第260話 研究所「脅威度」
魔界?
言葉の違和感を感じる。
黒い大地は地面に黒い雫が広がったような感じだ、それを空間を表すような表現にしているのは何か理由があるのかな。
判らない事が多すぎるよ。
シーテさんが考え込んでる、何だろう?
深刻そうな表情をしている。
「ねえ、もし前回の魔物の氾濫で出てきた特種、ドラゴンとジャイアントの本当の力ってどの程度と見積もるの?」
この一言で、誰もが黙り込む。
考えるのを避けてきたことだね。
ゴブリンでも黒い大地の中では先王様を守る近衛騎士の剣が通らなかった、強さの桁が違う。
もしオークと戦っていたら? 想像したくない、黒い大地を先に壊せたのは単に黒い雫と同じ反応があった、それだけの判断と魔導師オーエングラム様が居たからというのが大きい。
じゃ、オーガやアー・オーガの様な上位種は、あの巨人ジャイアントは、本当の力を想像すら出来ないでいる。
ギムさん達はどう見ているのだろうか?
「私は、相当な使い手の剣士がゴブリンを仕留めきれない様子を見ています、オークは判りません。
黒い大地の破壊を優先したので、これは前の戦いの経験が生きていますね」
先王様と魔導師オーエングラム様の事は箝口令が敷かれている、先王様の命としてだ、話すか躊躇している。
「相当な使い手、ギムよりもかな?」
ブラウンさんが聞いてくる、比較が判らないのだろう。
「剣の腕は私には判りません、領軍の近衛兵でトップクラスかそれ以上らしいです」
ブラウンさんの喉が鳴るのが判った。
ギムさんの腕は領軍でも上位と聞いている、でも領軍の更に選抜された近衛兵は別格の強さを持っている、そのトップクラスより上と言った、その意味は大きい。
「すいません、これ以上は言えません」
私が軽く頭を下げる。
ブラウンさんは先王様が領都コウシャンに来ることを知っている。
たぶん、そこから繋がるだろう。
私が魔導師に成れたのは、先王様と魔導師オーエングラム様の推挙があったことは公表されている。
つまり領都で魔物と戦ったときに居たのは先王様の隊で、戦ったのは国王を守る国内最高峰の力を持つ元国王の近衛兵だ。
皆も気が付いたようで、考え込んでいる。
「ありがとう、うん、コウの町の守衛は未だ黒い大地の中の魔物と戦った経験が無かったので参考になります。
黒い大地の中での戦闘は自殺行為ですね、戦い方として黒い大地の破壊を優先させるように徹底させましょう」
「うむ。 我らが戦ったドラゴンも、マイ君が戦ったジャイアントもギリギリまで動こうとしなかったのは、おそらく強力な個体は動くだけの余裕が無かったのかもしれないな。
その力は想像も出来ん、ドラゴンのブレスも直撃を受ければ命はなかった、ジャイアントの一撃は山をも砕いた、それが減退した力なのだからな。
それと、弱い個体も生命維持に時間制限があるのもそのせいだろう。
オーガ種やリザード種辺りが比較的 普通に動けていたのは、この世界の生き物を食べたりして生命維持を行えるからかもしれん」
今の所、黒い大地の中で魔物と戦うのは現実的ではない、何か特別に効果のある方法があれば別だけど、あ。
「ハリスさん、聖属性の魔術は黒い大地の中の魔物に特効はあったんでしょうか?」
そうだった、聖属性の魔法は魔物に対して強力な攻撃手段となる。
聞き役に徹していたハリスさんが少し驚いて、考え込む。
「そうですね、残念ですが黒い大地の中で聖属性の魔法を使ったという情報はありません。
ただ、黒い雫や魔物そのものに特効があるのですから、効果は期待できますね」
「だが、聖属性の魔法使いや魔術師は数が足りない、何か別の手段も探す必要が有るな」
ジョムさんがしっかりとした体躯を揺って考えている。
今までの経験上、黒い雫に対して効果は……北の村の黒い雫を破壊した、収納爆発を連発することで破壊したんだっけ。
これは攻撃をすることで破壊できるという情報をギムさん達 視察団が集めた情報を元に立てた作戦だ。
この黒い雫や黒い大地、一体何なんだろうか?
