第258話 研究所「情報交換」

「皆さんがここに集まるのですか?」


 シーテさんが手紙を読みながら話した言葉に反応する。

 研究室のシーテさん用の机で椅子に深く座りながら、手紙を読んでる。


「ええ、マイちゃん。

 元視察団のチームが集まるのに、ある程度 周りに気にせず話をするのなら研究所が一番だわ」


「うん?

 宿屋タナヤでは駄目なんですか、シーテさんがコウの町へ行く方が都合が良いのでは」


 シーテさんが数日 研究所を離れても別に問題は無い。

 むしろ、毎日 研究所に居るのは窮屈だろうから、たまには羽を伸ばして貰いたい。

 休息日でも、畑の世話をしている位でやることが無いからね。


「今の時期は商人が来ることが多いから、宿屋タナヤはちょっと使い難いかな?

 それにフミちゃんに悪いから」


 フミとは中々会うことが出来ない、研究所に入ってからは、まだ1度だけだ。

 私がコウの町へ行くには何か理由が必要になる。

 もっと自由にコウの町へ行きたいんだけどね。


「なら問題ありませんが、来客の予定もありませんし」


 研究所には迎賓館、来客用の建物がある、といっても十数人を向かえるのが精一杯でその時はコウの町から応援の人を呼ぶ必要が有る。

 本来、中位貴族相当の魔導師が構える建物としては非常に小さいのだけど、これは色々な思惑の結果らしい。

 そして、貴族が来る可能性もあるのでそれなりに豪華な作りになっている。

 普通は先触れが来るので、困ることは無い、そして来賓として来たのは今の所、コウの町の町長コウさんと東の町の町長が就任祝いとして来ただけだ。


「じゃ、返事を書いておくわ。

 明日、守衛さんに渡しておけばギムかブラウンに届くから」


 ギムさんとブラウンさんは、今コウの町の守衛をしているので連絡はしやすい。

 それにギムさん達なら、自分達で料理もしてしまうので、追加の応援も不要だ。



 守衛さんに手紙を渡し、数日後に集まる日が決まった。

 その日は研究所の守衛としてギムさんブラウンさんが来る、そしてナカオさんがコウの町へ買い出しに行く事にして貰った。

 これで、研究所には元視察団のチームと私だけになる、どんな話をしても大丈夫だ。

 シーテさんから、出来るだけ内密な話をしたいと要望が来ていたから。



■■■■



 ギムさん達がやって来た、で、守衛をしていた2人と交代しナカオさんと一緒にコウの町へ戻っていく。

 小型の荷馬車が移動していくのを見守る。

 これで、明日の朝まで私達だけになる。


 馬車を収納する車庫も10台分収納できる様に用意されている、けど領主様から下賜された私用の1台を除けば普段は空っぽだ。

 今回は、2台の小型の荷馬車で来たので、荷馬車1台と厩舎に馬1頭が居る。

 つまり、普段の私は徒歩以外での移動手段が無いということだね。

 普通なら、守衛が緊急時に使えるように馬を1頭居る状態にした方が良いと思うのだけど、この仕組みにした理由は、大体予想は付くよ。



 研究所の前にギムさん達が居る、服装はギムさんとブラウンさんが守衛の軽装の鎧を着て、ちょっと違和感を感じるね。

 ジョムさんは普段着、ハリスさんは変わらない教会の制服だ。

 でも5人揃っている様子はしっくりくる。

 何となく懐かしいような居心地が良いような不思議な感じになってる。

 ギムさんが仰々しく腕を組んで、あれ領軍の礼式をして私に正対する。


「ふむ。 マイ君、いやマイ殿と言った方が良いのだろうかな?」


「辞めてくださいギムさん、公式の場所じゃないんですから、以前と同じでお願いします」


「そうよギム、私達だけなんだから気にしない、それとも守衛の職業病?」


「いじめないでくださいシーテ、立場上は魔導師様に失礼の無い対応が求められるのですよ」


 ギムさんは少しわざとらしく言っている、本気じゃ無いんだろうね。

 私もそれに気が付いているし、皆笑いを堪えている。

 シーテさんもブラウンさんも会話を楽しんでいる感じだ。

 ジョムさんもハリスさんもそれをニコニコしながら見てる、つい私も笑みがこぼれてしまう。

 こんなやり取りは以前の視察団のチームの時の様だね。


「兎も角、応接室へどうぞ」


 私が皆を案内する、ギムさんとジョムさんはフミと来た時に利用したから知っているけど、ブラウンさんとハリスさんは初めてかな?


