第306話 廃棄都市「襲撃者」
0306_21-09_廃棄都市「襲撃者」
コウの町。
その東の門では守衛が出動準備をしているが、情報が錯綜して混乱している。
馬車で運び込まれた大量の兵士と守衛の負傷者が運び込まれた。
そして付き添いの兵士から情報を得られなかった為だ。
そこに早馬で領軍の隊長が部下と共にやって来た。
一斉に注目する。
「静まれ!
時空魔術研究所の襲撃者の撃退に成功した!
コウの町の警備に戻って頂きたい!
責任者は私と共に町長の元に同行願いたい!」
この場の責任者は、経験年数だけで任命された守衛の隊長だ、オロオロする。
元々、守衛の最高責任者は研究所にいる。
そこに、隊長格を持つギムが名乗り出る。
「うむ。 私が同行しよう」
「おお、ギム。
頼む」
責任者はギムを見ると、大きく安堵の息を吐いて、任せる、格だけらな同格の隊長なので問題無いはずという事なのだろう。
領軍の隊長はギムを一瞥すると、最も必要とする人材で有ることを理解して、了承する。
「ギム、ブラウンが居ると聞いた今どこに居る?」
「うむ? 待機中だがそれが?」
「彼、そしてジョムとハリスも呼び出せないか」
その言葉で、ギムは理解する。
マイに何かあったのだと。
シーテからの情報が届いていない、定期的に届いていた手紙も1ヶ月近く途絶えている。
「了解した、シーテはマイ様のところに居るで良いか?」
「それも含めて後で説明する。
時間が無い、急いで貰おう」
「むぅ。 了解した」
ギムは守衛の部下に指示を出して、馬に乗り領軍の隊長と共に町長の館に向かって早足で走らせた。
■■■■
私は、廃棄都市に居ることを終了して、コウの町へ戻ることを決めた。
この廃棄都市で私が出来る事はほぼ無い事が判ったからね。
既に時空魔術研究所を出てコウの町から密かに出発してから、約1ヶ月の日数が経過している。
収納している食料には余裕があるけど、これから更に寒さが厳しくなる。
収納空間の事を話したので、野営の問題が無くなるのは大きいけど、それでもこれ以上の滞在は必要ないと思う。
昼食を取る。
魔術で温めたスープと携帯食で済ませる。
通常は魔法・魔術を温存するけど、今回の調査では火を使うことで発見される危険を重視している結果だね。
シユさんも十分に休めたようで、軽く体をほぐしている。
「マイ様、帰路は湖伝いに移動して都市の外れへ向かいそこから森に入る方が時間的に早いと思いますがそれで構いませんか?」
既に話し合った計画の1つ、元来た道では廃棄都市の建築物が障害となって移動速度が落ちる事から、湖伝いに森に移動した方が良いとの案が出ていた。
湖は場所は都市の中心が有った場所だと、トウさんが推測した、だけど横長に発展したのか他の要因か、湖の東側は森と繋がっている。
特に否定する理由も無いので了承する。
「ええ、帰りは収納空間を最大限に利用することも考慮して下さい」
「はい、お力をお借りします」
正直、もっと早い段階で収納空間に入れることを明かしても良かったと思う。
彼らが私の護衛であると同時に監視でもある事を差し引いても。
それでも信用しきれない何かがある、それは彼らの過去の事かも知れない。
準備を終えると、都市核という何かを制御するための部屋だったところへ戻る。
ここから湖へはやや急な斜面を下れば良いだけだ。
シユさん、ドウさん、トウさんが前衛、私、殿はシーテさん。
崩れた瓦礫は適当に片付けられている、昔 魔道具や魔石を収集するために来た冒険者が片付けたんだろう。
その通路を歩く。
そして、部屋に入ろうとしたところでシユさんが止まる。
手で、制止の合図を出している。
「どうした?」
ドウさんが、シユさんが黙って合図までして止まったのに気が付かずに声を掛けてしまう。
「何者だ?」
後から聞いた話だが、部屋の中には6人の人影が居た。
ドウさんとシユさんの間から見える部屋の中に人影が有った。
かなり広い部屋のにある機器類を調べていたのだろう、その一団はしゃがんでいた姿を現す。
のっぺりとした見たことの無い素材で出来た服を着ている。
たぶん全員だ。
その表情は顔を半分隠すような物で隠されていて読めない。
シユさんが冒険者の風を装って、驚いたような雰囲気で話しかける。
後ろに回した手は私達に下がれと合図している。
「びっくりした。
私達とご同類の”冒険者”が居たなんて。
見た通り、取り尽くされちゃってどうしようかと思ってた所よ。
ね、貴方たちは何処から来たの?」
後ろに回した手で腰のナイフを抜く。
声の気楽さに対して緊張が張り詰めているのが判る。
私とシーテさんが大きく後ろに下がる。
「応える必要は無い。
いや、色々聞かせて貰おう」
誰が話しているのか判らない。
体格がまちまちでだが、武装をしていないのも気になるが、大きく下がったため観察出来ない。
「冒険者なら、相互協力よ、そちらの情報も出してよね」
「此方から言うことは無い」
「それじゃぁ、駄目だねぇ。
こっちは もし帰るからどいてくれない?」
暫く静寂が流れる。
その間に私とシーテさんはトウさんと一緒に大きく下がる、そして小声で打ち合わせ。
通路を利用して狭い範囲攻撃を打って足止めして、その間に階段を上って外へ逃げる。
「投降しろ」
「穏やかじゃ無いね、敵対する必要あるの?」
シユさんがワザとノラリクラリとした口調で会話が続く。
その間に私とシーテさんは十分に距離を取る事が出来た。
そして、ドウさんが私に頷く。
私とシーテさんは逃げて、適当な場所で収納空間に隠れる。
その間の時間を彼らが作る。
「……、無駄だ処理しろ」
此方の意図が読まれたのか、一気に殺気が満ちる。
5人が動き出す、入り口は狭いとは言え5人は並んで通れるだけの広さがある。
迎え撃つには少し場所が悪い。
かといって、私とシーテさんが逃げる時間を削るわけにはいかない。
「シーテさん、散弾型の氷の矢」
対人には強力すぎる魔術だが確実に殲滅したい。
オーガ種の胸を抉った短槍を核とした氷の槍を打ち出す魔術、の改良版。
複数の短槍を核とすることで発射後に分裂して面攻撃をすることが出来る。
狭い通路全体を覆い尽くすことが可能なはず。
「了解。
その前にあの部屋に向かって炎の魔術を打ち込むわ」
「はい、任せます」
短い会話で手順を済ませる。
シーテさんの魔術の構築速度なら私が氷の槍を用意している間に炎の魔術を打ち込んでから風の筒を作っても十分に余裕が有る。
「全員撤退!」
私が叫ぶ!
