第303話 廃棄都市「戦いの跡」

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「この襲撃者のリーダーはどれになるのですか?」


 隊長の何気なく掛けられた質問に特殊戦闘部隊 隊長の動きが止まる。


「指示を出しているはずの襲撃者が居ない、だと?

 居ないはずが無い、指示者が側に居るはずだ」


「動ける者で周囲を探索させる部隊を編成せよ!

 可能な限り多くの部隊を展開させよ!」


「周囲に展開している部隊にも強力を要請しますか?」


「ああ、全部を動かすんだ!

 襲撃者どもを指揮した者が潜んでいるはずだ絶対に逃すな!」


 隊長は副隊長に指示する。


「了解しました、直ぐに動かします!」



 隊長は、最悪の最悪を思いついてしまう。


「特殊戦闘部隊 隊長。

 指揮者が居ない場合はさらに別の襲撃者か居ると考えるのが妥当でしょう。

 目的は研究所ですか? 魔導師様ですか?

 もし、ここに魔導師様が居ないと気が付かれていたとしたら、魔導師様が危険です」


「気が付かれている可能性はほぼ無いはずだ。

 しかし、状況から聖属性の魔術師が居ればむしろ確実に警護できた方が良いな。

 コウの町には数少ない聖属性の魔術師が居るはず、でしたら迎えに行きましょう」


「しかし、我々には知っている限り廃棄都市への探索経験者は居ません、確認してみますが何とも。


 そちらの特殊戦闘部隊では?」


「だめだ、こちらにも今居る隊員では居ない。

 いや、コウの町には居るではないか、廃棄都市を探索していた元冒険者の元視察団チームが」


「おお、そうでしたな。

 直ぐに連絡を入れます」



 深夜の中、光属性の魔法を行使しながら走る馬がコウの町へ向かって駆けていった。



■■■■



 廃棄都市。

 名前も廃棄したときに無くなった。

 廃棄理由は、都市機構を維持できなくなった、らしい。

 また、コウシャン領の主要街道がコウの町や廃棄都市がある場所から南側の山を越えた平原に再整備された事も大きい。

 廃棄都市を経由する場合は緩い山や丘を幾つも超える必要が有るが、新規に装備された街道は土地が痩せていることを除けば比較的平坦な道で繋ぐことが出来る。

 今の主要な移動手段が足か馬になっている以上、坂は少ない方が良い。


 私、マイとシーテさん。

 護衛の視察団チーム3人は廃棄都市の中心部に向かっての移動を続けている。

 中心部に移動を初めて2日目。


 目の前に崖が有った。

 廃棄都市の一部がスッパリとえぐり取られたように穴が開き、その底には湖が出来ている。

 直径で2~3kmはある円形?すり鉢状になってる。

 切り取られた部分の崖には、都市の地下部分の施設の跡らしきものが見えている。

 この廃棄都市は地上だけでなく、地下にも都市が構築されているようだね。

 その一部からは上水道か川の水が滝となって湖に注いでいる、ちょっと不思議な光景だ。


 なんでわざわざ地下に都市を造る必要が有るのだろう?

