第261話 研究所「武器」
魔物と戦う上で必要な武器。
以前、視察団のチームに所属していたときにギムさん達は特別な武具を使って戦っていた。
この武具はギムさん達が冒険者として活動していた頃、500年前の魔物の氾濫で廃棄された都市を探索して発見した魔道具に類する特別な武器だ。
冒険者が発見した物は、基本的には冒険者の物になるけど、希少価値から大抵は領主様が買い上げる事になる。
物によっては国王に献上する義務があるので、領主様といえど独占することも出来ない。
ギムさん達が使っていたのは、使いこなせていることと視察団として領軍の一部隊に所属することになったからだね。
なので、コウの町の住民となった今では事実上 所持することが出来ないので、除隊した時に一定の報酬と引き換えに領軍へ返納している。
(元々ギムさん達が見つけた物なのに、返納というのは凄く違和感があるけど)
つまるところ、戦闘力が激減している。
町の戦力は基本的に守衛と冒険者、冒険者も狩猟や護衛をこなす戦闘系の人に限られる。
人数は少ない、前回の魔物の氾濫で戦える人が かなり死んだり戦えなくなった。
それは年月が経った今でも深刻な問題になっている。
戦える人は普通守衛になるけど、領都などの都市で好待遇で迎えられる、なので町や村で若い人材の流出が止まらない。
人口の減少の影響は当面解決する可能性は低い。
コウの町でも人口を増やすための政策を幾つも行っている、実際、町中では子供の姿をよく見かける。
その子供達が活躍するまで後数年は必要だろうね。
「うむ。 町から支給されている武器だけだな、守衛用の量産品だが一応それなりに良い品だとは思う」
「そうね、一応 私の装備の一部は取られなかったけど、戦闘向きじゃないわね」
ギムさんが立てかけてある大型の剣を見る、量産品とはいえギムさんの体格に合わせた物だ。
たぶん、町長が働きかけて用意したんだろう、ブラウンさんのは一般的な大きさの剣だ。
コウの町にも鍛冶を行う工房は何店かあるけど、殆どが日用品や工具などを作る鍛冶屋だ、武器を作るのも個人向けになる。
コウの町の守衛は専用の鍛冶工房を持っていてそこで整備している、でも生産までは行っていない。
生産は大きな町や都市の守衛や領軍に委託されている工房で作られて送られてくる。
コウの町の工房では、それに刃を付けて使える状態にする。
一般的に危険なので輸送では刃物を研いでいないのが普通らしい、領軍の輸送部隊に居たときには、前線に工房が無いことが普通なので使える状態の剣を運んでいたので驚いたというか、そういうものなのかと納得したなあ。
シーテさんが手の平を向ける、指に指輪がある、魔力を感じ取れる人ならそれが魔道具なのは直ぐ判る。
少し幅があり、装飾が施されているそれは小さい魔石が はめ込まれていて無骨なデザインだ。
「能力は探索魔術の効果範囲を広げる、というか威力の弱い魔術の効果範囲を広げる効果があるわ。
攻撃魔術の強化には向かないわね」
以前聞いた時に、攻撃魔術の強化や魔力を一時的に溜めておける魔道具を持っていたが、それらは領軍に返納という事になっている。
シーテさんが持っている魔道具は報酬の一部として持っている物だ。
「実際の所、コウの町の戦力はどうなんでしょうか?」
私が聞いてみる。
ギムさんブラウンさんが渋い顔をする。
どうやら良い状況とは言えないようだね。
「そうですね、冒険者で護衛をしているチームは大きな町や都市で専属契約を申し込まれているらしく、帰ってこない所が出てきています。
守衛も研修という名目で領都に行って、そのまま領都の守衛や領軍に引き抜かれる、というのも多いですね。
露骨に行うと、コウの町の防衛をする義務に抵触するのですが、代わりに引退間近の守衛を送り込まれたり訳ありの増員で守衛の年齢層が上がっているのが困ったところですね」
領都の守衛の人数は多い、高齢になってきて通常の業務をこなせなくなってくる人数も馬鹿にならない。
後進の指導や体力を必要としない仕事に就くことになるけど、一番多いのは周辺の町や村の守衛だったりする。
結果として、町や村の守衛は新人とベテランに極端に別れてる、中間は都市への研修という名目で都市部の守衛不足を解消のため集められているので人数が少ない。
ブラウンさんの説明だと大体こんな感じだった。
かなり問題だね、実戦として戦える人員が少ない、そして装備も特出して威力のある物が無い。
考えよう、いまコウの町の個人での最大戦力は間違いなく魔術師のシーテさんだ、圧倒的な攻撃魔術はこの領でもトップクラスだと聞いているし、その通りだと思う。
色々秘密にしているけど魔導師の私が2番目かな?
