第259話 研究所「魔界」
貴賓室の少し豪華なソファーに座る。
横にはシーテさんが座った、正面にギムさんとブラウンさん。
私から見て左側にジョムさんとハリスさん。
なお、右側は上座で、私か私より上位の貴族が座る1人掛けの椅子があるけど、自分は特別扱いして欲しくないので使わない。
ハリスさんがお茶を入れ直してくれて、ジョムさんが奥さんの手料理という焼き菓子を振る舞ってくれた。
少し、まったりとしてきたけど、本題に入ろう。
「魔物関係ですか、魔物が今も発生していることについてでしょうか?」
ギムさんの眉がピクリと動く。
うーん、この反応は、やはり知っていたか、という感じかな?
「ギムがビックリしてる、珍しい」
シーテさん……うん、ギムさんの表情を読むの慣れてきたと思ったんだけどなぁ。
兎も角、魔物が今も発生していることは宰相様から聞いている、けど詳しい情報は無い。
魔法学校の級友からの手紙もまだ近況を伝える物だけだ。
つまるところ、私が知っているのは先王様が居た時に発生した魔物の現象だけだ。
ギムさんは何を知っているのだろう。
「私は、魔法学校の野外実習の時に目の前で黒い雫が発生したのを見ていますから。
地面が黒くなってしまう現象も」
シーテさんを除く全員が驚いている。
あ、そうか口外しないように言われていたから、手紙でも書いてなかったんだっけ。
「すいません、その件は宰相様から口外しないように言われていたので連絡できてませんでした」
「いいえ、仕方が無いでしょう、検閲されている可能性も考慮する必要がありますから。
私達が知っている情報も知り合いの視察団チームからの情報になります」
頭を下げようとする私をブラウンさんが止める。
あ、中位貴族相当の私が頭を下げる意味は大きいんだった、この場だと気にする気は無いけど。
「マイさんは何処まで現状を理解しているのでしょうか?
私達が知らない情報もあると思って良いですか」
「ブラウンさん、残念ですが私は実際に対峙した時の情報しかありません。
オーク1匹とゴブリン数匹が発生する程度の黒い雫で、その黒い雫が大地を黒く染めました。
その黒い大地の中ではゴブリンもオークもとても強力で対処が不可能でしたね。
大地に対して強力な魔術、元筆頭魔導師様の魔術で黒い大地を破壊したら、私達が知っている魔物の力まで減衰しました。
細かいところは別として、対処方法は黒い雫が発生した時と同じですね」
取り敢えず、私が経験したことを話して、様子を見る。
うん、皆が知っている情報みたいだ。
「それと、宰相様や領軍の様子から、この現象は何度も起きている可能性が高い事。
魔物の氾濫の影響は今も続いている事が推測されます」
最後に私の推測を話して終わる。
そして、ギムさんたちを見渡す、私が魔法学校に行っている間も魔物との戦いがあった可能性はかなり高い。
「ギムさん、コウの町では大丈夫だったんですか」
シーテさんがビクッとなる、うん、この中で隠し事が一番苦手なのはシーテさんだもんね。
ブラウンさんとジョムさんがヤレヤレと苦笑いをする。
「のう、ブラウン。
わしもよく聞いておらん、詳しく話してくれ」
「はい、私も守衛の怪我をした人たちからの話しでしか推測できていませんし、お願いします」
ジョムさんとハリスさんが言う。
ジョムさんは奥さんの衣料品店で働くのを正業としている、副業として冒険者の活動もしている、実力があるのでそれなりに依頼を受ける事をお願いされているけど、魔物関係は積極的に関わっていないようだね。
ハリスさん、コウの町の教会では2番目に偉い人になっているそうだ、聖属性の魔術師だから当然かな。
その立場から前線に出るよりは聖属性の魔法の素質のある人の指導と重傷者の対応などに限られている、あと教会の管理が面倒とか手紙で愚痴ってたかな。
立場上、報告書が集まっているのでその情報から推測しているんだろうね。
「ギム、良いですよね。
今もコウシャン領の領軍に所属する遊撃部隊である視察団とは繋がりがあります。
指揮下からは外れていますが予備役としてですね。
なので魔物の氾濫の様な事態が発生したら再招集される可能性はあります。
いきなりでは困るので、現役の視察団との連絡を取り合っているんです」
そういえば不思議だったんだ、庶民出とはいえ実力は領内でもトップクラスの視察団チームの脱退をすんなり許可された事。
領軍に留まると、庶民出が指揮管理職に就いてしまうのを嫌われた、というのもあるけど、それだけで手放すには惜しい戦力だ。
予備役として何時でも招集可能で、領都の直轄地(の一番端っこだけど)コウの町に腰を据えているのなら好都合だったんだろうね。
「さて、視察団チームの情報です。
黒い雫の発生は領内で散発的ですが発生しています。
黒い大地と魔物の活性化については皆さん了解しているようなので後回しで。
発生場所ですが、過去に中規模程度の黒い雫が発生した場所らしい、との事です。
情報が少ないので推測ですね、領都の本部なら把握している可能性は有りますが、たぶん機密扱いです。
そして、これは本当に不明なのですが、黒い大地の中で魔物が増殖したらしいんです」
ゾクリ、背筋が寒くなるのを感じる。
魔物が増殖する、これは前回の魔物の氾濫では起きなかった現象だ。
だから考えないでいた。
せいぜい、ダンジョンが発生している時の様に魔物が生まれ続ける位だと。
魔物も生物だ、この世界の理を無視しているけど、魔物の居る世界では普通の生物なのだろう、なら増えるのは当然だ。
でも、どうやって増えるのだろうか?