 今は、その崖が見える遺跡の部屋で休んでいる。


「廃棄都市が廃棄された理由が何となく判った気がします」


「ええ、あの湖がある穴でしょうか、これによって都市機構が失われたんですね」


 私の言葉にシーテさんが補足してくれる。


「そうなると、都市の中心機構が既に無い可能性も有るのでしょうか?」


 これはドウさん。

 私達の目的は、避難することと、この都市の機構についての調査だ。

 その調査するべき機構が無くなっているだとしたら、これ以上動きが制限される都市の中に居るのは危険だ。

 崩れた構造物は自由に動けず、迷路のようになっている。

 そして残っている建築物も何時崩壊するのか判らない。

 休憩している この場所も、崩壊は大分進んでいる。


 今後の方針を考える、すでに研究所を出発して半月低程度の日数を経過してて居る。

 確認している限り、周囲に人が居た形跡も気配も無い。

 目的の1つである、避難は成功している。

 そして、もう1つの目的の廃棄都市の調査。

 調査自体は廃棄都市へ向かうために用意された目的で達成しなくても良い。

 でも、魔導師としての実績作りも兼ねているので、最低限の研究報告はしたい所だね。


「地下があると言うことは、都市機構の中枢は安全な地下に作られている可能性は高いわね。

 崖から侵入してみて、その中を確認するのが良いと思うわ。

 あと、帰りは湖の方へ行けば都市の中を移動するより楽に廃棄都市からでれるんじゃないかな」


 シーテさんは別の廃棄都市を探索した経験から提案してくれる。

 その顔は、今まで見た顔とは違う冒険者の顔だ。

 ちょっとドキッとなる。


「そうですな、崖を見ると1カ所特に地下深くに施設がある箇所、あそこはどうでしょうか?」


「いいんじゃない、深い所には何かしら重要な施設か物が保管されていることが多いから。

 逆に扱いに困る物を保管していることもあるけどね」


 ドウさんとシーテさんが話を進めていく、それを眺めながら水分を補給する。

 シユさんはトウさんと地図の確認をしながら何か話している。

 シユさんとは何度か話しているけど、トウさんとはほとんど話をする機会が無い。

 トウさんの過去に踏み込む気は無い、責任を取れないし、その役割でも無い。

 北方辺境師団に居た頃、同僚の兵士の死は比較的近い物だった、だから さっきまで話していた兵士が只の死体になるという経験は何度もしている。

 だけど、彼らの家族、残された人たちがどうなったのかは知る機会が無かった。

 彼女のように半分死んだように生きるのだろうか?

 シーテさんの声で我に返る。


「マイ様、少し良いでしょうか?」


「はい」


「この都市ですが、湖、何らかの攻撃の跡ですが、少しおかしいことが判りました」


 シーテさんが、都市の地図、私達が移動し確認した範囲だけだけと、を見ながら指を指す。


「この湖になった穴ですが、外部からの攻撃では無くこの穴の中心部でなにか爆発した可能性があるわ。

 いえ、むしろえぐり取られたように消えた様に見えるわね」


「ええ、都市の建物の崩壊具合を見てもそうなります。

 ただし、爆風はたいしたことは無いです、穴の大きさに比べ建築物の損壊は少ないです」


「でも、穴を中心として周囲へ建物が崩壊している傾向があるから、多少の影響はあったようね」


 シーテさんの説明にドウさんが補足する。

 確かにあの大穴が出来るほどの現象が起きたにしては廃棄都市の建築物群の損壊は少ない。

 まっさらな土地になっても不思議じゃ無いのに。

 何が起きたのか?

 爆発現象についての知識はほとんど無い。

 せいぜい、火薬の爆発は障害物の無い方向に向かって進みやすい、という特性を知って居るぐらいだ。

 大穴を作りながら周囲への影響が少ない、そんな爆発があるのだろうか?

 判らないな。


「ええと、つまり?」


 シーテさんの言いたいことが判らない。

 コテンと首をかしげてしまう。


「つまり、特殊な攻撃を受けた、または、何らかの攻撃をした、ということ。

 爆発が少ない範囲攻撃か、こちら側から強力な攻撃を行ったか、何方かは判らないわ」


「都市の一部を消滅させてしまうほどのものです。

 外部からの攻撃の可能性が大きいのでは?」


 私としては、外部からの攻撃を推す。


「いえ都市に、そうですね、ドラゴンや巨人が入り込んだ場合。

 周囲への損害をある程度覚悟して行った、と考えても良いかと」


「なるほど、その可能性は確かにありますね。

 500年前の魔物の氾濫ではそういう事もあった可能性は高いです」


 そうだった、廃棄都市が廃棄された理由は魔物の氾濫の時の戦いで都市機能が維持できなくなったからだ。

 あとは、戦いの後で人が生活できなくなった、だね。


 休憩している場所から大穴を見る。

 500年前にいったい何があったんだろう?


