いや、この者達を……ぐっ』
襲撃者達が会話しているけど、言葉がわからない。
動揺しているのかな?
いや、今はそんなことを気にしている暇は無い。
黒い大地の影響なのか、元々地面がえぐれていたのか、大きく石畳の道が凹む。
シーテさんが私を抱えて風魔術で飛び上がる。
残った2人が追撃しようとするのをドウさんとシユさんが阻む。
私は残された3人を見る事しか出来ない。
ドウさんの剣が袈裟斬りに肩から胴体の真ん中まで切り裂く!
が、ドウさんは直ぐに剣を手放して後退した?
剣が刺さったままの襲撃者はそのまま倒れず、そして。
ガァァァァ!
傷口から黒い大地を吹き出す、なんなんだ一体!?
『駄目だ奴を連れて撤退し……ぐぁ』
『俺も制御できない、此処までだ、証拠を消す』
『了解した』
何かを話したと思ったら、ピタリと動きを止めて此方を向く。
残った1人が胸元に手をやると何かを引き抜いた。
バシャ
水風船が割れたような音がした。
体を包むような服がバラバラに解けて、中の黒い人?らしきものが現れて、崩れる。
あっという間に骨が漏出して内蔵が、それらが崩れて黒い大地に落ちる。
「ぐぇっ」
シウさんが嘔吐く、距離を取った私達は未だましだが、直ぐそばにいる3人にはキツい状況だ。
更に地面が崩れる、膝を付いてしまったシウさんが逃げ切れずに落ちてしまう。
ドウさんが驚愕な表情と共に反射的だろう、そのままシウさんに手を伸ばすように飛び込む。
シユさんも追いかけ崩れた所に飛び込んで行った。
目の前には、人?だった3人の襲撃者が崩れて出来た黒い大地。
探索魔術を行使するまでも無い、間違いなく黒い大地だ、人に黒い大地が?
判らない。
いや、今やるべき事は逃げる事だ。
「シーテさん、逃げます」
状況に固まってしまっているシーテさんに収納空間に入ることを宣言したつもりだった。
だが、間違って伝わってしまった。
「判ったわ、先に行って」
シーテさんが私を投げ出すように後ろに風魔術で放りだして剣を抜いて構えた。
ああ、違う一緒に収納空間に逃げるんですよ、3人も私達だけなら収納空間に入れることを知っているからこその行動だろうから。
黒い大地から飛び出すようにオオカミの様な魔物が複数飛び出してくる。
足が6本だったり背中から何かが飛び出していたり、種類を気にしている余裕は無い。
「シーテさん!
収納空間です、こっちへ!」
此方の意図がようやく伝わったのか、直ぐに此方に走ってくる私も走る。
距離は5m。
手を延ばす、シーテさんの手も伸びる。
「マイちゃん!」
シーテさんの手に触れ、その時、黒い影がシーテさんの後ろを通り過ぎた。
私はシーテさんを2つ収納した。
「あ」
私の思考が止まる。
収納空間の中を確認する。
胸から上下に分断されたシーテさんが収納空間に浮かんでいる、それだけだ。
ピクリとも動かない。
即死だ。
又間違えた。
何で私は肝心なところで失敗してしまうんだ?