「魔物はどうやって増殖するの?」
シーテさんが聞く。
シーテさんは研究所が出来てから私と一緒に居ることが多く、情報共有が十分じゃないみたいだ。
「シーテ、ちょっと待ってください。
その前にコウの町の状況を説明します」
ブラウンさんがそこまで言うと、お茶を飲んで喉を潤した。
ふう、という感じで肘を膝の上に乗せて前のめりになって話を続ける。
「コウの町では、小規模な黒い雫の発生の報告があります、黒い大地の中では強力ですがそこから出てしまえば対処は簡単です。
黒い大地は時間は掛かりますが物理的にも魔術的にも破壊できたので、今の所は大きな問題にはなっていません。
現在、対処として視察団が2つ東の町に駐留しています、1つはコウの町を含む周辺の町の対処用に配置されていますね。
上層部ではコウの町に中規模以上の黒い雫の発生を予想しているようです。
守衛も冒険者もそれを前提に練度を上げるようにしています」
ちょっと安心した、コウの町では被害が出ていない。
研究所からコウの町へは馬を走らせても3時間程度は掛かってしまう、魔物の発生の知らせを聞いて移動となったらどれだけの時間が掛かるのか判らない。
長距離を高速で移動する方法を検討しないと、風の魔術で体を押しながら移動は長距離だと魔力の消耗が気になる。
今の私はコウの町と東の町、そしてその町が管理する村への移動しか許されていない。
その移動も魔導師という貴族位の為、事前に調整が必要だ。
コウの町を守るために行動するための方法を考えないといけない。
「さて、シーテが知りたがっていた魔物の増殖だけど、すまないね判らないんだ。
正確には、発生した数より倒した数が多くなっていた事から推測されているだけだね。
増殖しているところを見た者は居ないから、確証は無いよ」
ブラウンさんが肩をすくめて、大した情報が無いという感じだ。
そして焼き菓子を頬張るとソファーに深く座る、話すことはもう無いようだ。
増殖している可能性、誤認ということは出来ない情報なのだろうね、だからこそ増殖という言葉を使っている。
繁殖でもない、追加での発生でも無い、何らかの手段で増えている、何が考えられる?
私もソファーに深く座り考え込む。
幾つかの仮定を出しては否定する、うん、目の前で見ないと何とも言えないな。
「増殖に関しては、もっと情報を可能なら観測できないと何とも出来ないのでは?」
ハリスさんの言葉に全員で頷く。
「そうじゃな、どうやって増殖しているかは兎も角、発生数よりも多くなる可能性を加味した対応をする方向で検討した方が良いだろう」
ジョムさんの言うとおりだ、発生数を当てにして行動して数が増えた場合、対応が後手になる可能性がある、それを避けるべきだけど、過剰戦力を用意することになる、難しい対応になるなあ。
こういう事はギムさんの方が経験は豊富だと思う。
「所で、黒い大地については判っていることはあるんですか?
私が探索魔術で確認した限り、黒い雫と似た感じでしたが、黒い大地の中に入っての影響は判らないですね。
実際に戦闘になった時に踏み入れた剣士が居ましたが、短時間だったですし影響を受けたかは判らなかったです」
「ふむ。 正直判らないのが現状だな。
ダンジョンのように、長時間入っていると影響があると考えておくのが良いと思われるが、検証している余裕が無いのが実情だ」
ふむ、魔物を討伐して、残った黒い大地を検証をした情報は無いと。
実際にやっているのかは判らない、それに黒い大地が黒い雫と同じなら、魔物が発生していく可能性が高いから検証するのにも危険が伴う、簡単には出来ないだろうね。
「黒い雫が何かもハッキリしていないが、黒い大地も同じような者だと思っている。
判らないのは、黒い雫に対して攻撃すると、魔物に大きなダメージを与えられる。
だが黒い大地に現れた魔物には逆にダメージを与えられない」
ジョムさんが首を捻る、確かにそうだ不思議だね。
ブラウンさんが見渡すようにして発言した。
「視察団では黒い大地の中を魔物の領域という意味で魔界と呼んでいます」
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