誰かが言っていた、まるで黒い穴だと。
ギムさん達とも話した仮定がある、魔物が存在している世界とこの世界を繋いでいる、だ。
これもどうかと思う。
ダンジョンとの関連も収納空間と無理矢理こじつけた事もあったね。
話し合いが堂々巡りに入ってしまった。
「さて、お昼にしましょう。
厨房をお借りしますよ」
「そうだな、俺も行こう」
ブラウンさんが手を合わせて、一端区切りを入れてきた。
ジョムさんが一緒に行くとのこと、料理はお任せします、はい。
私とシーテさんは、ギムさんとハリスさんに研究所を案内することにした。
小さい研究所といっても、村1つを改装したので建物は兎も角として敷地はそれなりに広い。
幾つかの建物と畑を紹介する、貴族の位を持つ魔導師としては施設の規模が小さすぎることを随分気にしていた、でも庶民出の私としては、この研究所1つが私のためだけに作られているという事で十分すぎるほど贅沢と感じているのは仕方が無いと思う。
食材はナカオさんが用意済みだけど、畑で果物を収穫して持って行くことにして、人数分を収穫した、こういうのも良いね。
研究所を一回りして貴賓館に戻る頃には、良い匂いが漂ってきた。
時折、シーテさんの探索魔術が行使される、ここまで注意する必要は有るのかな?
食堂に入ると、すでに食事の準備が出来ていて、ブラウンさんがワインの用意をしているところだ。
見たことのないラベルなので持ってきたんだろうね。
年齢的に私はお酒を飲めない、だけどお客用に貴賓館の地下には食料庫や酒蔵がある。
内容に関してはシーテさんとナカオさんに一任しているけど、2人も私が飲まないので普段は飲まない、熟成しているだけだ。
お客や何か祝い事があるときだけ飲む感じかな。
シーテさんが氷を出してワインを冷やす、そういえばお酒を飲んでいる様子を見るのは久し振りだね。
お酒を氷で冷やして飲むのは冷却の基礎魔法が使える魔法使いか魔術師、あと貴族の贅沢だけど、庶民も井戸水を使って冷やしたりはしている。
宿屋タナヤでも、ごく希に冷やしたお酒の注文が入ることがあった、タナヤさんは水属性の魔法が使えるので、それで少し冷やしていたね。
私がやらなかったのは、タナヤさんに止められていたから。
程なく昼食が始まる。
場所は違うけど、このメンバーで食事をするのは本当に久し振りだ。
皆、少し年を取っているのが判る。
この中で結婚していないのは、ハリスさんとシーテさんかあ、両方とも魅力的な人なんだけどな。
「うん。 旨いな」
ギムさんが、焼かれた肉を口にして一言 感想を言う。
私も食べる。
昼食のメニューはありきたりの物だ、薄切りの肉を焼いてソースに絡めた物。
火を通した野菜。 具材が豊富なスープ、それとパン。
でもブラウンさんとジョムさんの料理は一工夫されている。
肉に絡めたソースにはほんのり果汁の風味がある、焼いた野菜にも肉のうま味が付いてる。
スープは野菜だけじゃない風味が付いていて、香草の香りが付けられている。
美味しい、タナヤさんの洗練された料理とは違うけど工夫が見事だ。
「ええ、良い調理道具なので張り切りましたよ」
「本当に美味しいです」
ギムさん達はコウの町に腰を据えた事で、借家に移り住んでいる。
そのおかげか、野営食ではない料理を作るのにも慣れてきたそうだね。
なお、大前提として、この国の全ての物は王様の物、という前提があるので、土地も家も厳密には所有物として持つことは出来ない。
それでは運用していく上で不便なので長期で借地利用を許可しているという体裁を取っている。
庶民では、その辺は役場に丸投げしていて厳密に気にしている人はほぼ居ない。
なぜなら町長など支配階級は、住民に適切な衣食住や職と教育などを保証する義務があるので、真面目に生活している分には困ることがないからだ。
ギムさんとハリスさんが研究所の様子の感想を言う。
畑の事を聞いたジョムさんの興味を引いて、後で見て回るそうだ。
研究所自体の話に移る。
住んでいる人数が少ないので、村と森の境界が曖昧になりかけている。
コウの町のでは、町と森の間を守衛が演習ついでに動き回って居るので獣が町に近寄ることはほぼ無い。
村はその規模と森との距離からどうしても獣が村の畑に入り込むことが多くなる。
廃棄した村を利用して造られた研究所もそうだ。
私とシーテさんが魔法の演習代わりに森と村の間で攻撃魔法を行使しているのけど、2人だと足りない所も出てくる。
恒久的な対策を何か手を打ちたいところだ。
対策、そうだ魔物への対策が必要だ。
研究所がある場所も中規模の黒い雫が落ちて、そして脱出が間に合わず籠城になり全滅した。
ならこの場所にも黒い雫がまた落ちてくる可能性も加味しないといけない。
私が魔物からの防衛について聞いて、ギムさん達が色々案を出すけど、結局の所は私とシーテさんの魔術頼みになってしまう。
仕方が無い普段居る引退近い守衛2人を戦力として考えるのは無理がある、町への連絡係として考えるしかないだろうね。
武器も、考えないといけない。
魔道具としての武器は領軍の管理下に置かれているので守衛であるギムさんやブラウンさんには今は無い。
有るのは只1つ、私の収納空間にある蒼いショートソードだけだ。
「そういえば、皆さん武器はどうしているんですか?」
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