第253話 4年目「壮行会」
新しい期が始まった。
コウの町からは昨年と同じ15人が来た、全員5~7歳だね。
対応は新2年と新3年の子達が対応してくれている。
その最初の顔合わせを寄宿舎の食堂で行った。
私が別の町の新入生と間違えられたのは、まあ仕方ないか。
「すいません、すいません、魔導師様に失礼なことを」
私と同じくらいの背丈の少女がペコペコ頭を下げる。
私が魔導師であることを知って焦ってる。
他の子も驚いているようだ。
「別に気にしていませんよ、見た目は小さいですからね。
それに同じ町の出身者なんですから、普通に対応して貰っていいですよ。
公式の場所で配慮して貰う必要はあるので注意してください」
「「「はい」」」
苦笑しながら聞くと、魔導師が来ることは知っていたけど それが同じ町からでしかも見た目が幼い私とは知らなかったようだ。
フミやシーテさんとの手紙でも知っているのはコウの町の運営に関わっている人達だけのようだ。
普通に生活している人達は研究所の建築に関わっている人以外は認知度は低いとのこと。
でも噂として あやふやな情報が出回っていて、それが私の評価が色々異なっている事に繋がっているそうだ。
町長様から悪評が出ないように情報の開示をしてもらうように掛け合ってくれると、シーテさんからの手紙に書いてあった。
これは一度、コウの町へ行って正しい認識をしてもらう必要が有るかもね。
でも、中位貴族相当の魔導師が帰還したらどうなってしまうのだろう?
後回しにしよう。
結局は、町長との調整になるし、その前に宰相様にも相談しないと。
例年通り、新入生達は入学準備を自主的に行って貰い、入学式を迎えた。
私が完成させた初等教育・中等教育のノートの写しはどうやら後輩に受け継がれていくようだ。
元は誰かが書いたノートだからその人に感謝しないと。
基礎魔法や基本属性に関するノートは完成していないのと、こちらは個人ごとの魔法の解釈になるので提供はしていない。
これは自分の魔術書として完成させていく物だからね。
コウの町へ退学して帰る子達は既に商会から出ているコウの町直通の定期便で帰路に就いている。
出発する所までは、キオタクさんと立ち会った。
近くの町へ行く一般の巡回馬車を幾つも乗り継ぐのに比べると安全性も確実性も高い。
途中で攫われるような事は無いだろうね。
学術区画の停車場に居る守衛さんが待機している馬車の臨検したりしてくれているし、領都の出入りも少し厳しくなったらしい。
領軍に関しては情報が回ってきていない。
私は入学式の後の式典を終えた後、領主様が出してくれる専用の馬車に乗って移動する予定になっている。
魔導師を庶民が乗る馬車で移動させてるようでは領として大切にしていないとアピールしているようなもの、だそうだ。
人が乗る専用の馬車で移動速度も荷馬車よりも速い。
普通の荷馬車より3分の2程度の時間で移動可能だ、当然だけど積載できる荷物は少なくなると聞いた、実物に関しては貴族が使っているのを見たことがあるだけで乗ったことが無い。
近いのでは、貴族区画へ行くために乗った馬車だけどあれは領内を移動する貴族が乗る専用の馬車でちょっと違う。
コウの町へ行く荷馬車の規模は小さいと宰相様が言っていたけど、それでも私1人を運ぶのに仰々しいと思うよ。
■■■■
入学式が始まった。
魔法学校の大講堂、例年通り中央に新入生、その後ろに2年生から5年生までが座っている。
そして両脇の2階席には領都に住む両親と招待された貴族、卒業生などが見守ってる。
校長からの挨拶、領主様の代理の祝辞、そして学園の生徒代表として例年なら5年生だけど今年は私が新入生達へ歓迎と鼓舞する話をする。
もっとも、話す内容は学校側から台本が用意されていたので、相談して細部を調整し読み上げただけだけどね。
今年の入学式の違いは、式典の最後に私の出立式が行われる所だ。
今までは特に卒業式の様な物は用意されていなかった、それは途中で退学や卒業する生徒が多いので実施する必要性が少ないから。
だけど魔導師が生まれたという希有な年なので特別に用意された。
校長から長い祝辞と領主様の代理が私に研究所長への任命が行われる。
魔導師らしい服装と言うことで、壇上で実用的では無い装飾だらけのマントを羽織さらさせて貰う。
そして、校長から魔法杖を受け取りそれを生徒の前で掲げる。
魔導師が目の前に居る、その事実は新入生達にとって刺激になったのかな? 拍手がむずかゆい。
あ、杖も見てくれだけで実用性は全くないよ。
そのまま、私は大講堂から送り出される形で退室する。
式典の退室なので、大講堂から出たらそのまま教師棟の部屋に移動する。
応接室のソファーに座ってようやく一段落した。
「お疲れ様です、マイさん」
タニアさんが私にお茶を勧めてくれる。
「人前に立つのは苦手なんです、やりたくないですね」
そもそも私は人目にさらされるのが苦手だ、経験が無いのもあるけど多くの視線が自分に集まるのが凄い不安感が起きる。
今回乗り切れたのは、決まったことを決まった通りに行えば良いと判っていたからだね、練習も一杯したし。
「立派なスピーチでしたよ。
あと、貴族区画での式典が残っていますよ」
そうだった、そっちが残っていた。
領主様が期の始めに行う行事の一つに任命式がある、新しく職に就く人に任命をする。
この場で任命されるのは、各組織の長に新しく任命される人だけで、私の場合は研究所長になる。
領主様の前で任命状を受け取るだけのはず、そうであって欲しい。
「貴族の人達にとってはポッと出の魔導師、それも貴族の養子にもなっていない庶民の私が領主様と同格の爵位を持っているのだからいい気はしないでしょうね」
「ですから研究所長と言う名目で領都から離れる事になったんですか?」
「ええ、それに貴族教育を受けていない私が領都に居ても混乱の元でしょう。
魔導師という中位貴族相当の格を持っているのに貴族院に入学するというのも違うと思いますし」
「そうですね、基本的にはコウの町か東の町へ行く以外の行動制限も付いてしまっているようですし、魔導師といっても自由にはならない物ですね」
ズキン、胸が痛む。
私が魔導師に成りたいと思ったのは自由になりたいという気持ちからだ。
結果的には自由になったようなならないような不思議な状況だ、鎖につながれてしまっているような感じもする。
これからどうなるのかな?