シーテさんが私を抱えているときに、問答無用で収納空間に移動すれば良かったのに。
止まった思考が、真っ黒に染まっていく。
胸が熱い、胸の中に有るダンジョンコアが激しく熱を持ち始めている。
でも、そんな事、もうどうでも良い。
私は、感情が抜け落ちて何も感じていない自分を意識しながら、私の回りを走る魔物達へ目を向けた。
■■■■
コウの町、その町長の館に有る応接室。
領軍の隊長の指示で、元視察団のチームが招集された。
リーダーで大剣使いのギム、斥候と大盾のジョム、弓と剣のブラウン、そして聖属性魔術師のハリス。
ただ魔術師のシーテはマイと共に移動しているため不在だ。
全員の表情は硬い。
「こんな博打じみた作戦を遂行したんですか?」
ブラウンがやや非難する口調で隊長に問いかける。
「マイ様が最も狙われやすい事は領主様も理解していた。
研究所の守りが弱いこともな。
だからこそ、襲撃者を誘き寄せて殲滅するのに都合が良かったのだ。
マイ様にも御理解頂いている」
「うむ。 かといって、廃棄都市ではもしもの時に応援に行くことが難しい。
そして、もしもの事態が発生している可能性が高いのだな」
ギムが腕を組んで大きく息を吐いて呟く。
その言葉には怒りが滲んでいる。
町長の補佐の男性がお茶を出しているが誰も手に取らない。
「救出計画は出来ているのですか?」
重苦しい空気の中、穏やかなそれでいて力強い声でハリスが問う。
「長期になった場合に備えて、食糧・消耗品を送るための手筈を整えている。
馬で進めるギリギリの場所まで進み、そこから廃棄都市から10kmの所にある砦跡に届けることになっている。
緊急時の集合場所としても設定されている。
まずは此処へ向かう、落ち合えれる可能性は此処が一番大きい。
そして救援部隊の中継基地になる予定だった」
廃棄都市、言うまでも無く都市規模の大きさだ、向かったから合流できるという可能性は非常に低い。
森の中の移動も、昔有った街道を通ることになっているが500年過ぎて森に飲み込まれてしまっている中ですれ違ってしまう可能性も有る。
砦跡も小さい要塞位の大きさはある、が、まだ合流できる可能性はある。
なにより、廃棄都市の人工ダンジョンへの探索経験のあるシーテが居る、要所要所に目印を残していると思われる。
それに、シーテなら砦跡に居れば探索魔術で見つけられるだろう。
その探索魔術は、森の中で個人を確実に選別するだけの精度がある、マイから教えて貰ったと言っていた。
「うむ。 判った、準備完了次第出る。
そちらの準備は、我らは装備を取りに行くだけだ」
「あ、ああ。
馬と荷物の準備を進めている、夜になってしまうが」
「関係ない、夜間移動程度こなせる」
ジョムがその体躯を動かし、直ぐに準備のために飛び出したいようだ。
それを宥めながら、副隊長とおぼしき人物が詳細を説明した。
今回、廃棄都市へ向かう元視察団チーム4人と、それを補助するための荷物や途中で置いていく馬の面倒を見る支援部隊が10人。
本来はそれに行けるだけ行く荷馬車が1台あるそうだ、これは後から追いかけて砦跡に中継基地を作るそうだ。
直ぐに解散して準備が始まる。
全員、再招集の可能性がある事、また、マイに何かあったときに動けるように準備は怠っていない。
程なく、コウの町の西口にある守衛の待機所に全員が揃う。
領軍の準備が遅れてしまっている始末だ、が、これは守衛や町との調整に時間が取られたためだ。
領軍の兵士の中に魔術師が居るので、明かりは問題無いそうだ。
これから西の村へ向かい、その後、昔の街道沿いに移動する。
西の村から50km程度は山林の保全のための林道があり馬で普通に進めるらしいが、それ以降は下馬しなくてはいけない。
そして、コウの町から100kmも進むと森が濃くなってしまい馬での移動が難しくなる。
そこから砦跡まで90km、遠い。
マイ達とは違い、馬を使い移動速度重視での行動となる。
それでも単純に移動するだけで十数日は掛かる、それに野営や補給を含める必要が有る。
襲撃者が居てマイ達を狙っているのなら既に戦闘が行われている可能性が高い。
「しかし、ギム。
マイ達を襲撃するとして、廃棄都市で発見することは可能でしょうか?
居ることが判っていても相対するのは難しいと思うのですが」
「うむ。 判らん。
だが、可能性があるのなら向かうべきだろう」
「そうですね。
2度も後悔するのは勘弁願いたいです」
14名が馬に騎乗する。
完全武装の冒険者4人、そしてそれに従うように完全武装の領軍の兵士10人。
闇が満ちた道を西の村へ向かって駆足で走る。
兵士の1人が前方を照らすように光属性の魔術を行使する。
静かな闇の中を馬の蹄の音が響く。
照らされた道の先の暗闇を睨み付け、ギムが呟く。
「待っていろよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます