第290話 領都「冒険者2」
さて、廃棄都市に行くとこになってしまった。
おさらいしよう。
ダンジョン、これは2種類有る。
1つは自然発生するダンジョンで発生理由は不明。
大抵は数m~十数m、一番奥にダンジョンコアがあり取り除くと消滅する。
消滅するのをダンジョンを踏破と言う。
自然発生のダンジョンは魔物を生む、これも理由不明、仮説を持っているけど証明する手段は無い。
時間経過と共にダンジョンは大きくなり発生する魔物の数と種類が増える、その為に国は発生を確認したら直ぐに踏破することを要求している。
そのダンジョンの確認の為に視察団による調査が入るくらいだ。
2つめは、人工のダンジョン。
これは廃棄都市のように500年前の魔物の氾濫で何らかの理由で人が居なくなった都市や町を言う。
例外的に何らかの目的で作られた施設がポツンとある事もある。
こちらは昔使用されていた魔道具など貴重な品物が見つかる可能性があるため、一定数の冒険者が調査に入ることがある。
一般的に取り尽くされたと判断されてなんとなく踏破されたとなる。
基本的に見つかった貴重品は支配層が買い上げる、個人所有は認められていない事が多い。
だけど、強力な武器なら冒険者は所有していたいので隠して持っていることあるそう。
「フォスさんが来るのは来期ですよね。
でしたら一端話を戻します。
私が廃棄都市へ行っている間は研究所をどうするのですか?」
「マイ様が廃棄都市へ向かっていることは秘匿します。
なので、身代わりになる者が研究所に居て研究しているフリをします」
「兎に角、今回の一連の出来事は、用意の周到さに比べて実施が稚拙すぎる。
本命がある、そう見ている。
だが情報が掴めん、囮に使えるのに研究所は丁度良いという訳だな」
つまるところ、研究所そのものを囮にするのか。
他の重要施設は壊されたら困る、でも研究所そのものは今の所大した価値がない、そこに居る魔導師以外はね。
だからこそ、私が居ることにして敵を誘いだそうというのか。
「期間はどれほど考えていますか?
もうすぐ冬になります、廃棄都市へ行くのも適している季節とは言えません」
「済まないが、研究所に戻るときに同行する者達と一緒に直ぐに向かって貰いたい。
視察団から経験者を選抜するから大丈夫だろう。
期間だが、少なくても3ヶ月はみている、此方の体制が整う前に動くはずだ。
我々はその前を行く」
3ヶ月も森の中で生活する、これは難しい、補給が無い状況では生きていくのも困難だ。
他の人なら。
私だったら、大量の物資の収納が出来る、そして収納空間へ入る事が出来ることで安心して夜を過ごせる。
これを使えば長期間の調査も可能だ。
だが、今は収納空間に入ることは秘密にしている、だとしたらどういう意図で3ヶ月以上も森に入れというのかな?
「3ヶ月も廃棄都市で生活は素人の私でも長いと思います。
物資の補充が必要でしょう、私の収納容量はそんなに大きくありません。
他の時空魔術師が居ますか?」
「補給ですか、現地調達は難しいですか?」
「冬は植物がまず入手が出来ません、動物を狩るのも難易度が上がります。
それ以上に暖を取るための手段が限られます」
「うむ、しかし補給物資を運ぶ者が居たら、廃棄都市に隠れている事が発覚する危険がある。
何か手は無いか?」
「補給食を大量に確保して貰えば私の収納容量でも食料で不自由することは無いかと。
現地で拠点を築けるかになりますか」
「極秘で動いて貰う以上、大規模な輸送は出来ないですな。
此方でも手を尽くしてみます」
宰相様も領主様も余り現場を知らないタイプか。
後方部隊が必要なのは理解しているけど、その実情は現場に一任かな?
そして私も廃棄都市のような人工のダンジョンは経験が無いんだよね。
辺境師団に居た頃も、古い廃墟での野営があった程度かなぁ。
「近日中に同行する視察団の顔合わせ、そして研究所に戻る際の手順の打ち合わせも行いますな。
今日の所は以上で良いでしょうか?」
「はい、所で私は部屋で待機で良いのですか?」
「申し訳ないですが襲撃者の可能性があるので、護衛付きでも貴族区画の中になってしまいますぞ。
ただ、繋がりを持とうとする貴族も居るやもしれませんので、ご注意を」
うん駄目と言うことだね、買い物は無理だ。
貴族区画で私が買いたいという物は多分無いし、護衛付きでは買いたい物も買えない。
「申しつければ必要な者は用意します、何か必要ですかな」
「時空に関する科学論文を読みたいです。
あと、運動をしたいので場所を借りれますか?」
時空魔術、魔術という面では無く科学的な考察から検証してみたい、なので科学論文、魔法学校時代ではここまで手を出している余裕が無かったから。
廃棄都市に行くのなら、今以上に体力が必要だ、可能なら辺境師団に居た頃の体力まで付けたい。
研究所で体力作りをしているが、まだ足りない。
「判りました、準備させましょう。
運動は、申し訳ないですが部屋で何とかして下され、調整はしてみますな」
「ふむ、時空魔術は結果が出ていないのか?」
領主様が私と宰相様のやりとりをじっと見ていた、そして指摘する。
「はい、英雄マイが使った強力な斬撃の魔術、これの再現が出来ていません。
仕組みは推定できているのですが、威力が弱く何か見落としがあるかと思っています」
「ふむ、魔術に関してはよく判らん。
が、魔導師としての実績を積むのに英雄マイの力を解明することへ固執しすぎる必要は無い。
功を焦りすぎるなよ」
「はい、肝に銘じます」
焦りすぎているのかな?