「結果的にはコウの町でのんびり出来ますが、東の町以外は事前に領主様に連絡する必要があるのでしたね。
居る場所を明確にしておく必要が有るので仕方が無いかと」
私が研究所に赴任するのに当たり、所在場所を明確にするため移動できる範囲が決められた。
コウの町とその周辺の村と森、東の町とその周辺の村。
これだけだ、それ以外の地域に移動する場合は、事前に領主様に申請する必要が有る。
言い分は判る、それに基本的に庶民も貴族も好き勝手に移動は出来ない。
庶民は町や村に管理されていて必要以外は所属している町から移動することは無い。
例外は商人や冒険者、教会などギルドに管理されている人で仕事として必要な場合となる。
宰相様の話しでは、貴族はもっと厳しい、未婚の女性なら家の敷地外に出るだけでも大変だそうだ。
例外は貴族院だけどその貴族院もその敷地内に寄宿舎があるのでその敷地から出ることは出来ない。
本当の自由はあるのかな?
■■■■
入学式の後、4年生だった皆が集まって壮行会を開いてくれた。
運が良く、6人全員が集まることが出来た。
休日というかまだ見習い期間だったり移動の準備だったりで余裕があるそうだ。
あ、ナルちゃんステラちゃんだけど、2人にもお祝いして貰えた。
商業区域の少しお高めの喫茶店。
コウの町の商店の娘のナルちゃんは来年辺りにコウの町へ戻るそうだ、その際に領都で商会に勤めている父親の娘のステラちゃんも一緒に行ってナルちゃんの商店で修行するとのこと。
支店での働きを評価されたそうで、なんでも1人で店全体を回せる技能を習得するのが目的で将来支店長を任される可能性のある子は取引のある町の商店に出向するとのこと。
結局、私だけじゃなく全員を祝う形になった。
話題を戻そう。
全員が席について、コップを持つ。
委員長の女の子が立ち上がり音頭を取る。
「マイの時空魔術研究所への赴任と所長就任をお祝いしてカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
寄宿舎近くの食堂の一室を借り切って少し豪華な食事会だね。
並べられた食事もいつもより豪華かな?
みんな未だ給料を貰っていないので、魔法学校で貯めたお金を使っている。
だから、安めの食堂になっているけどこれくらいが丁度良いね。
「俺らの中から魔導師が誕生するなんて予想もしていなかったな」
「そうだね、発表が突然だったのでビックリしたよ」
「同期としては威張れるね」
「領軍としては興味が無いみたいだな、収納量が少ないのと集団での攻撃手段が無いからかな?
独立部隊なら何とかとか好き勝手言ってるよ、どれだけ凄いか実際に見てみれば判るのにな」
みんな食事しながら私をネタに盛り上がっている、どう言えば良いのか判らず乾いた笑いしか出ないよ、どうしよ。
「でも不思議だよな、魔導師様だろ領都で魔術関係の役職に就くものだと思っていたよ。
例えば大学院の魔術学科とか、魔術の研究しているんだろそこ」
「貴族院に入って、貴族格を得るって話も出てたよね」
うーん、先王様と魔導師オーエングラム様の推挙で急に決まった、なんて言えないんだよね。
本来なら、王都の魔法学校へ行って魔導師になるための勉強をする、また、貴族の養子になって体面上は貴族が魔導師になることにする、というのを全部すっ飛ばしてしまったからね。
「色々あるんですよ、で領主様が配慮してくださって研究に集中できるようにして貰えたんです」
「あー、判る、マイは庶民出だろ貴族のドロドロした利権争いに関わらない方が良いよ。
貴族院に入ったけど、もう派閥作りで胃が痛いね」
「うん、僕も貴族格を得るより大学院で役所の職に就けるように勉強するからね。
8男だと実家に戻っても相手にして貰えないよ」
あー、貴族の子の2人のぶっちゃけが出た。
「調べたんだけど、マイって領主様と同格の爵位なんだよね、こんなに風に話してて良いのかな?」
「構いませんよ、魔導師は継承権が無い時点で貴族の派閥関係からは軽視されていますし、魔術関係を除けば権力は殆ど無いですから。
それに級友に畏まれても困ります」
「うん、マイはマイのままで良いね。
これからの予定は? もう寄宿舎の部屋は引き払ったんだよね」
「ええ、後は貴族の式典に出席して、それからコウの町へ移動です。
それまでは式典でのマナーを勉強ですよ」
その後、楽しい時間を過ごした後、私達はバラバラに別れた。
私はこの後、貴族区画の来賓用の館で式典までの準備をし、式典後にコウの町へ向かう事になる。
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