第299話 廃棄都市「林業の村」
0299_21-02_廃棄都市「林業の村」
「
斥候で先行して探索してくれたシユさんが戻ってきて報告した。
今、私達は西の村からやや北よりの西の森の中で休憩しているところだ。
人気が無い、西の村は林業を主体としているけど、それが影響していて居るのだろうか?
「冬とは言え、畑作業もあるだろう?
外出している者が居ないと言うことか?」
リーダーのドウさんが確認する。
少し困惑しているようだ。
本来なら町長か役場の人から詳しく聞けば良いのだけど今回はそれを飛ばしている。
「いえ、見た家の全てが窓やドアを外から板で封じていて、住んでいる様子がありません。
他に、畑も少なくても十数日は手入れをしている様子は無いですね」
という事は、西の村は木材の間伐や伐採と加工を行う以外は利用していないのかな。
コウの町の周辺の村については、概要のみで詳しく聞いていない。
多少詳しく知っているのはせいぜい北の村と東の村程度だ。
もっと知っておくべきだったよ。
「シーテ、西の村の事について何か知っていますか?」
「すいません、林業を主体としている村としか。
林業の作業についても詳しくありません、木材加工を行う所も無人ですか?」
「そちらは確認していません。
村から離れているようです」
シーテさんの質問にシユさんが答える、うん未だ無人と決めるには早いか。
私も林業は詳しくないので冬場に行う作業は知らない。
植物としては、冬場は下草が無くなるので作業しやすくなる。
この辺りは雪は積もらないので、若木に雪囲いをする必要も無いはず、何か作業有ったっけ?
切り出した木材の加工は行っている可能性は高い、でも騒音や粉塵、ある程度の広い作業場所の関係からもっと森の中で行っているんだろうね。
私が方針を決める必要が有るかな。
「では、予定通り村には立ち寄らずに、村の北側にある山小屋へ向かいましょう。
山小屋に人が来る可能性は低いと思われます。
来たとしても、冒険者が北の森の探索で迷った、ということにしましょう」
全員が頷く。
まぁ、事前に確認していた事の再確認なんだけど。
シユさんに疲労が見えなかったので、直ぐに移動を再開する。
目的の山小屋はには程なく到着した、まだ日は高いけど早めに休むことにする。
周囲を確認したけど、水場は無し、薪があるが毛布などは無い、そしてしばらく無人だったようだ。
床にはうっすらと埃が積もっていた。
■■■■
山小屋の真ん中に囲炉裏があり、そこで火をおこす。
もう少し大きな山小屋だと暖炉が作られていることが多いけど、木材で作られている小型の山小屋だと部屋の真ん中に囲炉裏を作っていることが多い。
理由は、多くの人が暖を取る事が出来る様にだと思う。
この山小屋の場合、床は土を踏み固めた感じで、木の板が壁に立てかけられていた。
この板を床に敷いて座る。
囲炉裏は岩を粘土で積んで箱状になっている、中には灰が入れられている。
天井からフックが吊り下げられていて、鍋を吊すようになっているけど吊り下げられる取っ手付きの鍋は持ってないんだよ。
仕方が無いので、野営道具でなんとかした。
行動を優先していたので、ようやく一息付けた。
皆、少し緊張が解けた感じかな?
「改めて、今後の方針とお互いの紹介をしましょう。
シーテは皆さんと知り合いですか?」
「いえ、以前に視察団チームで活動していたときにも会ったことは無いと思います」
「リーダーのギムさんとは情報交換の為の会議で会ったことはありますが、話はしていませんね」
ドウさんが言う。
じゃ、自己紹介を行った方が良いだろうね、私も詳しく知らないし。
「では、自己紹介を改めて。
新米の時空魔導師で基本属性は全属性を使えるマイです。
収納容量は大樽5つ程度、収納の制約は出し入れに魔力を消費する程度で、魔力量に対して収納容量が少ないのも制約でしょうか?」
私が自分の胸に手を当てて説明する。
時空魔術に関しては、ここまでは開示して構わないと思う、辺境師団でもここまで開示していたし」
「では次は私が。
魔術師のシーテです、マイ様の助手をしています。
風と火と土の属性を得意としているけど、全属性を使えるわね。
元視察団チームに居たわ」
次をドウさんに促す。
「この視察団チームのリーダーのドウだ。
見ての通り剣士だ、基本的に我々のチームは冒険者に偽装ての活動を主体としている」
ドウさんは片手剣と小型の盾を腕に付ける、前衛だね。
体格は細マッチョ? 痩せているけどしっかりとした体幹をしているのが動作からうかがわれる。
顔は表情が読みにくい、鋭い視線を示すのはそれだけの実力と経験があるのだろう。
「シユです、索敵と弓、あと短剣も使います。
ドウの1番目の妻です」
ん?
シユさんは小柄だね、私よりも大きいけど。
そして身軽だ、ショートヘアと相まって若い印象を受けるけど、表情には大人の雰囲気がある。
弓は短弓で狩猟用の弓だ。
「トウです。
時空魔法使いです、あと水と火の属性が使えます。
収納容量は大樽10個分程度ですが、制約は収納すると常に魔力を消費します約100kgを超えると回復量より消費量が多くなり、魔力が尽きると中身が全て出て来てしまいます。
なので、収納は一杯まで入れたことがありません。
ドウの2番目の妻です」
トウさんは、少し暗い印象を受ける人だ。
シユさんより背が高いのに猫背気味で身長が変わらない感じに見えてしまう。
長めのストレートの髪は顔を隠すよう流しているのも印象を暗くしている要因だろう。
痩せているけど、視察団チームにいるだけあって貧弱という感じはしない。
あ、1夫2妻なのか。
実のところ、1夫1妻とは暗黙で国からは極端なハーレムを作らない限り禁止はされていない。
なので、1妻に夫が数人というのも有ったりする。
とはいえ、それは少数派で富裕層か貴族の一部程度で庶民がそうなることは珍しい。
なお、多夫多妻も一部の地域では存在すると聞いたことがある。 なんでも、その集落が1つの家族なんだそうだが、これは例外。
ドウさんが、少し話しずらそうに体を揺らしてから口を開く。
「説明した方が良いですね。
元は私とシユ、あと親友とトウ……私の妹の2つの夫婦のチームでした。
前回の魔物の氾濫の時に親友が死んで、それでトウを引き取る際に2番目の妻としました」
魔物の氾濫の時、沢山の人が死んだ。
その際に多くの未亡人(男女共)を生んだ、その為に色々な組み合わせが出来たと聞いたことがある。
それと、親族での結婚も避けられているけど禁忌ではない、あまり祝福されないけど。
冒険者も命が軽い職業だ、なのでこういう事も多いのだろう。
切り替えよう。
トウさんの時空魔法の制約はかなり問題だ。
大樽10個分程度は時空魔法使いとしては多いほうだけど、大樽1つで100kgを超えることは普通にある。
結局、継続的に収納するということになると、大樽1つ分も入れられない事になってしまう。
収納の制約がどうして発生するのか、その法則性は? これは私もかなり調べたけど全く判らなかったんだよね。
今回、トウさんに収納して貰った物も軽い物を中心に入れて貰っている。
ちょっと微妙な雰囲気になってしまった。
恐らくだけど、トウさんの夫の死に方を引きずってしまっているのかもしれない。
だって、3人の距離感が少し離れているように感じる、説明を受けるまで夫婦と思わなかったぐらい。
「次の話に移りましょう。
今後の方針です、現在収納している物資ですと1ヶ月がギリギリです。
それに現地調達を含めても1ヶ月半が実質的な潜伏期間の限界となると考えていますが、それで問題ないですか?」
「宰相様からは2ヶ月は隠れていて欲しいと聞いていましたが?」
「それは宰相様へ説明済みです、補給のことを軽く考えていたようで。
冬に長期で補給も無しに潜伏なんて本来無謀です。
なので状況次第で1ヶ月半を待たずに戻ります」
私がドウさんに言う。
ドウさんも理解しているのだろう、特に反論しない。
「ドウさん達は廃棄都市への調査経験は?」
「数回、成果は特にありませんでした」
「となると、私が一番の経験者かな?」
ドウさん達は廃棄都市となる人工ダンジョンの経験は浅いようだね。
私は皆無だけど。
そうなると、冒険者時代に廃棄都市に何度も入り、幾つもの魔道具や魔法の武器を発見してきた実績がある、シーテさんが最も経験者となるね。
現在残っているのは、私の中にある蒼いショートソードだけで、残りは全て領主様に買い上げられてしまったけど。
あれ?
ドウさん達が選抜された理由は何だろう。
「ドウさん、得意分野は何ですか?」
「我々は対人戦闘が専門です。
冒険者として侵入して対象の排除が多いですね。
領軍の戦闘部隊から赴任しました」
少し驚く。
普通の領軍は、災害や魔獣・魔物への対応が主であとは盗賊などになる。
なので、対人専門というのは意外だね。
「盗賊の対応は、領軍や守衛では対応が遅くなることが多々あります。
しかし、現在の冒険者は対人戦闘を十分に行える者は少ないです。
なので、我々のように対人戦闘訓練を受けた者を冒険者として潜入させています」
なるほど。
この国の冒険者の大半は副業として雑務を行っている。
本業で狩猟をしている人たちだって、対人戦闘は門外漢だし、守衛や領軍・国軍に居た元兵士などしか経験者はいないだろうね。
戦える冒険者を一定数確保しておくというのも、この領主の方針なんだろう。
そもそもだけど、冒険者という職が出来たのは500年前の魔物の氾濫の後になる。
魔物の氾濫の収束後、各地の連絡網はズタズタになって安否確認どころか存在確認すら出来ない状況になっていた。
そこで、自発的に都市や町から他の都市や町へ繋がりを得るために調査隊が編制された。
まだ魔物が
この調査隊が後に冒険者と呼ばれ、今に引き継がれている。
「ありがとう。
そうなると、私達の護衛は考えないといけませんね。
十全に能力を生かすのなら、私達は何処かに隠れていた方が良いでしょうか?」
ドウさんが少し驚いたように私とシーテさんを見る。
「ドウさん、マイ様は用兵の方法についての知識もお持ちです。
私達と同じと考えて下さい」
シーテさんが補足してくれた。
そうだよね、私は魔術の才能があっただけの村娘ということになっている。
5年間の北方辺境師団に従軍して、上官の好意で士官階級の教育を受けながら生活していた経験は、ギムさん達ですら無い。
実戦経験に裏打ちされた作戦立案と指揮命令の体験。
うん、今更ながらに異質だと思う。
「はい、魔導師様の知己は偉大なのですね」
少し、口元が引きつってしまった。
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