オーガを切断した魔術の再現が手詰まりなのは確かで、模索している、でもそれに固執しすぎるのは良くないと。
そうかもしれない。
他にも時空魔術に関して検証したいことは多い、そちらにも力を漁るべきかもしれないね。
「それに、禁術とも言えるような魔術を作ったそうだな」
領主様の鋭い視線が私に向けられる。
……ああ、窒息させる魔術は騎士の隊長に話している、危険性は報告されていたのか。
どう判断したのだろう?
「領都の医師に確認した所、火事などの現場で同様の現象が起きるそうだ。
同様の魔術は公に広めないという制約の下で開発した魔術師に使用を許可している、となっているな」
「私と助手のシーテのみ使用可能で、他者に教えてはいけないという理解で良いでしょうか?
まだ、実戦に使うには制約が多い術ですが」
「実用的にされては怖いな、毒よりたちが悪い。
あくまで自衛のために使ってくれ」
「判りました」
ふう、危険人物に指定されずに済んだ、あと、同じ考えの魔術を作った人居たんだね、危ないから公知されていなかっただけか。
確かに危険だ、室内では危なすぎて試してもいないけど、安全な所から術を行使できれば死因不明の死体を作ることも可能……なの?
どうも窒息死の死因を検証できるような感じだ、防ぐのが難しいと言う意味なのだろうね。
その後、たわいの無い雑談をして面会は終わった。
■■■■
領主の館の執務室、大量の紙に囲まれた机に座り黙々と内容を確認しサインをしている領主。
その横の机で宰相が領主へ回す書類を分類している。
時間はすでに深夜だ。
「して、マイ様に付ける視察団ですが、3人チームで廃棄都市の探索経験のある者達を当てる予定です。
また、マイ様と助手の身代わりになる者も領軍から選抜済みです。
旅人に偽装した視察団を送り込んで潜伏させます」
「襲撃はあるかな?」
「ややあからさまに場を用意していますからな。
国内の者達が主導しているのなら来ないでしょう。
そういう事ですな」
「帝国か、何を考えているのやら」
国内、自分の領地内では無いのは確認済みだ、そもそも領地外へ連れ去られた子供が利用されている。
国内の他の領地からの襲撃、考えられないが考慮する必要はある、しかしその可能性もほぼ無い。
残るは商工業国家と帝国、商工業国家が我が国と敵対する可能性は非常に少ない、食料のかなりの部分をこちらから輸出しているからだ。
残すは帝国だが、情報が少なすぎる。
目的が判らない、さらわれた子供も帝国に連れ去られたという情報があったが確定とは言えない。
帝国の軍が北東の商工業国家との国境沿い、商工業国家の領地に駐留しているとの事も不信だ。
商工業国家はなぜ黙認しているのだろう?
キリシア聖王国という謎の国も不明だ、どこにあった国なのかもハッキリしない。
その聖王国1万人、捨て身の侵略、侵略と言うのか?
「聖王国の情報は?」
「何も。
商工業国家からは侵入され防衛を突破されて、こちらの国にまで侵攻してしまった、とだけ」
「謝罪も何もなかったのか」
「はい、不自然ですな。
聖王国の一団と一緒に侵入しようとさえしていました。
国内を侵攻されたのなら商工業国家の町や村が略奪に合った可能性が高いです、が、素通りさせたようにも感じます」
「帝国が噛んでいるか、帝国の軍事力が判らんが、圧力があったのか」
「推測に推測を重ねることになってしまいますな」
「この国を侵略したいのなら、こんなに回りくどいことをする理由が無い。
マイの魔導師が誕生した情報は比較的新しい、これを把握しているのも疑念があるな」
「ええ、国内に情報網があるのは確かでしょう。
それを潰すのは困難かと、魔導師の話は庶民でも知っていますので」
商工業国家と取引がある商人なら、一般的な話しとして伝えている可能性はある、これを取り締まるのは困難だ。
一般的な情報を収集するのも諜報活動としては基本中の基本になる。
領主は話を区切り、席を立って窓から外を見る。
夜の貴族区画はほとんどの明かりが消えて暗い。
窓に映る自分の顔をみて自問する。
「マイを見てどう思った?」
「マイ様をですか?」
「いや、独り言だ。
年齢に対してずいぶんと肝が据わっていたのが気になってな。
元は村民が私と普通に会話するとか思わないだろ」
「私が初めて会ったときからそうでしたな。
魔導師になるような素質がある子はそうい性質を持っているのかもしれませんな」
「ふっ、英雄マイがよみがえったと言う方が面白みがあるな」
実際、マイは成人どころか10歳に満たない。
それが領主と宰相に対等にしかも軍事的な話をしたのだ、異常とも感じ取れる。
だが幼すぎるのも無能なのも困る、そういう意味ではありがたいとも言える。
「戯れ言はここまでだ、仕事に戻ろう」
「はい」
再び机にむかい、大量の書類の処理に没頭しだした。
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