 その後、目標となる地下施設の決め、そのための経路を検討する。

 大穴はすり鉢状で、下の方は緩やかな坂になっている。

 だから崖の所で斜めに下り、地下施設と同じ高さまで降りたら目的地へ横に移動する。

 ただ、崖を降りるような装備は持ってきていない。

 可能な限り、崖の緩い斜面を探して移動する必要があるね。


 シユさんが降下する経路を探すとなったが、でも探索の経験が少ない、そこでシーテさんが同行する事になった。

 これは、シーテさんが悩んだ、私のそばを離れるのを嫌がったんだ。

 ここまで心配しなくても良いと思うのだけどね。



■■■■



 シユさんとシーテさんが、経路を確認するために斥候に出る。

 私、ドウさん、トウさんが残る。

 今日は、この場所で野営する事になったので、3人で準備を始める。

 私とドウさんがテントを張ったりして、トウさんが食事の準備だ。

 トウさんが収納魔法で軽い食器や食材を出す。

 水は私が小樽で出してあるので、それを使って料理を始めている。


 会話が無い、うーん、連携はドウさんと話し合っている。

 襲撃時には、私とシーテさんが待避して隠れる。

 ドウさんたち3人で迎え撃つ、そして場合によっては囮になって引きつける間に私達は逃げる。


 では、今襲撃を受けたときは?

 色々なパターンでの連携の練習もしていない、流石に移動中に行っている余裕が無かった。

 私だけなら逃げる方法はある、収納空間に入ればおそらく逃げ切れる。

 それは2人を見殺しにすることになる、出来るのだろうか?

 前回の戦いでは、自分の収納空間に入らなかった。

 理由は思い出せない。

 けど今回は私だけじゃ無い、場合によっては全員を収納する覚悟を決めよう。


「ドウさん、皆さんは元領軍の兵士で良いんですよね」


 口調はもう諦めて普通にしている、公式の場でないのなら話しやすい方が気が楽だし。


「私はそうです。

 妻は守衛ですね私が赴任した故郷の町で友人と妹が同じく守衛で働いている所で知り合いました。

 偶然ですが盗賊を討伐した時に隊長をしていて、その功績で昇進と一緒に視察団へ編入されました。

 このときに、友人と彼女たちを引き抜きました」


 なるほど、ドウさんは領軍に入って、妹のトウさんと友人という人が守衛として働いていた。

 トウさんの同僚で友人がシユさん。

 そして、ドウさんか故郷の町へ盗賊の討伐任務で赴任した時にシユさんと知り合った。

 そして、盗賊討伐の功績から、視察団へ編入するときに知り合った3人を守衛から引き抜いたという事かな。


 この十数日でドウさんの技量の高さを確認することが出来た。

 技術と連携で戦うタイプでブラウンさんが近いかな?

 シユさんとの連携は見事で、群れウサギや小型の小動物を狩る時に無駄な動きが一切無かった。

 トウさんの連携も高い水準で、3人での攻撃に私とシーテさんが加わるのは悪手であると感じたよ。


 なお、今の私の主武器はショートソードの中でもかなり短い、両刃の大柄なナイフみたいなのを使っている。

 筋肉も大分戻って片手でも短時間なら問題なく使える。


 ドウさんの表情が曇る。


「私には判らないんです、友人と彼女たちを視察団に引き抜いたのが良かったのか。

 視察団で任された任務は公表することが出来ない物ばかり。

 魔物の氾濫では友人が私達を生かすために犠牲になってしまいました。

 もし引き抜かなければ町で領軍で平和に暮らせていたかもしれないのに」


 ふぅ。


 私は軽く息を吐く。

 辺境師団の兵士でも同じような考えを持つ人は多かった。

 こうしていれば同僚が、気が付いていれば……、戦闘後に泣き崩れていた。

 それに指揮官の方も深刻に捉えていた、兵士は知らないだろうけど。

 戦闘中は指揮官は兵士を駒、数でしか考えない。

 でも戦いが終わればその戦死者達と向き合わないといけない、不安にさせないために平静を装って。

 答えは無い、自分自身で納得するしか無いんだよ。


「ドウさん、私から何か言っても気休めにしか成りません。

 それでも一つ。

 過去の自分が最良だと判断したことを、今の自分が否定するのはこれからの生き方を否定するのと同じです。

 最良の判断をし続けるしか無いんです」


 ドウさんの顔が初めて大きく感情を表す。

 まるで子供が泣くのを我慢するような、もろい表情だ。





「そうですね」


 ドウさんは、ゆっくり微かに笑いながら答えてくれた。

 涙が一筋流れているのは見なかったことにしよう。

 トウさんが鍋の前で顔を手で覆いながら静かに泣いているのも今は気が付がついていないことにする。

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