第305話 廃棄都市「都市核」
0305_21-08_廃棄都市「都市核」
時空魔術研究所の戦いの後は悲惨の一言だった。
研究所の裏手に作られた自給自足の為の農園は踏み荒らされ、死体と血で塗り固められている。
研究所も爆発の影響で窓が何枚も割れているが、幸い建物の被害は少ない。
生活している家もボヤで一部が焼けた程度だ。
コウの町の守衛、そして領軍の兵士、その被害は日が昇って確認した隊長を愕然とさせるのに十分な被害が出ていた。
森に潜ませていた兵士が全て殺されていた、本来なら襲撃時に襲撃者を背後から襲うはずの役だったが、その仕事をする前に沈黙させられていた。
しかも襲われたことに気が付かずに半数は頭部を貫かれて、何人かは異常に気が付いて反応し始めた所で息絶えていた。
問題なのは、この刺突系の攻撃をしてきた襲撃者が今回居なかったことだ、別働隊が居る可能性が非常に高くなった。
戦闘に関わった守衛と兵士の死者も多数出て居る。
特殊戦闘部隊ですら、戦闘不能になった者が出て居る始末だ。
無事だったのは、研究所内で待機していた兵士と視察団チーム、そしてコウの町へ行かせないために街道横で防御陣形を取っていた守衛だけだ。
兵士がドアをノックして、目的を告げ入室する。
「索敵部隊からの報告!
周囲に敵影無しです!」
隊長が苦虫をかみつぶしたように表情を歪ませる。
この襲撃はリーダーと思われる者が居なかった、それは別働隊が未だ残っていることを改めて示している。
だからこその索敵だ、だが周囲に潜んでいる気配は無い。
目的は何だ?
魔導師の殺害が目的では無かったのか?
偽装工作は完璧だったはずだ、何か見落としていないか?
「そうか、怪我人の治療の方はどうだ?」
「すでに応急手当が終わり、コウの町の教会の医療施設へ移動を開始しています。
戦死者は墓地への埋葬を進めています」
「うむ、第2弾の攻撃が無いとも言えない。
警戒と迎撃準備を急がせろ」
「はっ」
部下が退室するのを待ってから、司令室代わりの応接室の椅子に背を預ける。
「特殊戦闘部隊 隊長、魔導師様へ応援の必要はありますか?
指示役が居ませんでした、なら別働隊が居ると想定する必要が有ります。
その別働隊が此方を再度襲うのなら兎も角、魔導師様へ向かったとなると危険です」
「そうだな、入れ替わりが発覚しているとは思えないが、敵の戦力が見えた今は防御を固めた場所で守った方が良い」
「だが、廃棄都市へ行ける人員が居ません。
研究所を守るための人員だけでも再襲撃が来たときには心許ない。
それに廃棄都市へ行く森の中を移動する能力が有る者が居ない」
「居ないはずがない、その為にコウの町には元視察団チームを残していたんだろ」
そう、この戦いで強力な戦力であるはずのギムを含む元視察団チームは研究所に配置されていない。
コウの町で待機を命じている。
入れ替わりをしていることを知らせていないので、かなり抗議されたそうだ。
「判りました、私から直接説明した方が良いでしょう。
その間の指揮を願います。
情報の解禁をするべきですか?」
「指揮の委譲を了解した。
情報開示は……指揮官には知らせよう。
本日の定例報告で通知する、それとコウの町の町長にも知らせる。
元視察団チームを魔導師様への応援に向かわせる必要が有るからな」
「早馬で出ましょう」
領軍の隊長はベルを鳴らし、兵士を呼んだ。
■■■■
朝、今日は廃棄都市の地下深いところに有る施設に行き調査する予定だ。
地下深いといっても、攻撃か何かによって大きく抉られていて、その地下施設がむき出しになっている。
私達は、抉られた崖と斜面を下りながら移動して、地下施設の端に到着して野営を済ませたところだね。
今は出発のための準備をしている。
昨日の夜の事を思い出す。
収納空間に人を生きたまま収納できることを話した。
実際にシーテさんを収納し取り出して見せて、事実で有ることを証明したけど、当然ながら複数人ではやったことが無い。
なので、複数人の収納が出来るかの確認をした。
結果としては成功したが、制約は多かった。
まず、遠隔収納での複数人は無理だった、これは私の遠隔収納が同時に2つが限度なのが原因だろうね。
数珠つなぎで繋がっている場合も駄目だった、複数人が同時に収納するのには直接私に触れる必要が有る。
そして、検証して問題になったのは、複数人を収納するときに私も一緒に収納することが出来なかった。
収納空間の中から収納することも出来ない、理由は判らない。
シーテさんと私を収納するときは同時に出来たから、これも人数の制限かもしれない。
取出にも制限がある、今の所は1人ずつしか取り出せない。
取り出し位置は収納した場所か遠隔取出で指定した場所になる、そして私は現実空間に居る必要が有る。
つまり、全員が収納空間に逃げるには全員が私に触れて私1人が残り、最後に収納空間に入る事になる。 もしくはもう1人残って一緒に収納する。
私が最後まで居なくてはいけない事は、全員から難色を示された。
収納空間の中の評判は案外良かった、上下左右も距離の概念も無い空間なので戸惑うかと思ったけど、シユさんはクルクル中を回って喜んでいるくらいだ。
収納空間内にある程度、床と生活するための設備を置いてあるのも要員かもしれない。
それとだ。
彼らは私の盾となる、場合によっては囮や犠牲になってでも私を助けるために動くように命令を受けている。
命の価値を、私を生かすためだけに使おうとしている。
そういう任務なのだから理解は出来るけど納得は出来ないな。
■■■■
目的地とした地下施設に到着した。
といっても、10mほど横に移動するだけだから直ぐだ。
野営した部屋と目的の施設とを繋ぐ通路は近くに無かったが、奥に向かう通路があったので、遠回りすれば行けたかもしれないね。
目的の地下施設を見る。
うん、絵に描いたような略奪の後だね。
沢山の魔道具が有ったと思う室内。
その壁の機器から外れる物、分解できる物は全て取り外され、そこから加工された魔石や鉱石が外されてうち捨てられた魔方陣の描かれている板が散乱している。
部屋の中央になるのかな?
抉られて壁が無くなっている部屋の中央付近には多分1m位だったと思われる石が置かれている。
多分なのは半分に砕けて散らばっているからだね。
そして、その石は触るとザリザリと簡単に削れて砂になる脆い石だ。
なんでこんな物が中央に置かれているのかは判らない、何らかの意味は有ると思う。
「シユさん、この部屋が都市の中心機構になるのでしょうか?」
私が聞くけど、シユさんはあちこちを見て回って、今は崖沿いから床下を覗いている。
うーん、性格が読み切れない。
シーテさんを見ると頭をコテンと傾けて、私も判らないと意思表示する。
「マイ様、此処は中心では無いです、多分。
奥の部屋を見ても良いでしょうか?」
床にある穴に頭を突っ込んだまま、言われると何ともだけど、了承する。
奥に続く部屋へ入る。
書類が置かれていたであろう部屋がある。
簡単な地図もあって、シユさんが凝視している。
簡略化された地図なので、意味が判らない。
更に奥に入ると、ようやくこの一連の部屋に入るための入り口に到達した。
周囲に向かう通路と、更に奥へ続く通路の先には上に向かうための階段、そして地上まで続く縦穴も有った、穴からは空が見える。
簡単な食事が出来る場所だろうか?
厨房らしき物と食堂のような部屋で休息を取る。
ここも荒らされていて、厨房の料理用の魔道具は全て取り外されていた。
でも食堂は比較的綺麗で、ここで野営をしていたのだろう、その奥にはトイレも有って現役で利用可能だった。
ここで休憩を取る。
トウさんが、早速哨戒に出る。
この間に、シユさんの見解を確認しよう。
「シユさん、あの施設が都市の中心機構では無い、という理由を聞かせて下さい」
「はい、確信を得たのは次の部屋に有った地図ですが、あの施設は都市の中心にある大型の魔道具、恐らく都市核と呼ばれている物を制御するための端末の1つのようです」
「都市核、ですか?」
「私も詳しくは、大型で複雑な魔道具で、上下水道などのインフラなど都市を管理運用するための機能の中心的な物。
昔の都市では都市核を通じて都市の運営をしていたらしい事ぐらいしか知りません」
「では、その都市核というのは何処に有るのですか?」
「……湖の中心この部屋と同じ高さの場所を中心に幾つかの巨大な魔道具を繋げていたかと、たぶんですが」
「想像も付かないですね」
今、利用されている魔道具は大きくても馬車を馬を使わずに動かす程度だ、あの部屋全体が魔道具と言われても、目的も機能も判らない。
そして、直径数キロにも及ぶ湖が有る場所に、昔は大型の魔道具が有った。
その規模から、どんな用途に使われたのかも判らないし、そしてそれらが消え失せてしまった事も理解できない。
今回は、私の魔術師としての知識が全く役に立っていないんだよね。
最初から判っていたとはいえ、モヤモヤする。
「戻りました」
シユさんが戻ってきた。
「ここから西側は崩れていて通路が寸断されています。
また、奥の南側は長い通路で階段の有る先は崩れていて確認できていません。
東側は、最初に野営した部屋に続くと思われる倉庫群があるだけです」
「ありがとうございます。
昼食まで休憩して下さい」
シユさんに礼を言うと、部屋の隅で休んで貰う、少ししたら寝息が聞こえてきた。
一番 神経をすり減らしているはずだから今は休んで貰おう。
どうするのが正解かな?
今から帰還すれば、到着すると丁度2ヶ月程度になる、戻るのには時間敵に丁度良いだろう。
この廃棄都市の都市機構の解明は、その中心機構が喪失していた、で何とかなるかな?
私は決断を下した。
「皆さん、廃棄都市の調査と隠匿は此処までとして、コウの町に戻りましょう」
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