第21章 廃棄都市
第298話 廃棄都市「西の森」
0298_21-01_廃棄都市「西の森」
コウの町。
この町の起源は500年前の魔物の氾濫の時に何らかの攻撃で廃墟となった要塞都市の跡を利用して復興された町になる。
上下水道のインフラが地下に有ったために無事だったことが大きい。
コウの町の主産業は畜産になる。
といっても、実際に畜産をしているのは周囲の村が中心で、コウの町ではそれを集積し加工や最終調整を行っている。
また、それ以外に農産物や淡水魚の養殖など自給自足がある程度出来る程度になっている。
コウの町が直接管理している村は東西南北に4つ。
北の村、コウの町から北の湧水群と山を避けた北北西側にある村で農業を中心に幾つかの小規模の村で構成されている。
貯水池がある北の村から用水路で水を給水して畑を潤している。
西の村、コウの町から西側の山間部で林業を中心としていて製材所がある西の村と山の中の作業小屋で構成されている。
計画的に植林と間伐を行っているので真っ直ぐに整然とした木々の森になっている。
南の村、コウの町から南側で平原と林が広がっている。
主産業の畜産を行っており幾種の牛や山羊・羊を育てている。
東の村、コウの町の東側で東の町への街道が有る。
その為、東の村はコウの町から一番離れていてコウの町の玄関口としての役割も有る。
畜産を行っていて、牛や馬を育てている。
農耕や荷馬車を引く為の馬・牛を生きた状態で出荷したり貸し出したりしているのも特徴だ。
コウの町から東の町以外の他の町や都市へ行く道は現在存在していない。
これは500年前に要塞都市だった頃に有った西側の都市が廃棄され復興されていない為。
また、領都からの大きな街道がコウの町の南側にある山を越えたところを通っているため必要性が無いためでも有る。
上下水道のインフラが生きていたために復興されたが、地理的にはそれ以上の意味が無い現状ではこれ以上の開発する予定の無い町た。
その為、周囲の町に比べると扱いは一つ下になりがちだった。
それは交易の面でも、公共事業の予算でも影響がある。
それが変わったのは、コウの町に付属する村から魔導師が排出された事に端を発する。
魔導師は国内でも十数人しかおらず、爵位も領主の伯爵と同等の位になる。
その魔導師が自身のための研究所をコウの町の近くに作った、その為に領内だけでない国内でも突然重要度の高い町に格上げされてしまった。
これは6年前に起きた魔物の氾濫の際に巨人を含む数千のオーガ種を殲滅して死んだとされる時空魔術師の存在も大きい。
その為、正確な情報を得ようと訪れる者が一定数居る。
明確な目的が不明の襲撃事件。
トサホウ王国の東部にある各領で発生した同時多発襲撃は規模と周到な準備に反して非常に拙い物だった。
その為、大きな被害は出ずに終息した。
この事件は形を変えて今も続いてる。
聖王国を名乗る謎の国の国民全て総動員での侵略、帝国から商工業国家をほぼ無傷で通り抜けてトサホウ王国に侵入した。
トサホウ王国はこれをワザと侵入させて放棄した町に誘い込み、殲滅した。
帝国と商工業国家は、トサホウ王国への軍事協力という名目での侵入を強行しようとして失敗。
現在は商工業国家との国境線の河川で何故か睨み合いの膠着状態になってしまっている。
コウシャン領の領主はこの事態を本命の襲撃の布石と判断して、要所と要人の安全確保に動いた。
その中、最も守りが薄い時空魔術研究所と時空魔導師が一番襲われやすいと判断した。
結果として、時空魔術研究所を囮にし、魔導師は安全な場所に隠す作戦を思いつく。
マイは、その作戦に従いコウの町から西に200kmほど行ったところにある廃棄都市、人工のダンジョンへ密かに向かうことになった。
時空魔術研究所で囮役の視察団チームと入れ替わりを行った。
コウの町へ、旅商人を装って入る。
事前に準備されていた宿に入って北の村へ向かう旅商人と入れ替わる。
今回の私を匿う作戦を知っているのは、領主と宰相を除けば、今回の護衛を行っている視察団のチーム2つと領軍の隊長と副隊長、そして助手の魔術師のみ。
町長にも知らせていない。
これは情報漏えいを嫌ったのだが、もし救援が必要なときに対応が遅れる可能性が高い。
■■■■
私、マイは今回の作戦の危うさを考えながら、宿のベッドの中で眠れずに居た。
この宿はコウの町の東側にある旅商人を中心にしている宿になる、中堅上位で規模も大きい。
食事も1階にある食堂兼酒場の奥の隅で取った。
部屋数は50室以上ある。
それだけに交代要員の宿泊客と入れ替わるのは簡単だった。
「マイちゃん、眠れない?」
隣のベッドに居るシーテさんが私に気が付いて話しかけてきてくれた。
私の助手として付いてきてくれているシーテさんには感謝しか無い。
体をシーテさんの方に向けると、シーテさんも此方に体を向けていた。
暗い室内の中で表情は読めない、でも優しい声だ。
「はい、今回の作戦は襲撃者にバレていた場合、非常に危険なので。
最悪時の対応を考えてました。
具体的には、私の収納空間への待避を考えています」
私は時空魔導師だ、まぁ魔導師というのは今の所は爵位されただけで何の実績も無い形だけのものだけど。
でも、幾つかのシーテさんにだけ教えている秘密の力がある。
収納空間を遠距離での収納と取出しを行う事が出来る。
これの応用での遠距離での攻撃、そして転移。
そう、私の収納空間は自分自身を収納することが出来る、そしてシーテさんだけだけど他人を収納できることも確認している。
自身を収納できる時空魔術を使えた人物は過去の資料にも存在しない異質な力だ。
その有用性は非常に高いと思う。
それが領主や国の上層部に知られた場合の自分を含む周囲の安全が判らない、なので秘密にしている。
「収納空間は確か、自分の位置と遠隔での設定した位置の2カ所でしか出入りが出来ないんだっけ?