あと魔術師の兄妹だけど、現役でコウの町に居る。
2人の魔術も強力だけど、範囲攻撃が中心で単体の攻撃は若干不得意だ。
その兄妹だけど、結婚して子供をもうけている、高齢出産だったので大変だったらしい。
一応、親族間での結婚は避けられているが禁止はされていない、元々そういう関係だったという噂を聞いたけど本当のところは判らない。
もう1人居た魔術師のお爺さんだけど天寿を全うしたとのこと。
魔法使いは、戦闘で使える人はごく少数で殆どは補助としてしか使えない。
そして、武力ではギムさん、そして引退しているけど冒険者のクルキさんかな?
他にも冒険者では何人か居るけど、生き残っているのか知らない。
魔物の氾濫の時に冒険者が正職として認められたけど、この数年で解除された。
結果として、元の畜産や農業、狩人に復帰して、戦闘(護衛)を中心とする冒険者の数は少ない、元に戻ったとも言えるけど。
ただ、緊急時には戦える民間人は招集されるという前例が出来たので、比較的 素人でも使いやすい槍の講習が行われている。
と、考えていたけど、結局の所は町長やギルドマスターが責任を持って対応する所で私がどうこう言っても、どうにか成るものじゃ無いんだよね。
「まあ。 そうだな、町長もこの辺は考えている。
守衛に配属させると配属権の関係で自由に出来ないから、守衛にさせずに副業で冒険者をしている者達を鍛えて予備戦力として使えるようにしている。
思っているよりも戦える人員は多いぞ、心配はいらない」
ギムさんが考え込む私の考えを読んだのか、答えてくれた。
戦力は心配するほどじゃないのか、良い情報だね。
魔物との戦いの経験も黒い雫の情報も、ちゃんと継承されているらしいし、気にしすぎかな。
「結局の所、一番危険なのがこの研究所なんですよ。
引退間近の守衛2人で脱出用の馬も用意していない、中規模の黒い雫が落ちた事が有る。
戦えるのがマイさんとシーテだけです。
まあ、逃げるというだけなら守衛が居無い方が有利だと思いますね。
守衛を守ろうとは思わなくて良いです、魔物が現れたら直ぐに連絡というより逃げるように指示が出ています」
ブラウンさんの言葉にジョムさんが頷く。
「ふん、マイが居るおかげで予算も装備も他の町より優遇して貰っているというのに、不義理というものだな」
「ジョムさん、そこは仕方が無いかと。
魔導師の扱いに関しては、教会も困っているようですね、私に丸投げですよ」
ハリスさんはニッコリ笑いながらジョムさんをなだめてる。
教会としては、高い教育を受けている私をどうしたら良いのか悩んでいるそうだ。
今までの魔法学校では殆どが初等教育・中等教育を受けた所で付いてこられなくなって退学になってしまっている。
今は町や村で中等教育の最初の辺りまでは身に付けてから魔法学校に入学するようになったので、基礎魔法に必要な高等教育や専門教育をある程度 受けた子供が帰ってくる様になる。
その子供達からの指導が進めば全体的な学力が上がる可能性が高い。
となると、魔導師の私にわざわざ教えを受ける必要性が低くなる、そもそも招くだけでも手続きが必要になるからね。
結局の所、コウの町からして私は腫れ物扱いで、可能な限り関わらない方針らしい。
うーん、私とシーテさんに関しては逃げる事に問題は無い。
シーテさんと収納空間に入る検証は続けている、その結果として問題なく他人を収納できる事が判った。
複数人の収納に関しては未だ検証出来ていない、でもいざとなったら躊躇わないようにしよう。
ギムさん達には、まだ話せないけどね。
武器の充実もこれからの課題だ、魔道具も武器としての魔道具は入手はほぼ出来ない。
となると、どうしようか。
思い出す。
私には魔道具を作るための知識がある、けど概要のみだし作る技術も無い。
きっと必要になるから何時か挑戦してみよう。
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