第266話 研究所「ギルドマスター」

 タナヤさんとオリウさんのなりめは、ものすごく気になるけど何時か聞ければ良いかな?


 夕食が終わり、そのあと少し歓談した後は就寝。

 私の部屋がそのまま残してある、けど使うことは出来ない。

 これは観光目的というのもあるので、町から手を付けてないように言われている。

 なので、寝る部屋はその隣の別の1人部屋だ。

 元の部屋の中で必要な物は回収して別の物に入れ替えてあるから問題は無い。

 ロープを張って一応は入れない感じになってる。

 しかし、私が寝泊まりしていた部屋を見て何か意味があるのだろうか?

 時折 見に来る人が居るそうなので需要はあるみたい。


 隣の1人部屋に入る。

 宿屋タナヤは複数人が泊まることを前提としているので、1人部屋は雇われの御者とか急ぎの人のような特別な用事がある人用で、利用する傾向から滅多に居ない。

 最低限の物しか無い部屋でベッドに腰掛ける。

 本来なら貴族位相当を持っている私が泊まるべき部屋じゃ無いけど、これも英雄マイを知るためということで押し切っている。


 明日はギルドマスターと宿屋タナヤの部屋で面談する。

 ギルドマスターとは正直、個人的な会話をした記憶は無い、そのため時間も午前中のみになっている。

 その後は、町民数人との面談予定だ。

 ほとんど作業だ気にすることは無いかな?


 しばらく考えているとフミがやって来たので少し話をして、一緒に寝た。



■■■■



 翌日、私は盛大に冷や汗を流していた。


 宿屋タナヤの1室、10人は泊まれ食事が出来る広い部屋。

 一応、一番良い部屋と言うことになっているけど、広いだけだ。

 その机に私とシーテさんが並んで座り、ブラウンさんが壁際で椅子に座っている。


 問題は、案内されて入ってきた人物だ。

 ギルドマスターのゴシュさん、その娘のアン、それは良い。

 ジェシカさんが居る。

 ギルド職員で以前の私とは宿屋タナヤを除けば一番交流が多い人物だ。

 バレる危険から今回の面会のリストから外していたはずなのだけど、どうして?


 私は動揺を隠して、シーテさんを見る。


「確か、面会は2人の予定だったはずですね」


「ええマイ様、どういう事か説明してくださいギルドマスター」


 シーテさんがギルドマスターを見る。

 うん、この人は優秀なんだけど余計なことをしがちなんだよ。


「はい、私と娘は英雄マイとは面識はありますが、親しいとは言えません。

 今回は人となりを知りたいとの事でしたので、ギルドで最も英雄マイを知っている者を連れてきました」


 そう言って、頭を机に付くまで下げる。

 悪い人じゃ無いし、不器用というか手順を間違えたりするけど、やるべき事は間違えていない。

 シーテさんを連れてきたのも、私達があえて外した事に気が付かずに配慮したのだろうね。


 ここは、何とかやり過ごすしか無い。


「判りました、ではギルドマスターから英雄マイの事を話してください。

 資料にある実績については省略して構いません」


 ギルドマスターが出されていた水を一口飲んで私を見る。


「はい、と言っても私が直接話す機会は少なく会議での会話になります。

 印象ですが、理論的な考え方と兵士というか指揮官の様な考え方をしていると思いました」


 私が元 兵士だったのは資料にあるので、おかしくない。

 指揮官としての教育も受けていたのは知らないはずだ、よく見ている。

 その後、作戦立案の事とか話をして、アンに引き継いだ。


「私は、既に話しているので割愛させていただきます」


 アンが静かに頭を下げる、その動作は何度か見ている私も感心するほど洗練されている。

 実際、領都の貴族院では庶民、町長などの勉強に来た子供の中では優秀で、貴族や豪商から婚姻の申し出があったらしい。

 コウの町という、他の町とちがい町の戦力だけで特種を倒した町の後継者である事から、町に戻ってくることを決めたそうだ。


 そしてジェシカさんが私を見る。

 その視線は私を観察しているようだ。


「ギルド職員でジェシカと言います。

 私は、彼女がコウの町に来た頃から窓口で何度か対応しています。

 魔物が増えた頃から専属となりました。

 そうですね、最初の彼女は人に触れ合うのを嫌っているように感じました」


 うん、そうだった。

 故郷が無くなって、その理由から誰かに関わるのが嫌だったんだ。


「何があったのかは、判りません。

 宿屋タナヤで店員をしながら東の森を中心に薬草採取の依頼をお一人で受けていました。

 それと、怪我をしてもそれを表に出したがらなかったのは、弱みを見せないように警戒されていたのかもしれません。

 もしくは、自分の命を軽く感じていたのかもしれないですね」


 ジェシカさんが目を伏せて、寂しそうに言う。

 私が北の大黒球に参加することに職員として一番反対してくれたんだよね。


「あ、人となり でしたね。

 私の印象ですが、冒険者としては異質で兵士のように振る舞っていました。

 ですが、その内面は年相応の優しい子だったと思います。

 依頼を受けていないときなどの対応ではそう感じました」


 うっ、少し恥ずかしい。

 思い返すと、ジェシカさんの前で素を出してしまう事が何度か有った。

 顔が赤くなるのをこらえる、なんと言ったら良いのか判らない、混乱する。


「では、冒険者と普段の差が大きいと言うことでしょうか?」


 シーテさんが代わりに聞いてくれた。

 そのシーテさんの言葉にジェシカさんの表情がこわばる。

 ん、怒っている?