そうなると、逃げ込んでも移動は難しいのね」
私の遠隔収納の欠点の1つが、設定した場所を収納空間からは変更できないというのがある。
具体的には自分の居る位置と遠隔ならその場所の2点。
しかも実用的に使える距離は30m程度が限度だね。
収納空間に入ることを利用しての移動方法は幾つか検討して試したけど実現する方法が見つからなかった。
そしてこの方法は収納空間に入ることに同意または最低限 拒絶しないという制約がある。
収納することに意思が介在する事に関しては、判らないとしか言えない。
「そうですね。
同行する視察団のチームの3人にも秘密の開示をする必要が有ります。
彼らが何処まで信用できるのかも何とも言えないです。
シーテさんは彼らを知っていますか?」
「知らないわね。
他の視察団のチームとの交流は有るけどそんなに多くないの。
リーダー同士なら情報の交換などである程度は知り合いは多いと思う。
ギムなら彼らの事を知っているかもしれないけど、連絡を取っている余裕が無いわね」
「一つ疑問に思ったんですが。
視察団のチームというのは沢山居るんですか?」
ギムさん達のような視察団のチームはどの程度居るのか知らない。
「実数は私も知らないわね。
普段は冒険者チームとして活動している所も多いわね、だから気が付かないことも多いの。
大抵は1つの町に1チーム居ると聞いたことがあるわ、だから結構な数だと思う。
視察団として活動する場合が無い限り、最低限の連絡しか取り合わないから、近隣のチームとしか情報交換してないし」
うん、そうなんだ。
以前、ギムさんから聞いた視察団チームは、大きく2つ有るとそうだ。
ギムさん達のように冒険者からスカウトを受けて視察団チームに入る場合。
これは領軍に入ると言うより、命令があるまで冒険者として活動している、兼業のような感じだ。
もう1つが領軍の兵士から選抜される場合。
つまるところ、優秀だけど昇進させたくない指揮階級の思惑で選抜部隊として視察団チームに入る、優秀な庶民出の兵士。
どうなんだろう?
兵士であっても普段は冒険者として名乗らないといけない、それは不名誉ではないだろうか?
「マイちゃん、あんまり考えすぎても仕方ないわ。
信頼できるかは様子を見て決めましょう。
さ、明日は早いわ寝ましょ」
「はい」
掛け布団をアゴまで持ち上げて目を閉じる。
シーテさんの寝息が聞こえてくる、体を少し丸めて力を抜いたら私も眠りについた。
■■■■
早朝、宿を出る。
予定している行動なので、朝食用の食事も用意して貰った。
ここから北の村へ向かって、徒歩で移動する。
荷馬車を使うと、森の中を移動するのに困難だからだ。
コウの町の北の門から出る、守衛は知らない若い人だった。
目的を聞かれて、旅商人であること、時空魔法使いが居ることを伝えてトウさんが自分がそうだと名乗り出る。
私とシーテさんは冒険者の服装をしている、女性4人の冒険者チームと護衛の商人の男性1人という構成に見えるようにしている。
言い訳として、私はシーテさんの血の繋がらない妹という設定を用意していたけど特に問い詰められなかった。
遊水池群を抜けて草原に出る。
ああ、北の村から魔物が来たときに戦った場所だ。
戦いの跡は全く無い、遠くに北の村の塔が見える。
「この辺から西に入ります。
西の村へ向かう村道があるはずです」
うん、その道もコウの町から北の村へ西の門から迂回するときに使った道だ。
森には行ってしばらくして村道を見つけて西の村へ向かう道へ移動する。
コウの町から西の村へ向かう道が見えたところで、朝食を取る事になった。
西の村へ行く人達に姿を見られる訳にはいかないからだ。
視察団チームのリーダーになるドウさんが地図を広げて行程を確認している。
服装も商人風から元の剣士の装備に変更している。
「西の村には入らないので、途中から森を移動する事になります」
「周囲に人の気配はありません、私が探索魔術で確認するので移動しやすい道を使いましょう」
シーテさんが定期的に使用している探索魔術を行使して、確認しながら言った。
「森の中に人が居る可能性は?」
これはシユさん、弦を張って弓の準備をしている。
ドウさんの隣で地図を一緒に確認しているのは、斥候も兼ねているためだろう。
「今の時期なら森の中に入ることは無いはずだよ、狩人も余り入らないと思う」
私と同じ時空を扱う魔法使いのトウさんが食べ終わった食器やゴミを収納していく。
手慣れている。
「そうですね、北の村は林業を主体として居るので森の中も見通しが良いはずです。
寒い時期になっているので、外での活動は少ないでしょう。
特に問題無いと思います」
私が補足しながら、ドウさんの意見を承認する。
一応、この中では一番偉いことになるからね、形だけでも体裁は取る必要が有る。
移動を再開する。
西の村へ向かう道に出て移動する。
木々が植林され管理された真っ直ぐな木に変わる。
西の森が見えてきた。
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