「初めてなので楽しみです」


 と言ったのはハリスさんだけだ。

 ブラウンさんを見る、ニッコリ笑って答えてくれた。


「私は、研究所の建築の時とその後の管理や護衛の確認のために何度か来てますね。

 マイさんが来てからは初めてになりますか」


 ブラウンさんも初めてじゃ無かった。

 建築の際に関わってくれていたという事は、研究所の施設とか設備に関して色々手を尽くしてくれたんだろうな。

 実際、凄く過ごしやすいからね。


「あ、どうせなら貴賓室にしますか」


「良いの?」


「誰も使ってないので、構わないでしょう」


 貴賓用の建物は、客を迎えるホールと食堂、応接室や貴賓室と宿泊用の客室に大きく分かれている。

 供の人たちは守衛が使っている建物を利用する形になる。

 今回は全員がお客さんだ。


 貴賓室は本来、貴族が来た時に利用する部屋だけど、使わないと損なので案内する。

 みんな思い思いに寛ぐ、ハリスさんが早速お茶を入れてくれる。

 ジョムさんの姿が見えないと思ったら、厨房を覗いていたとのこと、ブラウンさんと夕食の打ち合わせを始めてた。


 ハリスさんのお茶を楽しみながら、ギムさん達の近状やコウの町の様子を聞く。

 一通り聞いたところで、ギムさんが姿勢を正して私に向き合う。

 ん?

 何だろう。


「マイ君。 君が軟禁状態に成っていることは理解しているのかね?」


 あ、そういう事か。

 理解している。

 今の状況がどういう物かは、宰相様から詳しく聞いているからね。


「はい、先王様と元筆頭魔導師様の推挙で、本来の手順を省略して魔導師に成りました。

 貴族の養子にもならず、研鑽する期間も無く、年齢的にも成人していない、というかなり特殊な状況です。

 領や王国の貴族からの影響を受けないようにと、配慮して頂いた関係で今の状態になっていますね。

 確かに軟禁状態ですが、研究所から自由に移動できない以外はかなり自由ですよ」


「うむ。 判っているのなら良いのだがな。

 今後を考えているかね?」


 今後、一応は決まっている。


「そうですね、私は自分の力で魔導師に成ったとは思っていません。

 多分、多くの人たちも同様に見ているでしょう。

 魔導師だと自他共に認められるようになるのが、当面の目標でしょうか?」


「それは何時までとか決めているのかな?」


 ブラウンさんが聞いてきた。

 責めていると言うより、確認している感じだ。


「成人するまでの間ですね、宰相様より成人したら一度 王都に行く必要が有ると伺っているので」


「うん、ならそれまでの間、全面的に協力するよ」


「うむ。 魔導師に対して全面協力する事は領主様からも通達されている。

 公私ともに頼ってくれ」


「はい、よろしくお願いします」



 あれ? シーテさんが居ない何処に行ったのだろう。

 あ、戻ってきた。


「マイちゃん、一通り周囲を確認したけど、盗聴系の魔道具は無いわね。

 結界も展開しているけど、少なくても研究所の敷地内に私達以外の人は居無いわ」


 あ、又だ、どうして自分の危機感が薄くなってしまっている。

 頭では判っているんだけど、どうしても気が抜けている、気を引き締めないと。


「ありがとうございます。

 でも、そんなに聞かれると困るような話があるんですか?」


「ああ。 ちょっと魔物関連でな、情報共有しておいた方が良い内容がある」






 そうか、そうなると先王様と会った時の魔物の事も話した方が良いかな?

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