ドウさんとシユさんが大きく下がったところに黒い人影が迫る。
そこにシーテさんの炎の魔術が打ち込まれて部屋の中を炎で満たす、この炎もシーテさんの得意の複合魔術で火と土を合わせて作られた超高温の土が内部の少量の水が蒸発する威力で爆散する。
幾つもの状態を組み合わせることで多彩な攻撃手段を持つシーテさんならではの高等技術だね。
ドォォッ!
室内から凄まじい熱量の輻射熱が襲ってくる。
ドウさんが慌てて走る、シユさんはもう此方に走っているね。
凄まじ威力だ、普通の冒険者なら呼吸器を焼かれ体中も焼かれて即死しているはずだが、探索魔術には動く反応がある。
私達は通路を走りながら反応を見てシーテさんと確認しあう。
「撤退呂の確保!
次の攻撃の後は、地上に出ます」
真っ赤に染まっている部屋から黒い影が出てくる、動きは多少緩慢だが遠目にはダメージがあるように見えない。
階段の所まで来て、私とシーテさんの共同での魔術を行使する。
シーテさんが作った風の筒に私が構築した複数の短槍を核とした氷の槍を設置。
人影は3人、まだ増えそうだ。
走る素振りを見せたところで、氷の槍を射出する。
ドゴォォォ!
目論見通り空中で分散した短槍の束が突き破り更に後ろの人影に突き刺さる。
その途中でシーテさんか炎の魔術の爆発を行使する、目の前の通路が崩れる。
「さ、マイ様急いで!」
ドウさんが私とシーテさんを階段を上るように促す。
グルグル回るように設置された階段を登っていく。
シーテさん、私、トウさんで、次にシユさん、殿にドウさんだ。
階段は所々壊れていたが、地上まで続いていた。
下から登ってくる気配は無い。
もし登ってくるようなら土の魔術で階段毎潰しておく必要が有る。
地上に出る。
階段があった施設の地上部分は小さい、グルグル回ったせいで方向が判らない。
ざっと見て、出入り口のある方向は建築物があるので湖の方では無い事が判る程度だね。
「隠れます、シユさんこの辺で隠れるのに適当な場所を。
シーテさん、周囲の探査を密に。
ドウさんとトウさんは目視での周囲警戒を」
矢継ぎ早に指示を出す。
ここからは状況に応じて判断しないと、失敗は許されない。
改めて周囲を見渡す、広い公園の様になっていたのかな?
石畳が広がって、そのあちこちから木が生えているけど見渡しは良い。
出入り口から右側に陸橋がある、先は崩れている。
前方と左側には塀とその向こうに建築物が並んでいる。
此処は何らかの施設の入り口だったのかもしれない。
まずい、直ぐ近くに隠れることが出来そうな施設が無い。
シユさんが出入り口の上に登って周囲を見ていた、軽く身を躍らせて降りて戻ってくる。
「マイ様、まっすぐ行った方向の塀を越えた場所まで行けば有るかと」
「判りました、全員で移動しましょう」
今は分散する必要は無い。
ある程度、周囲から隠れる場所があれば、そこで全員を収納して数日隠れればやり過ごすことは可能だろう。
倒すのが目的じゃ無い、優先順位を間違えるな。
階段を登った順番で違いは私を囲むようにシーテさんとトウさんが居る。
道のようになっている石畳を私を中心として速歩で移動する。
右側の方は崩落が進んでいる、湖の方かは確認できないが一部は目の前の石畳まで広がっているね。
探索魔術に反応は無い。
後ろの出入り口から煙が上がり始めている。
何だろ、嫌な予感が止まらない。
それは皆感じているのだろう、周囲への警戒がまるで戦う直前の様に張り詰めている。
道の途中、崩落が進んでいる場所に私が差し掛かったとき。
崖下から黒い人影が私に向かって飛び上がってきた。
失敗した! 隊列の中心を狙ってこられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます