第304話 廃棄都市「地下」
0304_21-07_廃棄都市「地下」
「マイ様は、まるで歴戦の兵士のようですね」
ドウさんの言葉にドキッとする。
喋りすぎたか、下手に取り繕うより普段通りにしていた方が良いとの判断だったけど、踏み込み過ぎたかも。
「魔導師様の知己というのは、こうも広く深い物なのですね」
魔導師と言うことで納得してくれた?
世間的には魔導師というのは稀少な存在だ。
国内に十数人しか居ないし、その大半は王都に居る、出会える機会は無いし、その存在自体も尾ヒレがついて誇張された認識になっている。
私も、オーエングラムさん元筆頭魔導師しか知らない。
そして、その実力は不明だ。
領都の森で見た威力は魔術師には実現可能な人は多い強さの魔術だった。
そして、実働している魔導師の人たち、詳細な情報は知らされていない。
これは、私についても同じで、コウシャン領だから多少は知られているけど、他の領ではせいぜい未成年で女性としか伝わっていないはずだそう。
だからこそ、情報を収集しに他の領から旅人がやってくる。
うん、話がそれた。
何となくだけど、私の辺境師団での経験は魔導師としての特殊性という事で理解して貰えたようだ。
その後、シユさんとシーテさんが戻ってくる。
目標とした地下施設への移動経路を決めたとのこと。
要所要所の地形を書き込んだ地図を見ながら情報を共有する。
トウさんとシユさんが何か話しているけど、聞こえてこない。
小さく笑って抱き合っているから、良いことなのだろう。
夜の見張りは、私を除いて残りの全員で行われている。
最初は私も加わろうとしたけど、魔導師でかつ警護対照の私が見張りにつくのはおかしいと言われてしまった。
うん、当然だね。
順番はシーテさん、そしてドウさん、最後にトウさんとシユさん。
単独での戦闘力がほとんど無いトウさんはシユさんと組んでの対応となっている。
夜、シーテさんが見張りにつて居るとき。
私はテントを抜け出してシーテさんの横に座る。
「シーテさん、少し良いですか?」
「マイちゃん、何か?」
「明日から地下施設に向かいますが、今までと危険度が変わります。
特に襲撃を受けたときに逃げるのが困難です。
なので、私達が隠している私の時空魔術の出し惜しみはしないことにします」
「いいの?
帰還したら間違いなく報告が上がるわよ」
「承知の上です。
何時までも隠しておくのは難しいですし、なにより判断を間違えたくないです」
シーテさんが私の肩を抱いて抱き寄せる。
シーテさんの首元に頭を預けて、力を抜く。
テントの中で微かに人の動く気配がする、多分聞かれているね、それを期待していたけど。
シーテさんもテントにチラリと視線を向けている。
「判ったわ、でも全力で守るから、私にも負担を背負わせてね」
「はい」
「さ、寝ちゃいなさい。
明日は日の出と同時に移動よ」
■■■■
翌日、日が昇る前に起床して簡単な食事を済ませる。
明るくなってきたら移動開始だ。
崖と斜面を移動するが廃棄都市の内部と違い大きな遮蔽物は無い。
順調なら今日中に目標の地下施設に到達できる予定だ。
建築物の地下室に入り、崖に向かって開けている場所から崖伝いに斜面まで斜めに下っていく。
足場が悪い、が予想の範囲内だ。
崖が終わり、斜面まで来て一休みする。
崩落の危険が大きい、時折、石が転げ落ちていく音がする。
上方向も注意しながら移動する。
魔術で物理的な防御をするというのは案外難しい。
土属性ようは固体物をつかって防ぐにしても、斜面では逆に崩落を誘発しかねない。
落ちてくるのさえ判れば、遠隔収納を使って収納してしまうのが安全だろうね。
タイミングが難しいけど。
昼食も簡易食、のような物を休息中に食べてすませる。
領軍から支給された簡易食だけど、辺境師団で支給された物に比べると脂っこくて味が悪い。
辺境師団の時に美味しくないと愚痴りながら食べたのを改めて反省。
水が道管から流れ落ちている所をくぐり、少し進むと目標の地下施設の端に到達した。
作りが明らかに違う。
壁の厚さが優に1mを超えている。
上層部の構造物を支えていたとしても過剰じゃないかと思う。
「柱が無いですね、壁自体が非常に厚いです。
壁自体が構造体として機能しているようですね」
トウさんが壁を触りながら言う。
うん?
「トウは、守衛の頃に町や村の復興支援で建築物の計画をしていた事があります。
私達の親が町の総合建築業を行っており、建造物に関する知識があります。
元々はそちらを仕事にするはずだったんですが、魔法使いとしての力が重用されてしまいまして」
トウさんは元々家業を継ぎたかったのかな。
総合建築業というのはよく判らないけど、建築に関する全体を業務として行っている、建築ギルド?みたいな物だろうか。
そうだとしたら、かなり大きな家なんだろうね。
壁の構造は、劣化しているがコンクリートみたいな素材で作られているように見える。
見渡す限りの構造物が一体成形されているようだから間違いないと思う。
天井には照明と思われる魔道具の残骸が残されている。
それに通気口や何かを通していたと思われる配管、うん、思っていた以上に高度だ。
トウさんは、その地下構造物を熱心に観察している。
普段の暗い雰囲気とは違い、熱心な研究者という感じだ。
これは良いことかもしれない、好きにさせておこう。
「マイ様、急ぎましょう」
トウさんが夢中になって壁や施設の設備をなで回している。
それを見て、少しため息をしてドウさんが声を掛けてきた、けど否定する。
「いえ、これほど深い地下の施設だった場所です、慎重に進みましょう。
それに地下施設の構造というのも情報としては有益です、収集するのは無駄にはならないはず」
ドウさんが、トウさんの様子をみて、少し目をつむり、私に頭を下げた。
「感謝します」
「いえ、報告書の作成時には入手した知識を利用させて貰います」
ついでに此処で小休憩することとした。
地上の建物も無機質な作りだったけど、地下の施設はそれに輪を掛けて生活感が全くない作りになっている。
ここは何のための施設なんだろう?
休憩したとろの周辺を斥候で回って貰ったが、水場も炊事場の様な物も無かったので、人が普段入らない場所のようだね。
床下?天井?に引き回されている物にも注目する。
金属の縄が何本も引かれている、縄の周りに何か付着している事から何らかの用途、おそらく魔導具に関するものだと思われるんだけど、魔導具に関しては初歩の入門書の最初の方しか知識が無いので、これが何なのかは理解できない。
もっと勉強しておくんだった。
「トウさん、この施設がどんな物か推測できますか?」
私からの質問にビクッとなって、それから考え込む。
これは情報を整理しているのかな、思いつきで発言しない研究者や技術者に良くある傾向だ。
じっと待つ、私が待っているので周囲も何も言わない。
「ここだけでは断定できません。
この周囲の部屋は倉庫らしいですが、何も置かれた形跡が無いことから緩衝用としての役割の可能性があります。
目的地が大量の水を流している場合は漏水を堰き止める為とか。
ただ、それにしては気密がさほど重視されていないので別の目的があると思います。
それと、おそらく機密性が高いです、これは移動できる場所が非常に制限されている可能性からですが」
「は、はあ」
すいません、理解が追いつかない。
トウさんの早口の言葉に圧倒される、うん、この人は興味のある分野だと本性が出るタイプのようだ。
まぁ、元気が出たようならいいかな?
それと、考えを改める必要がある。
廃棄都市の都市機構の解明を一つの成果と考えていたけど、門外漢の私には荷が重すぎるようだ。
廃棄都市の調査は、形だけの目的だけど報告書は提出しないといけない。
可能なら研究成果とも思ったけど、無理そうだ。
「トウさん、すいませんが専門的すぎて理解が追いつきません。
後で報告書を作成して貰えますか」
「あ、ぁ、ぁ、は、はい」
早口でまくし立てていたことに気が付いたのか恐縮してしまった。
それでも、今までの口数が少なく暗い雰囲気が取れただけでも良いと思う。
「そうなると、この先でも野営できる場所は期待できないわね。
早いけど野営をしましょうか?」
シーテさんが提案してくれる。
まだ外は明るい、でも冬期の夜は早い、この先の移動がどれだけ困難か判らないので早めの野営は良いと思う。
「ええ、同意します」
ドウさんも賛成したので、地下施設が切り取られて崖に面している所から少し入った場所で野営する。
風が入り込んでこないので、寒さはたいしたことは無い。
ドアが全て引き戸になっていて、経年劣化で酷く開けにくいのは少し困ったけど。
そして、入り口が1つしか無い。
守るのには適しているが、逃げ道が無いのは問題だ。
なので、入り口近くにテントを張って、通路で見張りをする形になった。
夕食を簡単に済ませ、光の魔術で作ったライトを皆で囲んで今後の話をする。
これも夕食後の定例になりつつある。
「明日、地下施設の中心部に到達予定です。
すぐ10mも移動した所なので問題なく到着できるでしょう」
「都市の崩壊具合を考えると長期になるかと、支援物資が不足する可能性が高いです。
都市内で食料の調達は難しいですね」
シユさんとドウさんの報告を聞く。
コウの町から出て約1ヶ月になる。
私が収納している食料と水は単純に2ヶ月は持たせられる量があるが、余裕を考えるとそろそろ戻る時期を決める必要がある。
元々が出来るだけ長く隠匿していて欲しいという要望なので、2ヶ月程度も避難していれば十分という事になっている。
廃棄都市に入って、残っている施設を見て回ったが、めぼしい魔導具や道具類はほとんど残っていなかった。
これは冒険者が持って行ったんだろうね。
都市の運用についても、ほとんど判らなかった。
都市内の建物が役割分担されていない、混在されていて、でたらめに配置しているようにも感じる。
シーテさんに言わせると、現存する古い町や都市にも同様な傾向はあるそうだ。
今居る地下施設もおかしい、生活するための施設では無いのは判る、が、周囲から何重にも隔壁になるように部屋を区切っている。
中央に何があるのか? 明日には判るだろう。
さて、ドウさんが私をチラチラ見ている。
催促されているようだね。
「シユさん、改めて襲撃者が周辺にいる可能性は?」
「ありません。
少なくても、我々を追ってきている様子は無いです」
「可能性としては、待ち伏せですが、そもそもこちらは目的を探しながら移動しています。
待ち伏せるのは難しいでしょう」
「判りました。
さて、皆さんに伝えておきたいことがあります」
私の言葉にシーテさんの視線が厳しくなる。
3人を見定めている感じだ。
その3人も、事前にほのめかしていたので、動揺は無い。
「私の時空魔術では、人を生きたまま収納することが可能です。
ですので、いざという時には皆さんを収納します」
その内容に驚く皆さん。
だけど、その問題も指摘された。
「マイ様、確かに収納されれば我々は安全ですが、マイ様は?
我々は魔導師様を残して避難することは出来ません」
「私も収納されるので問題無いです。
それと、現在シーテと2人のみでの検証しかしていません。
この人数を収納した時にどうなるのか、試しておきたいです。
当然ですが、危険が伴います」
ゴクリ、とドウさんが喉を鳴らす。
トウさんが完全に固まっている。
シユさんはよく判っていないようだ。
「ええ、凄い事?」
シユさんが聞く。
それにトウさんが答える。
彼女は時空魔法使いだ、その危険性も重要性も理解できているのだろう。
「シユは知らないのも無理ないけど。
自分自身を収納して戻ってこられた時空魔術師は記録上居ないの。
そして、他人を収納できるのも、記録上、数名載っているだけ、存在自体空想と言われているわ」
ようやく、トウさんが事の重大さに気が付いて、冷や汗が一筋流れた。
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