「シーテさん、それは貴女もよく知ってるのではないでしょうか?

 マイさんは英雄とかそういう人じゃ無いです。

 一生懸命に頑張って影で泣いているような優しい子なんです」


 ジェシカさんが涙ぐみながらシーテさんに食ってかかる。

 ギルドマスターが慌てて制止する。


「ジェシカくん、落ち着いて。

 申し訳ありません」


「いえ、問題ありません、当事者の言葉が欲しかったのです。

 ジェシカさん、すいませんでした」


 ギルドマスターがジェシカさんを諫める。

 えっと、ジェシカさんが怒る理由もシーテさんが謝る理由も分からない。

 不明な事態でかえって冷静になってきた。

 シーテさんとジェシカさんは面識があるしコウの町の冒険者としての活動していたからね。

 判っていることを、さも初めて聞くような対応をされて不快に感じたのかな。


「いえ、立場を考えれば当然の対応をされていたのでした、私の方が浅慮でした」


 コツ。

 シーテさんが私の椅子を軽く叩いた、私に対応を求めている。


「貴重なご感想を頂きありがとうございます。

 今回の面談は あくまでも英雄マイという人物についての理解を深めるためで、何か意図がある訳ではありません。

 貴重なお話を聞けて感謝しています」


 私が目だけで会釈する。

 ギルドマスターが安心したように息を吐いているのが判る。

 緊張していたのかな?

 アンは領都の貴族院での交流があるのでそんなに緊張していない、付き添いという感じかな。

 そしてジェシカさんは、また私を見つめている、観察されている?

 その視線の意味を汲み取れない。


 その後、冒険者としての活の話を聞いて終了した。



「おつかれ、マイちゃん」


 シーテさんがお茶のお代わりを入れてくれた。


「ありがとうございます。

 ジェシカさんが来たときには焦りました。

 事情を知らない人の中では一番交流があったので。

 呼ばなかったのは不自然でしたね、ギルドマスターが気を回したのは当然だっかのかも」


「ええ、事前に知らせなかったのは良くなかったけどね。

 私もコウの町で冒険者していたからジェシカさんとは話す機会も多いし困ったわ。

 そのせいかな? マイちゃんの事を他人行儀に話したら起こらせてしまったわね」


「シーテさん、何処かで時間を取ります、ジェシカさんと話してきてください。

 今の私は会いに行けないので」


「ええ、そうさせて貰うわ」


 シーテさんは私の助手としての立場を守らないといけなかった、だから英雄マイとの交流があっても今の私の側として振る舞う必要が有ったんだね。

 でもそれはジェシカさんには良く思わなかったんだろう。

 自分のことを伝えられたらと思うけど、知らせた場合のリスクを考えると駄目だ。



 その後、数人の町人から話を聞いた。

 冒険者や宿屋の店員としての私の事を聞かせて貰った。

 事務的に対応していたつもりだったけど、思っていたよりも好感度が高くて驚いた、これは町を守ったという事になっている事から後付けなんたと思う。

 元守衛の人は、以前 東の門で話をした守衛さんだ。

 私に何故戦えるのか聞いた人、魔物の氾濫の時に重傷を負い、その怪我が元で退役して今は実家の手伝いをしているそうだ。

 魔物の氾濫の時戦えたのは私の言葉があったからだと言っていた、でも私の言葉で必要以上に戦わせてしまったのかもしれない。

 私の責任ではない、判っているけど動かなくなってしまった腕をみて胸が痛い。

 露店で野菜を売っていたお婆さんのお孫さん、お婆さんから聞いた私の事を話してくれた。

 私とフミが気を使ってくれたことを感謝していたそうだ、3年前に大往生だったと笑っていた。

 ただ、私が先に死んでしまったことで悲しませてしまったことは、胸が痛かった。



 面談は2日にわたって行われた、2日目は主に私を一方的に知っている人。

 一緒に戦った冒険者や守衛、依頼で関わったことのある人、

 他人向けに取り繕った私のイメージを語ってくれた。





 私が英雄とまで呼ばれるほど、コウの町の人達に影響を与えていた。

 その事実をどう受け止めて良いのかよく判らなかった。

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